なぜ、彼は撃たれなければならなかったのか――。『デス・バイ・ライトニング』は、正義を信じた大統領と承認を求めた暗殺者の、宿命的な交錯を描く全4話のリミテッドシリーズ。
『ゲーム・オブ・スローンズ』のD・B・ワイス&デヴィッド・ベニオフ等が手がけたNetflixドラマ『デス・バイ・ライトニング』(全4話)は、アメリカ史の片隅に埋もれた第20代大統領ジェームズ・ガーフィールド暗殺事件を再構築した政治ドラマだ。
政治の腐敗と理想、崇拝と狂気――。
19世紀の出来事でありながら、現代にも通じる「権力」と「野心」のドラマとして胸に迫ってくる。
ガーフィールドを演じるマイケル・シャノンは威厳のある大統領役を冷静で思慮深い存在として演じ、一方の暗殺者であるチャールズ・ギトーにはHBOドラマ『メディア王 〜華麗なる一族』(Succession)のマシュー・マクファディンが扮し、複雑な役回りを魅力的に演じている。
ガーフィールドの妻ルクレティア役を『GLOW: ゴージャス・レディ・オブ・レスリング』のベティ・ギルピンが演じているのをはじめ、『The Last of Us』のニック・オファーマンが副大統領を演じるなど、個性的な名優が顔をそろえ、物語に緊張感と深みを与えている。
リミテッドシリーズ『デス・バイ・ライトニング』(全4話)は2025年11月6日よりNetflixにて配信中。
目次:
- Netflixドラマ『デス・バイ・ライトニング』(全4話)作品基本情報
- Netflixドラマ『デス・バイ・ライトニング』(全4話)あらすじ
- Netflixドラマ『デス・バイ・ライトニング』(全4話)感想と評価
- まとめ
Netflixドラマ『デス・バイ・ライトニング』(全4話)作品基本情報
(2025年/アメリカ/全4話)
原題:Death by Lightning
配信: Netflix(ネットフリックス)
ジャンル: 歴史ドラマ/政治スリラー/人間ドラマ
原作: キャンディス・ミラード『Destiny of the Republic: A Tale of Madness, Medicine and the Murder of a President』(2011)
製作総指揮: D・B・ワイス、デヴィッド・ベニオフ(『ゲーム・オブ・スローンズ』)
監督: マット・ロス
脚本:マイク・マコウスキー
主なキャスト
マイケル・シャノン … ジェームズ・A・ガーフィールド(第20代アメリカ大統領)
マシュー・マクファディン … チャールズ・J・ギトー(暗殺者)
ベティ・ギルピン … ルクレティア・ガーフィールド(ガーフィールドの妻)
ニック・オファーマン … チェスター・A・アーサー(副大統領)
シェー・ウィガム … ロスコー・コンクリング(保守派の共和党議員)
ポーラ・マルコムソン … フラニー・スコヴィル(チャールズの姉)
アリスター・ペトリー … ジョン・シャーマン(共和党議員)
ブラッドリー・ウィットフォード…ジェームズ・ブレイン(共和党議員)
Netflixドラマ『デス・バイ・ライトニング』(全4話)あらすじ

(短文版)
1880年、偶然の演説をきっかけにアメリカ大統領となったジェームズ・ガーフィールド。
腐敗した政界の改革を誓う彼の前に現れたのは、妄想に囚われた一人の崇拝者チャールズ・ギトーだった。
理想と野心、信念と狂気が交錯するなか、アメリカ史を変える悲劇が幕を開ける。
ジェームズ・ガーフィールドはオハイオ州を代表する下院議員だが、故郷で畑仕事をして過ごすことが多い農夫でもあり、へたな日曜大工で子供たちを喜ばせる良き父で、妻のルクレティア(ベティ・ギルピン)を愛する良き夫でもあった。
そんなある日、ガーフィールドあてに、オハイオ州の同僚政治家のジョン・シャーマン(アリスター・ペトリー)から、大統領に立候補するので、応援演説をお願いしたいという依頼が届く。
