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映画『妻二人』あらすじと感想/ミステリ小説を原作とした増村保造 × 若尾文子コンビのクールな人間ドラマ

「若尾文子映画祭 Side.A & Side.B」が2025年6月6日より東京・角川シネマ有楽町、6月21日より大阪シネ・ヌーヴォにて開催され、以降全国順次上映される。

それに伴い「YouTube 角川シネマコレクション」 にて増村保造 × 若尾文子コンビの異色作『妻二人』の本編が5月30日より2週間限定でプレミア公開されている。今回の映画祭では上映されない貴重な作品だ。

 

映画『妻二人』は パトリック・クェンティンが1955年に発表したミステリ小説『二人の妻をもつ男(The Man with Two Wives)』を新藤兼人が脚色し、増村保造が監督を務めた1967年製作の大映映画。

 

作家になることをあきらめ雑誌編集者となった柴田健三(高橋幸治)を愛し続ける貞淑な妻・道子を、若尾文子が、健三のかつての恋人・順子を岡田茉莉子が演じ、順子の現在の恋人、小林(伊藤孝雄)、道子の妹(江波杏子)を加えた5人の男女が織り成す愛憎のドラマが展開する。若尾文子と岡田茉莉子は本作で初共演を果たした。

 

目次

 

映画『妻二人』作品情報

(C)KADOKAWA1967

1967年製作/93分/日本映画(大映東京)
監督:増村保造 原作:パトリック・クェンティン  脚色:新藤兼人 企画:三輪孝仁 撮影:宗川信夫 美術:下河原友雄 音楽:山内正 録音:渡辺利一 照明:伊藤幸夫 編集:中静達治 スチル:大葉博一
出演:若尾文子、岡田茉莉子、三島雅夫、江波杏子、伊藤孝雄、高橋幸治。木村玄、長谷川待子、早川雄三、村田扶実子、原田眩、仲村隆、伊藤光一、井上大吾、谷謙一、小山内淳

 

映画『妻二人』あらすじと感想・評価

(ネタバレしております。ご注意ください)

 

オープニングはアスファルトの道路に記された様々な道路標示で始まり、横断歩道やマンホールの蓋なども切り出して見せてくるユニークなもの。直進左折矢印のような矢印が二方向をさしている表示に「妻二人」というタイトルが入るのが洒落ている。


暗い街路でタクシーが止まり、運転手が降りて来てトランクを開ける。配電盤の故障だと行って運転手は客を降ろす。降りた男(高橋幸治)は目の前にあったBarの扉を開ける。「リア王」「ピアノリサイタル」のポスターが壁に貼られており、入り口の直ぐ側のカウンターに和服姿の女、岡田茉莉子が座っている。二人は目をあわせ、二人が知り合いであることがわかる。実は彼らはかって恋人同士であり、作家志望の高橋を岡田が懸命に支えて励ましてきたという過去があった。

 

高橋の下宿の部屋は本が積まれ、いかにも文学青年が住む部屋という感じだ。高橋は自分の才能に限界を感じ、出版社に勤め始め、そこで社長の娘(若尾文子)に見初められ、結婚する。彼は岡田を捨てたのだ。


高橋は岡田を彼女のアパートまで送っていくが、そこは正確には彼女のアパートではなく、今つきあっている男(伊藤孝雄)から借りて住まわせてもらっているのだという。相手の男は作家志望で別に仕事部屋を持っているらしい。ベッドとテーブルとピストル。なぜこんなものがあるのかという高橋の問いかけに、人からもらったのだと応え慌てて隠す岡田。この「部屋が二つ」というのも後に重要な要素となっていく。


妻の若尾文子は生真面目で志が高く、出版社を責任を持って支えていこうとしている。高橋はそんな彼女を尊敬はしても女として愛することができない。

そんな折、岡田の恋人である伊藤がひょんなことから若尾の妹(江波杏子)と知り合い、ふたりは婚約する。出版社の弱みを握り、結婚を認めさせようとする伊藤の目的が金目当てだとしたら、江波が演じる奔放な妹は、父親と優等生の姉をとことん困らせたいのだ。このようなキャラクターはある意味、この時代の日本映画によくあるパターンとも言えるが、感情豊かな江波の演技は説得力がある。

 

金を払って結婚を諦めさせようと伊藤の部屋を訪ねた若尾だったが、伊藤に襲われそうになり、彼がポケットに入れていた拳銃で彼を撃ち殺してしまう。

原作がミステリ作家のパトリック・クェンティンということもあり、ミステリとしての面白さがこのあたりから増していく。

若尾は出張を装い家を出て、伊藤と会っており、伊藤を殺害したあと何気なく出張先へと出向いて行く。事件があったとき、岡田は高橋の家(若尾の家でもある)を訪ねていた。江波は男の仕事部屋の方におしかけて一晩中帰りを待っていた。父親である社長は江波に嫌疑がかかるのを恐れて、その時間江波は高橋の部屋にいたという嘘のアリバイをでっち上げる。そのため、岡田のアリバイがなくなってしまう。ピストルも彼女のものであり、必然的に岡田が逮捕されことになる。

 

ミステリとしてはここからが本番というところなのだが、映画はスリルとサスペンスというよりは「正しさ」と「愛」の物語へと進んでいく。「正しく生きる」ために自首を決意する若尾。そして、一生彼女を支えていく決心をする高橋。

 

若尾は抑制した演技の中で、増村保造監督作品で度々見せるタフでハードボイルドな一面をここでも披露している。

伊藤に襲われた際、彼女が取る行動が本作の最大の見せ場だろう。伊藤は若尾の頬を何度も平手打ちして、ベッドに押し倒す。若尾は必死で抵抗しながら無我夢中で手を伸ばし男の背広に触れる。ポケットにはいっていたピストルをつかむと男を撃つ。二発、三発、そして四発目。男は息絶える。蒼白になりながらも冷静に男の体に弾を撃ち込んでいく若尾が実にクールである。

 

一方、岡田茉莉子は、ラストの笑顔につきるだろう。釈放された岡田は久しぶりの外の景色を前に一瞬途方にくれたような顔をする。が、すぐに笑顔を見せ、大きな荷物を持って歩いて行く。そのうしろ姿が小さくなっていくのを観ている高橋。やがて身を翻し、妻のもとへ戻っていく。彼の脇を忙しそうに通り過ぎていく警官たちを引きの画面で撮って映画は終わる。

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