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Netflixドラマ『ハウス・オブ・ギネス』(全8話)あらすじと解説/世界有数のビールメーカーへ成長を遂げたギネス家を描く歴史大作ドラマ

キリアン・マーフィ主演のドラマシリーズ『ピーキー・ブラインダーズ』で知られるスティーヴン・ナイトが企画・脚本を手掛けた『ハウス・オブ・ギネス』は、19世紀のアイルランド・ダブリンを舞台にアイリッシュスタウトの醸造から世界有数のビールメーカーへと成長を遂げたギネス家の人々の姿をスタイリッシュに描いた歴史大作ドラマだ。

 

巨富と権力、愛憎と裏切り、そして時代のうねりに揺れる人々の姿が、洗練された映像と音楽、演出で描き出される。

トム・シャンクランドが最初の5話を、ムニア・アクルがその後の3話を監督し、ギネス家のいとこであるイヴァナ・ローウェルがエグゼクティブプロデューサーを務めている。

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主人公は父の死後、ギネス家を継承することになった四人の兄弟たちだ。ギネス家を取り巻く社会的・政治的な圧力、宗教・階級対立、独立運動の影などが複雑に交錯する中、兄弟たちは苦悩しながら、それぞれの生きる道を探索していく。

 

『トールキン 旅のはじまり』(2019)、『テトリス』(2023)などのアンソニー・ボイルが長男のアーサーを、「エノーラ・ホームズの事件簿」シリーズ(2020、2022)やアルフォンソ・キュアロン監督のドラマシリーズ『ディスクレーマー 夏の沈黙』(2024)などで知られるルイス・パートリッジが次男のエドワードを、ドラマシリーズ『レスポンダー 夜に堕ちた警官』(2022)のエミリー・フェアンが長女のアンを、『恋人はアンバー』(2020)のフィオン・オシェイが、三男のベンジャミンをそれぞれ演じている。

 

兄弟に深く携わる重要人物、醸造所の工場長のショーン・ラファティには『いつかの君にもわかること』(2023)のジェームズ・ノートンが、ギネスの非嫡出相続人バイロン・ヒューズに『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011~2019)のジョフリー・バラシオン役で知られるジャック・グリーソンが扮するなど、個性的な俳優が顔をそろえている。

 

シーズン2製作の公式発表はまだないが(2025年10月8日現在)、シーズン1のラストから推測するに製作される可能性は高いと推察される。

 

Netflixドラマ『ハウス・オブ・ギネス』(全8話)は2025年9月25日よりNetflixにて配信中。

目次

 

Netflixドラマ『ハウス・オブ・ギネス』(全8話)あらすじ

(C)Netflix

1868年、アイルランド・ダブリン。

ギネス醸造所創設者のアーサー・ギネスの孫で、家業をアイルランドの象徴とまで言われるほどに拡大させたベンジャミン・ギネス卿が死去した。ギネス家はプロテスタント、ユニオニストとして知られており、カトリックの過激なフェニアン同胞団(IRAの前身)と激しく対立し、貧しい労働者階級からは忌み嫌われていた。

 

ベンジャミン・ギネス卿の葬式とその後の遺言朗読に出席すべく、アーサー、エドワード、アン、ベンジャミンの四人の子供たちが集まる。葬式を終えた彼らは眠れない夜を過ごすが、遺言は、彼らの予想を超える容赦のないものだった。

 

ベンジャミンは醸造所の事業を息子のアーサー(アンソニー・ボイル)とエドワード(ルイス・パートリッジ)の二人に寄贈し、協力して役割を担うよう明記していた。だがさらに続きがあり、いずれかが事業から手を引く場合は、屋敷や土地など残りの財産も全て失うことになると記載されていた。

 

一人娘のアン(エミリー・フェアン)は、他家に嫁いでいると言う理由で何も与えられず、醸造所、屋敷への出入りだけを許された。また、アルコール依存症の末っ子のベンジャミン(フィオン・オシェー)にも財産は残さないと記載されていた。四人はその残酷な遺言に打ちのめされる。

 

