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韓国映画『大洪水』感想/Netflix話題作は母と子のSFだった

Netflix映画『大洪水』感想・評価。高層マンションを襲う洪水パニックから一転、物語はAIと母性をめぐるSFドラマへ。キム・ダミの熱演と、人間の「感情」を問う異色作を考察。

 

巨大高層マンションが、水に沈む――。

Netflix韓国映画『大洪水』は、ソウルを襲う未曽有の洪水から始まる息もつかせぬディザスター映画だ。だが本作の真価は、単なる災害パニックにとどまらない。物語は途中から大胆に姿を変え、人工知能と「母の感情」をめぐるハードSFドラマへと踏み込んでいく。

極限状況の中で繰り返される選択と犠牲。その先に描かれるのは、人間とは何か、感情とは何かという根源的な問いだ。本稿では、『大洪水』が見せるジャンル横断的な魅力と、その感動の核心に迫る。

 

目次

 

Netflix韓国映画『大洪水』作品基本情報

邦題:大洪水

原題:대홍수(英題:The Great Flood)

ジャンル:災害パニック/SF

監督:キム・ビョンウ(『テロ、ライブ』『PMCザ・バンカー』)

脚本:キム・ビョンウ、ハン・ジス

製作国:韓国

製作年: 2025年

配信プラットフォーム:Netflix (2025年12月19日より配信)

上映時間:108分

キャスト:

キム・ダミ(『THE WITCH 魔女』『ソウルメイト』)

パク・ヘス(『イカゲーム』、『告白の代価

クォン・ウンソン、パク・ビョンウン、チョン・ヘジン

 

Netflix韓国映画『大洪水』あらすじ

Netflix映画「大洪水」© Netflix. Courtesy of Netflix

シングルマザーのアンナと幼い息子ジャインは、ソウルのマンションで静かな日常を送っていた。しかし記録的豪雨により建物は浸水し、三階にいたはずの彼女たちも逃げ場を失っていく。混乱の中、アンナはある理由から研究所関係者に保護され、ヘリコプターによる脱出を命じられる。

やがて物語は、洪水の裏に隠された人類規模の危機と、人工知能開発計画へと接続していく。母と子の関係は、地球の未来を左右する“実験”の核心へと巻き込まれていく。

 

公式予告編はこちら

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Netflix韓国映画『大洪水』評価と解説

(ラストに言及しています。ご注意ください)

逃げ場のない洪水――韓国パニック映画の信頼感

Netflix映画「大洪水」© Netflix. Courtesy of Netflix

映画はシングルマザーのアンナ(キム・ダミ)と息子ジャイン(クォン・ウンソン)の平穏な生活を、大洪水が襲うところから始まる。

 

大雨が降りしきる中、アンナは床が濡れているのに気が付く。安全だとばかり思っていた我が家が浸水し始めているのだ。何より恐ろしいのはここがマンションの三階だということだ。

 

すぐに上階に避難しようと着の身着のままジャインを連れて外に出るが、通路や階段は避難する住民で溢れかえっており、一向に前に進まない。

 

ソウルのマンションを舞台にしたパニック映画と言えば、イ・ビョンホン主演の『コンクリート・ユートピア』を思い出す人も多いだろう。だが、『コンクリート・ユートピア』が未曽有の大地震により都市が既に崩壊してしまった世界を描いていたのに対して、こちらは、今、まさに危機に瀕している最中だ。

リビングルームに水が雪崩れ込みあっという間に胸の高さになる描写や、どんどん水位が上がって見慣れた光景が全く別の姿に変貌する様子など、圧倒的なビジュアルが展開し、そこで逃げ惑う人々の姿がリアルな恐怖として伝わって来る。

 

やがて、ヒジョと言う男(パク・ヘス)が現れ、アンナが人工知能研究所に勤める研究員であることが判明する。

 

ヒジョは人工知能研究所の保安チームに所属しており、上からの命令でアンナを屋上に連れて行き、研究所が用意したヘリコプターに乗せるという任務を負っていた。アンナは、AIの「感情」を研究している重要人物であることがわかり、親子が無事脱出できるかが物語の焦点になって行く。

 

災害にあった建物からの脱出を描いた韓国産パニック映画といえば、有毒ガステロにあった街の高層ビルに取り残された人たちが脱出を試みる『EXIT』や、地上108階建ての超高層複合ビルの火災を扱った『ザ・タワー 超高層ビル大火災』などが思い出され、韓国映画におけるディザスター・パニック映画への信頼の厚さもあり、期待は高まるばかりだが、本作はアンナがヘリコプターに乗り込んだ段階でまだ50分ほど。物語は突然、人類の未来がかかったハードSFドラマへと変貌するのだ。

 

物語は急旋回する――AIと人類滅亡のSF設定

Netflix映画「大洪水」© Netflix. Courtesy of Netflix

アンナはまた洪水が押し寄せてくる直前の朝に戻り、同じ時間をループし始める。避難の途中でジャインの姿が見えなくなり、ジャインを捜すため、アンナは何度もループを繰り返すようになる。物語の急激な変奏に観る者はすっかり戸惑ってしまうのだが、思い返せば、こうしたSF的要素の背景は、最初から巧みに物語の中に盛り込まれていたのだ。

 

この大災害の原因が、小惑星が墜落し南極とぶつかったせいで起きた天災であること、そのため氷河が溶け、今、世界中が水没しようとしており、人類滅亡の危機であることは早い段階で語られていた。当局はその事実を既に何年も前から知っていたが、どうすることも出来ないために世間には黙っていた。その変わり、彼らが準備したのは、人工知能を開発し、新しい人類を創造するというプロジェクトだった。

 

技術が発展し、人間と同じ肉体と意識は作り出せるようになったが、「感情」だけは作れない。そこでアンナに課せられたのが「感情エンジン」を開発することで、彼女は「経験」を通して感情知能を発達させることを提案し、まずそれを子供から始めたのである。勿論、その時、アンナ自身は地球の運命を知らされていなかった。

 

ジャインは、人工的に造られた子供で、生まれてから5年、ずっとアンナが母親代わりとして育て、人間と同じような感情豊かな子供に育っていた。つまり、子どもの感情エンジンを作ることに成功したわけだ。だが、地球がこのような状況になってしまえば、子どもだけでは生きていけない。母親の「感情エンジン」を早急に造る必要がある。

 

宇宙船に乗ったアンナは「母親を作れ」という命令に対して次のように述べる。「実験体を母親に設定して子供に隠れてもらいます。子どもを捜す実験体は様々な困難に直面します。探すのに失敗したら最初からやり直し」

このように、突然のループの意味はここできちんと説明されているのだ。

 

繰り返される朝――母親AIのシミュレーション

Netflix映画「大洪水」© Netflix. Courtesy of Netflix

ループが始まると、カメラは何度も彼女のTシャツに接近するので、私たちはアンナのTシャツに数字が刻まれていることに気が付き、0から21,499という数字を見て、それだけの反復が繰り返されていることを知ることになる。

「トライ&エラー」的な経験を積み重ねていくのではなく、0に戻っての繰り返し行為は、私たちがよく知るループ映画とはいささか趣を異にしている。そう、これは、感情エンジンの母親バージョンAIモデルのシミュレーションなのだ。つまり、映画の半ばから私たちはずっとこのAI訓練のシミュレーションを見せられていたというわけだ。

 

AI時代とはいえ、そのAIの学習トレーニングそのものを見せられるとはという驚きと共に、よくこんなことを考えるなと妙に感心してしまう。

そしてなによりユニークなのは、テストしている対象が人間の「感情」なので、AIのシミュレーションという人工的なテクノロジーの枠組みにも拘わらず、人間の感情、母と子のきずな、大人と子供の命をかけた大切な約束というまさに「人間ドラマ」そのものが展開することだ。

 

絶対的な愛――母と子の感情が世界を救う

研究所に連れて行かれる際、プロジェクトの最初から決められていたように、ジャインはデーターだけを取り出され、破棄されてしまう。アンナは自身が実験体を担うことで、ジャインを救い取り戻そうとする。ヘリコプターに乗船させられる際、ジャインに近づいて囁いた。「隠れていて。絶対戻って来るから」。こうなることを彼女は予測していたのだろう。約束を守るために彼女は何度も同じシチュエーションを繰り返し、絶対に諦めない。

 

その必死さ。5年間育て上げた息子への愛。その渦中で見せた人間らしい思いやり。子を背負う、泳ぐ、撃つ、墜ちる、よじ登る、闘う、クスリを即席に調合する等、あらゆることに全力を尽くし、感情をむき出しにするキム・ダミの演技が素晴らしい。

 

繰り返しの中で、少しずつ人々に記憶が残りそれらが、積み重ねられ、夫に介護されている老女が、アンナに見せる暖かな計らいも胸に響く。

ディザスター映画の多くが人間の醜さや、強欲さなど負の部分に焦点を当てるのに対して、本作は人間の善の部分に光を当てる作品と言えるのではないか(もっともここでも火事場泥棒が出現してはいるのだが・・・)。

 

ついにジャインを見つけたアンナが彼を抱きしめるために、阻止しようとする研究所の保安係たちをふりほどき、シミュレーションの限界を突破するシーンは感極まる場面だ。

 

これにてシミュレーションは終了。立派な「人間の感情モデル」が出来上がり、アンナとジャイン(二人はもう亡くなっている)の記憶は抽出され研究所に転送され、人類の滅亡は阻止できたというのが表面的な結末だが、この映画を見終えた私たちにとって本作は、母と子の強い絆と信頼を描いたストレートな人間賛歌なのだ。

 

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Netflix韓国ドラマ『告白の対価』あらすじと感想/チョン・ドヨン&キム・ゴウンが魅せる極限の心理スリラー【ネタバレなし】

チョン・ドヨン×キム・ゴウン共演のNetflix韓国ドラマ『告白の対価』(全12話)を徹底レビュー。司法の闇、二人の女性の心理戦、全編を貫く濃密なミステリーの見どころを、ネタバレなしで丁寧に解説!

 

Netflix『告白の対価』とはどんな作品か

Netflix韓国ドラマ『告白の対価』は、無実の罪を着せられた主人公と、すべてを狂わせる“告白”を持ちかける謎の女との関係を軸に心理戦が展開する濃密なスリラー作品だ。

 

チョン・ドヨンキム・ゴウンという韓国を代表する実力派がぶつかり合い、司法制度への批評性と予測不可能な展開が重層的に絡み合う本作。全編にみなぎる緊張感と深い人間ドラマが、一度見始めたら止まらない没入感を生み出している。

本記事では、本作の魅力や見どころを、ネタバレなしでわかりやすく紹介します。

 

目次

 

作品情報(基本データ)

© Netflix. Courtesy of Netflix

邦題:告白の対価

原題: 자백의 대가(英題:The Price of Confession)

ジャンル:サスペンス・スリラー

監督: イ・ジョンヒョ(『愛の不時着』、『ライフ・オン・マーズ』)

脚本: クォン・ジョングァン(『Sad Movie サッド・ムービー』、『特別捜査 ある死刑囚の慟哭』)

製作国:韓国

製作年:2025年

上映時間:全12話 (46~60分)

配信プラットフォーム:Netflix (2025年12月5日より配信)

キャスト

(役柄)

アン・ユンス:チョン・ドヨン

モ・ウン:キム・ゴウン

ペク・ドンフン検事:パク・ヘス、

チャン・ジョング弁護士:チン・ソンギュ

チン・ヨンイン弁護士:チェ・ヨンジュン

ペ・スンドク保護観察官:イ・サンヒ

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Netflix韓国ドラマ『告白の対価』公式予告編

 

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Netflix韓国ドラマ『告白の対価』あらすじ(ネタバレなし)

美術教師アン・ユンス(チョン・ドヨン)は、ある雨の夜、アトリエで夫が刺されて倒れているのを発見。救急車を呼んでいるうちに夫は息を引き取ってしまう。

警察は彼女が入れ墨を入れていたり、派手な服を着ているといった理由で「未亡人としてふさわしくない」と偏見を膨らませ、第一容疑者として追い詰めていく。

 

孤立し、無実を訴えても誰にも信じてもらえないユンスはついに逮捕され収監されるが、そんな彼女に接触して来た人物がいた。裕福な夫婦を毒殺して逮捕された“魔女”と呼ばれる女・モ・ウン(キム・ゴウン)だ。

 

彼女はユンスに「あなたの夫を殺したのは私だ」と告白してもいいと持ち掛け、その対価として恐ろしい“条件”を提示する。

絶望と希望が交錯する中、ユンスは人生を変える選択を迫られ、二人の女性の運命が交錯していく——。

 

Netflix韓国ドラマ『告白の対価』感想と評価

偏見が生む“司法の暴走”──ユンスが飲み込まれていく絶望

物語はごくありきたりの殺人事件から始まる。

 

美術教師のユンスは5年前、画家の夫と結婚し、娘を授かった。幸せな日々が続いたが、ある雨の夜、彼女は夫がアトリエで刺されて倒れているのを発見する。あわてて救急機関に連絡するもその途中で夫は息絶えてしまう。

 

葬儀後、警察から事情徴収を受けることになったユンスだったが、その際、服装が派手だったり、刑事に冗談を言ったり笑顔を見せたという理由で刑事たちに偏見と不信感を持たれることになる。

警察の尋問を録画するマルチアングルの画面や「今、笑った?」という警官の台詞は、パク・チャヌクの『別れる決心』の取り調べシーンを少しばかり思い出させるが、パク・ヘイル扮する刑事チャン・ヘジュンのように「悲しみが波のように押し寄せて来る人もいれば、インクが水に落ちるように徐々に広がっていく人もいる」といったことを考えるような刑事はここには誰もいない。

 

そこにパク・ヘス扮する元刑事の京畿北部地検検事ペク・ドンフンが登場し、少し観察しただけで彼女を犯人と断定してしまう。ユンスは“悲しみに暮れる未亡人らしくない”という理由で第一容疑者とされた挙句、逮捕されてしまうのだ。

 

本人は否認するが、誰もまともに彼女の言い分を聞こうとしない。それどころか、彼女は、検察のスケープゴートとしてマスコミによる中傷キャンペーンにさらされ、全人格を否定されてしまう。

 

ここには現実の韓国の司法制度に対する痛烈な皮肉が込められている。彼らにとっては真実よりも権力の方が重要で、たとえ自身が間違ったと気づいたとしても、自尊心を保つために、人ひとりを犠牲にすることになんのためらいもないのだ。司法による犯罪ともいうべきものでペク・ドンフン検事はその象徴的役割を果たしている。

 

チョン・ドヨンは、ユンスを不器用ながらも、脆さと誠実さを備えた人物として演じており、この過程で、私たちは彼女の無実を確信し、彼女の立場で物事を見るようになる。

 

“魔女”モ・ウンとの出会い──告白と取引が物語を動かす

そんなユンスの前に現れるのが、裕福な夫婦を毒殺した容疑で逮捕されたモ・ウンだ。彼女は尋常でない冷淡さと底知れぬ怖さを漂わせ、世間からは「魔女」と呼ばれている。キム・ゴウンがこの冷徹で不可解な人物をほとんど表情を変えずに鮮やかに演じている。

 

モ・ウンはユンスに取引を持ちかける。「あなたの夫を殺したのは自分だと罪の告白をしてもいい。そうすればあなたは保釈され裁判でも無罪になるだろう。ただし、条件がある。自分が殺害した夫婦の子供を殺し損ねたので、代わりに殺してほしい」と。

到底受け入れられるはずのない異常な提案。しかし国家に抹殺されようとしているユンスにとって、それは唯一、絶望から抜け出し娘と再会するための“細い糸”だった。

第一話から描かれるユンスの悲劇とチョン・ドヨンの迫真の演技が、この選択に強い説得力をもたらしている。

 

こうして二人のあいだに生まれた心理的緊迫感が物語の原動力となっていく。モ・ウンの告白によってユンスは仮釈放され、娘との生活を取り戻すものの、その“対価”の重さに怯え、告白が覆されるのではないかという恐怖にさいなまれることになる。

 

無実の罪から逃れるため赤の他人を殺すことが出来るのか!? 

