元特殊部隊員のサラは、アメリカへの移住の手続きのために息子とともにフランクフルトのアメリカ領事館を訪ねるが、彼女がプレイルームで息子を遊ばせて受付に向かったわずかなすきに、息子は姿を消してしまう。探しても探しても見つからず、心配も頂点に達した時、領事館側は、息子は最初から存在せず、サラは最初からひとりだったと主張し、サラを愕然とさせる・・・。
映画『エクステリトリアル』は、特殊部隊で培ったスキルを生かしてアメリカ領事館内で行方不明になった息子の手掛かりを掴もうとする母親の姿を描いたドイツ産のサスペンス作品だ。
監督を務めるのは『コリーニ事件』(2019)などの作品で知られるクリスティアン・ツバート。主演のサラ役をNetflixドラマシリーズ『パックス・マッシリア:抗争の街』のジャンヌ・グルソーが演じ、自ら激しいアクションに挑戦している。
映画『エクステリトリアル』は、2025年4月30日よりNetflixにて配信中。
目次
Netflix配信映画『エクステリトリアル』作品情報
2025年製作/109分/ドイツ映画/原題:Exterritorial
監督・脚本:クリスティアン・ツバート 製作:ガースティン・シュミット・バウアー 製作総指揮:オリバー・ベルビン、クリスティン・ローズ 撮影:マティアス・ペッチュ 美術:ハイケ・ランゲ ウエリ・クリステン 音楽:サラ・バローネ
出演:ジャンヌ・グルソー、ダグレイ・スコット、レラ・アボヴァ、カヨデ・アキニエミ、アナベル・マンデン、ヒクソン・ガイ・ダ・シルバ、ラダ・レイ
Netflix配信映画『エクステリトリアル』あらすじ
主人公のサラ(ジャンヌ・グルソー)は、元特殊部隊の隊員で、まだ幼い息子ジョシュを一人で育てている。父親は、サラがアフガニスタンの部隊に居た時に知り合った隊員の一人だが、部隊が何者かに奇襲を受けた際、サラ以外全員が死亡。後に妊娠していることが判明したという経緯がある。
サラは今の生活を変えようとジョシュを連れ、アメリカへの移住を決める。元特殊部隊員としてのキャリアがいかせる仕事のオファーをもらったことと、ジョシュに亡くなった父親の故郷であるアメリカを見せてやりたいという思いが強くなったのが移住を決意した理由だった。
フランクフルトのアメリカ領事館に手続きにやって来たサラたちは、思いのほか、待たされ、退屈したジョシュは、遊びたがって大声を上げ始めた。
困ったサラが受付の女性に相談すると、プレイルームがあると言われ、少しの間、ジョシュをそこで遊ばせることにする。手続きを終わらせたサラが戻って来ると、ジョシュの姿が見えない。離れていた時間はそれほど長いものではなかったし、ここを動いてはいけないと言い聞かせておいたのに、一体どこに行ってしまったのだろうか。
探しても探しても、見つからず、たまりかねたサラは警備員に上司を呼んでほしいと頼み、やって来た警備責任者に鍵のかかった部屋も全て開けてもらうが、ジョシュの姿はどこにも見当たらない。
サラは、手続きから戻ってきた際、大きなカバンを持った作業員がいたことを思い出した。ひとりはドアの向こうに消え、もう一人はサラの顔を妙な目つきで見て通り過ぎて行った。ジョシュは彼らにさらわれたのではないか!?