ロンドンでシャンパンとクラブ三昧の自由な日々を送っていたアーサーは醸造所に縛られる生活を耐えがたく思い、アンは慈善事業に打ち込むことにより父の仕打ちを乗り越えようと努める。ベンジャミンはアルコールを絶ち軍隊に入ることを決意。そんな中、次男のエドワードは、ギネスを世界的ブランドにしようと、取りつかれたように仕事に打ち込み始めた。

 

その頃、フェニアン同胞団で活動する兄パトリックの妹で革命家のエレン・コクラン(ニアム・マコーマック)は、ギネス家の弱みを握ろうと、家政婦たちに近づいていた。彼女はフェニアンの暴力的なやり方に疑念を抱いており、ギネス家の弱みを握ることで、ギネス家に痛手を与えようと企んでいた。しかし、彼女の策略はエドワードの知るところとなる。実はアーサーにはすべてを覆しかねない秘密があり、エドワードはそれに気付いていたのだ。

 

アーサーは父の跡を継ぐ国会議員の座を争い保守政党から立候補したばかりだった。彼が当選すれば事業にプラスになることは確実だが、もし、彼の秘密が公になるようなことがあれば、選挙に落選するどころではおさまらず、ギネス家は破滅してしまうだろう。

 

アーサーは、エレンに面会を申し込むが・・・。


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Netflixドラマ『ハウス・オブ・ギネス』(全8話)感想と解説

権力の継承から始まる兄弟たちの物語

(C)Netflix

ドラマは、1868年のベンジャミン・ギネス卿の死から始まる。 

アイルランドスタウトの事業を拡大し、膨大な富を得た醸造所は強大な権力の象徴として君臨していた。プロテスタント信者のギネス家は、イギリスからの独立を叫ぶカトリックの革命家(フェニアン)たちから猛烈な批判を受けており、冒頭から双方の激しい抗争が描かれる。

 

ベンジャミン・ギネスが労働者を搾取する非情の人だったこともあり、フェニアンだけでなく、庶民の間にも反エリート感情が沸き起こり、多くの人々がギネス家の没落を願っていた。

そんな中、アーサー、エドワード、アン、ベンジャミンの4人の子供たちが父亡きあとの「ギネス帝国」を引き継ぐことになる。しかし、これは単純な相続ではなかった。

 

遺言書には2人の兄にギネスの共同所有権が与えられることが記載されていたが、どちらかが事業から手を引けば全ての財産を失うという条件が付けられていた。亡き父の遺志によって望まぬ権力の座に就かざるを得なくなったアーサーとエドワードの姿は、HBOのドラマ『メディア王 〜華麗なる一族(Succession)』を彷彿とさせる。一方、長女のアンと三男のベンジャミンには一切、遺産は与えられなかった。

 

そんな四人の兄弟を中心に物語は進行して行く。

 

若き日の自由奔放な生活から抜け出せないアーサーと生真面目なエドワードは度々衝突する。だが様々な困難に対処する中で、次第に協力関係を築いていく様子がシリーズ全8話を通して描かれていく。

第一話の序盤、久しぶりに集まった兄弟に対してエドワードは「今日だけは仲良いふりをしよう」、「今日だけは団結しよう」と言い、アンの提案により、四人は輪になって手をつなぐシーンがあった。

この輪になるという行為は第8話の終盤にもう一度、行われる。同じ画でもそこに宿っている感情は全く別物だ。もう仲良いふりは必要ない。この物語は、絶対的権力を持っていた父の跡を継いだ子供たちが、様々な苦難に見舞われながらも協力し合い、心を通わせ、同じ目的に一致団結して行く姿を描いているのだ。

 

兄弟同士の争いや、足の引っ張り合いを期待していた人には幾分物足りないかもしれないが、このドラマの魅力は、兄弟が次第に互いを信頼していくという清々しい展開にあるのは間違いない。ただし、シーズン2以降は、その絆が続くのか、あるいは失われるのかはまったくわからない。

いずれにせよ、本作は壮大な歴史物語、政治物語であると同時に、豊かな家族ドラマなのだ。

 

