デイリー・シネマ

映画&海外ドラマのニュースと良質なレビューをお届けします

韓国映画『あなた自身とあなたのこと』あらすじと解説(ネタバレあり)/奇妙な味わいを残すホン・サンスの18本目の監督作

映画『あなた自身とあなたのこと』(2016)は、ホン・サンスの18本目の監督作で、ロカルノ国際映画祭金豹賞を受賞した『正しい日、間違えた日』(2015)とキム・ミニがベルリン国際映画祭主演女優賞を受賞した『夜の浜辺でひとり』(2017)の間に撮られた作品だ。本作自体は第64回サンセバスチャン国際映画祭でシルバー・シェル賞(最優秀監督賞)を受賞している。

 

ホン・サンス特有の会話劇と人間関係の機微を描くいつものスタイルに、不条理なファンタジー要素が加わっているのが本作の特徴で、辛口の恋愛喜劇に仕上がっている。

 

ヨンス役を演じたキム・ジュヒョクは、『妻が結婚した』(2008)などの作品で知られるスター俳優だったが、2017年に交通事故で亡くなり、本作が彼の遺作の一つとなった。ミンジョン役のイ・ユヨンは、本作がホン・サンス作品初出演。ミステリアス役柄で存在感を見せている。

日本では配信プラットフォームJAIHOで初めて紹介され、その後、長らく劇場未公開だったが、2024年7月5日から東京都墨田区のミニシアター「Stranger」で開催された「ホン・サンス特集」にて初上映された。現在はU-Next、Amazon prime Video他にて配信されている。

 

目次

 

韓国映画『あなた自身とあなたのこと』作品情報

2016年製作/86分/韓国映画/原題:당신 자신과 당신의 것(英題:Yourself and Yours)

監督・脚本:ホン・サンス 撮影:パク・ホニョル 編集:ハム・ソンウォン 音楽:タル・バラン

出演:キム・ジュヒョク、イ・ユヨン、キム・ウィソン、ユ・ジュンサン、クォン・ヘヒ、ペク・ヒョンジン

 

韓国映画『あなた自身とあなたのこと』あらすじ・感想と解説

(C)2016 JEONWONSA FILM CO. ALL RIGHTS RESERVED

画家のヨンス(キム・ジュヒョク)は、友人から恋人ミン・ジョン(イ・ユヨン)がヨンスに隠れてお酒を飲んで騒ぎを起こしていると告げられる。酒を呑む回数をふたりで話し合って決めたばかりだったので、ヨンスはその話がにわかに信じられない。だが友人は、皆、そのことを知っていると言う。ミン・ジョンにそのことを批判的に告げると、喧嘩になり、ミンジョンはヨンスの部屋を出ていってしまう。

 

ある男がカフェでミンジョンを見かけ、声をかける。ところが彼女はその男が誰かわからない様子だ。話をしていると彼女はミンジョンの双子の妹だという。双子だなんてこれまで聞いたこともなかったが、男はすっかりその女に入れ込んでしまう。しかし、数回会って男は振られてしまう。

 

その頃、ヨンスはミンジョンが恋しくなり、彼女の家を訪ねるが留守で会えない。プレイボーイで知られた彼だが、ミンジョンへの愛は本物のようだ。ミンジョンは別の男からも以前会った、あなたを知っていると声をかけられる。しかし、ミンジョンはまったくその男に覚えがないようだ。自分はミンジョンではないし、そんなところに行ったこともないという女。

 

ふたりは場所を変えて酒を飲み始める。ミンジョンはすっかりいい気分だ。ミンジョンにフラれた男がそこにやってくる。きまずい雰囲気になるが、ミンジョンがトイレに席をたつと男たちは自分たちが同級生だったことに気づき、すっかり盛り上がる。店の人の知らせで、ヨンスがやってくる。ミンジョンは店から出ていったらしい。あとを追うと暗がりで泣いているミンジョンを見つける。しかし、ヨンスを見てもミンジョンは反応を示さない。ふざけているのかと問うも、彼女の態度は変わらず、彼女にすっかりのぼせ上がっているヨンスはそのままの女を受け止める。

 

ミンジョンに双子の妹が本当にいるのか、ミンジョンは誰に会っても知らないフリをしているだけなのか、最後まで明らかにされないし、誰にもわからない。そもそもこの女がミンジョンであるという断定もできない。ちょっとしたSF作品の赴きもあるし、よくよく考えれば不気味でもあるが、タッチはひょうひょうとしていて、全体に明るい雰囲気だ。

 

そんな奇妙なやり取りが続く中で、こんなふうにしか生きられないという女を全面的に受け入れ、愛する男。喧嘩した男女がその気まずい雰囲気から脱皮して、生まれ変わり、恋が始まったときの純粋な好きという気持ちのまま、また一から始まるのである。このように何度も脱皮して、何度も純粋なままに恋ができればという強い願望が現れているかのようだ。そのことが逆に束縛し合うリアルな恋愛の厳しい現実を浮かび上がらせるのだが(ミンジョンの双子の妹と語っていた女性はカフェでカフカを読んでいたので、「脱皮」というよりは「変身」がふさわしかもしれない)。

※アフィリエイトプログラム(Amazonアソシエイト含む)を利用し適格販売により収入を得ています、、

 

www.chorioka.com