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Netflix映画『ナイブズ・アウト ウェイク・アップ・デッドマン』あらすじと評価/密室殺人×信仰が交錯する異色のシリーズ第三弾

Netflix「ナイブズ・アウト」シリーズ最新作『ナイブズ・アウト ウェイク・アップ・デッドマン 』は、古びたカトリック教会を舞台に、「不可能犯罪」と「信仰の探求」という、二つのテーマを大胆に融合させた異色のミステリーだ。

怒りと恐怖で人を支配する司祭ウィックと、罪を背負いながらも赦しを説くジョシュ・オコナー扮する助祭、そしてダニエル・クレイグ扮する無神論者の名探偵ブノワ・ブラン

彼らの対立と交錯を通して描かれるのは、「何を信じるのか」「人は変われるのか」という、現代社会そのものへの問いかけだ。

 

密室殺人、死者の“復活”、狂信的な信徒たち――。

ゴシックホラーのような装いで謎が深まる中、本作は驚くほど鮮やかに観る者の感情を揺さぶってくる。

 

「ナイブズ・アウト」シリーズがここまで踏み込んだ作品を作るとは、誰が予想しただろう。

笑いと知性に満ちた名探偵譚は、本作でついに「赦し」という領域へと足を踏み入れたのだ。

 

目次

 

Netflix映画『ナイブズ・アウト ウェイク・アップ・デッドマン』作品基本情報

邦題:ウェイク・アップ・デッドマン:ナイブズ・アウト ミステリー

原題:Wake Up Dead Man: A Knives Out Mystery

ジャンル:ミステリー

監督・脚本:ライアン・ジョンソン

撮影:スティーブ・イェドリン

製作国:アメリカ

製作年: 2025年

配信プラットフォーム:Netflix (2025年12月12日より配信)

上映時間: 146分

キャスト:ダニエル・クレイグ、ジョシュ・オコナー、グレン・クローズ、ジョシュ・ブローリン、ミラ・クニス、ジェレミー・レナー、ケリー・ワシントン、アンドリュー・スコット、ケイリー・スピニー、ダリル・マコーマック、トーマス・ヘイデン・チャーチ、ジェフリー・ライト

 

Netflix映画『ナイブズ・アウト ウェイク・アップ・デッドマン』あらすじ

Netflix映画「ナイブズ・アウト ウェイク・アップ・デッドマン 」12月12日(金)独占配信© Netflix. Courtesy of Netflix

ニューヨークの田舎町チムニー・ロックにある小さな教会の神父ウィックス(ジョシュ・ブローリン)が聖金曜日の礼拝中に殺害される事件が発生。

第一容疑者は、新しく助祭となったジャド・デュプレンティシー(ジョシュ・オコナー)で、彼はウィックス神父の怒りと憎悪の教えに公然と反対していた。

 

地元警察に捜査を依頼された聡明な私立探偵ブノワ・ブラン(ダニエル・クレイグ)は、ジャドは殺人を犯していないと本能的に感じ、彼と共に捜査を進める。ところが驚くべきことに、ウィックスが墓から抜け出し「復活」を果たしたのだ。ジャドがそれを目撃し、カメラにもその模様が映っていた。

 

密室の中、ウィックスを殺したのは誰か。そして、ウィックスはなぜ「復活」を遂げたのか!?

 

公式予告編はこちら

youtu.be

 

Netflix映画『ナイブズ・アウト ウェイク・アップ・デッドマン』感想と評価

伝統的ミステリーと「信仰」の融合。ブノワ・ブランが挑む新たなる不可能犯罪

ライアン・ジョンソン監督の「ナイブズ・アウト」シリーズは、コナン・ドイルやアガサ・クリスティーなどの本格探偵ものの伝統を受け継いだすこぶる楽しいミステリー作品だが、毎回、そこに社会風刺を融合させているのが特徴だ。第三作にあたる『ウェイク・アップ・デッドマン』でも、不可能犯罪に迫るのと同時に、盲信、赦し、信念、贖罪といった「信仰」についての深い探求が行われている。