現代にも通じる時代劇

(C)Netflix

アンが、嫁いでいるから生活には困らないだろうという理由で遺産をまったく与えられない事実には観ていて大変ショックを受けたが、彼女はすぐに立ち直り、むしろ、夫の援助なしで自分を切り開く道を歩もうとする。さらにはギネスの膨大な財産を貧しい人々のための慈善事業に使うようアーサーとエドワードを説得する。父親の代では決して行われなかった事柄だ。彼女は自身の存在を無視する男性社会に足跡を残そうと行動し続ける。しかもそれを軽やかにやってのけるのだ。

 

スティーヴン・ナイトはアンだけでなく他の女性キャラクターも、非常に個性豊かで情熱的に描いている。例えばダニエル・ギャリガンは、アーサーの妻オリヴィア役を実に魅力的に演じている。アーサーと結婚する女性は不幸になるに違いないという門切り型の我々の予想をあっさり覆し、型破りな結婚を自らの意志で受け入れた大胆で聡明な現代女性として描かれている。それは特権階級の人々だけでなく、革命家のエレン・コクランにもあてはまる。彼女は周囲のどの男性よりも頭脳的で、暴力を使わない抵抗運動を模索している。この第一シーズンでは多くの恋愛や恋の駆け引きが描かれるが、彼女たちは全ての点において、自らイニシアチブをとる人たちなのだ。

 

女性たち以外にも重要なキャラクターが多数登場する。ショーン・ラファティ(ジェームズ・ノートン)はこの物語のために生み出されたオリジナルキャラクターだ。ギネスの名声を守るためには躊躇せず鉄拳を奮うこの人物は、物語が進むにつれ、ギネス家にとっても、この物語にとっても、ますます重要な存在になっていく。

さらにはギネスのニューヨーク進出の立役者になるもののやっかいな取引を無断で決めてしまうギネスの非嫡出相続人バイロン・ヒューズ(ジャック・グリーソン)や、アイルランドからイギリスの影響を排除しようとしている暴力的なフェニアン同胞団の会長パトリック(シェイマス・オハラ)―彼の妹が前述のエレンであるーといった人々がギネス家と大きな関わりを持つことになる。

 

『ハウス・オブ・ギネス』は上流社会の華やかな世界が描かれる一方、労働者階級の人々と大企業のエリートが激しく交錯する世界も探求されている。スティーヴン・ナイトは、歴史的事実とフィクションを巧みに織り交ぜ、ドラマチックな展開を随所に見せている。

 

ベンジャミン卿の葬列の最中に暴力沙汰が起こるのだが、そのシーンでアイルランドのHIPHOPトリオ、ニーキャップの楽曲「Get Your Brits Out」が鳴り響くのには驚いた。ほかにもフォンテインズD.C.など、現代のアーティストの楽曲が多数挿入されている。19世紀の物語だが、テーマ的にも現代に通じる要素を多分に含んだ作品であることを考えれば、非常に効果的な選曲に感じる。

 

果たしてシーズン2ではどのような展開が待ち受けているだろうか!? 期待して待ちたいと思う。

 

Netflixドラマ『ハウス・オブ・ギネス』(全8話)作品情報

2025年/イギリス/全8話/原題:House of Guinness/配信:Netflix

原案・脚本:スティーヴン・ナイト 監督:トム・シャンクランド、ムニア・アクル エグゼクティブプロデューサー:スティーヴン・ナイト、イヴァナ・ローウェル、トム・シャンクラン、ミニア・アクル、カレン・ウィルソン、エリノア・デイ、マーティン・ヘインズ 撮影:ニコライ・ブリュエル、ジョー・サアデ

出演:アンソニー・ボイル、ルイス・パートリッジ、エミリー・フェアン、フィオン・オシェイ、ジェームズ・ノートン、ジャック・グリーソン、ニアム・マコーマック、シェイマス・オハラ、マイケル・コルガン、デブラ・カーワン、マイケル・マケルハットン、ダニエル・ギャリガン、ジェシカ・レイノルズ、アン・スケリー

 

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