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映画『テルマがゆく! 93歳のやさしいリベンジ』(Thelma )あらすじと解説/オレオレ詐欺に挑む痛快おばあちゃん映画

2年前に夫を亡くし、ひとり暮らしをしている93歳のテルマは24歳の孫のダニエルと大の仲良しだ。ある日、ダニエルが事故を起こし逮捕されたと聞いた彼女は、あわてて言われるまま保釈金1万ドルを送金するが、それは典型的な詐欺だった。彼女は犯人を見つけ、金を取り返そうと決心する。

 

ベテラン俳優ジューン・スクイブが、オレオレ詐欺の餌食になりながらも負けを認めない女性テルマを演じ、93歳で初の映画主演を果たした。

 

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孫のダニエルを『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』(2024)でカラカラ帝を演じたフレッド・ヘッキンジャーが務め、テルマの旧友のベン役を、『黒いジャガー』(1972)のシャフト役で知られ、2023年10月に他界したリチャード・ラウンドトゥリーが演じた。テルマの娘ゲイル役を『パーティーガール』(1995)、『ボーはおそれている』(2023)のパーカー・ボージーが、ゲイルの夫を『アイアンマン』(2008)、『キャプテンマーベル』(2019)などのクラーク・グレッグが演じているほか、マルコム・マクダウェルが意外な役で出演している。

 

監督を務めたのは本作が長編映画監督デビューとなるジョシュ・マーゴリン。彼の104歳になる祖母に実際に起った話が元になっている。

 

目次

 

映画『テルマがゆく! 93歳のやさしいリベンジ』作品情報

(C)Courtesy of Universal Pictures

2024年製作/99分/G/アメリカ・スイス合作映画/原題:Thelma

監督・脚本・編集:ジョシュ・マーゴリン 製作:

ゾーイ・ワース、クリス・ケイ、ニコラス・ワインストック、ベンジャミン・シンプソン、カール・シュポエリ、ヴィヴィアナ・ヴェッッアーニ エグゼクティブプロデューサー:トビアス・グッツウィラー、ジューン・スキッブ、フレッド・ヘッキンジャー 共同製作;カット・バーネット 撮影監督:デヴィッド・ボーレン プロダクションデザイン;ブリエル・ヒューバート 衣装デザイン:アマンダ・ウィン・イー・リー 作曲:ニック・チューバ キャスティング:ジェイミー・エンバ

出演:ジューン・スキッブ、フレッド・ヘッキンジャー、リチャード・ラウンドトゥリー、パーカー・ポージー、クラーク・グレッグ、マルコム・マクダウェル

 

映画『テルマがゆく! 93歳のやさしいリベンジ』あらすじ

(C)Courtesy of Universal Pictures

93歳のテルマ・ポストは、2年前に夫を亡くして以来、ロサンゼルスの自宅で一人で暮らしている。テレビ番組を見たり、クッションカバーなどを刺繍したりする合間に、頻繁に様子を見に訪ねて来る20代の孫ダニエルにインターネットの使い方を学んでいる。ダニエルは、心優しい良き孫だが、今は失業中で、恋人のアリーとも別れたらしい。落ち込む彼をテルマはあなたはまだ24歳なのだからと励ました。二人は固い愛情で結ばれているのだ。

 

ある日、そんなダニエルから電話がかかってくる。 警察に逮捕され、保釈に一万ドル必要と聞かされてテルマは慌てて金をかき集め、指定された私書箱あてに郵送した。

 

しかし、テルマから電話を受けた娘のゲイルが息子(ダニエル)に電話をすると彼は自宅で眠っていたことが判明。テルマは詐欺に引っ掛かったのだ。

 

警察に被害を届けるものの、私書箱の住所をメモした紙も失くしてしまっており、捜査のしようもないと言われてしまう。また、娘夫婦もこれは老いのせいだと言い、忘れて前に進むしかないと言う。

 

しかし、郵便局の私書箱を書き留めた紙をみつけたテルマは、犯人を捜しだし、お金を取り戻そうと決心する。

 