物語はこの普遍的な問いを軸に、予想外の方向へ転がり続ける。

 

誰もが“善人”にも“悪人”にもなる――濃密なキャラクターと破壊力ある結末へ

© Netflix. Courtesy of Netflix

本作が魅力的なのは、登場人物に対する私たちの認識が常に揺らぎ続ける点だ。

「良い人に見えた者が実はそうではないかもしれない」、「悪人に見えた者が必ずしも悪人とは限らない」──そう思わせるのは先が読めないストーリー展開と共に、チョン・ドヨンやキム・ゴウンをはじめ、パク・ヘス、弁護士役のチン・ソンギュ、チェ・ヨンジュン等が、これまで皆、善人も悪人も巧みに演じて来た俳優ばかりだからだ。

 

チョン・ドヨンは、『キル・ボクスン』のコミカルな殺し屋よりも、『藁にもすがる獣たち』のサイコパスな女社長役の恐ろしさがいまだに脳裏にこびりついているし、一方、キム・ゴウンは彼女の前作であるNetflixドラマ『ウンジュンとサンヨン』のごくごく平凡な気立てのよい女性役とのギャップに驚かされる。

もっとも、幅広い役柄を演じることに関しては多くの韓国映画の名優にもあてはまることで、それが韓国ドラマ、韓国映画の強みとなっているのは言うまでもない。

 

刑務所でのシーンは、投獄された女性たちの力関係や、看守の目の届かないところでのいじめなど、女囚もの作品を思わせるドラマが展開する。その中で、無実の罪で拘禁されているユンスの苦しみや、ボス的存在をも震え上がらせるモ・ウンの冷徹な威圧感などがリアルな質感で描かれている。

 

また、ユンスは仮釈放の身ゆえに、足首に電子足輪を装着しなくてはならないのだが、それを担当する保護観察官を演じる・イ・サンヒの演技を感じさせない存在感にも関心させられる。

キャスト全員の魅惑的な演技が、この謎めいた物語に血を通わせ、作品を豊穣なものにしているのだ。

 

暗く不穏を誘うトーンがドラマ全体に漂い、全12話のうち、ほぼ最後の2話まではまったく真相がわからないという込み入ったミステリー、スリラーとして展開する本作だが、その深層には、女性たちの濃密な人生が描かれており、物語が進行していくにつれ、その深さが染み込んでくる構成になっている。

 

モ・ウンの凶行の背後には何が隠されているのか。彼女の無表情な仮面を剥がしたとき、露わになる悲劇と不穏なエネルギー。後半になるにつれ、本来の大胆さを取り戻していくユンス。その二人の関係がどのように交錯していくのか。全12話と長めの作品であるにも関わらず、一挙見を避けられない、すこぶる濃密で、スリリングな物語に仕上がっている。

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まとめ

Netflix韓国ドラマ『告白の対価』は、単なるミステリーやスリラーではなく、司法の偏見や女性たちの生きづらさ、そして“無実を証明するために何を差し出すのか”という重い主題を内包した密度の高い物語だ。

 

ユンスとモ・ウンという対照的な二人の女性が交錯することで、真実の輪郭は何度も揺れ動き、視聴者は最後の瞬間まで緊張を強いられる。演技・脚本・構成が精緻に噛み合い、12話を通して息つく間もない充実感を残す作品だ。濃密な心理戦や人間ドラマを求める視聴者には、ぜひ薦めたい一作である。

 

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Netflix韓国映画『グッドニュース』あらすじと評価/よど号事件をブラックコメディで描く衝撃の政治劇

1970年の「よど号事件」を題材にしたNetflix韓国映画『グッドニュース』。ソル・ギョングらが魅せる痛烈な風刺と笑いに満ちた政治コメディを徹底レビュー。

 

「よど号ハイジャック事件」をモチーフに、1970年代の日韓関係と国家の欺瞞をブラックユーモアで描くNetflix韓国映画『グッドニュース』

日本の旅客機が赤軍派の過激派にハイジャックされ、平壌への着陸を要求される事態が発生。事態を知ったKCIA(中央情報部)は、正体不明の政治フィクサーを投入し、機体をソウルに誘導すべく、空港を偽装する奇抜な作戦を展開する。

 

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監督を務めたのは『名もなき野良犬の輪舞』(2017)、『キングメーカー 大統領を作った男』(2021)、『キル・ボクスン』(2023)などのピョン・ソンヒョン

ピョン・ソンヒョンの全監督作品に出演しているソル・ギョングが政治フィクサー「アムゲ」を演じているほか、ホン・ギョンリュ・スンボム、チョン・ドヨン山田孝之椎名桔平笠松将山本奈衣瑠ら日韓豪華キャストが共演。

 

史実の再現に留まらず、韓国と日本、そして北朝鮮をめぐる政治構造や人間模様を“笑い”で描き、緊張とユーモアが絶妙に融合したスリリングな展開が魅力の風刺劇だ。

 

韓国映画『グッドニュース』は2025年10月17日よりNetflixにて配信中。

 

目次

 

Netflix韓国映画『グッドニュース』あらすじ

(C)Netflix

1970年(昭和45年)3月、日本航空351便が突如ハイジャックされた。9人の赤軍派メンバーが乗客と乗員合わせて131人を人質に取り、北朝鮮・平壌への飛行を要求する。

 

パイロットは「燃料が足りない」と犯人たちに信じさせ、福岡の板付空港に立ち寄ることに成功する。乗客の中に病人が出たために一部の乗客が解放されるが、犯人たちは爆弾を所持しており、余計な手出しをすると残りの乗客ともども自爆すると伝えて来た。

 

 日本空軍がパイロットに手渡したのは航空路に関する情報が全くない地図帳に載っているような朝鮮半島の地図だけだった、日本政府としては平壌に行かれても困るし行かなくても困る立場にあり、それは苦肉の策だった。 この状況を知ったアメリカは、旅客機が韓国上空を侵犯するため、韓国に事態を伝える。韓国側は日本政府に恩を売るため、一世一代の奇策に出る。

 

 KCIA(中央情報部)の長官パク・サンヒョンは、政治フィクサー「アムゲ」を使って、極秘作戦を計画。 地上から旅客機をダブルハイジャックし、平壌と偽ってソウルの金浦空港へ誘導するというのだ。

 

若き空軍中尉ソ・ゴミョンはこの作戦の管制を任され、嘘と真実のはざまに巻き込まれていく。

 

Nerflix韓国映画『グッドニュース』レビューと解説

(C)Netflix

韓国映画『グッドニュース』は実際に起きた「日本航空351便ハイジャック事件=よど号事件」を下敷きに、観客を1970年代という激動の時代に連れていく。

 

ピョン・ソンヒョン監督は、ほぼ史実通りにプロットを進めながら、史実の重さを軽やかに裏切る語り口でブラックコメディとして描き、時に第4の壁を破り、登場人物が観客に直接語りかけるなど、映画的メタ構造を駆使しながら、韓日両国の政治家や政治構造を徹底的に風刺している。

 

ソル・ギョング演じる政治フィクサー「アムゲ」(韓国語で「誰かさん」の意)の掴み所のない人物像がなんとも魅力的だ。彼は「必要なのは創造力と、それを信じる意志」と語るが、その通り、必要とあればどんな真実も創り出すことができる。

彼自身は複雑な身の上にありKCIA(中央情報部)の長官パク・サンヒョン(リュ・スンボム)にいいように使われている。終盤、大統領夫人役のチョン・ドヨンが空軍中尉ソ・ゴミョンに扮するホン・ギョンを励ますため駆け寄るシーンでは、アムゲはあわてて移動してフレームアウトする。彼は決して表に現れてはいけない男なのだ。 ソル・ギョングはこのユニークで謎めいた人物をそのキャラクターと同様に、佇まいから台詞回しまで全て計算し尽くして演じている。

 

「表」と「裏」と言う言葉は映画の冒頭から「真実は時に月の裏側に存在する かといって表側がウソなわけではない」というトルーマン・シェイディなる人物の言葉が引用されるように本作の重要なキーワードとなっている。

「裏で何がおきようとも人は目に見えるものを信じそれが真実となりニュースになる」というのは、上記の言葉を受けたホン・ギョン扮するソ・ゴミョンの言葉だ。

 

ソ・ゴミョンは本作における数少ない道徳的なキャラクターだ。彼の誠実さは、官僚主義と政治的打算に満ちた世界での小さな光とも言えるが、そんな彼も、承認要求や名誉欲がないわけではない。時折、皆から賞賛される自身の姿や、インタビューを受ける姿を妄想し、人間的な側面をのぞかせているが、それが却って私たちに好感を抱かせるのは、ホン・ギョンの演技のなせる技だろう。

 

金浦空港を北朝鮮の風景に変えるという嘘のような作戦がコミカルに描かれる。実際はどのような方法を取ったのか不明だが、本作ではアムゲが映画会社から北朝鮮の国旗や軍服、民族衣装を調達して来る過程が描かれている。文字通り映画のような楽しさで、もしかしてピョン監督はこのシーンが撮りたくて本作を製作したのではと思えるくらいだ。

1970年代を再現した繊細で洗練されたプロダクションデザインが、このリアルと創造力を織り交ぜた展開をさらに引き立てている。また、旅客機は、1970年当時のボーイング機をアメリカから購入して使用したという。

 

本作が最も痛烈なのは、国家や権力者たちの“責任のなすり合い”を描く時だ。

どの国も、どの立場の人間も、自らの保身に走り、うまく行けば自分の手柄だが、失敗すれば他人のせいだ。そんな中で、本当に仕事をしているのはいつも姿が見えない裏の人間なのだ。

 

映画のラスト、アムゲは今回の活躍の褒美として、正式の名前をもらう。彼はこの一連の出来事でもっとも貧乏くじを引かされた人の名を選ぶ。それは人間として真面目に生きながら表に出ることを許されなかった該当人へのささやかな賛辞であり、真面目に対処した者ほど脇に追いやられ功績はすべて上司のものになるという不条理な社会への痛切な批判である。

 

『グッドニュース』はブラックコメディとして、歴史劇として、そして現代社会への鏡としても、必見の一本といえるだろう。

 

Netflix映画『グッドニュース』作品情報

(C)Netflix

2025年製作/136分/韓国/原題:굿뉴스(英題:Good News)/配信:Netflix

監督:ピョン・ソンヒョン 脚本:ピョン・ソンヒョン、イ・ジンソン 撮影:チョ・ヒョンレ 

出演:ソル・ギョング、ホン・ギョン、リュ・スンボム、山田孝之、椎名桔平、キム・ソンオ、笠松将、山本奈衣瑠、柊木陽太、チョン・ドヨン、ユン・ギョンホ、パク・ヨンギュ、チェ・ドクムン、佐野史郎、永山瑛太、西村正彦、キム・ジョンス、パク・ヘス、キム・ジフン、

 

実際の事件をもとにした韓国映画5選

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Netflix韓国映画『カマキリ』あらすじと感想/『キル・ボクスン』のスピンオフ作品は圧倒的能力を持つ人とそうでない人の葛藤の物語

Netflix韓国映画『カマキリ』は2023年にNetflixで配信され好評を博したチョン・ドヨン主演の映画『キル・ボクスン』のスピンオフ作品だ。

『キル・ボクスン』のユニークな設定を引き継いだ『カマキリ』は、果たしてどのような作品世界を見せてくれるのだろうか!?

 

『キル・ボクスン』は、業界ナンバー1の暗殺請負会社「MK」の中でも断トツの腕を誇る殺し屋キル・ボクスンが子育てに悩む中で引退を決意するも会社内のいざござに巻き込まれ組織から命を狙われる羽目になるというアクション映画だ。

カマキリは『キル・ボクスン』の中で現在休暇中の凄腕殺し屋として名前だけが登場していた人物。映画『カマキリ』はこの人物が主役となり展開する。

 

休暇から帰って来た「カマキリ」は、キル・ボクスンによって「MK」が壊滅状態にされたことを知り、幼馴染のジェイと共に新しい暗殺請負会社を設立するのだが・・・。

 

ドラマ『ミセン-未生-』(2014)や「イカゲーム」シリーズ(2024~25)、映画『名もなき野良犬の輪舞(ロンド)』(2017)のイム・シワンが「カマキリ」ことイ・ハヌル役を演じ、ドラマ『Sweet Home 俺と世界の絶望』(2020)や「イカゲーム」シリーズのパク・ギュヨンがジェイを演じている。

カマキリとジェイの複雑な関係が物語の核となり、暗殺業界の再編成が進む中、二人は壮絶な争いに巻き込まれていく・・・。

 

ハヌルのMK時代の師匠であるトッコ爺に、名優・チョ・ウジンが扮している他、「弱いヒーロー」シリーズ(2022、2025)のアン・スホ役で強い印象を残したチェ・ヒョンウクが暗殺請負会社を買収しようとする野心家の格闘ゲームソフト開発企業のCEOに扮している。

 

映画『カマキリ』は2025年9月26日よりNetflixにて配信中。

 

目次

 

Netflix韓国映画『かまきり」作品基本情報

邦題: カマキリ

原題:사마귀(英題:Mantis)

ジャンル:アクション/スリラー

監督: イ・テソン

脚本: ピョン・ソンヒョン、イ・テソン、イ・ジンソン

編集:キム・サンボム

製作国:韓国

製作年:2025年

上映時間: 113分

配信プラットフォーム:Netflix (2025年9月26日より配信)

キャスト:イム・シワン、パク・ギュヨン、チョ・ウジン、チェ・ヒョヌク、ユ・スビン

 

Netflix韓国映画『カマキリ』あらすじ

(C)Netflix

イ・ハヌルは、両手に鋭い鎌を持ったスタイルから「カマキリ」のコードネームを持つ殺し屋だ。彼は業界一位の「MK」に所属するA級暗殺者だったが、彼がしばらく休暇を取って韓国を離れている間に、MKで一番の凄腕のキル・ボクスンによって代表のチャ・ミンギュと理事である彼の妹が殺され、MK社は大混乱に陥っていた。

 

ライバル会社はこの機会になんとか自分たちの勢力を拡大したいと暗躍し、力のあるハヌルはあちこちから勧誘を受ける羽目に。

 

ハヌルはそんな誘いに目もくれず、幼馴染でライバルでもあるジェイを訪ねた。ジェイが所属する暗殺請負会社は弱小で、今にもつぶれそうだった。

 

ハヌルはかつての師であり、引退した暗殺者トッコと相談し、ジェイと共に新しいカンパニーを設立することにした。

 

ジェイは実力があったが、MKに所属することが出来ず、彼女の代わりにハヌルが昇進したことから、彼に強いライバル心を持っていた。ハヌルと対等に渡り合いたいと思っているのだが、ハヌルはいつも命令口調で、ジェイのイライラは募るばかり。新しい会社も知名度のあるハヌルの「カマキリ」の名を使用することになった。

 

一方のハヌルは不遇なジェイを助けたい一心なのだが、その気持ちはなかなか通じない。彼は凄腕の殺し屋だったが、ビジネスの才能は乏しく、次々と困難に直面することに。そんな中、格闘ゲームソフト開発企業のCEOがジェイに興味を持ち、彼女を自分の傘下に置こうと企んでいた。一方、ドッコはMKを立て直すために仕事に復帰しようとしていた。

 

業界の力関係が急速に変化し、MKの一極体制が崩壊していく中、ハヌルはジェイを危険から救おうと奔走するが、彼がジェイに近づこうとすればするほど、ジェイは反発し、二人の溝は深まって行く。やがてジェイが思わぬ行動を取ったことで、ハヌルは究極の選択を強いられることに・・・。

 

Netflix韓国映画『カマキリ』予告編

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Netflix韓国映画『カマキリ』感想と評価

殺し屋業界はアイドル業界と酷似?

(C)Netflix

物語は、カマキリことイ・ハヌルが、請け負った殺人を執行するところから始まるが、彼の傍にはソル・ギョング扮するMKの代表チャ・ミンギュがいる。おお!このスピンオフは後日談かと思っていたら前日談だったのかと一瞬、驚いたのだが、それは早とちりで、この仕事を最後にハヌルは休暇をとり、帰ってきたらチャ・ミンギュがキル・ボクスンに殺害されてMKが大きく傾いていたというふうに物語は進んでいく。

 

ただ、この休暇を取る前のやり取りで、この殺し屋たちの業界に関するおさらいができるようになっている。MKが業界ナンバーワンと言われているが、ほとんどMKの一極支配であること、中小の組織はMKの圧力でほとんど仕事がなく、組織に入っていないフリーの殺し屋が無断で暗殺を実行するとそれだけで制裁の対象となることなどだ。

興味深いのはハヌルがここで7年契約の中途解約を代表に訴えていることで、ハヌルに「練習生期間」があったことや、『キル・ボクスン』で、チョン・ドヨン扮するキル・ボクスンが「今日は月末評価日よ」とその練習生たちに声をかけていたことを考えると、これって、韓国アイドル業界のシステムがモデルなのではと思えてしまう。

練習生やアイドルが何か問題を起こすと会社側は速攻、解雇できるのに、会社側に問題があってもアイドル側は契約をなかなか解約できない上に法律上、労働者としても認められておらず、華やかに見えて実は非常に不安定な立場におかれていることは意外と知られていない。当然、アイドルたちに組合はなく、それはこの殺し屋たちも同様だ。

「殺し屋の業界」というユニークな設定にも、若者を搾取する現実の社会問題が巧みに盛り込まれている点が面白い。

 

ハヌルはMKとの契約を残しながら、MKが混乱の中にあることに乗じて、幼馴染でライバルでもあるジェイ(パク・ギュヨン)と共に新会社を設立する。

若者たちが先輩たちの圧力から脱し、新しい世界を切り開いていこうというわけだ。が、ここで重要なのは、ハヌルがこの業界でてっぺんを獲るという野心が全くないことだ。彼くらいの実力者ならこの混乱期にMKの代表を目指すこともできるはずだが、彼はただ、ジェイの傍にずっといたいだけのように見える。一方のジェイは、彼とは対照的に、練習生からMKの一員として昇格できなかったことがいまだに尾を引いていて、ハヌルに対して複雑なライバル意識を持っている。それが映画『カマキリ』の主要な軸になって行く。

 

圧倒的な能力を持つ人とそうでない人たちとの物語

(C)Netflix

『キル・ボクスン』の魅力のひとつに、暗殺の仕事よりも子育ての方が大変という、ユーモラスなギャップが存在していたことが挙げられるだろう。有能な殺し屋でありながら、ひょうひょうとしていて、斧では相手を倒せないとわかるとあっさり銃に持ち替え、相手に「卑怯だぞ!」と言わせてしまう主人公をチョン・ドヨンが溌剌と演じていたのだが、そうしたユーモアは、『カマキリ』ではほとんど見られない。笑いどころといえば、せいぜい、オープニングで名前を間違えられて「バッタ」だとか「カナブン」と呼ばれているところぐらいだ。そのため、『キル・ボクスン』に漂っていた、ユーモアと非情なアクションとの絶妙な融合世界をもう一度と期待していた方や、『カマキリ』ならではの独創的な世界観を想像していた方には、少々物足りなく感じられるだろう。

 

だが、『カマキリ』の魅力はもっと別のところにある。本作は「才能」というものを巡る人間の葛藤を描いた作品なのだ。何をしてもこの人に勝つことはできないと思った時、あなたならどうするだろう。あっさり、それを認められる凡人であれば、問題はないのだが、それ相応の実力を持っている人にとっては諦め切れないもので、また彼らはその壁を突き破るための努力を惜しまない人たちでもあるためにことは単純ではない。相手は天才だ。どうすれは対等な実力を得ることができるのか、あるいは、超えていけるのか。このようにもがき苦しみながら、ジェイは常に強くなろうと自身を磨いて来た。ハヌルはジェイを護ることに必死だが、ジェイにとってはそれは決して喜ばしいことではい。二人の間に紛れもないケミストリーがあるのは確かだが、ハヌルが手を差し伸べてくれればくれるほど、彼女は自分をみじめに感じたに違いない。常に優秀な友人と比べられてしまう者の苦しみと怒りをパク・ギュヨンが壮絶な演技で見せている。

 

また、この二人の関係だけでなく、チョ・ウジンが演じるハヌルのMK時代の師匠のトッコ爺もチャ・ミンギュに対してどうしても勝てず、剣を送った挙句敗れ、この世界から追放された過去を持っている。誰よりも強くありたいと願いながら勝負の世界に敗れた人間の悲哀が全編に悲鳴のように溢れているのが本作なのだ。

 

