ハンブルクのマンションの住人たちが、一夜にして建物全体が謎の黒い壁に囲まれ、家に閉じ込められていることに気づく。この建造物は地球外生命体なのか、それとも人工物なのか? ネットはつながらず、水も出なくなった中、住民たちはここから脱出することが出来るのだろうか⁉
映画『ブリック』は、フィリップ・コッホが脚本・監督を務めたドイツ産SFスリラー・アクション映画だ。

主役のティムを演じるのは、ザック・スナイダー監督の『アーミー・オブ・ザ・デッド』(2021)に出演以降、Netflixオリジナル映画に多数出演し、スピンオフ映画『アーミー・オブ・シーブス』(2021)では主演・監督・製作を務めたマティアス・シュヴァイクホファー。妻のオリヴィア役を演じたルビー・O・フィーとは実生活でもパートナーである。
映画『ブリック』は、2025年7月10日よりNetflixにて配信中。
目次
Netflix映画『ブリック』作品情報
2025年製作/100分/ドイツ映画/原題:Brick /配信:Netflix
監督・脚本:フィリップ・コッホ 製作:クイリン・ベルク、マックス・ビーデマン、ベンジャミン・マンツ、カトリン・ゲッター、フィリップ・コッホ 撮影:アレクサンダー・フィッシャーコーゼン 編集:マックス・ファイ、ハンス・ホルン、クリス・ミュールバウアー 音楽:アナ・ドラビッチ、マルティナ・アイゼンライヒ、ミヒャエル・カデルバッハ
出演:マティアス・シュヴァイクホファー、ルビー・O・フィー、フレデリック・ラウ、サルバー・リー・ウィリアムズ、ムラタン・ムスル、シラ=アナ・ファール、アクセル・ベルナー、アレクサンダー・バイヤー、ヨセフ・ベルセク
Netflix映画『ブリック』あらすじ

ティムとリヴ(オリヴィア)の夫婦は、リヴが流産したことによって負った傷から未だ立ち直れないでいた。ゲームデザイナーのティムは、仕事に打ち込むことで哀しみから逃げようとしており、一方リヴは、トラウマから立ち直る手段としてかつて二人のロマンチックな隠れ家だったパリへの旅に出かけようと新しい車を買い、ティムを誘う。だが、ティムはあまりにも急な話で仕事を放り出すわけにはいかないと主張し、パリ旅行の話は立ち消えになった。
眠れない夜が過ぎ、リヴはティムと別れることを決意する。ティムに別れを告げ、出て行こうと玄関のドアをあけると、そこにはどこからともなく現れた黒い威圧的な壁がそびえていた。
ティムはハンマーで壁を破壊しようとするが、びくともせず、さらにすべての窓のむこうにも同じ壁が出来ていることがわかった。壁は家のあらゆる開口部に張り巡らされ、二人を外界から完全に遮断していた。インターネットもラジオもテレビも使えない。さらに水も出なくなっていた。冷蔵庫には買い置きしたものはなく、二人は途方にくれる。
一体、何が原因なのだろうか。この建物はここのところ、ずっと改装中だったので、すべては大家の仕業なのか。それにしてもこの壁の特殊性はどういうわけなのだろうか。
そんな矢先、隣の部屋から女性の悲鳴が聞こえて来た。命の危機に見舞われたような切羽詰まった様子に、ティムたちは、部屋を隔てた壁をドリルで破り隣室に入ると、そこにはジャンキーのカップル、マーヴィンとアナがおり、マーヴィンが興奮したようになにやら喚き散らしていた。
彼らを落ち着かせて話を聞くと、この壁の危機にマーヴィンが取り乱したらしい。ふたりは愛し合っており、マーヴィンがアナに暴力を振るうことはないという。隣同士とはいえ、初めて顔を合わせた四人は、協力してこの状況を抜け出そうと誓い合う。
この監禁状態から脱出するにはどうしたらいいのか。建築家のリヴは、この建物は19世紀末に建てられたものだから、第二次大戦中に防空壕が増築されているはず、一部は駅へと通じているだろうと推測する。ここから脱出する手段はただひとつ、下へ、下へと下ることだ。
マーヴィンが所有していた工具(主に斧)を使い、四人は床に穴を開け、二階へと降りた。そこには老人・オスヴァルトと孫娘のレアがおり、さらに1階にはユーリとアントンがいた。しかし、アントンは亡くなってベッドに横たわっていた。アントンの机の周りにはアントンがこの黒い壁をなくす方法を何通りも考えたらしいメモが散乱していた。ユーリ曰く、アントンは考え過ぎて頭がおかしくなって死亡してしまったらしい。
ティムたちは下に降りて行く際、壊れて落ちた火災警報器の中に、カメラが仕込まれているのに気づく。どうやら全ての部屋に隠しカメラが設置されていたらしい。マーヴィンは、「これはゲームなんだ、誰かが自分たちを見て楽しんでいるんだ!」と叫び出した。
大家はこの部屋の隣に住んでおり、事情を聞くため、壁を破って彼の部屋に入るが、彼は黒い壁の前で両腕を切断された状態で死んでいた。彼の机の上には、住民の部屋の様子が見渡せるモニターがあった。カメラを設置したのは大家で間違いなかったが、この壁とは関連があるのだろうか。
ティムとイヴは脱出を試みてさらに地下へと向かおうとするが、ユーリは彼らを阻止しようとする。「外は核戦争中で、壁が塞いでいてくれて僕たちを守っているんだ。開けたら死んでしまうぞ!」と彼は叫ぶ。彼は終末論者だった。
ユーリ以外の6人は、地下に降り、ようやく駅に続く扉を見つけるが、木でできている扉を開いた先にあったのはまたしてもあの黒い壁だった・・・。
Netflix映画『ブリック』感想と評価

