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韓国映画『市民捜査官ドッキ』あらすじと評価/実際の振り込め詐欺事件をモチーフに、詐欺の被害者女性が、詐欺集団に立ち向かう姿を描く

振り込め詐欺に遭ったシングルマザー・ドッキは深い絶望の中にいた。大きな借金を背負い、子どもたちを託児所に預ける費用も捻出できない。職場で寝泊まりしていることを通報されて、ついには子どもたちと引き離されてしまう。そんなある日、彼女の携帯が鳴る。それは彼女を騙した犯人からのSOSだった。

 

韓国映画『市民捜査官ドッキ』は韓国で2016年に実際に起こった振り込め詐欺事件を基に、エンターティンメント要素をたっぷりと詰め込んだ社会派コメディだ。

 

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『高速道路家族』、『ガール・コップス』のラ・ミランが主人公ドッキを、『エクストリーム・ジョブ』のコンミョンが詐欺組織の一員ジェミンを演じ、チャン・ユンジュ等、個性的な俳優が顔を揃えている。

 

脚本・監督を務めたパク・ヨンジュは、いくつかの短編作品や、2018年に発表した慶州女子高生失踪事件をモチーフにした初長編作品『ソンヒとスギ Second Life』で知られ、本作で商業映画監督デビューを果たした。

 

 

目次

 

韓国映画『市民捜査官ドッキ』作品情報

(C)2023 SHOWBOX, PAGE ONE FILM AND C-JES STUDIOS ALL RIGHTS RESERVED.

2024年製作/114分/韓国映画/原題:시민덕희(英題:Citizen of a Kind)

監督・脚本:パク・ヨンジュ 撮影:イ・ヒョンビン 照明:イ・ギルギュ 美術:ソン・ミンジョン 編集:キム・ソンミン 音楽:ファン・サンジュン、音響:パク・ヨンギ 武術指導:ユ・サンソプ、チャン・ハンスン 視覚効果:イ・ジョンミン 

出演:ラ・ミラン、コンミョン、ヨム・ヘラン、パク・ビョンウン、チャン・ユンジュ、イ・ムセン、アン・ウンジン、イ・ジュスン、イ・ムセン

 

 

韓国映画『市民捜査官ドッキ』あらすじ

(C)2023 SHOWBOX, PAGE ONE FILM AND C-JES STUDIOS ALL RIGHTS RESERVED.

クリーニング工場で働く中年の女性ドッキは、銀行からの融資の電話に飛びついた。以前は断られたのだが、今回、新しい条件で融資が可能になったのだと言う。

 

家が火事で焼け、住む場所が無くなったドッキは職場のクリーニング工場で2人の子供たちと寝泊まりしていた。その上、自分が働いている間、二人を預ける託児所の支払いもままならない状態だった。

 

この生活を何とかしたいと思い詰めていた彼女は天の助けとばかり「カン代理」という銀行員に言われるまま、消費者金融で金を借りて手数料3200万ウォンを入金した。

 

ところが、それから急にカン代理と連絡がつかなくなってしまった。カン代理が勤めている銀行に出向くと、そんな人物はいないと言う。その時初めてドッキは自分が詐欺にあったことに気が付く。

 

ドッキは警察に駆け込み被害を訴えるが、担当のパク刑事は犯人を捕まえるのは難しいと真剣に取り合ってくれない。しかもドッキが8回に渡って振り込んでいることに触れて、途中で気付かなかったのですかと彼女を責める始末だ。

 

借金だけが残り、託児所も追い出され、仕方なく、仕事中は子どもたちを傍で遊ばせていたが、通報した人がいたらしく、子どもたちは保護施設に強制的に連れていかれてしまった。

 

ドッキは全く真剣に動いてくれようとしない警察に腹を立て、工場のトラックを借りて警察署に向かった。その途中、彼女の携帯が鳴った。出てみると相手はカン代理だと名乗った。あわててトラックを脇道に止め会話を続けると、カン代理と名乗る男は騙して申し訳ないとドッキに謝り、助けて欲しいと言う。

 

この男性の本名はクォン・ジェミンといい、高額アルバイトという誘いに吊られて応募したものの、いきなり暴力を受けて監禁され、今では中国の青島のビルの一室で日々、振り込め詐欺の仕事をさせられていた。抜け出そうと一度は試みるが、同じく、抜け出して大使館に駆け込んだ仲間が、結局、連れ戻され、殺されるところを目撃してしまう。

 

脱出は諦めるしかなかったが、軟禁場所の窓から中華料理店の看板が見えた。彼はそのことをドッキに伝え、この場所を警察に突き止めてもらい保護してほしいと訴える。

 

なぜ、私に連絡してきたのかとドッキが問うと、ドッキがすぐに入金したからだ、と彼は答えた。普通はもう少し迷うのだそうだ。早く入金したということは決断が早いということで、ドッキなら頼りになると思ったらしい。自分を救ってくれればお金も戻るだろうと「カン代理」はドッキを説得した。

 

ドッキはパク刑事を尋ねるが、警察は他の大型詐欺事件に追われていて、まったく相手にしてくれない上に捜査は終了したと告げられてしまう。ドッキは自分で場所を突き止めようと考える。

 

しかし、件の中華料理店は青島だけでも70店以上あることがわかった。別の日に「カン代理」から電話を受けたドッキは、近くになにか特徴になるものはないかと訪ねた。「カン代理」は部屋の隅にミシンが置かれていると答えた。

 

ドッキは工場の同僚のボンリムが中国出身で中国語が出来るうえに、妹が青島に住んでいることを思い出す。

 

ドッキは青島に行って場所を割り出そうと決心。ボンリムに拝み倒して同行を取り付け、そこにもうひとりの同僚スクジャも加わって、彼女たちは青島に乗り込む。

 

果たして、彼女たちはカン代理の居場所を突き止めることが出来るのだろうか!?