そんな中で、彼女たちの苦しみを知ってか知らずか、ハヌルは強さを隠し、あえてトップを目指そうとしない。どうやらそれが彼の生き方らしい。彼にとっては、ジェイを護ることが全てなのだ。そんな彼が、ついに感情を爆発させ、圧倒的な強さを見せる終盤のアクションシーンが素晴らしい。彼自身は自分の強さ、天才ぶりを正確に自覚していることがここではっきりと判明する。だがそれでもテッペンを取りたいとは思わない、強さを誇示しても意味がないとするハヌルの内面を表現しながら、イム・シワンが鮮やかなアクションを披露している。

 

イム・シワン、パク・ギュヨンが華麗に動けるのはある程度予想できたが、チョ・ウジンまでが颯爽と動けるのには驚いた。善人から悪役まで、なんでもこなせる韓国を代表する名優のひとりだが、ここまで壮絶なアクションをこのように滑らかにこなせるとは。

 

ハヌルとジェイのそれぞれの人生目標が非常にねじれた形で実現するラストは奇妙な余韻を残す。複雑に入り組んだ「愛」の歪な成就といえるだろうか。

『キル・ボクスン』で監督を務めたピョン・ソンヒョン監督は、今回は脚本のみの担当となっているが、ある種のゆがんだ愛の物語という点で、彼がこれまでに監督・脚本を務めた『名もなき野良犬の輪舞』(2017)や『キングメーカー 大統領を作った男』(2022)などを彷彿させる仕上がりになっている。

 

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Netflix韓国ドラマ『ウンジュンとサンヨン』(全15話)あらすじと感想/キム・ゴウンとパク・ジヒョンの新たなる代表作

Netflixドラマ『ウンジュンとサンヨン』(全15話)は、互いを深く理解し愛し合いながらも、羨望と嫉妬で衝突する二人の女性、ウンジュンとサンヨンの複雑な関係を描いた感動的なヒューマンドラマだ。

友情、愛情、嫉妬、裏切りが交錯する二人の物語は、10代から40代にかけて展開し、視聴者を深い感情の渦に引き込む。

 

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映画『破墓/パミョ』(2024)や『ラブ・イン・ザ・ビッグ・シティ』(2024)で知られるキム・ゴウンが ウンジュン役として登場。明るく堅実なキャラクターを熱演している。

一方、クールな外見とは裏腹に孤独と不安を抱えるサンヨン役を、映画『秘顔-ひがん-』(2024)やドラマ『財閥X刑事』(2024)のパク・ジヒョンが繊細かつ力強く演じている。

人間の複雑な心の葛藤と変化を体現した二人の演技は圧巻で、本作は二人の新たな代表作となるだろう。

 

配信情報:ドラマ『ウンジュンとサンヨン』(全15話)は、2025年9月12日よりNetflixで独占配信中。  

 

目次

 

Netflix韓国ドラマ『ウンジュンとサンヨン』(全15話)あらすじ

(C)Netflix

脚本家のリュ・ウンジュン(キム・ゴウン)は、新しいテレビドラマの企画会議中、著名な映画プロデューサーでスワロー・ピクチャーズの代表であるチョン・サンヨン(パク・ジヒョン)のスピーチを聞いたかと尋ねられる。サンヨンは受賞式で、人生で最も大きな影響を与えてくれたウンジュンに感謝の意を表したというのだ。

 

ウンジュンにとってチョン・サンヨンは思い出したくない名前だった。ウンジュンが大手映画プロダクションのプロデューサーだった頃、サンヨンにウンジュンが温めていた企画を奪われたのだ。映画はヒットし、彼女は一躍名プロデューサーとして名をあげ、これまで11本の話題作を世に送っていた。

 

サンヨンとの出会いは、子ども時代にさかのぼる。ウンジュンが子どものころの思い出を書いた文章を同僚のチェPD(チュ・ミンギョン)は興味深そうに読み始めた。

 

1992年、ウンジュン(ト・ヨンソ)は小学校四年生だった。ウンジュンは8歳の時に父を亡くし、みすぼらしい半地下の家に住んでいた。近くに出来た新築の団地の清掃の仕事をしている母について行ったとき、ウンジュンはその部屋のあまりの美しさに心を奪われる。その家にはトイレが2つもあった。ウンジュンは思わず「あなたが羨ましい」と書いたメモ用紙をタンスの脇に貼り付ける。

 

サンヨン(パク・ソギョン)は学期の合間に転校してきた12人の生徒のうちの一人だった。サンヨンは勉強ができ、また彼女の祖父が元政治家だということもあってすぐに学級委員長に選ばれる。

 

担任の先生がいない間、学級委員長のサンヨンはクラスを監督する役目を担っていた。ある日、ウンジュンが隣の男子生徒の嫌がらせに抗議して声を荒げた際、サンヨンは懲罰としてその男子と共にウンジョンの手を棒でおもいっきり叩いた。そのことでウンジュンはサンヨンに対して少なからぬ怒りの感情を持つ。

 

5年生になるとウンジョンには友達がたくさんでき、本来の活発な性格が前に出るようになった。ドッジボールの時間、ウンジュンは執拗にサンヨンを狙い、それが意図せずサンヨンの頭にあたってしまった。サンヨンはウンジュンがわざと当てたのだと主張し、親が呼ばれる事態になる。

 

大ごとにはいたらずに済むが、このことをきっかけに、ウンジュンはサンヨンが彼女の大好きな先生、ユン・ヒョンスク(ソ・ジョンヨン)の娘であり、サンヨンが兄のサンハク(ムン・ウジン)と共に、あの素敵な団地の部屋に暮らしていることを知る。

 

やがて彼女たちはわだかまりを失くし良き友人となり、互いの家を行き来して、交友を深めるようになった。サンハクはウンジュンの初恋の人となった。ウンジュンの書いた物語はそこで終わっていた。

 

ドラマの原作を捜しているウンジュンのもとにある日突然サンヨンから連絡が入り、二人は再会する。サンヨンは衝撃的な知らせを告げる。自分は癌におかされていて、余命いくばくもない。そのためスイスで安楽死をするつもりだ。それに付き添いとして一緒に来てほしいというのだ。ウンジュンは激しく動揺するが、「これは大変な暴力だ」と彼女に告げ、その場を去った。

 

彼女たちはこの日のように何度もこれまで印象的な再会をして来た。大学での思いがけない再会。その10年後、社会人になった際の突然の再会・・・。

 

ウンジュンは二人が互いに認め合い大きな愛情を感じながら、すれ違い、憎み合ってしまうその複雑な関係について綴り始める・・・。

 

Netflix韓国ドラマ『ウンジュンとサンヨン』(全15話)感想と評価

(C)Netflix

(ネタバレしています。ご注意ください)

韓国ドラマ『ウンジュンとサンヨン』は、二人の女性の10代から40代へと続く複雑な関係を描いた叙事詩的作品だ。憧れと嫉妬、羨望と恨みが交差する複雑な感情の軌跡が、全15話という昨今のドラマの中では比較的長めの時間を費やして鮮やかに描かれている。

 

10代と20代のときはそれぞれ小学校と大学で、30代には社会人として同じ職場で顔を合わせることとなった二人は「あなたが壊れたらいいな。私のように」というサンウンの呪いのような言葉と共に決裂し、その後10年間、完全に絶縁状態となる。

二人が40代となったある日、ウンジュンに連絡して来たサンヨンは、自身が末期癌であることを告げ、安楽死するためのスイスへの旅に同行してもらいたいとウンジュンに要請する。ウンジュンはかつての友人の現状とその願いにショックを受け、逃れるようにその場を離れる。傷つけ絶交に至った相手に「最後の瞬間を一緒に過ごしてほしい」と願うのは何故なのか!?

 

物語はこのシーンを導入部として用い、小学性の時から二人が築いてきた歴史を振り返ることでそれが意味することを丹念に綴って行く。

 

第一話では二人の出会いが描かれる。二人の家庭環境は正反対だった。早くに父を亡くし母と幼い弟と半地下のみすぼらしい家で暮らすウンジョンに比べてサンヨンは恵まれた環境で育った

同じ小学生の中での階級格差や、差別と暴力が容認された教育など、1992年当時の韓国の教育現場の実態を取り入れながら、巧みにふたりの環境の違いが語られる。

 

彼女たちの友情の始まりが最初は「わだかまり」で始まったのが興味深い。貧しいが暖かい家庭に育ったウンジュンと違い、サンヨンは母と兄の愛に飢えていた。その愛の欠乏が、後にふたりの複雑な関係を作る原因の一つとなるのだが、5年生になって仲良くなった二人は互いに家を行き来しながら友情を育み、お互いになくてはならない存在となる。

 

しかし、サンヨンの兄の死など家庭の事情でサンヨンは突然引っ越してしまい、二人は一度は疎遠になるが、大学生になって再会する。サンヨンは、兄の死後、破産、両親の離婚を経験し、バイトに追われる苦学生となっていた。彼女がそんな暮らしぶりでなかったら、ウンジュンが一緒に暮らそうと声をかけることもなかったかもしれない。

サンヨンのために何かしてあげたいというウンジュンの思いやりがやがてサンヨンのプライドを傷つけ彼女を追い詰めて行くことになる。

 

20代のエピソードはほとんど一人の男性キム・サンハク(キム・ゴヌ)を巡る三角関係に費やされているが、ここにも巧みな設定がほどこされていて、サンヨンを典型的な「悪女」のようには描いていない。彼女の気持ちを思えば切なすぎるのだが、彼女は決してウンジュンと先輩の仲を裂きたかったのではない。しかし、サンヨンが絡んだことでウンジュンと先輩の関係は脆くも崩れてしまう。誤解と推測が三人の仲を完全に裂いてしまうのだ。

 

先輩を巡る三角関係は30代で再び繰り返されることになるが、結局のところ、三角関係自体はさほど重要ではない。本作は誰よりもお互いをよく知っているが、一方では何も理解していなかった二人の女性の物語なのだ。

「あなたにはかなわない」という羨望をお互いが抱いているのに、ふたりはそれは自分だけの感情だと思っている。相手が自分をそのように思っていただなんて想像もしていなかっただろう。感情がもつれる中、羨望はまもなく恨みへ恨みは再び羨望へとメビウスの輪のように言ったり来たりを繰り返すようになる。

 

二人がお互いを最もよく理解しているように見えて、実際は最も知らなかったことをドラマはじっくりと丁寧にディテールを積み重ねて描いている。他人のために何かをしたいと思っても自分の価値基準が他人にも通じるとは限らない、相手も同じだ。人を理解することは難しい。理解しようと推測するあまり誤解が生まれ、時として相手の尊厳を傷つけてしまう。本当に人が何を望んでいるかだなんて、他人にはわかるはずがないのだ。作品はこうした状況を非常に深く掘り下げ、相手を理解しようとする配慮が逆に大きな断絶を導いてしまうという複雑な事の本質を浮かびあがらせる。

 

こうした感情の推移は決して特別な話ではない。誰もが多かれ少なかれ、人生の痛みとして記憶しているものではないだろうか。

 

キム・ゴウンとパク・ジヒョンの素晴らしい演技がなければこの複雑な感情の年代記ともいうべき物語は成り立たなかったかもしれない。

キム・ゴウンはウンジュンという、極めて平凡なキャラクターを完璧にこなし、観る者が同一視できる主人公を作り上げた。陽気でパワフルな外見に潜んだ繊細な感情も鮮やかに表現している。

 

一方、パク・ジヒョンはすべてを完璧にこなす能力を備えながら、誰よりも深い悲しみと愛への欠乏を抱いているサンヨンの複雑な内面を完全に自分のものにしている。クールな表情で感情を隠しているが、壊れそうな傷つきやすい内面を抱えた人間の孤独と不安を見事に体現し、この人物を類型的な悪女にしてしまう危険性から見事に脱している。

 

二人とも、髪型やファッションの工夫があるとはいえ、20代から40代の女性を違和感なく演じている点も素晴らしい。

 

「死に至る病」がなければプライドの高いサンヨンは、ウンジュンに声をかけられなかったかもしれない。それだけ決定的に決裂してしまっていた二人なのだが、彼女たちの憎しみはまさに「愛」の裏返しであり、これはやはり、絶対的な「愛」の物語なのだ。

 

「尊厳死」という問題にも真摯に向き合いながら、物語は人間の死を巡って、「去る者」と「残された者」がどのような感情をたどり、どのような痕跡を残すのかを私たちに体感させ大きな余韻を残す。

 

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Netfllix韓国ドラマ『ウンジュンとサンヨン』(全15話)作品情報

(C)Netflix

2025年/韓国/全16話(868分)/原題:은중과 상연(英題:You and Everything Else)/配信:Netflix

監督・演出:チョ・ヨンミン 脚本:ソン・ヘジン

出演:キム・ゴウン、パク・ジヒョン、キム・ゴヌ、チャン・ヘジン、ソ・ジュンヨン、チュ・ミンギョンユン・セウン、キム・ジェウォン、イ・サンユン、コン・ミンジョン、エン、チョ・ジノ、イ・ユンジェ、チョン・ヒリン、コン・ジンソ、イ・ジョンウォン、チャン・ソン、チョ・ヒョンチョル、クァク・ミンギョ、ト・ヨンソ、パク・ソギョン

 

キム・ゴウンの他の作品を観たい人へ

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韓国映画『寒いのが好き』(차가운 것이 좋아!)あらすじと感想(第21回大阪アジアン映画祭上映作品)/理性を残すゾンビと出会う韓国ウェルメイド社会派ゾンビ映画

『おひとりさま族』でOAFF2022グランプリに輝いたホン・ソンウン監督の最新作『寒いのが好き』(2025)は、社会派要素とラブコメ的な映像表現を兼ね備えた新感覚ゾンビ映画だ。

 

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ゾンビ感染が落ち着きつつある世界で、非正規雇用社員のヒロイン、サ・ナヒが理性を残すゾンビ「チョン・ウンビ」と出会い、彼を救うため長い旅に出る決意をする。

 

サ・ナヒを演じるのは、濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』(2021)で、聴覚障害を持つユナ役を演じ、強い印象を残したパク・ユリム

 

第26回全州国際映画祭、第21回大阪アジアン映画祭(OAFF2025EXIPO)にて上映され、大阪アジアン映画祭ではホン・ソンウン監督が「来るべき才能賞」を受賞。今後、日本での劇場公開も予定されている。

 

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目次:

 

韓国映画『寒いのが好き』作品情報

(c) The Coup Distribution

2025年/韓国映画/107分/原題:차가운 것이 좋아!(英題:Some Like It Cold)

監督:ホン・ソンウン 脚本:ホン・ソンウン、チョン・ジョウン プロデューサー:チョン・ジョウン

出演:パク・ユリム、パン・ウォンギュ、キム・テゴン、ソン・イェウォン

 

韓国映画『寒いのが好き』あらすじ

(c) The Coup Distribution

ゾンビが蔓延する時代も終わりに近づき、残存ゾンビた​​ちは人間の迫害から逃れるために逃亡を強いられていた。ゾンビ駆除チームに臨時職員として勤務するナヒ(パク・ユリム)は、退治したゾンビを運搬するのが仕事だったが、ゾンビの減少によって、契約更新を打ち切られてしまう。

失業のショックで街を彷徨っていたナヒは、突然現れたゾンビに襲われかけるが、言葉を話すゾンビに助けられる。ゾンビは過去の記憶を失っていると語り、名前を付けてほしいとナヒに頼む。ナヒが考案した名前はチョン・ウンビ。彼は喜んでその名を名乗ることにした。ナヒは、ウンビを安全で寒いアラスカへ避難させるため、長い旅に出る。

 

韓国映画『寒いのが好き』感想と評価

(c) The Coup Distribution

ヨン・サンホ監督の2016年の作品『新感染 ファイナル・エクスプレス』の爆発的ヒットを皮切りに次々と良質なゾンビ映画が作られ「Kゾンビ」なる言葉も生まれた韓国産のゾンビ映画にまたユニークな作品が登場した。

 

韓国映画『寒いのが好き』は、ゾンビ映画のイメージを覆すウェルメイドな作品に仕上がっており、観ていて実にあたたかな気持ちにさせられる。と、同時にそこには韓国社会に蔓延する様々な問題が鮮やかに盛り込まれている。

 

物語は、ゾンビ感染が一段落し、都市の混乱が落ち着きつつある韓国を舞台に、民間企業が残存ゾンビの管理と退治を生業としているという実態を捉えた生々しいアクションシーンから始まる。ゾンビ退治が商売として成立している点が、現代社会における「何でもビジネス化する構造」をシニカルに映し出しており、このリアル感あふれる設定が面白い。

 

主人公のサ・ナヒは非正規雇用社員で、死んだゾンビの運搬を任されている。従来のゾンビ映画は、生存者の視点からの恐怖とサバイバルを中心に据えてきたが、本作はむしろゾンビの存在を現代的な社会問題のメタファーとして機能させている部分がある。監督によれば、コロナ禍が本作のヒントとなったということで、感染や隔離、社会的距離といった現代的テーマが、ゾンビというフィクションを通して描かれているとも言えるだろう。

 

さらに本作の独自性は、理性を残したゾンビとの出会いにある。サ・ナヒは、ゾンビが減少して来たという理由で契約更新がされないことを告げられ落ち込むが、街を彷徨っている際に残存ゾンビに襲われかけ、間一髪のところ、ある男性に助けられる。ところがその男性も誰かに噛まれてゾンビ化していた。だが、彼の場合、攻撃的なところはひとつもなく、正直、サ・ナヒには、今、彼女が付き合っている高慢ちきな恋人よりもずっと心が通じ合うように感じられるのだ。

 

ここで面白いのは、ゾンビに噛まれても、それぞれ、現れる症状が違うという点だ。従来のゾンビものといえば、噛まれれば怪物化してこちらを襲ってくる厄介な存在となるため、家族であろうと容赦なく撃ち殺さなければならなかったが、ここでは非常に恐ろしい狂暴なゾンビもいれば、ぱっと見は人間と変わらないゾンビもいるのだ。考えてみれば、これはそれほど突飛な設定ではないかもしれない。なぜって人間には個人差があるのだから。ちなみに後者のゾンビは「理性的ゾンビ」と分類されていることが後に明らかになる。

 

本作のゾンビの弱点は「暑さ」で、ナヒはチョン・ウンビ(理性的ゾンビに頼まれ、ナヒが命名)を救うため、彼を車に乗せ釜山へと向かう。治療薬ができるまでゾンビをアラスカに送る計画をたてている「低温人間解放団」が、釜山に来るよう呼び掛けているのを知ったからだ。

