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映画『コンパニオン』(U-NEXT配信)あらすじと解説/ロマンチック・コメディーからSFそしてスリラーへ

恋人と共に、恋人の友人を訪ねてある別荘にやって来たアイリスに思いもかけない出来事が襲い掛かる。しかしそれは、あらかじめ、計画されていた策略だった・・・。

 

近未来を舞台にした映画『コンパニオン』ドリュー・ハンコック監督のウィットに富んだ長編デビュー作だ。主演の恋人同士を、『異端者の家』(2024)のソフィー・サッチャーと、ストリーミングテレビシリーズ「ザ・ボーイズ」(2019~)で知られるジャック・クエイドが演じているほか、『スマイル2』(2024)のルーカス・ゲイジ等が出演している。

 

本国アメリカでは2025年の年始に劇場公開され好評を博し、日本ではU-Nextにて独占配信が始まった。

(本稿はなるべくネタバレを回避するよう努めていますが、論考を進めるために欠かせないいくつかの重要な事柄を明らかにしています。まだ映画をご覧になっていない方はご注意ください)

 

目次

 

映画『コンパニオン』(U-NEXT配信)作品情報

(C)2025 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND DOMAIN PICTURES, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

2025年製作/97分/アメリカ映画/原題:Companion

監督・脚本:ドリュー・ハンコック 製作:ラファエル・マーグレス、J・D・リフシッツ、ザック・クレッガー、ロイ・リー 製作総指揮:トレイシー・ローゼンブラム、ジェイミ-、バックナー 撮影:イーライ・ボーン 美術:スコット・クジオ 衣装:バネッサ・ポーター 編集:ブレット・W・バックマン、ジョシュ・イーザー 音楽:フリシケッシュ・ヒルウェイ 音楽監修:ロブ・ロウリー キャスティング:ナンシー・ネイヤー

出演:ソフィー・サッチャー、ジャック・エイド、ルーカス・ゲイジ、ミーガン・スリ、ハービー・ギレン、ルパート・フレンド

 

映画『コンパニオン』(U-NEXT配信)あらすじ

(C)2025 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND DOMAIN PICTURES, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ジョシュと恋人のアイリスは、ジョシュの友人たちと週末を過ごそうと森の別荘まで小旅行に出かけた。

 

アイリスは幾分不安げだ。ジョシュの友人のキャットが自分を嫌っているのではないかと心配しているのだ。そんなことはないよと、アイリスを優しく励ますジョシュ。

 

別荘は思った以上に立派なものだった。別荘の主はジョシュの友人のキャットの恋人、セルゲイだ。彼曰く「手を汚す」仕事で財を成したらしい。アイリスたちの他にも男性同士のカップル、イーライとパトリックが招かれていた。彼らは陽気なカップルで、このパーティーを心底楽しんでいるようだった。

キャットもアイリスに対して変な態度は見せず、優しいジョシュと共に過ごす夜はとても幸せなものに思えた。

 

翌朝、早く目覚めたアイリスはひとりで湖まで散歩することにした。湖に到着してふとポケットに手をやるとなぜか中に折りたたみナイフが入っていた。そこに突然セルゲイが現れる。

 

家でのんびりと過ごしていたジュシュたちは目の前に現れたアイリスを観て愕然とする。彼女は全身血まみれだったのだ・・・。

 

映画『コンパニオン』(U-NEXT配信)感想と解説

(C)2025 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND DOMAIN PICTURES, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

(重要な設定や物語の構造について書いています。まだご覧になっていない方はご注意ください)

 

ジョシュ(ジャック・クエイド)とアイリス(ソフィー・サッチャー)は、ある日、スーパーマーケットで運命的な出逢いをする。二人が一目惚れする瞬間が鮮やかに、ロマンチック・コメディ風に描かれている。

ところが、その際、「私の人生で幸せだったと感じた瞬間が2度あった。一つ目はジョシュと出会ったとき、二つ目は彼を殺したとき」という、アイリスによるナレーションが入る。一体この幸せそうなカップルに何が起こるのだろう?と、私たち観る者は一挙に不穏な気持ちに襲われる。

 