 

韓国映画『市民捜査官ドッキ』感想と解説

(C)2023 SHOWBOX, PAGE ONE FILM AND C-JES STUDIOS ALL RIGHTS RESERVED.

(ネタばれ&ラストに言及しています。ご注意ください)

コミカルなものからシリアスなものまで、いつも印象的な演技を見せ、決して期待を裏切らない俳優ラ・ミランが今回扮するのは、振込め詐欺にひっかかったシングルマザー、ドッキだ。

 

カン代理という銀行員から融資の電話がかかって来て天の助けとばかり喜んだのも束の間、すぐに連絡のつかなくなったカン代理を訪ねて銀行に乗り込み、詐欺にあったことを悟って愕然とする場面へ。物語は非常にスピーディーに展開する。

 

ドッキが務めるクリーニング工場の様子をカメラは大胆に動きながら長回しで撮っているが、それは中国の青島での振り込め詐欺のアジトでも同じだ。小さな部屋に詰め込まれた青年たちが、詐欺電話をかけている様子をカメラはカットを割らずに勢いよく撮っている。どちらの場面でもそこで働く人々の境遇と関係を簡潔に提示することに成功している。

 

この「スピーディーさ」が、本作のひとつの特徴だろう。ドッキはのちに「カン代理」から助けを求められるのだが、彼が彼女を選んだ理由が振込むのが他の人より断トツに早かったからだという。

 

ほめられているのか、バカにされているのか、実に微妙な理由だが、「カン代理」にとっては、ドッキの決断力が唯一の希望だった。彼は高額アルバイトを謳った募集につられて中国・青島まで行ったのだが振り込め詐欺グループに軟禁され、日々、暴力におびえながら詐欺の片棒をかつがされていたのだ。

 

「カン代理」に見込まれた通り、ドッキはただちに警察に情報を届けるが、警察の動きは非常に遅く、挙句にろくに捜査もしないまま犯人を突き止めるのは無理だと捜査を終了してしまう。後に、事の重大さにやっと気づいたパク・ビョンウン扮するパク刑事は、上司を説得して中国・青島までやってくるのだが、常に対応は後手後手になってしまう。

 

「僕が遅いんじゃなくてドッキさんが早いんですよ」と言うパク刑事の台詞まで飛び出すが、ドッキたちのスピードが強調されるのは、ある意味、動かない警察への皮肉も込められているといえるのではないか。実際、この作品の基となった2016年に実際に起こった振り込め詐欺事件において、警察の対応はひどいものだったらしい。ドッキのモデルである中年女性キム・ソンジャさんが犯人検挙までほとんどひとりでやり遂げたと言う。

 

とはいえ、パク刑事はまだ人間味のある描き方がなされており、そこにはせめてこれくらいの対応はしてほしいものだという作り手の願望も込められているのだろう。

 

何よりも許せないのは詐欺の首謀者たちだ! ドッキは自ら青島に行き、詐欺グループのアジトを探して「カン代理」を救い出すことを決意する。さすがにこの行動は映画オリジナルのものだという。

 

クリーニング工場の同僚ボンリム(ヨム・ヘラン)が中国出身で中国語が出来る上に、妹(アン・ウンジン)が青島でタクシー運転手をしていることから、ドッキは拝み倒して同行してもらうことになるが、頼んでもいないスクチャ(チャン・ユンジュ)が旅行気分でついて来る。しかし彼女はアイドルオタクで、写真撮影が得意だという設定が面白い。大型カメラで証拠写真を撮るのが彼女の役目だ。

 

ドッキと仲間たちのコミカルな描写と詐欺グループのアジトの描写が交互に綴られて行くが、後者は非情なノワール映画の雰囲気で残忍で恐ろしい。まったく別のテイストの表現が巧みに交わり、その二つのテイストが接近するにつれ、緊張も高まって行く。

 

ドッキの闘いは、お金を取り戻すために始まったが、やがて傷つけられた尊厳を取り戻す闘いとなっていく。

 

終盤、ドッキと詐欺の首謀者(イ・ムセン)が空港のトイレで対峙する場面では思わず『犯罪都市』のマ・ドンソクとユン・ゲサンの闘いを思い出してしまった。勿論、彼らのような派手なアクションはないし、ドッキが実は武術の天才といった馬鹿げた展開になるわけでもない。彼女は殴られて顔をはらして血だらけになるが決して降参しないで立ち続ける。

 

彼女はまるで詐欺にあった方に落ち度があったかのような言説に「NO!」を突きつけ、絶望を味わい自責し続けた人間の怒りを示し、損した分だけ金を渡してすまそうとする首謀者に対して、人を騙して儲けた金は受け取れないと人間としての矜持を見せるのだ。

 

映画の冒頭と終盤で2度、ドッキが周囲の人々から好奇の目で見られるシーンがある。銀行内で詐欺に引っかかったんじゃない?という多数の視線を受けた時、ドッキは過呼吸まで起こしたが、終盤の対決のあとでは人々のいぶかる視線をものともせず、笑顔を浮かべている。

ラ・ミランは、安定した演技でドッキの魂に人間の誇りを吹き込んだ。騙されて自責し続けたドッキが不義に屈せず戦い抜いた姿は実に感動的だ。

 

誰にでもあてはまり起こりうる問題として本作を描き、傷ついた人の救済の物語に仕上げたパク・ヨンジュ監督。本作が商業映画デビュー作ということだが、次にどのような作品を撮るのか、期待して待ちたい。

 

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