デイリー・シネマ

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日本映画レビュー

【小津安二郎生誕120年】映画『早春』(1956年)あらすじと感想/池部良と淡島千景が冷え切った夫婦を演じる再生の物語

丸の内勤めの杉山(池部良)は、一児を亡くしてから妻・昌子(淡島千景)との関係に隙間風が吹くようになっていた。キンギョという綽名の若い女性(岸恵子)と不倫関係にある彼だったが・・・。 小津安二郎が『東京物語』(1953)に次いで発表した映画『早春』…

映画『夜明けのすべて』(三宅唱監督)あらすじと感想/”受け止めて歩み寄ることで変わる世界”を松村北斗、上白石萌音主演で描く

2018年に発表した『そして、バトンは渡された』で本屋大賞を受賞するなど、多くの読者の心を掴んでいる小説家、瀬尾まいこの同名小説を、長編映画デビュー作『やくたたず』以来、一作ごとに映画ファンの心をくすぐり続け、『ケイコ 目を澄ませて』(2022)で第…

映画『熱のあとに』(山本英監督)あらすじと感想/実話を元に橋本愛主演で描く一途で激情的な「愛」の形

愛するあまり、恋人を刺し殺そうとした過去を持つ女性が、事件から6年を経て尚、「愛」に囚われ懸命にもがく姿を描いた映画『熱のあとに』。 2019年に起きた新宿ホスト殺人未遂事件から着想を得た作品で、『夜が明けたら、いちばん君に会いに行く』(2023)の…

映画『きのう生まれたわけじゃない』あらすじと感想/福間健二監督が最後に遺した過去と未来、生と死、愛と希望の物語

『急にたどりついてしまう』(1995)で劇場映画監督デビューを果たして以降、詩と映画への冒険的な表現に果敢に挑戦して来た福間健二監督の七作目の作品『きのう生まれたわけじゃない』。ポレポレ東中野でのロングラン上映を終え、いよいよ関西公開がスタート…

映画『火だるま槐多よ』あらすじと感想/夭逝の画家、詩人-村山槐多を全身全霊を込めてスクリーン上で蘇らせる佐藤寿保監督によるアバンギャルド・エンターティンメント

映画『火だるま槐多よ』は、22歳で夭逝した天才画家であり詩人の村山槐多(1896 – 1919)の作品に魅せられ取り憑かれた現代の若者たちが、槐多の作品を彼ら独自の解釈で表現し再生させ、時代の突破を試みるパワフルなアヴァンギャルド・エンタテインメントだ…

【NHKBSP放映】映画『お早よう』のあらすじ/子供たちの行動を通して、大人たちの未熟さをユーモラスに綴る【小津安二郎生誕120年】

2023年は小津安二郎監督(1903-1963)の生誕120年、没後60年にあたる記念すべき年だ。Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下りでは「小津安二郎 :モダン・ストーリーズ selected by ル・シネマ」と題した特集上映が組まれ、NHKBSでもこの12月は小津作品がいくつか放…

映画『ホゾを咬む』あらすじと感想/妻の行動に疑問を持ち隠しカメラを設置した男がたどり着く先は⁉

短編映画『サッドカラー』がPFFアワード2023に入選するなど、国内映画祭で高い評価を受けている新進気鋭の映像作家・髙橋栄一が監督、脚本、編集を務めた映画『ホゾを咬む』。 youtu.be 新宿K’s cinemaの上映を好評のうちに終え、2023年12月15日(金)からは…

【清水宏生誕120年】映画『大佛さまと子供たち』あらすじと感想/奈良・東大寺を舞台に戦災孤児たちが仲間と共に懸命に、元気に生き抜く姿を描く珠玉の名作

2023年は清水宏(1903-66)の生誕120年にあたる。清水宏と小津安二郎は同年生まれで、親友でもあった。小津が生誕120年を記念する特集上映が組まれているのに対して、清水の特集上映が開催されないのは残念至極だが(110年を記念する2013年には大々的な記念…

【4Kレストア版】映画『台風クラブ』あらすじと感想/中学生という年頃特有の不安定な感情の爆発を台風の到来と共に描いた相米慎二監督の代表作

近年、急速に国際的な再評価が高まっている相米慎二監督。 相米監督が1985年に制作した映画『台風クラブ』の4Kレストア版が、現在、全国の映画館で順次公開されている。 大人と子どもの中間にあたる中学生という年頃特有の不安定な感情の爆発を、台風の到来…

映画『[窓] MADO』あらすじと感想/同じ集合住宅に住む2つの家族で争われた実際の裁判を基に相互理解の道を模索する社会派ドラマ

⻄村まさ彦 主演の映画『[窓] MADO』が、2023 年12⽉2⽇(土)より第七芸術劇場、2024年に元町映画館にて上映される(上映日が決まり次第追記します)。12月2日(土)、12月3日(日)には、西村まさ彦、大島葉子、麻王監督の舞台挨拶が予定されている(詳しくは劇場H…