アイリスとジョシュは、ジョシュの友人キャットの招きで、彼女の裕福な恋人セルゲイの森の別荘を訪れる。車を運転中、ジョシュはハンドルを握っていない。完全に自動運転のようだ。ついた先は想像を超えた豪邸で、駐車場から屋敷までの距離を二人は荷物を持って歩いていくのだが、ジョシュがアイリスに大きな荷物を二つも持たせている様子がさりげなく描かれている。こうした小さなエピソードが、後の展開を説得力あるものにしている。

 

アイリスが人間ではないことがすぐに明かされる。アイリスはジョシュの恋人として精密にプログラムされた人型ロボットの「コンパニオン」なのだ。この豪邸に招待されたもう一組のカップルの一人もロボットなのだが、彼らの出会いは仮装パーティーだそうで、そうしたいくつかのバリエーションから「出逢い」方を選ぶことが出来るらしい。ただし、アイリスは自分が人型ロボットだということを知らされていない。

 

ジョシュが今回、この豪邸を訪ねたのには理由があった。ジョシュの計画はアイリスをアプリでコントロールし、彼女に屋敷の主・セルゲイを殺害させ、全てを人型ロボットの故障による暴走のせいにして、自分はキャットといっしょに大金をせしめてずらかろうというもの。彼の思惑通り、アイリスは殺人を犯し、ジョシュは彼女を拘束し、彼女がロボットであることをばらして、始末しようとする。ここからアイリスの逆襲が始まり、ロマンチック・コメディはSFに、そしてスリラーに見事に転換する。

 

ジョシュがこうした卑劣な人間であることもあり、私たちはアンドロイドであるアイリスの方に(皮肉にも)より人間性を感じ、絶体絶命の彼女を応援することになる。

逃走するため苦労して車に乗るもジョシュが盗難届をだしたため車が動かなくなり彼女は途方にくれる。血まみれの姿のままヒッチハイクしようとするアイリスの脳内映像が一瞬インサートされるなど、のほほんとしたユーモアが時折顔を出し、クスっと笑わせてくれる。

 

ジョシュというキャラクターにかなりの不快感を覚えるのは、彼がアイリスを操るその方法に依るところが大きい。表面的には、ジョシュはアイリスを意志をもたない機械として扱っているが、わざわざ、セルゲイがアイリスを襲う機会をお膳立てして、アイリスが正当防衛でセルゲイを殺害するよう仕向けているのだ。単に「殺せ」というスイッチを押されたことで殺害に及んだのではなく、恐怖を感じて自己防衛するというまさに人間的な反応によってアイリスは殺人を犯さざるをえなかった。あえてそのようなシチュエーションをとったジョシュにぞっとしてしまうのだ。

 

また、映画の終盤、アイリスとジョシュの間で激しい抗争が繰り広げられる際、ジョシュはアイリスに、お前をアプリで操る必要はないと述べ、お前は無条件で俺を愛しているのだからとほくそ笑む。彼は彼女の気持ちを完全にコントロールしているという自信があるのだ。

 

ジョシュをひたすら愛するようにとコントロールされ続け、実際、ジョシュを愛しているアイリス。最早、人間とアンドロイドを超えた、男と女の嗜虐的な関係が及ぼす愛と自己コントロールの物語といった趣だが、彼女は一体この状況をどのように打破していくのだろうか!?

 

脚本も務めた監督のドリュー・ハンコックは、女性蔑視や人間性といったテーマを物語に巧みに織り込み、思考しながら進化する人工生命体に対して、人間はどのような倫理観を持ち、どう接せるべきなのか?という問題を鋭く問うている。AIが益々身近な存在になって進化している昨今、これは無視できない重要な問題だと言えるだろう。

 

ただし、映画は社会派に方向転換するのではなくあくまでもそれらを背景として描き、活劇の行方に重点を置いている。二転、三転する展開はめっぽう面白く、あえて軽い、B級映画っぽく仕上げているのも、この作品に関しては成功していると言えるだろう。

 

ソフィー・サッチャーは、レトロな衣装に身を包み、アンドロイドと人間の境界のようなスタイリングをしたアイリスを溌剌と演じている。困難の中、試行錯誤して「進化」していく彼女を私たちは無条件で応援してしまうのだ。

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