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【第七藝術劇場でアンコール上映決定‼】映画『シンペイ 歌こそすべて』あらすじとレビュー/神山征二郎監督が中村橋之助主演で描く作曲家・中山晋平の生涯

映画『シンペイ 歌こそすべて』は、大正時代から昭和初期を中心に3,000曲にものぼる歌を世に送り出し、日本の近代音楽史に大きな足跡を残した作曲家・中山晋平の生涯を描いた作品だ。

誰もが耳にしたことのある旋律が次々と登場し、名曲に宿る普遍的な魅力を改めて思い起こさせてくれる作品に仕上がっている。

 

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歌舞伎俳優・中村橋之助が中山晋平に扮し、18歳から亡くなる65歳までを一人で演じたほか、劇作家・島村抱月役に緒形直人、作詞家・野口雨情役に三浦貴大、歌手の佐藤千代子役に真由子が扮するなど実力派俳優が揃い、それぞれが当時の人物そのものであるかのような存在感を放っている。

監督を務めたのは『ハチ公物語』(1987年)、『遠き落日』(1992 年)などの作品で知られる名匠・神山征二郎。中山晋平が生きた明治、大正、昭和という時代を、社会の変化や人間模様も含め丹念に描き、数々の名曲が生まれる瞬間を見事にとらえている。

 

このたび好評につき『シンペイ 歌こそすべて』の大阪アンコール上映が決定! 2025年9月27日(土)より第七藝術劇場にて一週間限定で行われる。

9月27日(土)には神山征二郎監督、土屋貴子さん(出演)、新田博邦さん(企画・プロデューサー)の舞台挨拶も予定されている(詳しくは劇場HPでご確認ください)。

また、10月3日(金)からはイオンシネマ須坂のグランドオープンでの上映が予定されている。

 

目次

 

映画『シンペイ 歌こそすべて』あらすじ

(C)「シンペイ」製作委員会 2024

信州から上京した中山晋平は作家で大学教授の島村抱月の書生として働きながら、東京音楽学校(現・東京藝術大学音楽学部)に入学。だが、書生の仕事があまりにも忙しすぎるため、学校も休みがちで、ピアノ演奏が卒業レベルではないと落第・留年の危機に陥る。

彼の演奏以外の才能を見出した教師の幸田先生が、彼はいい音楽教師になると周りの教授を説得。おかげで卒業することができ、学校の音楽教師として働くようになる。

 

そんな折、島村抱月と女優の松井須磨子の不倫関係が報道され、島村は大学を辞職。松井とふたりで「芸術座」という劇団を旗揚げする。晋平は、その音楽担当として、島村の劇曲の作曲を言い渡される。

 

その楽曲「カチューシャの歌」は評判になり、芝居も大成功。晋平はその後も劇団員付きの作曲家として活動するが、島村が病に倒れ、その後、松井須磨子が後を追うように自殺し、劇団は解散してしまう。

 

晋平は詩人の野口雨情と知り合い、雨情が亡くなった娘を思って書いた「しゃぼん玉」の詩に曲をつけるとそれが大変な評判を呼び、その後も「てるてる坊主」などの数々の童謡、「船頭小唄」といった流行歌を作曲。作曲家として高い評価を受け、教員の職を辞し、作曲家一本でやって行く決心をする。自分の音楽を理解してくれる敏子とも結婚し、二人の養子を迎えて幸せに暮らす晋平だったが……。

 

映画『シンペイ 歌こそすべて』感想と評価

(C)「シンペイ」製作委員会 2024

映画の序盤、中山晋平が信州から上京して島村抱月邸にやって来る場面は、溝口健二監督の映画『祇園囃子』の冒頭で若尾文子が祇園の芸者、木暮実千代を訪ねて路地の入口をくぐるシーンを一瞬思い出させる。

物語的には明治38年の東京と戦後の京都では時代も場所も違い過ぎるが、若い人が新たな環境で生きて行こうとする第一歩を描いていると言う点でも二作は共通している。

『祇園囃子』では路地の場面を徹底して引きの映像で捉えているが、『シンペイ 歌こそすべて』ではカメラが歩いてくる晋平をまるで出迎えるかのように一瞬、彼に向かって進んで行くのが印象的だ。

 