ガーフィールドは、共和党全国大会に出席するためにシカゴに赴き、そこで彼が行った応援演説は多くの党員の胸に響いた。投票が終了し、集計が始まったが、なかなか過半数の得票数を得る者が出ない。そんな中、次第にガーフィールドへの投票が増え、36回目の投票で、ガーフィールドが過半数の得票を集めて共和党の大統領候補に選出されるという番狂わせが起きた。その報せを聞いたルクレティアは不安に包まれる。
さらに、民主党の候補に勝った彼は第20代アメリカ大統領に選出された。選挙に勝利した後、彼はこれまでの共和党政治に蔓延る腐敗を取り除くべく改革を図るが、既得権益者であるロスコー・コンクリング上院議員(シェー・ウィガム)と大きく衝突し、あらゆる人事をつぶされる。ガーフィールドは党をまとめるためにニューヨークで大きな力を持つチェスター・アーサー(ニック・オファーマン)を副大統領に選ぶが、アーサーは、副大統領の仕事もまともにこなさず、コンクリングの言いなりだった。
ガーフィールドは市民との対話を重視し、毎日、対話の時間を設けたが、訪ねて来たのはあわよくば政府の役職を得たいという下心を持った人々がほとんどだった。その中のひとりにチャールズ・ギトー(マシュー・マクファディン)がいた。彼はガーフィールドを妄信的に崇拝しており自分自身が彼を勝たせたと信じ込んでいた。自分は大使に任命される資格があると思いこみ、ガーフィールドの周辺にくらいついてしつこく自身を売り込むが、誰にも相手にされない。繰り返し無視されるうちに、彼の執着は次第に憎しみと怒りに変わって行った・・・。
Netflixドラマ『デス・バイ・ライトニング』(全4話)感想と評価
(ネタバレを含みます。まだ作品をご覧になっていない方はご注意ください。)
理想を掲げた第20代大統領ガーフィールド

本作の主人公であるジェームズ・ガーフィールドは、ある意味、ヒッチコック的な「間違われた男」といえるかもしれない。彼がシカゴに行った時、自分が大統領になろうなどとは夢にも思っていなかったからだ。友人である同郷の議員、ジョン・シャーマンの推薦人として演説しただけだったのに、その演説が他の共和党の議員たちの気持ちを掴んでしまったのだ。
ジョン・シャーマンには、応援演説ではなく自分を売り込むような演説をしたと責められ、平穏な生活を望んでいた妻には「なぜ、そんな演説をしたの?」と詰め寄られる。彼は妻の質問に対して、他に誰も言うべきことを言わなかったから自分が言うしかなかったのだと述べている。
当時の共和党政権は、公職者が自分の利益を独占し、腐敗に満ちた政治を行っていた。ガーフィールドは国民主権の政治を謳い、ニューヨークの港湾を掌握することで絶大な影響力を持つロスコー・コンクリング上院議員(シェー・ウィガム)と激しく対立することとなる。
ガーフィールドを支えているのは、党大会で思わず力説せずにはいられなかった政治家としての「正義感」だ。絵に描いたような清廉潔白な人格者であり、私たちが求めている政治家像そのものといえるだろう。マイケル・シャノンの堂々とした演技がガーフィールドの風格を作り上げている。物語はこのように今ではほとんど忘れ去られてしまったひとりの政治家の誕生の軌跡をスピーディーな展開で綴って行く。
承認を渇望した暗殺者ギトー

しかし、これはガーフィールドの伝記映画ではなく、チャールズ・ギトーという男の物語でもある。ガーフィールドの最大の崇拝者を自称し、自身が彼を大統領に押し上げたと思い込んでいるこの男の出自や、なんとか上流階級に食い込もうとする必死の行動が、ガーフィールドの動向と並行して語られていくのだ。