こうして中盤以降、ロードムービーとしての面白さも加わり、映画は、物理的な移動が感情的な旅路となっていく様を、スリラーやロマンスの要素を交えて鮮やかに描いている。

 

「低温人間解放団」という人権団体や、アラスカプロジェクトなどもリアリティのある設定といえる。ナヒはウンビ以外のゾンビも人間だということをなかなか受け入れることができず、ウンビと衝突する。本作は韓国の国家人権委員会の16番目の人権映画プロジェクトであり、そうした観点からも様々な読み取りができるだろう。

 

ところで人権映画プロジェクトの作品といえば大阪アジアン映画祭で上映され、その後、劇場公開も果たした映画『なまず』(2018)が思い出される。イ・ジュヨンが監督を務め、ク・ギョハンが主演とプロデューサーを務めた作品だ。

『寒いのが好き』が「ゾンビ」なら、『なまず』は「シンクホール」である。「人権」と聞いて、このモチーフを発想するそのオリジナリティな感性が素晴らしい。”「人権」に関する作品“という課題を多様な観点で捉え、表現しようとする韓国の若い作り手たちのチャレンジ精神に、心底、感心させられるのである。

 

 

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Netflix韓国ドラマ『エマ』(全6話)あらすじと解説/1980年代の韓国映画界の光と影をイ・ハニをはじめとする巧みなキャストで描く

韓国ドラマ『エマ』はスタイリッシュな犯罪アクション映画『毒戦 BELIEVER』(2018)や、『PHANTOM ユリョンと呼ばれたスパイ』(2023)などの作品で知られるイ・ヘヨン監督の初のドラマシリーズ演出作品だ。

 

1982年に韓国で実際に公開され、大ヒットした映画『Madame Aema(愛麻夫人)』を題材に、1980年代の忠武路(チョンムロ)で映画制作に関わった人々の光と陰がコメディタッチでエネルギッシュに描かれる。

 

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主演のイ・ハニが演じたチョン・ヒランは当代最高のスター俳優だが、「脱セクシー女優」を宣言し映画会社の社長に逆らったため、助演に降格されてしまうという役柄。一方、オーディションでチョン・ヒランに変わる主演女優に選ばれた新人俳優シン・ジュエ役を演じるのは『地獄でも大丈夫』(2022)のパン・ヒョリン。彼女自身、オーディションで2000人余りの応募者の中から選ばれた。

 

会社存続のためには手段を選ばない映画会社のプロデューサー、ク・ジュンホに、『エクストリーム・ジョブ』でイ・ハニと愉快なコンビネーションを見せたチン・ソンギュが、また、『愛麻夫人』で演出家デビューする新人監督クァク・イヌをドラマ『D.P.ー脱走兵追跡官—』(2021)や映画『サムジンカンパニー1995』(2020)などで知られるチョ・ヒョンチョルが演じている。チョ・ヒョンチョルは、実生活においても『君と私』(2024)で映画監督・脚本デビューを果たし、2024年・第45回青龍映画賞で最優秀脚本賞と新人監督賞を受賞した。

 

また、Netflixの「脱出おひとり島」シーズン2(2022~23)で注目されたイ・ソイが、女優志望でク・ジュンホの愛人ファン・ミナに扮している他、Netflixドラマ『トリガー』(2025)で最初の大量殺人犯となる公務員試験浪人生を演じたウ・ジヒョンが雑用をこなす新星映画社の部長を演じている。

 

韓国ドラマ『エマ』(全6話)は2025年8月22日よりNetflixで配信中。

 

目次

 

Netflix韓国ドラマ『エマ』(全6話)作品情報

(C)Netflix

2025年/韓国/全6話(47~68分)/原題:애마(英題:Aema)/配信:Netflix

監督・脚本:イ・ヘヨン 製作:パク・ウンギョン、イ・ヨンヨン 

出演:イ・ハニ、パン・ヒョリン、チン・ソンギュ、チョ・ヒョンチョル、ヒョン・ボンシク、ウ・ジヒョン、パク・ヘジュン、イ・ソンウク、チョン・ナムス、アン・ギルガン、イ・ジュヨン、キム・ジョンス、イ・ホンネ、キム・ヘファ、キム・ソニョン、パク・ソンヨン、イ・ソイ、

 

Netflix韓国ドラマ『エマ』(全6話)あらすじ

(C)Netflix

トップ女優のチョン・ヒランは、長年、新星映画社の社長ク・ジュンホと組んで来たが、それは新人の頃に交わした契約に縛られ、どうしても中途解約できなかったからだ。だがその契約もあと一本となり、最後の脚本が送られてきた。目を通したヒランは、「脱ぐ」という描写が頻繁に出て来る露出が多すぎる内容に辟易し、「もう脱がない」宣言をする。

 

それを聞いたク・ジュンホンは激怒し、ヒランを主演から降格させ、主役を選ぶオーディションを開催するようクァク・イヌ監督に命じる。さらにヒランの役柄を最低の嫌な女にするようにと付け加えた。

 

だが、応募してきたのはわずか数人で、これといった人材はみつからなかった。肩を落とす監督のもとに現れたのは、オーディションを受けるつもりだったが、仕事の関係で時間に間に合わなかったというシン・ジュエという女性だった。彼女は、タップダンスを披露し、監督はたちまち彼女に魅了される。

 

こうして無名の新人女優ジュエが主役のエマ役に決まるが、面白くないのは脇役に格下げされたヒランだ。ヒランはジュエにきつくあたり、両者の間には張り詰めた緊張感が漂っていた。

 

イヌ監督はこれが初めての監督作で、脚本も自身が担当していた。彼は、官能的なシーンを入れるという条件を満たしながらも女性の視点からみた芸術的な作品を追求したいと考え、一方、ジュンホンは、刺激的なシーンをいっぱい詰め込んだヒット作を望んでいた。

 

クランクインが近づいてきた頃、政府から脚本に検閲が入り、何十か所もの訂正を要求してきた。セクシーな映画のはずなのに、ほとんど露出が許されない状況だ。イヌ監督はパニックになりかけるが、支持された箇所の訂正に忙殺される。

 

いよいよクランクイン。だが、ジュエは緊張し、思うような演技ができず、呆れたヒランは代役をたてて現場を離れてしまう。その後も二人の関係はギスギスしたままだった。

 

だが、やがてジュエに敵意を抱いていたヒランも、彼女の並々ならぬ決意と覚悟を知ることとなり、あぶなっかしさを宿す彼女にアドバイスするようになる。明らかに二人の関係には変化が起きていた。しかし、ジュエには演技とは関係ないことで思いもよらぬ試練が訪れる・・・。

 

Netflix韓国ドラマ『エマ』(全6話)感想と解説

(C)Netflix

ソウル・忠武路(チュンムロ)は、かつては「映画の街」と呼ばれた映画文化の中心地だった。

Netflixで配信中の韓国ドラマ『エマ』は、そんな忠武路を舞台に、1980年代初頭に大きな転換期を迎えた韓国社会と映画業界の実態を浮かび上がらせながら、トップスターと新人女優が一つの映画を通してぶつかり合い人生と信念をかけて奮闘する姿を描いている。

 

その一つの映画とは、1982年に韓国で公開され大ヒットした「性映画」の代表格、『Madame Aema(愛麻夫人)』だ。当時、この作品は大ヒットして12作もの続編と数々の関連作品を生んだことで知られている。初期の作品の主人公を演じたアン・ソヨンは『エマ』の第六話に特別出演している。もっとも『エマ』は『愛麻夫人』を基にしているが、ドラマの中の人物たちはすべて仮想のキャラクターだ。

 

『エマ』は、トップ女優でありながら「もう脱がない宣言」をしたために助演に降格されたチョン・ヒラン(イ・ハニ)とオーディションでヒロインに選ばれた新人女優のシン・ジュエ(パン・ヒョリン)の対立を軸に進行する。

表情など全てオーバーアクションで演じるイ・ハニが抜群のコメデイエンヌぶりを発揮しながらパン・ヒョリン扮するジュエをじわりといじめるのだが、パン・ヒョリンも負けてはいない。このようにドラマは、一見トップスターと新鋭女優のバトルを描く愉快なコメディのように展開するが、第二話になると、当時の映画製作内幕ものという違った局面へ向かい始める。

 

1980年から1988年までの韓国は、全斗煥大統領の権威主義軍事政権下にあり、1980年には光州事件が起こったように、この時代、市民は強い政治的抑圧を受けていた。全斗煥政府は大衆の反発を抑え、政治への関心をそらすため、Sports(スポーツ)、Screen(スクリーン=映画など)、Sex(性)という3つのSを促進する「3S政策」を施行する。

 

当時、映画産業は若者からそっぽを向かれ、テレビにも押され、暗黒時代にあったが、プロデューサーのク・ジュンホン(ジン・ソンギュ)はこれは起死回生のチャンスだとばかり、韓国初の本格的な成人映画の製作に踏み切る。そんな中、エロチックなアート系映画を目指す監督と、下世話で露骨でも大衆受けしてビッグヒットとなる映画を目指すプロデューサーとの対立が起こるのだが、それ自体は大して珍しいものではない。問題なのは、政府機関の検閲が入ったり、突然、理由もなく撮影中断を余儀なくされることだ。

 

「S」を奨励しておきながら、脚本には数十か所もの訂正命令がつき、内容もほとんどの露出が許されないものだった。それでどうやってエロティシズムを表現するのか。それはほとんど検閲者の気まぐれともいえるもので、まさに創作の自由を認めない「検閲の時代」を表している。

 

こうしてイヌ監督(チョ・ヒョンチョル)の苦悩の日々と悪戦苦闘の映画製作が始まるのだが、そんな中で、難しい場面も堂々と取り組むシン・ジュエの姿がヒランの心を動かしていく。この映画が失敗すればよいとやる気のなかったヒランは考えを改め、新人監督であるイヌ監督に様々な助言を始める。映画はヒランという女性の多様な経験による知恵と聡明さに焦点を当て、彼女の性格を多面的にとらえている。イヌ監督が書いた男性主体の展開を女性の立場から、見事に「エロ・グロ・ナンセンス」な場面へと転換させるシーンがとりわけ秀逸だ。

 

ところが、撮影が終了し、イヌ監督が粗編集をプロデューサーに見せると、内容が気に入らないジュンホンは、彼から編集権を奪ってしまう。出来上がった作品はまったく意図と違ったカオスな作品に様変わりしており、ヒランがフィルムを盗んで焼却しようという事態にまで発展。映画製作の大変さを私たちは実感することになるのだが、『エマ』は単なる内幕ものでは終わらない。

 

『エマ』は、1980年代の韓国を多彩な色感とファッショナブルな衣装で華やかに再構成している。だが、それは映画産業の華やかな外面を強調するためのものであり、その中に隠された搾取構造という暗い部分との対比になっている。

 

ヒランとジュエの対立は抑圧のシステムを共に経験することで徐々に「連帯」へと変わって行く。彼女たちにとって真の敵は、権力をふりかざし女性や労働者を搾取する家父長的システムにあることに気が付くのだ。『エマ』は女性を性的に消費していた映画界全般を批判し、金さえ儲かればと女性を搾取する映画産業の実態を暴き、対抗する二人の女優の連帯と成長を描いた作品なのである。

 

ヒランは奴隷契約のような契約を、まだ業界の仕組みもよくわらかない売り出しのころに交わしたため、悪どいジュンホンに長年縛り付けられている。この『愛麻夫人』を最後に手が切れると思っていたら、主演ではないから法的にまだ契約は終わらないと言われ、ヒランの怒りが爆発する。ジュンホンとのバトルの激しさはイ・ヘヨン監督の『毒戦BELIEVER』を彷彿させるくらいだ。

 

奴隷契約のような契約でアーティストを長年縛り、法的に労働者としても認めないというのは、1980年代のみならず、現在のK-POPなどエンターティンメントの世界でも一部みられる光景だ。また、女優の斡旋問題といえば、フジテレビの一連の騒動を思い出させる。『エマ』の1980年代の忠武路の問題は2025年の韓国や日本にも通じているのである。

 

イ・ハニは、華やかなドレスを纏い、好感度を上げる表情を習得した大スター、チョン・ヒランをコミカルかつスタイリッシュに演じ、一方のバン・ヒョリンは、慣れない業界で搾取と腐敗に直面しつつも、純粋さを失わず強い意志で成長していくシン・ジュエを堂々と演じている。

 

ふたりの天敵となる映画会社の社長でプロデューサーのク・ジュンホを演じたジン・ソンギュも、80年代の映画界の粗暴な有様を体現する人物として圧倒的な演技を見せており、また、普段は言いたいことも言えない気弱な性格なのに、映画に関しては、純粋な情熱を見せる映画監督のクァク・イヌ監督を演じるチョ・ヒョンチョルのさすがの演技も見逃せない。

 

『エマ』はシリアスな主題をコミカルに味付けして、わかりやすく提示しつつ、主演女優たちが美しい衣装をまとい光化門を馬で駆け抜けるような印象的なシーンも盛り込みながら社会の不条理を颯爽と告発している。実にスケールの大きな作品といえるだろう。

 

 

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韓国映画『大統領暗殺裁判 16日間の真実』あらすじと感想/朴正煕大統領暗殺事件をめぐる法廷劇を豪華キャストで贈る

韓国映画『大統領暗殺裁判 16日間の真実』は、大統領暗殺事件を背景に、16日間で進行した軍法裁判を描くポリティカル・サスペンスだ。

 

1979年10月26日。 18年間独裁政治を繰り広げた韓国のパク・チョンヒ(朴正煕)大統領が中央情報部長のキム・ヨンイルによって暗殺された。

上官の命令によって大統領暗殺事件に関与した中央情報部(KCIA)部長の随行秘書官パク・テジュの弁護を引き受けた弁護士チョン・インフが、不正に操られた裁判に立ち向かう。

 

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ドラマ『賢い医師生活』(2020~21)、映画『EXIT』(2019)などのチョ・ジョンソクが、熱血弁護士チョン・インフを、『パラサイト 半地下の家族』(2019)などの作品で知られ、本作が遺作となったイ・ソンギュンが信念を貫く軍人パク・テジュを演じている他、ユ・ジェミョンが冷酷な合同捜査団長チョン・サンドゥを演じ、「第61回百想芸術大賞 映画部門 助演男優賞」を受賞した。

 

監督を務めたのは『王になった男』(2012)のチュ・チャンミン。史実とフィクションを織り交ぜながら、韓国近代史の暗部に鋭く迫っている。

 

目次

 

韓国映画『大統領暗殺裁判 16日間の真実』作品情報

(C)2024 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & PAPAS FILM & OSCAR10STUDIO. A

2024年製作/124分/韓国映画/原題:행복의 나라(英題:Land of Happiness)

監督:チュ・チャンミン 製作:イ・ジュンタク、チャン・ジンスン 脚本:ホ・ジュンソク 撮影:ホン・ジェシク 美術:キム・ボムク 編集:ホ・ソンミ 音楽:キム・テソン

出演:チョ・ジョンソク、イ・ソンギュン、ユ・ジェミョン、ウ・ヒョン、イ・ウォンジョン、チョン・ベス、ソン・ヨンギュ、チェ・ウォニョン、カン・マルグム、パク・フン、イ・ヒョンギュン、チン・ギジュ、ユ・ソンジュ、キム・ボプレ

 

韓国映画『大統領暗殺裁判 16日間の真実』あらすじ

(C)2024 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & PAPAS FILM & OSCAR10STUDIO. A

裁判に勝つためには詐欺まがいのこともする売り出し中の弁護士・チョン・インフ(チョ・ジョンソク)は、大統領暗殺事件に巻き込まれた中央部情報部長の随行秘書官であるパク・テジュン(イ・ソンギュン)の弁護を引き受けないかと弁護団から打診される。

 

パク・テジュンは現役の軍人であるがためにただ一人軍法裁判にかけられ、たった一度の判決で刑が確定するという境遇にあったため、弁護団は彼を弁護する人をなかなかみつけられずにいた。チョン・インフが、弁護を引き受けたのは、この裁判に参加すれば名前が売れると説得されたからだ。

 

しかし、パク・テジュンの前では、チョン・インフがこれまで行ってきたような手法が通じない。パク・テジュンは軍人としての堅実さを貫く人物であり、チョ・インフは苛立ちを覚えるが、次第に彼の中に、自身の融通の利かなかった父親の姿を見、彼を救おうという一心で弁護にあたることになる。

 

しかし、弁護団は、公判中に外部からメモが持ち込まれるなど、不当な法的手続きと、依頼人の無罪を阻む隠された政治的駆け引きに直面する。

 

チョン・インフは公正な裁判を求めて、ある重要な証人に法廷に出廷してもらう約束を取り付けるが、その夜、合同捜査団長チョン・サンドゥ(ユ・ジェミョン)が指導したクーデターが勃発する・・・。

 

韓国映画『大統領暗殺裁判 16日間の真実』感想と評価

(C)2024 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & PAPAS FILM & OSCAR10STUDIO. A

本作は、1979年10月26日に起きたパク・チョンヒ(朴正煕)大統領暗殺事件と、同年12月12日に起きたチョン・ドゥグァン(全斗煥)陸軍少佐が主導した粛軍クーデターという韓国史における重要な事件を背景にしている。

 

映画で言えば、ウ・ミンホ監督による『KCIA南山の部長たち』(2020)と、キム・ソンス監督の『ソウルの春』(2023)の間を埋める作品と言っていいだろう。

 

18年にも及ぶパク・チョンヒの軍事独裁政権が暗殺という形で終了し、民衆の間に「民主化」の期待が高まる中、大統領暗殺事件の裁判が始まる。映画は、大統領暗殺の被告人のうち中央情報部長随行秘書官であったパク・テジュ(イ・ソンギュン)に焦点を合てた法廷劇として進行する。

 

パク・テジュは現役軍人であったために一般的な三審制ではなく単審制が適用される状況に陥っていた。本作は、彼が死刑の宣告を受けることを何とか阻止しようと奮闘する弁護士チョン・インフを主人公に、最初の公判からわずか16日後に最終判決が下されることとなり「性急裁判」と呼ばれた裁判の実態を描いている。

 

映画の序盤、キム・ヨンイルと彼に従った部下を弁護する弁護人団が登場するが、単審裁判を受けるパク・テジュの弁護を引き受けようとする弁護士がなかなかみつからないという描写がある。弁護団は、出世欲が強く勝つためにはペテン師のような手も使うと評判のチョン・インフ弁護士に目をつけ、彼を説得するのだが、チョン・インフは、映画のためのオリジナルキャラクターである。