サラが騒ぎ出すと、警備責任者は、同情的な態度をとり、彼女を慰めながら、男の子の姿を領事館で見たものはいないと話し始めた。サラはひとりでここを訪れたのだと彼らは言う。そんなことはありえない、監視カメラを見せてほしいとサラが言うと、ここでしばらくお待ちくださいと部屋の中で待たされることになった。フランクフルトの警察に電話するが、領事館は治外法権なので手が出せないという。また、母親に電話して、ジョシュがいなくなったと告げると、母親は、開口一番、薬は飲んでいるのかと尋ねた。
サラは今でもPTSDで苦しんでいて、時々悪夢を見る。領事館の人たちや母は、サラが、現実と幻想が区別できないと考えているのだ。
しかし、確かにジョシュはいた。これが自分が作り出した幻想とはとても思えない。彼女は、彼女を見張っていた警備員が少し席をはずした隙に、部屋を抜け出した。
先ほど、鞄を持った作業員が出て行ったドアは手動では開けられないようでびくともしない。
どうすれば、あちらの棟に行くことが出来るのだろうか。彼女は監視カメラに映らない場所を探さねばならない。強制退去されてしまえば、ジョシュを探す手立てを失ってしまうからだ。
彼女の孤独な闘いが始まった。
Netflix配信映画『エクステリトリアル』感想と解説
『エクステリトリアル』は珍しいドイツ産のアクション映画だ。こうしたヨーロッパ産のアクションエンターティンメントが豊富にあるのがNetflixのいいところだろう。
とはいえ、『エクステリトリアル』の舞台は、フランクフルトのアメリカ領事館だ。物語の序盤、主人公のサラがフランクフルト警察に電話で助けを求めるシーンでは、領事館はアメリカ領なので管轄権がないと告げられる。「ドイツ」だが「アメリカ」というこの舞台設定が本作の最大の特徴であり、ユニークなところだろう。
サラは、幼い息子のジョシュと共にドイツからアメリカに移住するためにフランクフルトの領事館を訪れたのだが、そこでジョシュが、跡形もなく姿を消してしまう。
懸命に探すもみつからず、さらに、領事館からは誰も男の子の姿を見ていないと告げられる。実際、監視カメラにもサラしか映っておらず、サラはなんとも不可解な状況に置かれることになる。
映画の冒頭で、サラがPTSDに苦しむ姿が描かれていることもあり、息子ジョシュの失踪が彼女の幻想なのか、わたしたち観客も疑心暗鬼に陥ってしまう。サラは、元特殊部隊の隊員で、アフガニスタンで奇襲に遭い、彼女以外の隊員が全員死亡するという恐ろしい体験を過去にしているのだ。しかし、サラは息子がいなかったなどというのは何かの間違いだ、息子は誘拐されたに違いないとひとりで息子を探す決意をする。
アメリカ領事館は、現実離れした巨大な迷宮として描かれている。監視カメラが張り巡らされ、複雑な通路が続くこの空間は、緊迫した閉塞感を生み出し、領事館が「アメリカの領土」であるという設定が、サラの孤独な戦いを際立たせる。強制退去されるとなす術がなくなってしまうので、サラは身を潜めながら、アメリカ領事館の迷宮を進んでいかなくてはならない。
物語の中盤、サラは領事館内で監禁されているらしい女性(レラ・アボヴァ)と出会う。サラ自身、「本当に息子はいたのか」と自問する瞬間があるのだが、女性はサラに恋愛における「ガスライティング」の例えを用いて、ジョシュがいなくなったのは幻想ではないと励ます。ここでの対話が、母としてのサラの決意を強化する役割を果たし、「母であること」が、困難な状況下、大きな力を生み出す原動力となっていく。母性を単なる感情ではなく、戦略的な力として描いているところに本作の面白さがある。
サラを演じるジャンヌ・グルソーは、スタントマンを使わず、ビルの外壁をよじ登ったり、謎の襲撃犯との激しい素手での格闘に挑んでいる。それらアクションシーンの多くが、手持ちカメラによる長回しで捉えられており、役者の肉体の躍動をリアルに伝えている。
本作には大規模な爆破シーンもなければ、派手な破壊シーンもないが、領事館内の備品を使った即興の戦いや、終盤の駆け引きに使われる空間でのやり取りなど、知恵を絞った戦闘や環境を活用した対決が盛り込まれていて、そうした「頭の良さ」も本作の大きな魅力のひとつだろう。期待以上の面白さに満ちた一編だ。
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