ギトーはガーフィールドのような善人ではなく、野心のためなら盗みや不法侵入などあたりまえ、誇大妄想的な嘘を頻繁に口にする詐欺師のような人物だ。彼のことを心から心配する姉のフラニー(ポーラ・マルコムソン)さえも裏切り、彼女の屋敷の金庫から金を奪って、贅沢な服を仕立て、華美な食事をして、ジャーナリストを気取り、なんとかこの政権の一員になりたいと奔走する。姉が薦める仕事についてこつこつと真面目に生きるのではなく、実績もないのにいきなり大使になりたいと売り込むような非常識さの中に、名声を得て、人から承認されたいと望む彼の強い執着心が見えて来る。
最初の三話はそうした彼の行動をこれでもかと見せられて、少々うんざりさせられるのだが、マシュー・マクファディンが演じることで、この男がただの小悪党ではなく、実際は助けが必要な人物であることが観る者にも徐々に伝わって来る。彼の行動の節々から、何かいたたまれないものが零れ落ちて来るのだ。
名声を得るために、あるいは人に注目されるために極端な手段を用いるというのは、現代のSNSなどでも見られる光景だろう。ギトーは政治家たちに邪見に扱われることに怒りを覚え、崇拝が恨みへと変容して行く。と、同時に無名のまま人に蔑まれるくらいなら「悪事」を犯してでも有名になりたいという歪んだ考えに傾いていくのである。
野心と選択の行方──現代にも通じる主題
本作は、いまやアメリカでも語られることの少ない第20代大統領の悲劇を題材に、歴史劇としての重厚さを追求しながら、同時に、現代社会にも通じる政治と人間の本質を鋭く照らし出している。
劇中で語られる「全ての人は平等だ。出自は関係ない」という言葉は、ガーフィールドとギトーの共通の認識であったし、また、四話でガーフィールドは最後にあの演説をしたのは自分を知ってほしいという「野心」があったのだと妻に告白しており(そういう意味では彼はヒッチコック的な「間違われた男」ではないようだ)、「野心」もまた二人の共通点だった。だが、彼らは真逆の生き方をし、その人生の選択によって、大きな嵐に巻き込まれてしまう。
タイトルの「デス・バイ・ライト」とは、ジェームズ・ガーフィールドが語った「暗殺は雷撃による死と同じくらい防ぐことはできない」という言葉に由来している。暗殺など恐れていたら何もできないという強い決意を表すために用いられた言葉なのだが、あまりにも人を信じたせいか、ほぼ無警戒の中、事件は起こってしまう。大統領としての就任からわずか4ヶ月足らずの出来事だった。
その11週間後に亡くなったガーフィールドの死因が、当時の医師の無知から来る感染症であったことは実に痛ましいことと言わざるを得ない。
物語の中心人物はほとんど男性であり、女性の登場人物はほんのわずかしかいない。だが、少ないながらもそれぞれが強い意志を持つ人物として描かれており、特に、ベティ・ギルピンが演じたガーフィールドの妻、ルクレティアが重要な役割を果たしている。彼女は、夫が銃に倒れたあと、大統領に協力しなかった自分にはふさわしくないと次期大統領に就任することに怖気づく副大統領チェスター・アーサー(ニック・オファーマン)に毅然と喝を入れるのだ。ここはある意味本作でもっとも痛快な場面とも言えるだろう。
アーサーは第21代アメリカ合衆国大統領として、アメリカ連邦公務員任用に関する法律「ペンドルトン法」を可決させたことが作品の最後に紹介される。腐敗した政治家の代表と思われていた彼が果たした役割に世間は驚いたという。
これは周りから彼をクビにしろと度々助言されながら、かつて人権派弁護士だったアーサーを最後まで信じ抜いたガーフィールドの洞察力の確かさを証明する逸話だろう。
まとめ
『デス・バイ・ライトニング』は、実際のガーフィールド暗殺事件をもとに、政治の光と影、そして人間の内面に潜む欲望と信念を描いたNetflixオリジナルのリミテッドシリーズ。重厚な脚本と俳優陣の演技により、史実が現代的な問いかけとして蘇る。
4時間の映画として一挙見することをおススメ。