 

このチョ・インフをドラマ『賢い医師生活』(2020)、映画『EXIT』(2019)などの作品でおなじみのチョ・ジョンソクが演じており、彼の茶目っ気のある親しみやすいキャラクターがよく生きている。

 

「裁判は善悪を問うものではない、勝ち負けを決めるものだ」というのが口癖のチョ・インフは、これまでの自分のやり方が、軍人としての堅実さを貫き通すパク・テジュにまったく通じないのに戸惑い、時には「融通の利かない人だ」と彼をののしりもする。

チョ・インフには、民主化運動に身を投じる学生を匿ったために逮捕、拘留されている牧師の父親がいる。活動家を助けることに熱心で家族をないがしろにして来たと父を憎んでいたインフだったが、信念を貫くパク・テジュの中に、父と同じものを感じ取り、人として成長していく姿が、説得力豊かに描かれている。

 

公判中、何度も法廷にメモが届けられ「メモ裁判」とも呼ばれる韓国史上最悪の政治裁判において、なんとしても司法の力で公正な判決を導きだそうと孤軍奮闘するチョ・インフの姿は、当時、民主化を熱望していた国民の気持ちを対弁するものであり、また、政府や大企業などの権力に未だ左右されがちな現在の韓国の司法に対する問題提起ともいえるだろう。

 

そうした奮闘の最中、チョン・ドゥグァン(映画ではユ・ジェミョン演じるチョン・サンドゥ)陸軍少佐が主導した粛軍クーデターが起きる。映画は、その前夜、チョ・インフンが陸軍参謀総長チョン・ジンフを説得して、1979年10月26日の暗殺当日についての貴重な事実について証言することを了承してもらうという架空のエピソードを加えることで、希望が一夜にして絶望に変わる様をわかりやすく提示している。

 

こうした史実にフィクションをまぜることは(そもそも、映画は最初に史実に基づいたフクションだと断っている)、韓国現代史をテーマにした昨今の映画において、より観客を引き付けるための常套手段だ。

 

本作もこの架空の弁護士の人間味のある人柄が、観る者に共感を覚えさせる効果をあげているが、彼がゴルフ練習をしているチョン・サンドゥと対峙する場面は、さすがにファンタジーが過ぎるだろうと惜しく感じられた。

一概の弁護士が陸軍参謀総長に粘った挙句、直接会えるというのもかなりありえない設定でありーまだこれはかろうじて認められるとしてもーさらに大統領暗殺事件合同捜査団長でクーデターの主導者にも遭えることに違和感を覚えてしまう。

 

勿論、ここでのチョ・インフンの台詞が社会の不合理に抵抗する非常に重要な内容であることは理解できるが、それは裁判の中に織り込むべきではなかったか!? この点は賛否両論あるところだろう。

 

とはいえ、本作が「韓国史上最悪の政治裁判」の裏側に果敢に挑んだ作品として、重要かつ見ごたえがある作品であることに間違いはない。

俳優の熱演はもとより、当時の雰囲気を再現する映像の質感や、資料に入念にあたって研究を重ねた上に想像力と映像の効果を考えて作り上げられた「法廷」という舞台が見事な緊張感を生み出している。

 

新たな軍事独裁政権の始まりという絶望しかもたらされない状況を描きながら、映画は、正義とは何なのか、この教訓から何が得られるのか、ということを真摯に問いかけているのである。

 


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Netflix韓国ドラマ『トリガー』(全10話)あらすじと感想/もし、韓国社会に銃が蔓延したら⁉ キム・ナムギルが元軍人の警察官を演じるアクションスリラー

受験生を対象にした寮で、一人の若者が、寮生を銃で次々と撃ち殺す事件が発生。現場に駆け付けたイ・ド巡査は囮となって、逃げ遅れた寮生たちを救出すると共に、銃を振りかざしていた若者を逮捕する。なぜ、この普通の若者が自動小銃を所持していたのか!?  彼の証言から驚くべき事態が浮かび上がって来る。

 

Netflix韓国ドラマ『トリガー』は、銃の規制が厳格に行われている韓国で、銃が手に入るようになったらどうなるかという命題を扱ったスリリングなアクションドラマだ。

 

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ドラマ「熱血司祭」シリーズ(2019、2024)やドラマ『悪の心を読む者たち』(2022)、映画『非常宣言』(2022)などの作品で知られるキム・ナムギルが警察官イ・ドを、ドラマ『悪人伝記」(2023)、『愛だと言って』(2023)のキム・ヨングァンが癌を患った謎の男ムン・ベクを演じている他、ウ・ジヒョン、キム・ウォネ、チョン・ウンイン、チョ・ハンチョル等実力派俳優が多数共演。

監督を務めたのは『殺人鬼から逃げる夜』(2021)のクォン・オスン。

 

韓国ドラマ『トリガー』は、Netflixにて2025年7月25日より配信中。

 

目次

 

Netflix韓国ドラマ『トリガー』(全10話)作品情報

(C)Netflix

2025年/韓国/全10話(全422分)/原題:트리거(英題:Trigger)配信:Netflix

監督(演出)クォン・オスン、キム・ジェフン 脚本:クォン・オスン

出演:キム・ナムギル、キム・ヨングァン、パク・フン、キル・ヘヨン、キム・ウォネ、ウ・ジヒョン、チョン・ウンイン、チョ・ハンチョル、チャン・ドンジェ、チャ・レヒョン


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Netflix韓国ドラマ『トリガー』(全10話)あらすじ

(C)Netflix

(二話までのストーリーを書いています)

元軍人で戦地で闘った経験を持つイ・ドは、今は巡査として市民を守っていた。暖かな、思いやりのある性格で、皆に慕われている彼は、ティーザー銃のみを所有し、本物の銃は携帯していなかった。かつて銃で人を護ろうとした彼は、銃の怖さを良く知っていた。

 

イ・ドは、新人警官のチャン・ジョンウの教育担当となり、共に行動するようになった。電子足輪を付けられた性犯罪者チョン・ウォンソクを監視するのも彼らの仕事のひとつだ。性犯罪者の家とは知らず、単身で浄水器の取り換えにやって来た女性が危険にさらされた際、間一髪で踏み込めたのも日ごろの真面目な働きぶりの成果だった。

 

ある日、屋上に設けられた小屋で男の首つり遺体が発見された。警察の検証の結果、事件性はなく自殺と断定されるが、なぜか男性の遺体の傍で軍用ライフルの弾丸が発見された。

 

本来、弾丸は軍がきちんと管理して記録されているはず。ひとつでもなくなったら大騒ぎになるところだ。刑事たちが銃器に関する専門知識を持っているイ・ドに、弾丸をみせたところ、韓国では使われていないものであることが判明。イ・ドは現場に赴き、天井からさらに数十発の弾丸を発見する。

 

一方、公務員試験の受験生、ユ・ジョンテ(ウ・ジヒョン)は、市民が様々な場所でルールを守らないことに腹をたてていた。地下鉄で妊婦が前に立っているにもかかわらず優先席を占領している男にジョンテは注意するが、男は疲れているんだと言って席を譲るのを拒否し、おまけに車内では別の男が乗客たちに押し売りめいたことをして騒ぎ立てていた。

 

怒りを抑えるためにセラピーに通っているが、医者から薬を飲んでいませんねと指摘される。薬を飲むと眠たくなって、勉強が出来なくなってしまうのだ。これまで試験に何度も落ちていて、今度こそはなんとしても合格したかった。

 

ジョンテは受験者用の寮に入っていたが、部屋は狭く壁も薄い。隣の住人が夜な夜な女性を連れ込み、どうみても受験者風でないやくざものが、禁煙なのに常に煙草を吸い、その匂いが部屋に入ってくる。注意しても彼らは一向に改める気配がない。

 

彼は何度も怒りを爆発させかけるが、ずっとこらえていた。しかし、ついに我慢の限界がやって来る。彼は、常に持ち歩いていたギターケースから自動小銃を取り出し、隣人を壁越しに撃ち、さらに煙草を吸う男を射殺、苦情をきちんと聞かない管理人にも発砲。大量殺人者に変貌する。

 

すぐに警察が駆け付けるが、ユ・ジョンテは狂ったように自動小銃を撃ちまくっていた。イ・ドは囮となって、寮の人々を脱出させ、一瞬の隙をみてユ・ジョンテにとびかかり、彼を取り押さえることに成功。さらに彼の部屋を検証した際、ベッドの中に大量のライフルや銃が隠されているのを発見する。

 

逮捕された彼はルールを守らない方に問題があるとまったく悪びれるふうもなかった。銃はどうやって手に入れたのかと尋ねると宅配便で送られて来たという。そして、驚くべきことに韓国で銃を持っている人は他にもいると言うのだ。

 

ジョンテの部屋から押収した銃は、どれもが外国の戦争で使われている銃器だった。イ・ドは、自殺者の家で発見された弾丸がこれらの銃器で使用されるものだと語った。二つの事件は関連があるようだが、自殺者とユ・ジョンテを結びつけるものは何も見つからなかった。

 

そのころ、チョン・ウォンソクは自身の部屋の前に置かれた大きなダンボール箱に目を停めた。長らく放置していたのだが、開けてみると、そこには自動小銃が入っていた。彼はそれらを組み立て、釣り竿のケースに入れると部屋を出た。銃の試し撃ちをするために軍の基地に近い山へと向かったのだ。彼は電子足輪のせいで、不自由な生活を強いられていることにひどく腹を立てていた。

 

イ・ドは、ジョンテに送られて来た宅配のダンボール箱を発見する。ダンボールには、どこかで見たことのあるマークが印刷されていた。イ・ドはすぐにそれをどこで見たかを思い出した。チョン・ウォンソクの部屋に行った際、彼の家のドアの横にそのマークを付けた大型の宅配便が置かれていたのだ。

 

彼はすぐにチョン・ウォンソクの家に向かうが、チョン・ウォンソクは留守で、代わりに見知らぬ男が隠れているのを発見する。男はここに銃を捜しに来たという。一体なぜ、彼はここに銃があると知ったのだろうか!? そして一体何者が、銃を市民に送っているのか!?

 

Netflix韓国ドラマ『トリガー』(全10話) 感想と解説

(C)Netflix

「受験者寮」という安宿に住み公務員試験の合格を目指す受験生、ユ・ジョンテ(ウ・ジヒョン)は、社会のルールを守らない人々に対して常に怒りを抱いていた。英語教室の皮肉屋の教師に注意されたことをきっかけに怒りを爆発させた彼は、おもむろに自動小銃を取り出し、発砲、クラスの全員を皆殺しにする。

 

唖然として観ていると、それが彼の空想であることがわかり、ほっとさせられるのだが、すぐに無神経な寮生たちに対して我慢の限界に達した彼は本当に、銃を乱射して大量殺人を犯すのだ。

 

なぜ、彼のような普通の市民がこのような危険な銃器を持っているのか⁉ 彼の証言によれば宅配便で銃が送られて来たというが、一体誰が送って来たのか⁉ なんとも不可解で魅力的な導入部だ。

 

タイトルの「トリガー(trigger)」とは、「引き金」、「きっかけ」という意味を持つ言葉だ。本作では日常の圧迫に対して限界に達した人々が銃の「引き金」を弾くことになる「きっかけ」が丹念に綴られていく。学校や、職場のいじめ、過労死した息子の人権を会社に訴える母親など、至るところに苦しんでいる人々がいる。

 

そこから浮かび上がってくるのは、今の韓国社会に対する猛烈な不信感だ。力のある勢力がいかにして弱い立場の人々を操り、自分たちの利益のために利用しているか、倫理観のない悪が蔓延り、司法や政治も弱い立場の人をささえる手段にはならず、ジャーナリストも、権力者の広報と成り下がっている。そんな社会で無事に暮せているとすれば、それはある意味、運が良いだけなのだ。その運だっていつ終わるかわからない。これらは決して韓国だけの話ではないだろう。

 

日々の暮らしの中でストレスを抱えた人々が限界に達した時、突然銃器にアクセスできるようになったらどうなるのだろうか? 韓国は、日本と同じく厳格な銃規制が行われているが、日本と違うのは、兵役が課せられているため、国民の半分が銃を扱えることだ(それゆえに『イカゲーム2』の終盤のクライマックスも説得力のあるものだった)。

 

荒唐無稽な話に思えるかもしれないが、あなたも一度くらいは考えたことがある事柄ではないだろうか。もしこの国で銃が合法となったら、アメリカのように乱射事件が頻発したり、犯罪が増加するのだろうか。銃がないからこそ、今の犯罪率でなんとかおさまっているのではないのか、等。

 

物語は様々な人々のトリガーを描きながら進んで行く。銃を取る前の彼ら、彼女たちの苦しみを見ていると、自分だったらと考えずにはいられなくなる。生活するのに今や欠かせなくなっている宅配便という手段で銃が届くという発想が面白く、現実の身近な問題として物語を捉えることが出来るのも、本作の巧みな点だろう。

 

5話の中盤あたりから、銃を民間人に配っている黒幕が明かされる。背後に海外の武器商人たちがいることが分かって来るのだが、そうした陰謀自体は、それほど独創的なものではない。悪の組織という点では、ソウルのヤクザたちの存在の方がずっと面白い。

ヤクザの組長であるコン部長(ヤン・スンリ)と、下級部下のク・ジョンマン(パク・フン)の騙し合いや、ヤクザの親分ばかりが集まる集会などはコミカルな可笑しさを漂わせている。とりわけ、親分のひとりが「銃だけはやめとけ。絶対に軍隊が動き出す。我々はこれからも刃物でいく」と語るシーンがあるのだが、その一言でコン部長が怖くなって、ジョンマンに全てをおしつけようというくだりがある。コン部長の小心者ぶりが笑えるのだが、こうした力のない上司がいる境遇ほど大変なことはないとジョンマンに同情してしまう。

 

銃が主題ということもあり、本作のアクションシーンは実にスリリングでエンターティンンメント性に富んでいる。監督のクォン・オスンは、ガラスが割れるという現象を繰り返し使うことで、銃アクションの迫力と凶器としての恐ろしさを存分に表現している。例えば、学校の図書室に逃げ込んだ生徒たちが、ドアが開かないようにバリケードを組むが、ガラス張りのドアは銃弾により一瞬で破壊される。また、キム・ナムギル扮するイ・ド巡査が、銃を持っている相手の囮になって、寮内や、署内で逃げ遅れている人を助ける場面では、ガラス越しに相手に姿を見せて、相手が窓ガラスに発砲すると、すべてが割れて崩れ、奥の風景が鮮明に画面に浮かび上がり、同時にキム・ナムギルの姿(影)が、さっとフレームから消えるというアクションを何度か繰り返している。さらに発砲によってできた穴を覗くようなカメラワークも見られ、本作独自の新鮮なアクションシーンを多数作り出している。

 

ガンアクションに加え、格闘アクションも、素晴らしい。とりわけ、キム・ナムギルの動きの俊敏さは特筆に値するだろう。

 

彼が演じるイ・ドは、幼い頃、「銃」に大切な家族を奪われるという不幸な出来事を経験し、その後、軍隊では狙撃兵となるなど、「銃」と深い因縁を持つキャラクターだ。だからこそ、銃の恐ろしさと、それを相手に向けて発射すると自分自身も傷つけることになることを良く知っており、彼が銃を持つ人々に語り掛ける言葉には圧倒的な説得力がある。一貫して厳しい表情をしているイ・ドだが、その内面には暖かな思いやりがあり、彼の存在自体が、この一連の悲劇の唯一の救いになるという展開にも納得ができる。

また、ムン・ベクを演じるキム・ヨングァンのカリスマ性も素晴らしく、キム・ナムギルと抜群のケミストリーを共有している。

 

このような俳優たちの骨太の演技と共に、少しずつ謎が深まって行く展開や、テーマを身近な問題として扱う仕掛けの旨さも相まって、昨今のこの手のジャンルの韓国ドラマの中でも屈指の出来栄えとなっている。全10話一挙見必須の作品と言えるだろう。

 

 

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Netflix韓国映画『84㎡』(84m2)あらすじと感想/マイホームを持つ夢が悪夢に変わる時をカン・ハヌル主演で描く

高層アパートを購入し、念願のマイホームを手に入れたウソンだったが、ローンの返却に苦労する毎日を送っていた。その上、謎の騒音に悩まされ睡眠も十分にとれない。下の階の住人にウソンが騒音の犯人だと疑われたことから、ウソンは犯人を突き止めるべく行動し始めるが、思わぬ事態が彼を待っていた・・・。

 

韓国映画『84㎡』は、念願のマイホームを手に入れた若い男性が騒音の犯人と疑われたことで極限状態に追い込まれていくサスペンスリラーだ。タイトルの「84㎡」は、韓国のアパートの一般的な間取りとされている32坪(約「84㎡」)に基づいたもの。

 

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主役のウソンを演じるのは『イカゲーム2』、『イカゲーム3』や、『隠し味にはロマンス』など話題のドラマ出演が続くカン・ハヌル。マンションの一番上階に住む住民代表のウンハに『市民捜査官ドッキ』などのヨム・ヘラン、ウソンと共に騒音犯を見つけようとする住民ジノに『PHANTOM ユリョンと呼ばれたスパイ』などのソ・ヒョヌ、ウソンの母親役に『イカゲーム2』、『イカゲーム3』のカン・エシムが扮するなど、個性的俳優が顔をそろえている。

 

韓国リメイク版『スマホを落としただけなのに』を手がけたキム・テジュンが脚本・監督を務めた。

 

韓国映画『84㎡』は、Netflixにて2025年7月18日より配信中。

 

目次

 

Netflix韓国映画『84㎡』作品情報

(C)Netflix

2025年/118分/韓国映画/原題:84제곱미터(英題:Wall to Wall)/配信:Netflix

脚本・監督:キム・テジュン 企画:キム・テジュン、ソ・ジョンヘ 撮影:ソン・ギホ 照明:チョン・ヨンソク 美術:キム・ソンヒョン 衣装:シン・ジヨン 音楽:ホ・ジュンヒョク