(ネタバレあり。ラストに言及しています。ご注意ください)
冒頭、グラスの中に閉じ込められたハエの印象的なショットが登場する。マティアス・シュヴァイクホファー演じるティムが部屋の中にいたハエを窓から外に出そうとする瞬間をとらえた何気ない場面なのだが、これがのちに彼らにふりかかる信じがたい現象を暗示したものになっている。
『ブリック』は、SF要素を盛り込んだ緊迫感あふれるドイツ製スリラー映画だ。ある朝、目覚めると、ドアは勿論、家のあらゆる開口部に黒い巨大な壁が出来ていて、外に出られないどころが、外の景色も見られない。電気は通っているものの、インターネットにもつながらないし、テレビやラジオといった通信もダウンしてしまっている。
自身の家に閉じ込められてしまったティムと妻のリヴは、なんとか壁を壊せないかと様々な試みをするが、壁はびくともしない。フィリップ・コッホ監督はクローズアップを多用し、ふたりの不安を映し出すと共に、彼らが感じる閉塞感を強調し、観る者をも息苦しくさせる。こんな状況になったら一体自分ならどうするだろう、と考えずにはいられない。
このアパートが19世紀に建てられた古い建築物であることから、地下に防空壕が作られていて、地下鉄と通じているだろうと考えた夫婦は、部屋の中の壁や床を破壊し、下へ下へと降りて行く。その過程で、何組かの家族と遭遇し、協力し合ったり、意見の相違で激しくぶつかったりする。
隣の部屋の住人マーヴィン(フレデリック・ラウ)が「これはイカゲームだ!」と叫ぶように、彼らはなんらかのサバイバルゲームに巻き込まれているのだろうか? 元警官だというユーリは、あの壁は外で起きた大惨事から自分たちを守ってくれており、決して壁を開けてはいけないと主張する。そういえば、前日、工業地帯で大きな火災が起きていたが、それが関係しているのだろうか。それとも彼は単なる陰謀論者なのだろうか。
映画『ブリック』には大きな壁があるという以外、特別な仕掛けはない。主人公がゲームデザイナーであるということもあり、次々と困難な過程に出会って、ひとつひとつをクリアしていくというゲーム要素の強い作品を想像していたのだが、どうやらそういう類の作品とは違うようだ。逆に何も他に起らないからこそ、人々は疑心暗鬼になったり、期待していた通りにことが進まないことに絶望を覚えたりする。それだけで十分映画が成立することを作り手たちは良く知っている。
さらに、この不気味な黒い壁は、人間が無意識のうちに築き上げている心の壁とリンクしている。主人公のティムとリヴは、過去に流産で子供を亡くしたことが大きな心の傷になっており、ティムは仕事に逃げ、リヴは喪失感を克服しようとしながら、一番、声をかけてほしかった時に何も言わず逃げてしまった夫に対してわだかまりを持っている。ふたりは、話し合うこと、向き合うことをこれまでずっと避けて来た。そのような心理的な壁が、不条理な黒い壁と重なるのだ。
ティムとリヴはすばやくこの場を脱出することを選択する。最初は斧やチェーンソーで部屋の壁や床に穴を開けて行くというアナログさ全開で進行して行くが、やがて住人のひとりで、前日火事に見舞われたハイテク会社に勤務していた男性(登場時には既に死亡)が残した資料をもとに、壁を開く論理的な試みが行われ、その過程で、ふたりの心理的な壁も取り除かれていく。
これでめでたし、めでたしになれば良いのだが、本作の最大の見せ場はラストのハンブルクの光景だろう。
外に出たふたりは自分たちのアパートだけの問題かと思われたものが、実はハンブルク中に起っていたことを知ることとなる。黒い壁に囲まれた高層マンションの異様な光景は視覚的にすこぶるインパクトのあるものだ。この壁はもともと非常時(核攻撃など)のために構築された防衛機構だったのかもしれないが、火災により、誤作動を起こし、ハンブルク中の建物が壁に覆われ墓場と化してしまったのだ。それを解除しようにもできないというテクノロジーの誤算に対する恐怖がここでは描かれているのだ。
いや、それだけではない。そもそも、ただの火事による誤作動と決めつけていいのだろうか。陰謀論者と決めつけられたユーリの言うことが実は正しかったのではないか。何らかの攻撃の結果、このようなシステムが作動してしまったのではないか。
さらに、この監獄となった住居の中で、どのような殺伐としたドラマが起こっているかと考えると、恐ろしくなってくる。何しろ、ティムとリヴ以外の住人は全て亡くなってしまったのだから。
映画『ブリック』はNetflixによくある気軽に見て終わりという作品とは違い、見終えてからの余韻がいつまでも残る作品といえるだろう。
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