【小津安二郎生誕120年】映画『東京物語』あらすじと感想/小津映画における家族の儚さと人間の孤独について

youtu.be 2023年は小津安二郎監督(1903-1963)の生誕120年、没後60年にあたる記念すべき年だ。第36回東京国際映画祭(TIFF)では近年デジタル修復された作品を中心に特集上映が組まれ、また2023年12月8日(金)からBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下りにて「小…

映画『過去追う者』(舩橋淳監督)あらすじ・感想 / 元受刑者の社会復帰に横たわる問題を描くドキュ・フィクション

映画『過去追う者』は、『ポルトの恋人たち 時の記憶』(2018)、『ある職場』(2020)などの作品で知られる舩橋淳監督が、受刑者の採用を支援する実在の就職情報誌の活動にヒントを得て、元受刑者の社会復帰に横たわる問題を描いたドキュ・フィクションだ。 you…

映画『あっちこっち じゃあにー』あらすじと感想/松本卓也監督が主演も務めたロードムービーの魅力とそこに込められた豊かな主題

『ダイナマイト・ソウル・バンビ』(2018)、『サーチン・フォー・マイ・フューチャー』(2016)などの作品が国内外の映画祭で高く評価された映像制作チーム・シネマ健康会の松本卓也監督の新作映画『あっちこっち じゃあにー』。 youtu.be お笑いコンビを解散…

【小津安二郎生誕120年】映画『麦秋』あらすじと感想 / 小津作品における「結婚」と「家族」について

2023年は小津安二郎監督(1903-1963)の生誕120年、没後60年にあたる記念すべき年だ。第36回東京国際映画祭(TIFF)でも近年デジタル修復された作品を中心に特集上映が組まれている。 今回は小津の戦後の代表作の一本である『麦秋』を取り上げたい。 映画『…

映画『春画先生』あらすじと感想 / 塩田明彦監督による「春画偏愛コメディ」を細部から読み解く

江戸文化の裏の華で“笑い絵”とも言われた春画。その研究者である芳賀一郎は、変わり者として知られていた。彼に偶然出会った弓子は、春画の世界の奥深さにすっかり魅せられ、芳賀に恋心を抱くようになる…。 youtu.be 映画『春画先生』は、塩田明彦が原作・脚…

映画『白鍵と黒鍵の間に』あらすじと感想/冨永昌敬監督が原作を大胆にアレンジし、池松壮亮が一人二役を演じるジャズ映画

ジャズミュージシャンでエッセイストの南博の回顧録『白鍵と黒鍵の間に -ジャズピアニスト・エレジー銀座編-』を共同脚本の冨永昌敬監督と高橋知由が大胆にアレンジ。 youtu.be 昭和末期の夜の街・銀座を舞台に、ジャズピアニストを目指してキャバレーでピア…

映画『ほつれる』あらすじと感想/繋がってもすぐにほつれる人間関係をソリッドに描いた加藤拓也の二作目の長編映画

『ドードーが落下する』で第67回岸田國士戯曲賞に輝いたのを始め、演劇やテレビ脚本でいくつもの受賞歴を誇る劇団た組主宰、わをん企画代表、加藤拓也の二作目の長編映画監督作品『ほつれる』。 youtu.be 夫と冷え切った関係にある綿子は、友人の紹介で知り…

映画『初春狸御殿』あらすじと感想(木村恵吾)若尾文子、市川雷蔵、勝新太郎等、若手オールスターが勢揃いした愉快な和製オペレッタ

京都文化博物館フィルムシアターで開催されている特集上映「映画の中の少女たち」。その中から、2023年9月27日(水)、30日(土)に上映される1959年大映作品『初春狸御殿』を取り上げたい(上映時間は京文博公式HPでご確認ください)。 『初春狸御殿』は、和…

映画『ピストルライターの撃ち方』あらすじ・感想/2度目の原発事故が起こった地方を舞台に閉塞感の中でもがく人々を描く

映画『ピストルライターの撃ち方』は2023年6月17日より渋谷ユーロスペース他にて全国順次公開! www.youtube.com 映画『ピストルライターの撃ち方』は、遠くない未来に、再び原発事故が起こったある地方を舞台に、社会の底辺でもがきながら生きる人々の姿を…

映画『波紋』(2023)あらすじ・感想・解説/人間の本音をあぶり出す荻上直子監督による痛烈なブラック・コメディー

『かもめ食堂』(2005)、『彼らが本気で編むときは、』(2017)の荻上直子が監督・脚本を手がけた映画『波紋』は、日本社会が抱える様々な問題を背景に、誰もが心の中に持つ本音をあぶり出したブラック・ユーモアたっぷりのヒューマンドラマだ。 youtu.be 震災…

