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韓国映画『奈落のマイホーム』あらすじ・感想・評価/キム・ジフン監督が手掛けるシンクホールからの決死のサバイバル劇

地盤沈下により突如現れたシンクホール(巨大陥没穴)によって、せっかく手に入れたマイホームと共に奈落の底に!

地下500メートル下に落下した人々は地上に戻ることが出来るのだろうか!?


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超高層ビル火災を扱った『ザ・タワー 超高層ビル大火災』や、『第7鉱区』を手掛けたキム・ジフンが監督を務め、キム・ソンギュチャ・スンウォン等、個性派俳優が顔を揃えた決死のディザスター・パニック・ムービー『奈落のマイホーム』。

 

2021年韓国映画興行収入第2位の大ヒットを記録というのも納得の面白さ。

第74回ロカルノ国際映画祭、第27回サラエボ映画祭など、様々な国際映画祭に招待され、第20回ニューヨークアジア映画祭では閉幕作に選ばれている。  

 

目次

映画『奈落のマイホーム』の作品情報

(C)2021 SHOWBOX AND THE TOWER PICTURES, INC. ALL RIGHTS RESERVED

2021年製作/114分/G/韓国映画 原題:싱크홀(英題:SINKHOLE) 監督:キム・ジフン  美術:キム・テヨン

出演:チャ・スンウォンキム・ソンギュン、イ・グァンス、キム・ヘジュン、ナム・ダルム、キム・ホンパ、コ・チャンソク、クォン・ソヒョン、イ・ハクジュ、キム・ジェファ、ハン・ヘリン

映画『奈落のマイホーム』あらすじ

(C)2021 SHOWBOX AND THE TOWER PICTURES, INC. ALL RIGHTS RESERVED

平凡なサラリーマンのドンウォンは、11年の節約生活を経て、ソウルに念願のマンションを購入。いよいよ今日は引っ越しの日だ。

 

ところが朝から生憎の雨で、しかもマンションの前に車が止められていて荷物を運び込めないアクシデントが発生。

 

車の持ち主に連絡をとっても、まったく返信がなく、困り果てたところに、やっとマンションから一人の男が出てきて、車を移動。ようやく荷物を入れることができるようになった。

 

「なぜ電話にでないのですか?」とドンゥオンが尋ねると、男は朝早くから起こされておまけにガソリンも消費されたと憎まれ口を利き、二人はにらみ合う羽目に。

そこにドンゥオンの息子がやってきて、男に元気に挨拶したことで、なんとか場はおさまったが、ドンゥオンと男=マンスはこの後もなにかと顔をあわせる機会が多く、互いにぎくしゃくしていた。

 

広々とした部屋にくつろぐ家族3人だったが、息子が床にビー玉を置くと、なぜか転がっていく。まさかとは思うが家が傾斜しているのではないかと疑うドンゥオン。おまけに水の出もよくない。よく見ると、マンションの壁にも亀裂のようなものが見えるではないか・・・。

 

そんな中、ドンウォンは会社の同僚を招き“引っ越しパーティー”を開くが、部下のうち2人が飲みすぎて、家に泊まることになった。

 

翌朝、大雨で巨大陥没穴《シンクホール》が発生。マンション全体と住人たちを僅か1分で飲み込んでしまう。

 

ドンウォンは反りの合わないマンスと、不運な2人の部下と共に地下500メートル下に落下。なんとか命をつなぎとめたドンゥオンたちは地上と連絡をとろうとするが、携帯がつながらない。

 

近隣の住民の報せを受け、救助隊がやってくるが、二次災害の危険があり、思うように救助は進まない。

 

そして実は、一旦は母親と出かけたが、また一人で戻ってきたドンゥオンの息子がひとり陥没したマンションの別の階に閉じ込められていた。ドンゥオンはまだそのことを知らずにいた・・・。  

 

映画『奈落のマイホーム』感想と評価

(C)2021 SHOWBOX AND THE TOWER PICTURES, INC. ALL RIGHTS RESERVED

有毒ガステロにあった街の高層ビルに取り残された人たちが脱出を試みる『EXIT』や、地上108階建ての超高層複合ビルの火災を扱った『ザ・タワー 超高層ビル大火災』など、韓国映画はこれまでにも多数のパニック映画を制作してきた。

危機からの脱出という意味では、内戦の起こった国から大使館の人々が命がけの脱出を図る『モガディシュ 脱出までの14日間』も忘れてはいけないだろう。そうした系譜の中、本作が扱う災害は、「シンクホール」だ。

 

シンクホールとは、石灰岩がなんらかの作用で浸食されてできた陥没穴のことで、韓国では大きさの差はあれど年間900件も発生していると言われている。

イ・オクソプ監督の『なまず』(2018)でも、道路が突然陥没し、ク・ギョハン扮する青年が穴に落ちていた場面が記憶に新しい。

 

監督を務めたのは、前述した『ザ・タワー 超高層ビル大火災』のキム・ジフンだ。『ザ・タワー』は、韓国版『タワーリング・インフェルノ』と称されるだけはある手に汗握る王道のパニック映画で、犠牲者も多数出るリアルでシリアスな作品だったが、『奈落のマイホーム』の前半は、実にのほほ~んとしている。

 

前半だけというよりは、全体に、コメディタッチに仕上がっていて、生死をかけたサスペンスとコメディが両立してしまうところに、韓国映画独特の味わいがある。鑑賞する者は、スリルとサスペンスと涙と笑いというあらゆる感情を覚えることになるのだ。これぞ韓国映画の醍醐味といえよう。

 

前半部分に話を戻すと、のほほんとしているだけでなく、韓国の住宅事情問題もさりげなく盛り込まれている。ソウルに家を持つことの大変さ、住民間トラブル、欠陥住宅といったテーマでもいくつか作品ができそうなくらいだ。

しかし、映画は中盤、一挙にシンクホールによる災害とそこからの脱出へとなだれ込んでいく。主人公たちは地下500メートル下にマンションごと陥落してしまう。

 

そこからの試練はまるで死者が地獄の裁判を受けて回る「神と共に」(2017~2018)シリーズを想起させるほどだ。水や泥が人々を襲い、どんな場所も安全とはいえず、常に落下の危機がある。

 

奈落の底におちた人々は皆、平凡な市民で、ひとりもスーパーマン的な人物は存在しない。そんな彼らが互いに助け合い、強力し合いながら、信頼を深めて行く姿はじわりと胸を打つ。また、パニック部分においても、脱出に向かう経路においても作り手が繰り出す豊富なアイデアには、一瞬たりとも退屈する隙きがない。“イエローサブマリン”なんて誰が想像しただろうか。

 

さらに、前半部分のさりげないやり取りが、もっともシリアスな場面で使われる猛烈なおかしさには吹き出さない方がおかしいくらいで、この点は是非映画館で確かめて欲しい。  

 

『悪いやつら』(2012)で強烈な印象を残し、最近ではドラマ『D.P. 脱走兵追跡官』の中佐役など、数多くの作品に出演しているキム・ソンギュンが、主人公のドンゥオンを演じ、反りの合わない隣人マンスを『毒戦 BELIEVER』(2018)、『がんばれ!チョルス』(2019)などのチャ・スンゥオンが演じている。ふたりの関係の変化もみどころのひとつだ。

 

ただし、それでも犠牲は出てしまう。キム・ジフン監督は、そうした現実もしっかり描写している。どのような人々が犠牲になったのか、きちんと記憶しておかなければならないだろう。

(文責:西川ちょり)

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