 

今回の舞台は、ニューヨークの田舎町チムニー・ロックにある古びたローマ・カトリック教会だ。最初の30分ほど、ダニエル・クレイグ扮する探偵ブノワ・ブランは姿を見せず、ジョシュ・オコナー扮するジャド・デュプレンティシーが物語を牽引していく。

 

私たちが初めてジャドを目にするのは、なんと、彼が無礼な助祭に思わずパンチをくらわす場面だ。彼は懲戒法廷にかけられ、奉仕の任を命ぜられてこの教会にやって来たのだ。

 

ジャドは元ボクサーで、試合中、対戦相手を死に至らしめた過去があり、聖職の道に進むことを選んでからも、ずっと罪に向き合いながら、自分のような人々にキリストの赦しと愛を示したいと考えていた。

 

志を持ってやって来た彼だったが、この教会のジェファーソン・ウィックス神父(ジョシュ・ブローリン)は彼とは真逆のタイプの聖職者だった。

 

ウィックスは同性愛者やシングルマザー、マルクス主義者を決して認めない差別主義者で、初めて教会を訪れた教区民をターゲットにして、意図的に不快な説教で攻め立て憎悪を吐き出し、追い出すのが常だった。結果として彼を崇拝する少数の熱狂的な信徒だけが残り、優越感を刺激された彼らは、ウィックスにさらに忠誠を誓うという信仰の支配が出来上がっていた。

 

ジャドはその信徒たちをウィックスの呪縛から解き放ち、慈愛に満ちた信仰へ導こうと努めるが、信徒たちは彼を頑なに受け入れず、追い出そうとさえする。そんな最中、「聖金曜日」という特別な日にウィックスが何者かに殺害されるという大事件が起こる。ここでようやく、ブノワ・ブランの登場と相成るのだ。

 

警察はジャドを第一容疑者として扱うが、ブノワが逮捕を阻止する。だが、ジャドが犯人でないなら、これは密室殺人事件と呼ばれる不可能犯罪になってしまう・・・。

 

「バディもの」の熱さ。無神論者の探偵と、罪を背負った神父の共鳴

Netflix映画「ナイブズ・アウト ウェイク・アップ・デッドマン
」12月12日(金)独占配信© Netflix. Courtesy of Netflix

さらに進まぬ捜査をあざ笑うように、ウィックスが「復活」を遂げるという信じられないことが起こる。ジャドは彼が風変わりな墓から出て来るところを目撃し、その姿を追う中で、気絶してしまうのだが、人を殺した感触だけが残っていた。実際、現場には庭師の死体が転がっていた。

 

礼拝室に集まった信徒の前で彼が罪を告白しようとするとブノワがパイプオルガンを大音量で奏でてそれを阻止するなど、ブノワはジャドを信じ抜く。

シリーズ第一作の『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』』でブノワが看護師のヒロインをすぐに真面目で善良な人間と見抜いたように、今回も彼はジャド神父が思いやりのある司祭であることを見抜いているのだ。ジャドのような善良な人物と、そうした人々を全力で護ろうとするブノワの姿勢が本シリーズの魅力の一つであることは間違いない。

 

さて、そうなると容疑者は信徒たちの中にいることになる。

グレン・グローズ演じるマーサ・ドラクロワ(グレン・クローズ)はウィックスの祖父の代から教会に通っていた最も熱心な教区民だ。ナット・シャープ(ジェレミー・レナー)は妻に出ていかれて落ち込んでいる町医者で、SF作家のリー・ロス(アンドリュー・スコット)は極右思想に染まり、車椅子生活を送っている元チェロ奏者シモーヌ・ヴィヴェイン(ケイリー・スペイニー)はウィックが奇跡を起こすことを望んでいる。苦労だらけの人生を歩む弁護士ヴェラ・ドレイヴン(ケリー・ワシントン)、政治家になる夢を断念して今やYouTuberのサイ・ドレイヴン(ダリル・マコーマック)、そしてウィックスがアルコール中毒から自分を救ってくれたと感謝し続けている庭師のサムソン(トーマス・ヘイデン・チャーチ)という顔ぶれだ。