映画『ストレージマン』あらすじ・感想/パンデミックが顕にした社会のひずみと人間の弱さを描くソーシャルスリラー

映画『ストレージマン』(萬野達郎監督)は2023年5月20日(土)より 池袋シネマ・ロサにて2週間劇場公開! youtu.be コロナ不況のため仕事を解雇された森下は、住む家も家族も失い、トランクルームで息を潜めながら生活をするようになる—。しかしトランクルー…

映画『ハマのドン』あらすじ・感想/カジノ誘致問題で権力の暴走に警鐘を鳴らす“ハマのドン”こと藤木幸夫を追ったドキュメンタリー映画

映画『ハマのドン』は2023年5月5日(金・祝)より新宿ピカデリー、ユーロスペース、なんばパークスシネマ、MOVIX堺 5月6日(土)より第七藝術劇場、5月19日(金)より京都シネマ、5月20日(土)より元町映画館ほかにて全国順次公開! youtu.be カジノ誘致問題に揺…

【4Kデジタル完全修復版】映画『ツィゴイネルワイゼン』あらすじ・感想/何度もぞっとさせられる鈴木清順美学の最高峰

鈴木清順監督作品『ツィゴイネルワイゼン』の4Kデジタル完全修復版が、鈴木の生誕100年を記念し2023年4月15日より東京・ユーロスペースで公開されている。 『ツィゴイネルワイゼン』(1980)、『陽炎座』(1981)、『夢二』(1991)の三作品は「浪漫三部作」と呼ば…

映画『道草』あらすじ・感想/片山亨監督が主人公の売れない画家を通して描いたものとは!?

映画『道草』は2023年4月8日(土)より大阪シネ・ヌーヴォ、6月3日(土)より神戸・元町映画館にて公開! youtu.be (シネ・ヌーヴォでは片山享監督の2022年制作作品『わかりません』、『とどのつまり』と共に「片山享特集上映」として上映されます。詳しくは…

【Nikkatsu World Selection】映画『幕末太陽傳』あらすじ・感想/フランキー堺の身のこなしが秀逸な川島雄三の代表作

日活110周年記念特集上映「Nikkatsu World Selection」が全国の映画館で順次開催されている。(関西では大阪・シネ・ヌーヴォにて4月8日(土)~21日(金)の期間、神戸・元町映画館にて5月13日(土)~26日(金)の期間、それぞれ上映される。上映時間は各映画…

映画『ナナメのろうか』あらすじ・感想/姉妹と思い出の家がもたらす極めて刺激的な映画体験

映画『ナナメのろうか』は2023年5月26日(金)より出町座、5月27日(土)より元町映画館にて上映! 長編映画第一作『ある惑星の散文』がフランスのベルフォール国際映画祭やアメリカポートランド美術館で上映されるなど、その豊かな映画表現とロケーションから着…

映画『洲崎パラダイス 赤信号』あらすじ・感想/”境界線”に立ち寄る男女を見つめる川島雄三の代表作

2023年2月26日(日)~4月22日(土)の期間、ラピュタ阿佐ヶ谷で特集上映「映画監督 川島雄三 才気煥発の極み」が開催されている。 上映される37作品の中から、今回は1956年の作品『洲崎パラダイス 赤信号』を取り上げたい。 洲崎遊廓の入口の飲み屋周辺に…

【大映4K映画祭】映画『赤い天使』あらすじ・感想/増村保造&若尾文子コンビの映画史に残る壮絶な反戦映画

「大映4K映画祭」が全国の映画館で順次開催されている。 大映4K映画祭|トップ その中から今回は1966年の作品『赤い天使』を取り上げたい。 youtu.be 日中戦争を題材にした有馬頼義の原作を笠原良三が脚色、増村保造が監督した壮絶な反戦映画だ。 増村監督…

映画『人生劇場 飛車角』あらすじ・感想/鶴田浩二、高倉健主演の「東映やくざ路線」の先駆的作品を考察する

映画『人生劇場 飛車角』は、昭和8年(1933年)に発表された尾崎士郎の『人生劇場 残侠篇』を原作に、沢島忠が監督を務めた1963年制作の作品だ。 これまでの『人生劇場』の映画化作品とは違い、本作は、小説では脇役だったやくざの飛車角が主人公として描かれ…

映画『エゴイスト』あらすじと考察/鈴木亮平と宮沢氷魚によるクィア映画が描く「愛」について

『羽生結弦は助走をしない』などの作品で知られるエッセイスト・高山真の自伝的小説『エゴイスト』を、『トイレのピエタ』(2015)、『ハナレイ・ベイ』(2018)の松永大司監督が映画化。 (C)2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会 ファッション誌の編…