映画『BLEAK NIGHT 番⼈』は、『狩りの時間』(2020)で知られるユン・ソンヒョン監督が韓国の国立映画学校(KAFA)在学時に製作したインディーズ映画だ。
友だち同士だった3人の男子高校生の心理の変遷を繊細に描き、その大胆な構成と詩情あふれる語り口が評価され第32回青龍映画賞で新人監督賞を受賞。
主人公のギテを演じたイ・ジェフンは、本作で第32回青龍映画賞、第48回大鐘賞の新人俳優賞を受賞し、一躍注目を浴びた。
日本では配信サービス「WATCHA」で初めて紹介されて以降、様々な配信サービスにて配信されてきたが、2024年8月2日からAmazonプライム・ビデオで見放題配信がスタートした。
目次
韓国映画『BLEAK NIGHT 番⼈』の作品情報
2010年製作/117分/韓国映画/原題:파수꾼(英題:Bleak Night)
監督・脚本・編集:ユン・ソンヒョン 撮影:ビョン・ボンスン 音楽:パク・ミンジュン
出演:イ・ジェフン、ソ・ジュニョン、パク・ジョンミン、チョ・ソンハ、シン・ウンソプ、イ・チョヒ、ペ・ジェギ、チャン・デュン
韓国映画『BLEAK NIGHT 番⼈』あらすじ
高校生である息子ギテが死んだ。父親は息子の机の引き出しにしまわれていた一枚の写真に目をとめる。息子が同級生2人と共に映った写真だった。
なぜ、息子は死んだのか。真相を知りたくて学校を訪ねた父親だったが、写真に写っていた2人のうち1人は転校していた。もう1人もギテの葬式に姿をみせなかった。2人と息子はどのような関係だったのだろうか。父親は転校したヒジュンを訪ねていく。
ギテとヒジュン、ドンユンは中学校の時から仲の良い友人同士だった。しかし、高校に進学すると、ギテはクラスのリーダーとして君臨し始める。3人の関係に亀裂が入り、ギテはヒジュンとドンユンが自分の思い通りにならないと暴力を振るうようになる。
固い友情で結ばれていた3人の間に一体何があったのだろうか?
韓国映画『BLEAK NIGHT 番⼈』感想と評価
冒頭、男子高校生のグループが集団で歩いている様子を望遠で撮っている。激しい暴力シーンのあと、1人の中年男性が映し出される。どうやらその男性の息子が亡くなったらしく、男性は、息子に何があったのかを知りたいと考え学校へ赴く。
映画は時間軸をずらしながら、男子高校生たちの関係を映し出していく。ヒジュン(パク・ジョンミン)は同級生のギテ(イ・ジェフン)にかばんを取り上げられ、中身を焼かれた上に暴力を受ける。てっきりこのいじめられた少年が亡くなったのだと思っていたら、中年男性がこの少年を訪ねるシーンが続いて驚かされる。そう、亡くなったのは、少年を殴ったギテの方だったのだ。
ギテとヒジュン、そしてもうひとりドンユン(ソ・ジュニョン)を含めた3人は仲の良い友だち同士だった。廃駅でキャッチボールをしたり、女の子3人を誘って6人で遊びに行ったり、常につるんでいる間柄だった。
しかし、クラスのボス的存在であるギテは、暴力を振るうことで人々をつなぎとめ支配しており、徐々に、ヒジュンとドンユンとの間に距離が出来てしまう。
母親がおらず、父親も仕事でほとんど顔を合わすこともないというギテは明らかに愛に飢えている。ヒジュンとドンユンのことを真の友達だと慕っているのだが(現に、ヒジュンが好意を持っている少女から愛情を向けられてもヒジュンのことを思って断っている)、彼らに反発されれば、友情を取り戻すために暴力を行使してしまう。
関係はこじれ、謝っても受け入れられない。ねじれた感情は元には戻らず、ヒジュンは転校することでギテから去ってしまい、ドンユンは自身が傷ついた分、ギテを全否定することでギテを決定的に傷つけてしまう。
ギテにとって、ヒジュンとドンユンへの友情は愛情に近いものだったのだろう。家族では満たされなかった愛を友人に求めたのだ。愛する人への愛し方がわからなかったギテ。
ギテが死んで初めて、ヒジュンとドンユンは自分たちがギテから愛されていたこと知ったのではないか? だから余計に辛く切ない感情を呼び起こす。きりきりと心に痛みを残す苦しくも悲しい物語だ。
自然光を多用した画面は若者を支配する孤独感や閉塞感を浮き彫りにし、手持ちカメラの揺れが10代の少年たちの危うい感情を鮮烈に表現している。