豪華キャストが勢ぞろいで、シリーズのアンサンブル的面白さは今回も健在だ。

 

物語は、信仰心の厚いジャドと無神論者のブノワという相反する思想を持つふたりが協力しながら、事件の真相を追うという「バディもの」のような展開を見せ、古典的なフーダニットの面白さに加え、互いに人間として影響し合う様子が描かれていく。

 

「慈悲」の決断と、虐げられた女性たちの叫び

ジャドとウィックスの対立は、それぞれが持つ神のイメージが異なることから来ている。ウィックスは、怒りと恐怖で信徒を支配する「火と硫黄」の司祭で、彼自身が神になり替わろうとしており、一方、ジャドは、「司祭の仕事は世間と闘うことではなく、世間を受け入れること」と述べているように、忍耐強い慈愛に満ちた司祭だ。

 

この対立する二つの概念が交わったり、歩み寄るのは極めて難しい。だが、無神論者であるベノワはジャドの影響を確実に受けて行く。

 

ジョンソン監督と長年タッグを組んでいる撮影監督のスティーヴン・イェドリンが、礼拝堂の窓から差し込む陽光を鮮やかにとらえたシーンは秀逸だ。その時、探偵は、容疑者たちの前で犯人の名前を告げる気満々で壇上に立っていたのだが(探偵にとってそれは最大の見せ場のはず!)、陽光に照らされた彼は犯人への慈悲を選び、それを中断する。

サイ・ドレイヴンがその様子を撮った動画をすぐに彼のチャンネルにあげ、謎を解けない無能な探偵と世間に誤解されてしまうことも承知の上で、彼はそうするのだ。

 

それは、ブノワがジャドの日々の行いや言動から学んだことから来る行動だった。社会の分断の深刻さが増す現代において、本作が描いているのは「理解しようとすること」の重要性だ。

 

さらに本作が、宗教指導者が信者に与える影響を探求しようとする中で浮かび上がって来るのは、虐げられた女性たちの叫びである。ウィックスの亡き母親は特に悲劇的であり、人々からは「娼婦」と呼ばれ、ひどい屈辱を受け続けた人だったことが語られる。また、ヴェラは父親の期待に応えるために自身を犠牲にしてきた人物だ。彼女たちは父親や夫、そして、宗教に利用され、重荷を背負わされて来た女性たちなのだ。

 

ジョシュ・オコナーの躍進と、ダニエル・クレイグが魅せる「探偵」の深化

こうした告発も含め、現代の社会情勢の影を映画全体を通して私たちは見ることになるのだが、不思議と説教臭くなく、むしろ、観る者に驚くほどの感情の深みを与えてくれる。これは脚本が優れているのは勿論のこと、ジャドを演じたジョシュ・オコナーとブノワ・ブラン役のダニエル・クレイグの力によるところも大きいだろう。

ジョシュ・オコナーはひょうひょうとしつつも、驚くほど信念のある神父を演じ、『チャレンジャーズ』、『墓泥棒と失われた女神』とキャリアを積んできた中、今作で、さらにステップアップし、重要な存在の役者に到達したように思われる。

ダニエル・クレイグは、珍しい長髪で登場し、いつもと違った雰囲気を醸し出しながら、「南部訛りの紳士探偵」を実に楽しそうに演じており、このシリーズが長く続くことを望まずにいられなくなる。

 

さて、肝心のミステリーの方はネタバレになるので深くは言及しないが、密室殺人とオカルト的な不可能犯罪という二つの犯罪は実に魅力的だし、劇中、ディクスン・カーの『三つの棺』やブラウン神父シリーズについて言及されているのもミステリファンとしては楽しいポイントだ。真相も興味深いもので、複雑で味わい深いミステリ作品に仕上がっている。

 

劇中、言及されたディクスン・カーの『三つの棺』 をAmazonで観る

 

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