映画『最高殊勲夫人』は、脚色:白坂依志夫、監督・増村保造、主演・若尾文子の黄金トリオによるラブ・コメ映画の決定版だ。原作は『週刊明星』に1958年8月から1959年2月まで連載された源氏鶏太の同名小説。
スピーディーな展開とポップな編集で、若尾文子の溌剌とした魅力が際立つ。戦後のサラリーマン文化や消費社会の一端がエネルギッシュに描かれ、明朗で活気あふれる作品に仕上がっている。
共演は川口宏、船越英二、丹阿弥谷津子、宮口精二等。
2025年6月6日より角川シネマ有楽町他にて順次開催される「若尾文子映画祭Side.A & Side.B」で4Kデジタル修復版が上映。
目次
映画『最高殊勲夫人』作品情報
1959年/日本映画(大映東京)/95分/35mm/カラー
監督:増村保造 原作:源氏鷄太 脚本:白坂依志夫 撮影:村井博 美術:下河原友 音楽:塚原晢夫
出演:若尾文子、川口浩、船越英二、近藤美惠子、金田一敦子、野口啓二、小林勝彦、北原義郎、丹阿彌谷津子、八潮悠子、宮口精二、柳澤眞一
映画『最高殊勲夫人』あらすじ
杏子(若尾)は野々宮家の三女。三原商事の社長・一郎(船越)と結婚している長女(丹阿弥)、専務・次郎(北原)と結婚している次女(近藤)らは、妹の杏子と三原家の三男・三郎(川口)を結婚させようと画策する。
三郎は別の会社の社長令嬢・富士子と婚約していたが、次第に杏子のことが気になり始める。婚約破棄を持ち出すと、多趣味の富士子は自分はすることがいっぱいあるからとあっさりそれを受け入れた。
一方、杏子は会社の同僚や、テレビのプロデューサーで、富士子の兄の武久から交際や結婚を申し込まれていた。返事の期日が迫り、三郎はやきもきするが・・・。
映画『最高殊勲夫人』感想と解説
(ネタバレしています。ご注意ください)
これはハワード・ホークスばりのスクリューボールコメディーの傑作ではないか! お互い、心の中では惹かれ合っているのにまるで興味のないふりをしている男女が、すったもんだの末、互いの心を確認し合いめでたしめでたしというお馴染みのストーリーが、異様なほどスピーディーに、エネルギッシュに綴られていく。
オフィス街のビルの窓を映していくオープニング。近代建築のビルの窓もあれば、コルビュジェ風の水平窓もあり。窓や壁に出演者のクレジットが出る。洒落たタイトルバックだ。
次いで、結婚式の司会をしている男のバストショットからカメラが動いて、それが立食式のパーティーであることがわかる。当時はこういう披露宴がモダンな形だったのだろうか? 会場に椅子はまったく見られない。社長夫人である丹阿弥谷津子扮する長女の桃子が客に挨拶していく様子をワンテイクで撮り、この女性のそつのないやり手感をうまく表現している。
主演の若尾文子と川口浩が初々しく魅力的。登場人物がやたらよく食べるのも、映画に活力を与えている。川口と若尾がランチを一緒に食べるシーンでは、川口がカレーライスで、若尾がサンドイッチを頬張り、ミルクを飲んでいる。若尾がサンドイッチも牛乳も最後まで食べ終えるところまできっちり撮っている。店の前のメニューにはポークカツ100円の表記あり。他にも頻繁に出てくるとんかつ屋(皆、「並」を注文)、ビジネスガールががっつくあんみつ(彼女たちに寄れば「更科の蕎麦」もいいらしい)、会社のお昼にオフィスで食べるお弁当や出前のカレー、ラーメン、そしてめざし!
丹阿弥谷津子が東山千栄子を訪ねた際は、カメラは飼い犬に焦点をあてて、その横で丹阿弥谷津子がいらつきながらうろうろうろうろしている腰の部分だけを捉えるなど、カメラワークも面白い。冒頭と、ラストの結婚式での司会者を中心に据えてカメラが動くのと同じ撮り方だ。
ラストは川口と若尾の結婚式だが、若尾の弟がシャッターを押したカメラに向かって二人の変顔が写っているという写真のショットで終わるのも粋な感じ。こういう明朗な物語って今の世ではすっかり失われてしまったなぁ。
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