家族に気づかれたらすぐにやめさせられるだろうと考えたテルマは妻を亡くし身寄りもなく施設に入っている友人ベンを訪ねる。彼は電動スクーターを持っていた。テルマはそれをこっそり借りて施設を出るが、気づいたベンが追いかけて来た。ふたりは詐欺師を捕まえるために、行動を共にすることになったが・・・。

 

映画『テルマがゆく! 93歳のやさしいリベンジ』感想と解説

(C)Courtesy of Universal Pictures

テルマを演じるジューン・スキッブは長らく舞台で活躍し、1990年、彼女が61歳のときにウディ・アレン監督の映画『アリス』でスクリーンデビューを果たした。その後もアレクサンダー・ペイン監督の『アバウト・シュミット』(2002)など多数の作品に出演し、同じくペイン監督の『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(2013)では第86回アカデミー賞助演女優賞にノミネートされている。そんな数十年にわたるキャリアの中で主役を演じるのは本作が初となる。93歳の彼女が93歳の役を演じた『テルマがゆく! 93歳のやさしいリベンジ』はすべてが軽やかで愛情に溢れた作品だ。

 

本作はまた、ジョシュ・マーゴリン監督の長編デビュー作だ。自身の祖母、テルマ・ポストが実際に体験したことからインスピレーションを得て作られたという本作は、マーゴリン監督の祖母への愛情が、作品全体の基調となって、観る者を温かい気持ちにさせる。

 

物語はオレオレ詐欺”に引っかかってしまったテルマがお金を取り戻そうと、振込先の郵便局に向かうロードムービーとして進行する。

81歳で亡くなり、本作が遺作となったリチャード・ラウンドトゥリーが、テルマの行動をアシストする旧友ベンに扮し、テルマの運転する電動スクーターにまたがりロサンゼルスを横断してバンナイズへと向かう。電動スクーターはそもそも室内移動用のもので、スピードが出ず、ゆるゆるの超スローペースなコミカルな光景が展開するのだが、途中、旅仲間だった友人の家に寄り、マグナム銃を勝手に借りていくエピソードなどもあって大いに笑わせてくれる。

 

彼女にこの旅の決断をさせたのは、トム・クルーズだ。トム・クルーズの『ミッション:インポッシブル』を孫のダニーと一緒に見たテルマは、スタントマンを頼らずにハードなアクションシーンをこなすトム・クルーズに感化され、自身のミッションをやり遂げようと決意する。娘夫婦が介護付き施設にテルマを入居させる可能性について話し合っているのを聴いてしまったテルマにとって、これは自身のこれからの生き方と尊厳の問題でもあった。

ジューン・スキッブは、電動スクーターで施設内やロスの道路を走るのもスタントをつけず、ひとりでやり遂げた。まさにトム・クルーズの精神を受け継いでいるのだ。

 

テルマの孫のダニエルを演じているフレッド・ヘッヒンガーは、本作のプロデューサーも兼ねている。ダニエルは24歳でありながら、社会生活がおぼつかず、不安と自信のなさで行き詰まっている青年なのだが、テルマがそんな彼に説教や無理強いもせず、むしろ頼りにしてくれていることで救われている。一方のテルマもWeb時代の新しい環境に馴染めない中、優しくアドバイスしてくれ、常に気にかけてくれる孫に助けられている。二人の関係は非常に暖かく美しい。

 

だが、今度のミッションをダニエルに知られるわけにはいかない。愛情で結びついた家族だからこそ、危険だと反対されるだろうし、そしてやはり、これは自分自身の力でやり遂げないといけないミッションだからだ。

 

追いかけてくる家族を撒くため、救急用緊急ブレスレットを囮に使うなど、日常にもこのような“スパイ道具”があったのか、と思わせる小道具の使い方の旨さに感心させられる。まさか高齢者に馴染のあの道具があのような役割を果たすとは(観てのお楽しみ)! そして最後にはテルマはダニエルに頼ることになるのだが、これが日常の風景と変わらぬ光景であるのが実に愉快だ。

 

痛快でほっこり暖かい気持ちになる『テルマがゆく!』は、ユーモラスなアクションコメディであり、今時貴重な高齢者賛歌である。

 

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