出演:カン・ハヌル、ヨム・ヘラン、ソ・ヒョヌ、カン・エシム、チョ・ハンジュン


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Netflix韓国映画『84㎡』あらすじ

(C)Netflix

2021年.平凡なサラリーマンのウソン(カン・ハヌル)は、マイホームを持つために貯金をすべて下ろし、投資やローンを駆使、さらには母親のニンニク畑までをも担保にして資金を集め、ついに誰もが憧れるソウルの高層マンションを手に入れた。

 

しかし、2024年には事情が一変。結婚するつもりだった恋人とは破談となり、金利は18%まで上昇。ローン返済額が給料を上回るため、ウソンは会社を退社したあとも、配達のバイトをしなくてはならなかった。生活は苦しく、光熱費を抑えるため、照明もつけずに過ごす毎日だ。

 

夜になると、上階からいつも音がして、眠れず、イライラは募るばかり。その上、下の階の住人からはウソンが騒音の犯人だと決めつけられる始末だ。毎日、ドアに貼られる貼り紙にうんざりしていると、チャイムが鳴り、ドアを開けると、下の階の住人だと言う女が立っていた。ウソンが自分ではないといくら説明しても女は聞き入れない。不思議なことに、さっきまであれほどうるさかった音も止まっている。女は主人が来ることになったら恐ろしいことが起こると、脅迫めいたことを言い、帰って行った。

 

ウソンは本当の犯人を見つけるべく、上階にあがっていった。チャイムを押すとジノという男が出て来るが、彼も自分ではないと否定する。それよりも上の階が怪しいと彼は言い、ウソンは16階の音が自分の14階や、下の住民の13階にまで聞こえるのだろうか?と疑問を持ちながらも16階に上がって行った。だが、そこで暮らしているのは、脚の不自由な老人とペットの犬だった。杖の音やペットが歩き回ることで多少の騒音は起きるだろうが、あれほどの音をこの老人がだしているとは思えない。

 

老人は疑われて憤慨していたが、一番上の階の住人が、住民代表だから相談するようにと言う。ウソンは住民代表だというウンハを尋ねた。ウンハは、13階の住人が暮らす部屋はウンハが大家であること、あと二か月すれば、賃貸契約が切れるので、彼らを追い出すことを約束するというのだが、あと二か月も耐えられるだろうか。騒ぎ立てて、何か悪いことが起きるとマンションの価値も下がってしまうとウンハは言い、結局犯人はわからないまま有耶無耶にされてしまう。

 

そんな矢先、ウソンは会社の同僚からピットコイン投資を薦められ、その話に乗るのだが・・・。

 

Netflix韓国映画『84㎡』感想と評価・レビュー

(C)Netflix

2021年に製作された韓国映画『奈落のマイホーム』(2021)は、主人公がソウルで念願のマイホームを手に入れるも、シンクホールによる災害で、マンション一棟が地下500メートル下に陥落してしまうパニックを描いた作品だった。そこにはソウルに家を持つことの大変さ、住民間トラブル、欠陥住宅など様々なソウルの住宅事情が綴られており、それだけでも映画になりそうだと思ったものだ。

 

また、イ・ビョンホン主演の『コンクリート・ユートピア』(2023)も未曽有の大地震により都市が壊滅した世界で、一棟のマンションだけが残ったというパニック映画なのだが、マンションの住人が徹底的に他の人々を排除しようとする姿に、「我が家を守りたい。誰にも渡したくない」という、マイホームへの強い想いが表現されていた。

 

映画『84m2』は、そうした韓国の住宅事情、マイホームを持つことに人生を賭ける人たちをテーマにした作品だ。

 

韓国では「持ち家」があることが社会のステータスと見なされる傾向が根強い。社会的競争の中で優位な立場にいるという証になるというわけだ。今のソウルでは新築戸建はよほどの資産家でないと手が出ないので高層マンション(できればそれらがまとまって建っているところ)にマイホームを持つのが多くの人々の目標となっている。さらに結婚の際に男性側が住居を用意するという伝統的な慣習が今でも残っているとも聞く。

 

映画『84m2』のカン・ハヌル扮する主人公のウソンは、結婚を控えて家を購入したが、その後、破談となり、購入してから三年間、ずっとひとりで暮らして来た。このあたりのことは多くは語られずフィアンセの女性も出てこないが、劇中、ウソンの同僚が、「共働きならなんとかなったのに」、「破談だけは避けろと言ったのに」というような発言をしており、夫婦2人でならなんとかやっていけるところを独りで暮らすことになってしまったため、もともと大変なローンの返済が彼の暮らしを圧迫することになったと推察する。

 

前半は、ローン返済額が給料を上回るために、夜になっても照明もつけずに電気代を節約し、会社が終わってもすぐにバイトに向かわなければならないウソンの苦労の多い生活が綴られていく。だが問題はそれだけではない。ウソンは毎日、どこからともなく響く騒音に悩まされ続けているのだ。その上、下の住人から音をたてているのはウソンだと責められ、いくら違うと言っても聞き入れてもらえない。下の階の住人は、毎日、ウソンの部屋のドアにメッセージを書いた付箋をいくつも貼り付けるので、それがストレスになり始めていた。

 

そう、映画『84m2』は「憧れのマイホームを持つ」という夢がどのようにして悪夢に変わるのかを描いた作品なのだ。

 

カメラは頻繁にカン・ハヌルの顔をアップでとらえ、彼が徐々に疲弊していく様子を映し出していく。こうした内容なので、本作は気楽にすいすいと観られる作品ではない。途中まではむしろ苦痛なくらいだ。だが、ウソンが金銭面を解決させようとピットコインに全てを託すようになってからのカン・ハヌルのパラノイア的な泣き笑いの演技が開始されると、私たちも、すっかりその感情のジェットコースターに引き込まれていく。

 

警官にティーザー銃を撃たれる羽目になってなお、PC画面のボタンを押すことに執着するウソンの驚異のねばりには思わず笑ってしまう。良い感じにユーモアが炸裂し始めたと思ったら、さらに物語は予測不能な方向へと進み始める。

 

ウソンは、階下の住人だけでなく、マンション内の大勢の住民から、騒音の犯人ではないかと疑われ、人々が彼を取り囲む。彼らはウソンの部屋の中を調べ、騒音増幅器を発見するが、ウソンには心あたりがない。こんなものがあるだなんて、これは誰かにはめられたに決まっている!

 

キム・テジュン監督自身、過去にマンションの騒音問題に悩まされたことがあると言い、大勢の人々が関心を持つ、共感度の高い物語として、本作を製作したと述べている。これまで、韓国映画界は日常の中で、人々が経験している様々な社会的な問題を題材にした優れた作品を生み出してきたが、本作も、また、韓国の住居問題、住民間のトラブルなど、身近な題材をテーマに物語を展開させ、それをさらに思いもかけぬ、ミステリー・エンターティメントへと見事に昇華させている。

 

中でも印象に残ったのが、マンション内の会話がある手段を使うと筒抜けで、個人情報が全て漏れていたというエピソードだ。これは同じくNetflixで配信中のドイツ映画『ブリック』を思い出させる。『ブリック』は、アパートメントが、突然、黒い壁に囲まれ、住人が監禁されてしまうというSFチックな物語なのだが、その中で、大家がどの部屋にもカメラを仕掛けて監視していたことが判明する。

 

プライベートな事柄が簡単に他人に漏れているだなんてまったくぞっとしてしまう。さすがにそれらは映画だけのことだと思いたいが、ウソンは、そのせいでマンション内で進行している恐ろしい事態に巻き込まれたのだ。

 

ただ、物語のエンディングには少々、物足りなさを覚えた。住居問題の規模を広げ過ぎてしまったために、問題が個人の力を超えてしまったのが原因だろう

 

 

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韓国映画『ハルビン』あらすじと解説/韓国の独立運動家をヒョンビンが演じ民衆の抵抗の精神を描く

1909年10月に中国のハルビンで起きた歴史的事件をスリリングに活写したサスペンス作品。大韓義軍のアン・ジュングンと同志たちは、ある使命を果たすためにハルビンへと向かうが、行く手を阻もうとする日本軍との激しい攻防が繰り広げられる。

 

『KCIA 南山の部長たち』(2020)、『インサイダーズ/内部者たち』(2015)のウ・ミンホが監督を務め、ヒョンビンがアン・ジュングン役を熱演。ヒョンビンは、数ヶ月にわたる準備で力強いアクションと繊細な感情表現を披露している。

 

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パク・ジョンミンイ・ドンウクチョ・ウジンチョン・ヨビンユ・ジェミョンパク・フン等が共演。リリー・フランキーが伊藤博文を演じている。

 

第61回百想芸術大賞(韓国)では作品賞、ヒョンビンの最優秀演技賞、ウ・ミンホの監督賞など5部門にノミネートされ、作品賞、大賞(ホン・ギョンピョ撮影監督)を受賞。撮影監督が大賞受賞となったのは百想芸術大賞史上初。

 

第49回トロント国際映画祭GALAプレゼンテーション部門公式招待作品。

 

目次

 

韓国映画『ハルビン』作品情報

(C)2024 CJ ENM Co., Ltd., HIVE MEDIA CORP ALL RIGHTS RESERVED

2024年製作/114分/G/韓国映画/原題:하얼빈(英題:Harbin)/カラー/シネマスコープ/5.1ch

監督:ウ・ミンホ 脚本・ウ・ミンホ、キム・キョンチャン 撮影:ホン・ギョンビョ 照明:パク・ジョンウ 音楽:チョ・ヨンウク 編集:キム・マングン

出演:ヒョンビン、パク・ジョンミン、イ・ドンウク、チョ・ウジン、チョン・ヨビン、ユ・ジェミョン、パク・フン、チョン・ウソン、リリー・フランキー

 

韓国映画『ハルビン』あらすじ

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1908年、極寒の咸鏡北道(ハムギョンブクト)シナ山で、アン・ジュングン(安重根)率いる大韓義軍は、数で勝る日本軍に勝利を収めた。アン・ジュングンは万国公法に従って戦争捕虜たちを解放すると主張するが、イ・チャンソプはありえないと激しく抵抗。結局、自らの兵を率いてその場を去ってしまう。

 

その結果、逃した捕虜たちから情報を得た日本軍の急襲を受け、数百人の同志が虐殺されてしまう。部下たちを失ってしまったアン・ジュングンは、なんとかロシア・クラスキノの隠れ家にたどり着くが、イ・チャンソプをはじめとする同志たちの視線は厳しかった。

 

1909年10月、アン・ジュングンたちは、日本の政治家・伊藤博文がロシアの高官と会談するために大連からハルビンに向かうとの情報を得る。祖国の独立を踏みにじる「年老いた狼」を抹殺することこそが、亡くなった同志たちのために自分ができることだと確信した彼は、ウ・ドクスン、キム・サンヒョンと共に大連行きの列車に乗るが、列車を巡回していた日本軍から一等車両に乗る身なりではないと疑われ、乱闘になり、キム・サンヒョンは疾走する列車の窓から日本兵と共に落下するなど、3人はバラバラになってしまう。

 

幸い、3人は命に別条がなく、ロシアの隠れ家で合流を果たす。ウラジオストクの中国人通りで骨董店を営むコン夫人を尋ねた彼らは、爆弾を手に入れたいと相談する。コン夫人の夫は茂山の闘いで命を落としていた。闘いのあと、馬賊となった義兄のパク・ジョムチョルのもとを訪ねた4人は、酒におぼれ、変わり果てたジョムチョルの姿を目撃する。彼は死んだのが弟でなく俺だったら良かったのにと言いながら、爆弾を用意してくれた。

 

馬車を用意し、爆弾を詰め込んだ日、なぜか日本軍とロシア軍が彼らを包囲していた。銃撃戦となり、イ・チャンソプが死亡し、爆弾を積んだ馬車は、電車と衝突して、激しい爆発が起きた。

 

計画は失敗に終わり、変更を余儀なくされるが、明らかにこちらの動きがバレていることから、同志たちの中に密偵がいるのではという疑惑が生じる・・・。

 

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韓国映画『ハルビン』感想と評価

(C)2024 CJ ENM Co., Ltd., HIVE MEDIA CORP ALL RIGHTS RESERVED

映画『ハルビン』は、1909年に日本の政治家・伊藤博文が、朝鮮独立運動の象徴的人物であるアン・ジュングン(安重根)に暗殺された事件を、鮮烈な映像美と緻密な時代再現、そして、豊かな映画的想像力をもって描いた作品だ。

 

ウ・ミンホ監督は、屈服して敗北を受け入れるよりも、誇りと決意を持って闘うことを選んだ朝鮮の抵抗運動家に焦点を当て、彼らの独立精神、絆や夢、平和への渇望、運命への対峙を静かなトーンで、だが、力強く描き出している。

 

アン・ジュングンを必要以上に美化せず、彼の人間的な面によりアプローチしているのが本作の最大の特徴だろう。日本人には名前が知られる程度かもしれないが、韓国(そして北朝鮮)の人々にとってアン・ジュングンは抗日運動の英雄である。ウ・ミンホ監督は、そんな彼を神格化するのでなく、悲しみや絶望を覚えることも、自信が揺らぐこともある一人の人間として描いている。このような姿はアン・ジュングンに関してこれまでほとんど語られてこなかった側面だ。

 

映画は、アン・ジュングンが凍り付いた豆満江を渡る場面で始まる。『パラサイト半地下の家族』(2019)や『バーニング 劇場版』(2018)などを手掛けた名撮影監督ホン・ギョンピョによるその空撮ショットに思わず息を呑む。荒涼とした豪壮さを持つ光景は、アン・ジュングンが疎外感を抱き道に迷っている心象風景の表れといえるかもしれない。だが、至るところで反射してキラキラと輝く光は小さいが無数の希望の灯ともとれるだろう。

 

序盤の雪に覆われた森での戦闘シーンは地獄図のような接近戦が展開する。アン・ジュングンは独立軍を率いて人数的には不利な中、勝利を収めたが、捕虜を処刑せず森大尉をはじめとする日本兵を解放した。だが森たちはすぐに本部と連絡を取り、アン・ジュングンの同志たちを皆殺しにし、たまたま食料を捜しにその場を離れていたアン・ジュングンだけが生き残る。

義軍の中には彼に疑念を抱く者もいる。激高しやすいイ・チャンソプ(イ・ドンウク)は、アン・ジュングンと激しく対立する。一方、チョ・ウジン扮するキム・サンヒョンと、パク・ジョンミン扮するウ・ドクスンは、アン・ジュングンの朋友だ。芸達者な二人の俳優が演じるキムとウの友情も本作の見どころのひとつだろう。

 

ヒョンビンは、任務の重大さと仲間から向けられる不信の眼差しに押しつぶされそうになりながらも、祖国のために闘い続けるアン・ジュングンを演じている。厳しくも柔らかな表情と強いまなざしを通して、ヒョンビンはアン・ジュングンの人間的な誠実さと、彼が背負う責任の重さを伝えている。アン・ジュングンは自らの罪を償い、運動を救うため、伊藤博文を暗殺する計画を立てる。

 

本作は、韓国、モンゴル、ラトビアなどさまざまな場所で撮影が行われた。凍った湖から雪に覆われた森、広大な砂漠まで、息をのむような風景が映し出され、物語に豊かな質感を与えている。隠れ家に姿を潜めることの多い彼らのもとにも、窓の向こうから淡い光が差し込んでくる。ウ・ミンホ監督とホン・ギョンピョは、その光と影を、バロック期のイタリア人画家カラヴァッジョの作品のように撮っている。

 

アクションシーンも秀逸だ。列車の狭い客車での乱闘からウラジオストクの街中での銃撃戦と爆発シーンなどがクールにシャープに描かれ、ウ監督のアクション演出の才を改めて堪能させられる。

 

最終目的である伊藤博文暗殺場面では、アン・ジュングンを英雄的に奉るのでなく一人の人間として描き、朝鮮と日本の対立をことさら叙事詩的に描くのではなく、国権回復のための抵抗精神に焦点を当てるというこの作品の狙いが如実に反映されている。

 

カットを割り、クローズアップを増やせば、ずっとカタルシスをもたらす演出も可能だったろうが、静かで緊迫感溢れる横移動と、視線を意識させる画面の切り替えでサスペンスを最高潮に仕上げ、最後は一連の顛末を俯瞰で捉えている。俯瞰とはすなわち「観察する視点」である。観客は、アクションに没入するのではなく、その一瞬の出来事のようなシーンを冷静に文字通り観察し、アン・ジュングンと同志たちの権力に屈しないという不屈の精神を目撃させられるのだ。

 

映画のラストに字幕で示されるように、この暗殺により、日本の韓国への締め付けは拡大され、朝鮮が独立を取り戻すには長期に渡る複雑な闘争が続くことになる。

 

だが、本作がもたらすメッセージは明らかだろう。劇中、リリー・フランキー扮する伊藤博文が、豊臣秀吉の朝鮮出兵を例に出し、国家が一大事のときは、必ず民衆が立ち上がることを憂いているシーンがある。その時代から脈々と受け継がれる抵抗精神は、大韓帝国の危機におけるアン・ジュングン等の闘いを経て、独裁軍事国家への抵抗へと続く。さらに2024年12月4日、ユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領によって突然の戒厳令が宣言された際も、数千人の民衆が深夜にもかかわらず国会周辺を包囲し、軍隊や警官隊の暴挙を封じ込め民主主義を守った。

映画『ハルビン』は、韓国の歴史の考察であると共に、現代に、そして未来へと引き継がれる民衆の抵抗の精神そのものを描いているのだ。

韓国映画『消防士2001年、闘いの真実』あらすじと解説/韓国を揺るがした火災事件を基に、救助のために炎に飛び込む消防士たちの闘いをチュウォン等、個性豊かなキャストで描く

映画『消防士2001年、闘いの真実』は、2001年に韓国で実際に起きた「弘済洞火災惨事事件」をもとに、劣悪な環境にもかかわらず、一人でも火災現場に取り残された人がいれば炎に飛び込んでいく消防士たちの闘う姿を『友へ チング』(2001)のクァク・キョンテク監督が人間味豊かに、リアルに描いたヒューマンドラマだ。

 

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Netflix映画『カーター』(2022)やドラマ『グッド・ドクター』(2013)などで知られるチュウォンが、新人消防士のチョルンを演じ、『哭声 コクソン』(2016)のクァク・ドウォンが隊の班長のジンソプ、映画『声もなく』(2020)や、ドラマ『梨泰院クラス』(2020)のユ・ジェミョンがカン隊長に扮しているほか、『犯罪都市 PUNISHMENT』(2024)のキム・ミンジェ、ドラマ『秘密の森』(2017)や映画『野球少女』(2019)などのイ・ジュニョク等、韓国を代表する実力派俳優が顔をそろえている。

 

韓国では2024年12月の公開ながら、『破墓/パミョ』、『犯罪都市 PUNISHMENT』などに次いで、年間の興行収入で洋画を除く国内映画トップ5にランクインする大ヒットとなった。

 

目次

 

韓国映画『消防士2001年、闘いの真実』作品情報

(C)©2024 BY4M STUDIO & ASK ROAD PICTURES & ASCENDIO All Rights Reserved.