この場面が表しているように、映画は中山晋平に常にあたたかい視線を向けている。島村抱月のもとで書生として仕事に追われながら東京音楽学校を目指す晋平を、歌舞伎役者の中村橋之助が、誰にでも暖かく接し仕事にも音楽にも朗らかに臨む人物として生き生きと演じている。

 

本作はこの明治38(1905)年の書生時代から、昭和27(1952)年に亡くなるまでの中山晋平の生涯を綴った作品なのだが、全編に渡って、晋平の印象が変わることはない。作曲家として名をなし、口髭を蓄え、煙草をふかしてみかけは成功した「先生」になっても物腰は柔らかく、あたたかな雰囲気をまとったままだ。

 

勿論、音楽家としての葛藤や、女性関係などをもっと深く、あるいはもっとスキャンダラスに描くという方法もあったかもしれないが、それは本作の役割ではないとばかりに、日本歌謡芸能の創成期における中山晋平が歩んだ道のりを映画は丹念に追っていく。

 

関東大震災、世界恐慌、社会の右傾化から戦争へというまさに激動の時代に、晋平の歌がどのように生まれ、どのように受け入れられていったのかが、興味深く綴られている。

 

島村抱月が松井須磨子と共に旗揚げした「芸術座」の音楽担当として、抱月の劇曲「カチューシャの女」を成功させ、「赤い鳥」運動に関わる野口雨情との仕事で「シャボン玉」などの童謡をヒットさせ、ビクターレコードでの仕事では溝口健二監督の映画『東京行進曲』の主題歌を担当するというふうに、演劇、雑誌、映画といった文化と共に、中山の歌が生まれて来たことがわかる。

そのことは「大衆を離れた音楽などない」という抱月の言葉を証明しているようにも思えるし、また晋平がその言葉を生涯忘れなかった証とも言えるだろう。

 

それにしても戦前の歌にも拘わらず、前述した歌以外にも、童謡『てるてる坊主』、『あめ降りお月さん』や “いのち短し恋せよ乙女”の歌詞が有名な「ゴンドラの唄」、「東京音頭」といった流行歌など、劇中、流れる曲は皆、聴いたことのあるものばかりだ。「ゴンドラの唄」は、黒澤明の『生きる』(1952)で使われていたのを思い出したし、また「東京音頭」が、“サンプリング”された作品だということにも新鮮な驚きがあった。

 

終盤は、戦後の新しい時代にいささか取り残されたかのように見える晋平の晩年が描かれているが、「歌は残る」という抱月の言葉のとおり、彼の楽曲は時代を超えて人々の耳に届き今も親しまれている。本作は伝記映画であると同時に、音楽を愛するすべての人に向けた力強い賛歌として記憶されるだろう。

 

ところで、映画の中盤、仕事で信州にやって来た晋平は、その途中、16歳の時に代用教員をしていた学校を訪ねることにする。雪がシンシンと降る中、すっぽり雪に包まれた校舎が画面奥にあり、晋平たちが、その前をゆっくりと進んで行く引きの固定ショットがある。これは晋平が来たことを知った地元の人が校舎の前を歩いて行くときにもう一度繰り返される。なんと美しいショットだろうか。

 

本作は、中山晋平ゆかりの長野県内(上田市、長野市、須坂市、松本市、中野市、佐久市など)にてロケが行われたという。

明治、大正から昭和へと移り変わる社会の空気がしっかりと時代考証のうえに築かれ、風俗や衣装、街並みの細部まで当時の雰囲気が見事に息づいている点も本作の大きな魅力のひとつだろう。

 

 

映画『シンペイ 歌こそすべて』作品情報

(C)「シンペイ」製作委員会 2024

2024年製作/127分/日本映画

監督:神山征二郎 脚本:加藤正人、神山征二郎 企画:新田博邦 プロデュース:新田博邦 撮影:小美野昌史 照明:淡路俊之 録音:治田敏秀 美術監督:新田隆之 装飾:工藤秀昭 編集:小美野昌史 音楽:久米大作 エンディングテーマ:上條恒彦 ナレーション:岸本加世子 助監督:菱沼康介

出演:中村橋之助、志田未来、渡辺大、染谷俊之、三浦貴大。中越典子、吉本実憂、高橋由美子、酒井美紀、真由子、土屋貴子、辰巳琢郎、尾美としのり、川崎麻世、林与一、緒形直人

 

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