2024年製作/106分/韓国映画/原題:소방관(英題:The Firefighters)

監督:クァク・キョンテク 脚本:クァク・キョンテク、キム・ヨンデ、チェ・クァンヨン 撮影:イ・ヨンガブ 音楽:モク・ヨンジン

出演:チュウォン、クァク・ドウォン、ユ・ジェミョン、イ・ユヨン、キム・ミンジェ、オ・デファン、イ・ジュニョク、チャン・ヨンナム

 

韓国映画『消防士2001年、闘いの真実』あらすじ

(C)©2024 BY4M STUDIO & ASK ROAD PICTURES & ASCENDIO All Rights Reserved.

新人消防士のチョルンは、ソウル市の西部消防署に配属される。初出勤の日、隊員たちへの挨拶もそこそこに交通事故の現場へと出動するが、訓練とは違う実際の現場に戸惑い、ほとんど何もできず隊員たちの足を引っ張ってしまう。

 

落胆するチョルンだったが、体育会系の厳しくも優しい隊員たちの助けもあり、日々の経験を経て消防士として少しずつ成長していく。そんな中、3階建てのアパートで火災が発生し、チョルンらは現場へ向かった。

 

しかし、火の手は瞬く間に広がり、懸命な消火活動も追いつかず建物は崩壊寸前だった。隊長からは撤収の命令が下されるが、班長のジンソプらは要救助者を発見するため、二人一組に分かれて、一階から3階までをくまなく捜索する。その際、パニックになったチョルンは、窓ガラスを余分に叩き割ってしまい、バックドラフトが起き、ヒョジョンが背中に火傷を負ってしまう。

 

一方、三階に上がった班長のジンソプとヨンテは倒れている女性をみつけ、救出するが、ジンソプは、家具の上にある女性と小さな子供の写真を見て、子供がまだいると確信する。しかし、炎は益々勢いを増し、彼らが背負う酸素ボンベも空に近づいていた。ついにヨンテが子供を発見するが、彼の足元に火が回り、彼は子供をジンソプに投げて渡し、救助を呼ぶようにと叫ぶ。ついに足元の階段が崩れ、彼は宙ぶらりんになってしまう。はしご車で登って来た隊員に子供を預けると、すぐにジンソプは、ロープをヨンテに投げるが、彼はそれを掴めないまま、炎に向かって落下して行った。

 

ヨンテの死は、隊員たちに大きなショックを与え、チョルンは心的外傷後ストレス障害(PTSD)に悩まされ、休職を余儀なくされてしまう・・・。

 

韓国映画『消防士2001年、闘いの真実』感想と評価

(C)©2024 BY4M STUDIO & ASK ROAD PICTURES & ASCENDIO All Rights Reserved.

映画はチュウォン扮する新人消防士チョルンが西部消防署に初出勤するところから始まる。先輩たちへの挨拶の途中で出動がかかり、チョルンもあわてて車に飛び乗る。交通事故の悲惨な現場に到着するや、隊員たちは、すばやく車から降り、すぐにバックドアが開けられ、隊員たちが次々と必要な道具を手にしていく。これをカメラ固定のワンテイクで撮っている。隊員たちの手際の良さと、きびきびした行動が鮮やかにとらえられ、一秒も無駄に出来ない救助の緊張感がダイナミックに伝わって来る。チョルンは初めての現場で緊張のあまりほとんど動けず、先輩たちの足を引っ張ってしまう。

 

映画の序盤は、そんなチョルンが徐々に環境に慣れ、成長していく姿が描かれている。その過程で、消防士が想像以上に多くの仕事をこなしていることが語られる。火災と救急隊の仕事以外にも、酔っぱらい対応など警察がやるような仕事もこなさなくてはならない。先輩のヨンテ(キム・ミンジェ役)が、警察には連絡しにくいと思う人もいるから、自分たちの出番になるんだと明るく語るように、彼らはクァク・ドウォン扮する班長のジンソプを筆頭に、自分たちを必要とする人のためならどこにでも飛んでいくという信念を持っており、チームは強い絆で結ばれていた。

 

そんな中、チョルンは初めて大きな火災現場に出動する。生存者を助けるため、燃え盛る火の中に入って行く隊員たち。火の手の勢いは増し、チョルンの呼吸音も次第に大きくなっていく。状況の過酷さ、息苦しさが生々しく伝わって来る中、チョルンは必要以上に窓を割ってしまいバックドラフトを誘発、そのせいでヒョジョン(オ・デファン)が背中に火傷を負ってしまう。さらに、酸素が切れる直前まで生存者を捜していた班長のジンソプは、共に行動していたヨンテと共に2人の生存者を見つけて決死の救出作業を行うが、ヨンテの足元に火が回って、階段が崩れ、ヨンテは命を落としてしまう。

 

チョルンはショックで、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に悩まされ、無理な救助を行った班長への不信感を募らせる。が、班長と直にぶつかって行く中で、彼の心の内を知ったチョルンは人を救うために自分自身も消防士として生きていこうと決意する。チェウォンは、生真面目なチョルンを繊細に演じ、新人ながらの不器用さと、複雑な感情を揺らしながらも成長していく姿を、抑えた演技で的確に表現している。

 

ヨンテの死は、隊員自身は勿論のこと、その家族にも大きな影響を与えた。ジンソプの妻は、毎日、心が休まる日がないと夫に消防士をやめるよう訴え、ヒョジョンは、近々自分の妹と結婚するギチョル(イ・ジュンヒョク)に妹が苦労するから行政職に移れと忠告するが、仕事に誇りを持っている彼らにとって、現場を離れたり、退職することなど、考えられないことだった。

 

それでも、妻の忠告を聞き、ジンソプは、一年の休職を決心するのだが、そこで事件は起こる。火災の通報があり、西部消防署の隊員たちはただちに現場へと向かった。違法増築を繰り返した迷路のような古いビルが炎に包まれていたが、違法駐車や二重駐車した車で道路がふさがっており、消防車が前へ進めない。

 

この火災は、2001年3月4日に発生した「弘済洞火災惨事事件」を基にしている。家主の男が保険金目当てに放火し、救助にあたった6人の消防士が死亡した事件だ。

 

クァク・キョンテク監督はこの20年前の火災事件を通じて、市民の命を守るために迷わず火の中に飛び込んで行った消防士たちの姿を伝えると共に、当時の消防士たちのおかれた過酷な状況を告発している。

彼らの装備は劣悪で、作業服は防水加工されてはいるが、防火対策はなされていない。手袋には予算がつかず、普通の軍手のようなものを使用するという信じられないような状態で、見るに見かねてユ・ジェミョン扮するカン隊長が、自腹でドイツ製の耐熱手袋を隊員のために購入するというエピソードが綴られている。このようにまったく安全に配慮されていない状況にも係わらず、消防士は生命保険に入ることもできないのだ。また、消防車の行く手を阻む、違法駐車にたいしても、警察と違い、消防士には、移動の権限もないのだ。

 

彼らは長い長い消防ホースを持って走り、放水へと向かう。劇中、これが何度も繰り返される。火の手が大きくなり、崩落の危険があるにも関わらず、人がまだいると聞いた彼らは炎の中に飛び込んでいく。

 

火災シーンは恐ろしいほどリアルで、煙が画面を覆い、炎が建物を飲み込んでいく。まるで怒り狂う怪物のようだ。火の使用は安全第一をモットーに、細心の注意を払って行われた。本作における火の活用とCGの割合は半々だという。

 

クァク・キョンテク監督は、消防士たちをスーパーヒーローや英雄として描くのではなく、それぞれに悩みや葛藤を抱えたひとりの人間として描いている。そこに、恐怖や喪失感といった職業的苦悩も含まれているのは言うまでもない。それでも懸命に生存者を捜す彼らの姿には誰もが心揺さぶられるだろう。なんとかこの人たちが助かりますようにと願わずにはいられなくなるのだ。

 

観客には、中に取り残されていると言われている男は放火犯で、もう中には誰もいないことが分かっている。それゆえに無線で必死に「早く出てこい!」と叫び続けるカン隊長の声は、映画を観ている私たちの心の叫びでもある。

 

「弘済洞火災惨事事件」は、消防士の安全対策の著しい欠如、作業員への支援の圧倒的不足を浮き彫りにし、その後、対策が取られたが、消防士が国家公務員に指定されたのは2020年になってからだという。それまでは公務員として扱われていなかったことに驚かされる。劇中、ジンソプは政治家に直に改善を訴えているのだが、まともな声として取り扱ってもらえない。大きな悲劇が起きないと、改善されないのは、利益追求主義社会が持つ大きな欠陥だろう。これは韓国だけではない、私たちの問題でもあるのだ。

 

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Netflix韓国ドラマ『イカゲーム3』あらすじと感想/過酷なサバイバルゲームを描くシリーズ最終章は絶望からのスタートと「選択」の物語

ドラマ「イカゲーム」シリーズは、膨大な借金や深刻なトラブルで人生を詰んだ人々が、巨額の賞金(456億ウォン)を賭け、「負けたら即死」の過酷なデスゲームに挑むサバイバルスリラーだ。2021年にシーズン1が配信されるや、世界的な社会現象となり大ヒット。Netflix史上最も視聴された非英語シリーズとなった。

 

シーズン2は2024年12月26日に公開され、5週連続でNetflix週間グローバルTOP10(非英語シリーズ)1位を記録する、これまた大ヒットとなった。

 

待望のシーズン3はシリーズの最終章として、2025年6月27日よりNetflixで世界独占配信が開始。シリーズを通しての主人公イ・ジョンジェ扮するソン・ギフン(プレイヤー456番)をはじめ、シーズン2に登場したプレイヤーたちが再び戦いに挑む姿が描かれ、さらなる過酷なゲームと人間ドラマが展開する。

 

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ゲームの運営者であり、シーズン2ではギフンを欺いていたフロントマンにイ・ビョンホンが扮しているほか、兄(フロントマン)を捜す弟の刑事にウィ・ハジュン、海兵隊出身の若い男性デホにカン・ハヌル、暗号通貨投資に失敗した元インフルエンサー・ミョンギにイム・シワン、ミョンギの元恋人で妊娠中のジュニにチョ・ユリ、陸軍出身のトランスジェンダー女性ヒョンジュにパク・ソンフン、気弱で友人に騙されて借金を作ったヨンシクにヤン・ドングン、その老いた母親クムジャにカン・エシム、巫女のソンニョにチェ・グッキ、元軍人の脱北者でピンクガードのひとりノウルにパク・ギュヨン、彼女の直接の上司にパク・ヒスンが扮するなど、個性的な俳優が演技の火花を散らしている。

 

シーズン3では、本シリーズの特徴である「子供の遊びを基にしたデスゲーム」がさらに過激に進化しており、シーズン1、2に続き、ファン・ドンヒョクが監督・脚本を務めている。

 

(シーズン1,2をご覧になっていない方にはネタバレになる個所がございます。ご注意ください)

 

目次

 

Netflix韓国ドラマ『イカゲーム3』作品情報

(C)Netflix

2025年/全6話(全366分)/原題:오징어 게임(시즌 3)、英題:squid game3/配信:Netflix

監督・脚本・ファン・ドンヒョク

出演:イ・ジョンジェ、イ・ビョンホン、ウィ・ハジュン、イム・シワン、カン・ハヌル、パク・ギュヨン、パク・ソンフン、ヤン・ドングン、カン・エシム、チョ・ユリ、ソン・ヨンチャン、イ・ソヌ、チェ・グッキ、イ・ダウィ、ノ・ジェウォン、ウ・ジョングク、チェ・グィファ、パク・ジヌ、パク・ヒスン、チョン・ソクホ、オ・ダルス、

 

Netflix韓国ドラマ『イカゲーム3』あらすじ

『イガゲーム3』相関図 (C)Netflix

ギフンが主導した反乱計画は失敗し、ギフンの親友チョンベが目の前で殺害されたのを目撃したギフン。ギフンが気を失っている間に他の人々も次々と処刑され、ギフンだけが生かされ、ゲームに戻される。

 

皆を死に追いやったことへの絶望感と喪失感がギフンを襲い、彼はゲーム続行か否かの投票にすら参加できなくなる。

 

ゲームの再会は、プレイヤーたちが、青か赤の玉を選ぶことから始まった。赤の玉を持った人々はそれぞれドアを開ける鍵を渡され、早く出口まで行けば生き残れる。一方、青の玉を持つものにはナイフが配られ、赤の玉を持つものを一人殺せばゲームをクリアしたことになる。もし、誰も殺せなければピンクガードによって始末されてしまう。赤の人々は見つからないよう、殺されないよう、出口をみつけなくてはならない。命を懸けた「かくれんぼ」である。

 

ただし、ゲームが始まるまでにボールを交換することは可能で、人々は戸惑いながらも、ゲームに突入していった。ヨンシクとクムジャの親子はこれまでずっと一緒に行動していたが、色が分かれてしまう。

 

人を殺すことに躊躇していた青ボールの人々も、時間が進むにつれ、生き残りをかけて、牙をむき始めた。ギフンは落ち込んでいたが、ピンクガードと銃撃戦になった際、弾倉を取りに行きそのまま帰ってこなかったデホを見つける。彼が予定通り、弾倉を持ってやってきたら、事態は違った方向に動いたのではないか?お前のせいだと叫んで青ボールのギフンは赤ボールのデホを追いかけ始めた。

 

一方、クムジャと妊婦のジュニには、ヒョンジュが付き添っていた。3人は、それぞれの鍵の種類が違うことで、様々なドアを開けることが出来、順調に前進するが、そんな中、ジュニが襲われ、脚をケガしてしまう。ヒョンジュが救うも、ジュニは破水し、お産が始まってしまった。

 

一方、巫女のソンニョは、出口が見えると語り、彼女を信じる者たちが、あとに続くが、実はまったく見当もついていなかった。

 

プレイヤーを絶望に突き落とすゲームはその後も、容赦なく彼らを地獄へと駆り立てる・・・。

 

Netflix韓国ドラマ『イカゲーム3』感想と解説

(C)Netflix

(大きなネタバレはしていませんが、念のため、まだご覧になっていない方は、ご注意ください)

 

前作「2」が、過酷なゲームを止めるために参加したギフンと、彼の周りに自然に集まって来た暖かな心根の持ち主たちが絆を深めて行くのを中心に描いていたのとは対照的に、「3」は、ギフンが起こした反乱失敗による絶望からスタートする。

 

反乱に加わった参加者のうち、ギフンだけが生かされ、再び、彼はゲームへと引き戻される。だが、仲間を死に追いやった罪悪感と喪失感に見舞われたギフンは、もはや気力を失ってしまっており、精神的支柱を失くしたまま物語は進行することとなる。

 

次に彼らが強いられるゲームは、参加者が赤か青のボールを選び、2つのグループに分かれてかくれんぼをするというものだ。赤のプレイヤーは各自一つずつ鍵を手渡され、いくつもあるドアを開けて出口をみつけ、ナイフを手渡された青のプレイヤーに見つかり殺される前に脱出しなければならない。青のプレイヤーは必ず赤のボールを持った誰かを殺さなくてはならず、誰も殺せなかった場合は、ピンクガードに射殺される。これまでもゲームに負けることは死を意味していたが、自分で手を下すとなると事情は違ってくる。果たして簡単に人は人を殺せるのか!? 参加者はこれまで以上に過酷な試練にさらされるのだ。だが、生き延びて大金を掴みたい一心の青のプレイヤーは見境なくゲームに忠実に行動し始める。カラフルなデザインの迷路のような空間をカメラは時に長回しで、時に一人のプレイヤーに照準をあてて撮り、追いかけっこの緊張感と殺伐とした雰囲気を巧みに表現している。

 

ギフンが後退した分、各キャラクターのストーリーが強く描かれている。とりわけ、カン・エシム演じるクムジャとパク・ソンフン演じるヒョンジュ、チョ・ユリ演じるジュンヒが強い印象を残す。強くて思いやりのあるヒョンジュは「かくれんぼ」ゲームにおいて、高齢者と妊婦というもっとも弱い立場のふたりに寄り添う。ヒョンジュはひとり生き延びるチャンスがあったにも関わらず、ふたりを救いに戻ろうと危険な場所へと踵を返す。「2」と「3」を通して、パク・ソンフンは、身体をはって人々を護り、その人間味あふれる演技によってヒョンジュというキャラクターの存在がどれほど尊いものであったかを私たちの心に焼き付けるのだ。

 

また、もっともつらい状況に至ったクムジャが、ギフンや、ジュンヒを励ます言葉も忘れ難い。責任を感じて後悔し、苦しんでいる人に対して「あなたのせいではない」と言うのは簡単だが、そこに「選択」という言葉が入ることでどれほど説得力が増すことか。どんな行動も、どんな結果も、それは人が何を「選択」したかに関わって来るものなのだ。このクムジャの言葉は、茫然自失のギフンを我に返させると共に、終盤に向かい、彼がどのような「選択」をするのかという新たな見どころを作ることになる。

 

「2」ではそのひ弱さが目立ったチョ・ユリ演じるジュンヒは、強い意志を持つ、重要なキャラクターへと変貌する。一方、ジュンヒの元カレ役のイム・シワンは、ただのずる賢い卑しい男か、それとも誠実な面もある男なのか、観る者を困惑させるキーパーソン的なキャラクターを巧みに表現している。

 

各ラウンドの間に競技の継続を決める投票は2では作品のハイライトとしての効果があったが、3ではもはやむなしいだけのものに成り下がっている。にも拘わらず、投票は続けられ、多数決でゲームが続けられることが決まると、継続を希望したプレイヤーたちは「民主主義に乗っ取った公正な結果」と何度も自慢げに言う。この言葉が皮肉として使われているのは言うまでもない。

 

罪の意識もなく平気で他人を蹴落とす絵に描いたような貪欲な男たちが、勝ち続ける。彼らは民主的な話し合いを拒否し、ゲーム継続ありきで強引に物事を進めて来た者たちだ。弱き者への思いやりがないのは勿論のこと、倫理観にも欠ける。いつでもどんな時でも自分の利益のために他人を蹴落とそうと考えている。社会はこうした力を持つ人間によって、動かされており、小さな善意や良心的な声はかき消されてしまう。だが、彼らとて、『イカゲーム』シーズン1と同様、仮面をつけたVIPによって娯楽として見下ろされ消費されているのだ。まさにこの社会の縮図とでもいうべき光景は、不愉快で観るのがつらくなってくるほどだ。

 

残酷なサバイバルを、懐かしい遊びを連想させるゲームと融合させて描き、世界的大ヒットとなったNetflixドラマシリーズ『イカゲーム』。シーズン1では、確かに出演者も魅力的だし、十分楽しめる仕上がりになっているが、韓国の映画やドラマならもっと面白いものもあるのに、なぜこれなのかと正直、感じたものだ。しかし、シーズン2で社会の分断を描き、人間の生き方や次世代への思いなどを込めたシーズン3を見終えた今、ただの悪趣味の作品ではない、今ある世界を戯画的に描いたエンターティンメントの堂々たる秀作であると認めざるを得ない。

 

ラスト、意外な出演者が登場し驚かされる。アメリカを舞台にした続編が期待されるところだが、実現するなら、フロントマンこと、イ・ビョンホンが出演することを願っている。彼は、今回のゲームにおいて、人生観を変えるような光景を見たはずなのだ。金銭的な罪滅ぼしのような行動だけでお茶を濁すのではなく、ギフンが残したメッセージを活かす場所があってもいいはずだ。

 

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韓国映画『脱走』あらすじと解説/自由を求める脱走兵と夢をあきらめた追撃兵をイ・ジェフンとク・ギョファンが演じる

南北軍事境界線(非武装地帯)を警備する北朝鮮の最前線部隊。軍曹イム・ギュナムは、自由を求めて密かに脱北を計画していた。しかし、思わぬ事態が発生し、計画は座礁。その上、命の危険にさらされる。そんな彼の前に現れたのは、ギュナムの幼馴染である保衛部少佐のヒョンサンだった。彼はギュナムを保衛部に栄転させようとするが、ギュナムは自由意志のない人生を拒否し、脱北の計画を実行に移す・・・。

 

映画『脱走』は2024年7月3日に韓国で公開され、封切りから4週間で観客動員250万人を突破し、2024年の韓国映画興行成績4位を記録する大ヒットとなった作品だ。

 

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命がけの脱北を試みるギュナム役を、人気ドラマシリーズ「シグナル」や映画『狩りの時間』で知られるイ・ジェフンが熱演。映画『モガディシュ 脱出までの14日間』やNetflixドラマシリーズ「D.P. 脱走兵追跡官」のク・ギョファンが彼を追撃する軍少佐ヒョンサンを演じ、ギュナムの部下で、衝動的に脱北を試みる下級兵士ドヒョクをホン・サビンが、ヒョンサンの人生に決定的な影響を与えるソン・ウミン役を、Netflixドラマシリーズ「Sweet Home 俺と世界の絶望」のソン・ガンが演じている。

 

監督を務めたのは、『サムジンカンパニー1995』(2022)などの作品で知られるイ・ジョンピル

 

目次

 

韓国映画『脱走』作品情報

韓国映画『脱走』

2024年製作/94分/韓国映画/原題:탈주(英題:Escape)

監督:イ・ジョンピル 製作:パク・ウンギョン 脚本:クァク・ソンフル、キム・ウグン、キム・ソンアン、ペ・ジュンユン 撮影:キム・ソンアン 編集:イ・ガンヒ 音楽:タル・パラン 挿入歌Zion.T:

出演:イ・ジェフン、ク・ギョファン、ホン・サビン、ソン・ガン、ソ・ヒョヌ、イ・ソンウク、チョン・ジュンウォン

 

韓国映画『脱走』あらすじ

韓国映画『脱走』

軍事境界線を警備する北朝鮮の部隊。軍曹のギュナムは除隊を間近に控えていたが、家族もなく将来の見通しも立っていなかった。

 

ギュナムは自由を求め、密かに脱北を計画していた。夜になると部屋を抜け出し、軍事境界線の地雷のないルートを探索し、タイムを計って計画に見落としはないか念入りに確認する。その経験から精密な地図も出来上がっていた。ところが数日後に雨が降るという予報にギュナムは顔をしかめた。泥が地雷を流してしまい位置が変わるかもしれない。決行日を早めなければならない。

 

しかし、下級兵士ドンヒョクが自分も一緒に脱走したいと言い出す。彼はギュナムが一人宿舎を抜け出すところを目撃していたのだ。ギュナムは否定するが、翌朝、ギュナムが目覚めると、脱走兵が出たと大変な騒ぎになっていた。ドンヒョクはギュナムが製作した地図を持ち単独で脱出を試みたのだ。脱走兵を探すために全部隊が召集される中、ギュナムは彼を救うため、真っ先に彼の元へ駆けつけた。だが、別の部隊に二人が一緒にいるのを発見され、二人で逃亡しようとしていたのではないかと疑われる。

 

部隊の最高指導者が二人を脱走兵として処分しようとする中、国家保衛部の少佐・ヒョンサンが事件の調査にやって来た。彼は、脱走兵が二人も出たとするよりは、一人の脱走兵を一人の英雄が発見して拘束したとした方が良いだろうと告げて、ギュナムを自分の車に乗せる。

 

実はヒョンサンとギュナムは幼馴染だった。ヒョンサンは、ギュナムの現職を解任し、国家保衛部付けとすると命じる。これは軍隊における出世を意味し、除隊しても生活のめども立たないギュナムに対するヒョンサンの友情の証だった。

 

しかし、ギュナムは自由意志のない人生を送ることを拒否し、ドンヒョクを救出し、一緒に国境を越えて脱走することを決意する・・・。

 

韓国映画『脱走』感想と評価

韓国映画『脱走』

冒頭、いきなりイ・ジェフン扮するイム・ギュナムが走っている。右へ右へ、全力疾走で直進するギュナムの姿が水平トラッキングショットで捉えられている。時間を計り終えた彼はすぐにきびすを返し、今度は画面左へと走って部隊に戻って行き、これが脱走の密やかな予行演習であることが分かる。このわずか数分で、彼がどれほど念入りに脱走計画を練って来たかを見る者に植え付け、と、同時に本作が前進、直進の映画であることを鮮やかに予告している。

 

DMZ(DeMilitarized Zone=非武装地帯)は映画やドラマで南北分断のメタファーとしてこれまで何度も描かれて来た。パク・チャヌク監督の『JSA』(2000)、や大ヒットドラマ『愛の不時着』(2019)などの作品が思い出されるだろう。本作もそんな作品のうちのひとつだが、一人の脱走兵がDMZを越えようとする試みだけに焦点を当てた、いたってシンプルな作りになっている。時間もわずか94分。しかし、そこに宿る感情の多用さには驚かされるだろう。

 

国家保衛部から派遣されて来た少佐ヒョンサンは、脱走を試みたドンヒョクと共に捕らえられ処罰されようとしているギュナムを、脱走兵を掴めた英雄に仕立てれば上の怒りも収まると部隊を説得し、救い出す。なぜなら、ギュナムとヒョンサンは同郷の幼馴染だったからだ。

 

ヒョンサンはさらにギュナムを国家保衛部の兵士に任命する。これは兵士にとって何段階もの出世であり、身寄りがなく、除隊後も良い職業に着けなさそうなギュナムに対する温情だった。

 

だが、ギュナムにとって、さらに軍隊に留まることは自由意志のない人生を送ることを意味した。長い間緻密に練って来た脱走計画は大きく狂ってしまったが、ギュナムは諦めない。「私は自分の未来を自分で決める」と、囚われているドンヒョクを救出し、共に国境を越えて脱走することを決意するのだ。優しい顔立ちのイ・ジェフンがまるで仁王のような面貌を見せ、スクリーンの中央に立つ姿は、その決意の大きさを浮かび上がらせる。

 

イ・ジョンピル監督は2022年の作品『サムジンカンパニー1995』でも、危険を冒して大企業の不正を内部告発する商業高校卒業の女性従業員たちを描き、挫折に屈さない姿を賛美したが、本作でも強い意志を持ち、自らの人生を切り開こうとする主人公を力強く描写している。

 

一方、友情の証として命を救い、出世までさせてやったヒョンサンにとって、ギュナムが取った行動は裏切り以外のなにものでもない。しかも今度は自身の命が危なくなるのだ。こうしてヒョンサンは冷酷な追跡者となり、ギュナムの行く手を阻もうとする。

 

ここからギュナム以上に、ヒョンサンについての描写が増えて来る。彼はかつてピアニストとして国際コンクールに出場したことがある優秀な音楽家だったこと(ギュナムが彼をピアノ兄貴と呼んでいたことも判明する)、今は上官の娘と結婚し、もうすぐ子供も生まれるが、ソン・ガン扮する元カレにまだ未練があること、そうしたことを全て忘れて何事も期待しないよう努めようとして来た人物であることが次第に明らかになっていく。

 

ク・ギョファンは真剣さとおふざけを巧みに混ぜ合わせながら、嫉妬と憧れ、自己保身と兵士としての矜持など、多様で複雑な感情を見せる。軽い身のこなしでひようひょうとしながら、冷酷に銃を構える姿はまさにク・ギョファンならではの魅力に溢れている。

 

こうしてかつての幼馴染は、追われる者、追う者として、生き延びるために互いに全身全霊をかけるのだ。手に汗握るアクションと共に、地雷や底なし沼など様々な脅威がギュナムを襲う。物語はスピィーディーにスリリングに展開して行くが、アクション映画の枠を超えた、二人の人間の魂のせめぎ合いへと変貌していく。

 

本作には心をとらえる名言がいくつか登場する。そのひとつに「自分は(南に)失敗しに行くのだ」というギュナムの台詞がある。「南が楽園のような場所だと思っているのか!?」と問うヒョンサンに対して、「北では一度失敗するとすべてが終わってしまう。自分は、失敗してもまたやり直せる場所に行きたいのだ」とギョナムは応える。

 

これは、彼が部隊に所属していた頃、キャッチできた韓国のラジオ放送で読み上げられたリスナーの投稿文に端を発したものだ。それはまさに深夜のラジオにしばしば流れる平凡な投稿であり、へたをすると、聞き流してしまうかもしれないような類のものだ。だが、ギュナムは「失敗してもやり直せる社会」という言葉に心動かされた。そしてこの映画を観た私たちもまた、失敗してもやり直せる社会が当たり前のものではないということに気づかされるのだ。いつでも簡単に私たちは「自由」を失ってしまう可能性があることを、映画は示唆しているのだ。

 

Zion.Tの2014年のヒットシングル「楊花大橋」のメロディーがラジオから流れ、エンディングで再び流れる。「幸せになろう」と繰り返されるその歌詞が、深く心に染みて来る。

 

 

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韓国映画『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』あらすじと解説/キム・ゴウン×ノ・サンヒョン主演 寛容でない社会を支え合いながら生きる

「国際ブッカー賞」や「ダブリン文学賞」にノミネートされたパク・サンヨンのベストセラー小説『大都会の愛し方』に収録されている「ジェヒ」を原作に、『女は冷たい嘘をつく』などのイ・オニが監督を務めた映画『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』

 

自由奔放なジェヒは社会の流れに逆らう行動を繰り返すため、同級生の噂の的となり、フンスは保守的なコミュニティでゲイであることを隠している。そんな二人が出会い、共に歩んだ13年に渡る掛け替えのない友情が描かれる。

受け入れを拒む社会に苛立ちながらもお互いにささえあって成長していくジェヒとフンスの姿には誰もが深い感動を覚えるだろう。

 

『破墓/パミョ』(2024)で百想芸術大賞・女性最優秀演技賞を受賞したキム・ゴウンがジェヒを、世界的な話題となったドラマシリーズ『Pachinko パチンコ』(2022)で注目を集めた新鋭ノ・サンヒョンがフンスを演じている。また、フンスの恋人スホ役にチョン・フィ、フンスの母親役にチャン・ヘジン、ジェヒの恋人ジソク役にオ・ドンミン、ジェヒの元彼でマザコンのジュンス役にクァク・ドンヨンが扮している。

 

第45回青龍映画賞では新人俳優賞(ノ・サンヒョン)、最優秀音楽賞(Primary)を受賞。

 

目次

 

映画『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』作品情報

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邦題:ラブ・イン・ザ・ビッグシティ

原題:대도시의 사랑법 (英題:Love in the Big Cit)

ジャンル:ヒューマンドラマ

監督:イ・オニ

原作:パク・サンヨン『大都会の愛し方』

脚本:キム・ナドゥル

撮影:キム・ヒョンジュ

音楽:Primary

製作国:韓国

製作年:2024年

上映時間:118分

キャスト: キム・ゴウン、ノ・サンヒョン、チョン・フイ、オ・ドンミン、チャン・ヘジン、イ・サンイ、クァク・ドンヨン、チュ・ジョンヒョク、イ・ユジン

 

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映画『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』あらすじ

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ジェヒは、大学に入学した時から、皆の注目を集めるほどの特別な魅力を放っていたが、人の目を気にしない自由奔放な行動のせいで、噂の的になったり、誹謗中傷されることもしばしばだった。

 

自分がゲイであることがバレるのをフンスが極端に恐れているのも、そんな世の中の仕組みを高校時代から身に染みて感じているからだ。

 

ある日、フンスはフランス語の教授と激しくキスをしているところをジェヒに観られてしまう。アウティングされることを覚悟したが、ジェヒは誰にも何もいわず、フンスに疑いの目がかかった時には、恋人の振りをして彼をかばってくれた。

 

ふたりには、少しばかりアウトサイダー気質で、夜遊び好きという共通点があり、すぐに意気投合。毎晩、梨泰院で遊びまわり、資金捻出のため、ジェヒはオートバイを売りに出しさえした。一緒にいると完全に自分らしく過ごせることから、ふたりは"ベストフレンド"として、ジェヒのマンションで一緒に暮らし始める。

 

ジェヒは恋多き女だが、しばしばひどい仕打ちを受けて傷ついていた。フンスにもスホという恋人ができるが、スホが本気モードなのに若干戸惑っていた。さらにスホはカミングアウトを考えているという。彼がカミングアウトしたら自分はどうしたらいいのか、スンフはスホを愛していながら、別れを告げる。

 

ジェヒとスンフは、時に決別したこともあったが、長い月日を共に過ごし、支え合いながら、自分らしく生きようと奮闘する。ふたりが出会ってから13年の月日が流れていた・・・。

 

公式予告編はこちら

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映画『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』感想と解説

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ひとりの男性が階段を駆け上がるシーンから映画は始まる。屋上では、ウェディングドレスを着た女性が手すりにもたれて煙草を吸っている。彼女に駆け寄る男性。カメラが浮上し、ソウルの街並みが俯瞰で映し出される。

本作はソウルの街に生きるジェヒとフンスという二人の男女の13年間にわたる友情の物語だ。このあと、物語はすぐに過去へとさかのぼる。

 

ヘビースモーカーで夜な夜なクラブ通いを続ける大学生のジェヒは、恋愛に関しても一直線だ。型破りで気ままな彼女の行動は、しばしば根拠のない噂の的となり、他の学生から中傷されることも。ジェヒとは対照的に、フンスは自分の性的指向が明らかになることを常に恐れ、他者との間に壁を作って生きている。

 

ある日、フンスは仏文学の男性教諭とキスしているところをジェヒに目撃されてしまう。だが、ジェヒは誰にも何も言わず、周りから疑いがかかったときもさりげなくカバーしてくれた。それがきっかけで二人は言葉を交わすようになる。性格も立場も違うジェヒとフンスが理解し合い、親友としての絆を深めていく様子を映画は長いスパンで描いていく。

 

映画の序盤で、ジェヒは「自分らしくいることがどうして弱点になるの?」とフンスに問いかけているが、この言葉は、本作のテーマともいえるものだ。

 

しかし、保守的で、依然として家父長制が残存する韓国社会では、LGBTQ+や男女間の友情は簡単に受け入れてもらえるものではない。クィアなキャラクターを全面に押し出した映画自体、韓国ではこれまであまり製作されてこなかった。インディーズ映画では製作されてきたが、本作のようなメジャー作品として製作されることは極めて稀なのだ。もっとも、これは韓国だけの問題ではない。人間は、固定概念から外れていると判断したものに対して不寛容な態度を取りがちだ。とりわけ、社会経験が乏しい人間の集まりである学生時代はその傾向が顕著だといえるだろう。

 

受け入れを拒む社会に苛立ちながらもジェヒとフンスはお互いささえあって成長していく。大学を卒業して就職し、社会に溶け込もうとするあまり、自由奔放だったジェヒが自分らしさを見失ってしまうこともある。カミングアウトする勇気のないフンスは変わらない現実と対面しなければならない。

 

キム・ゴウンとノ・サンヒョンの素晴らしい演技が映画を牽引する。キム・ゴウンは、恐れ知らずだが傷つきやすくもあるジェフを完璧に体現し、ノ・サンヒョンも、ゲイ男性の複雑な内面の葛藤を巧みに表現している。二人の繊細で、自然体で、恐ろしく息のあった演技が、ジェヒとフンスが常に変わらず互いを思い合っている様をリアルに伝えている。

 

二人の紆余曲折の人生が綴られ、それぞれの感情は生々しく描かれるが、賑やかでコミカルな場面や心温まる場面もふんだんに盛り込まれている。ジェヒの危機に「走れ!」と叫び、自身も駆けだすフンス。その全力疾走の後、場面が交番の警官が観ているテレビのサッカー中継で走る選手に切り替わる、そんな、盛り上がりをわざとはずす演出もなんとも巧みで、全編、あたたかい気持ちで観ることができる。

 

映画『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』は、共同体の型にはまらない人々がしばしば排除される世界において、他者の裁きに身を委ねるのではなく、自分自身が道を選び、自分の個性を受け入れることの大切さを説いている。

 

その際、味方でいてくれる人がいることが、どれほど素晴らしいことかが鮮やかに描かれ、すこぶる心地の良い余韻を残す。

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大都会の愛し方 となりの国のものがたり

 

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