韓国映画『大統領暗殺裁判 16日間の真実』は、大統領暗殺事件を背景に、16日間で進行した軍法裁判を描くポリティカル・サスペンスだ。
1979年10月26日。 18年間独裁政治を繰り広げた韓国のパク・チョンヒ(朴正煕)大統領が中央情報部長のキム・ヨンイルによって暗殺された。
上官の命令によって大統領暗殺事件に関与した中央情報部(KCIA)部長の随行秘書官パク・テジュの弁護を引き受けた弁護士チョン・インフが、不正に操られた裁判に立ち向かう。
ドラマ『賢い医師生活』(2020~21)、映画『EXIT』(2019)などのチョ・ジョンソクが、熱血弁護士チョン・インフを、『パラサイト 半地下の家族』(2019)などの作品で知られ、本作が遺作となったイ・ソンギュンが信念を貫く軍人パク・テジュを演じている他、ユ・ジェミョンが冷酷な合同捜査団長チョン・サンドゥを演じ、「第61回百想芸術大賞 映画部門 助演男優賞」を受賞した。
監督を務めたのは『王になった男』(2012)のチュ・チャンミン。史実とフィクションを織り交ぜながら、韓国近代史の暗部に鋭く迫っている。
目次:
韓国映画『大統領暗殺裁判 16日間の真実』作品情報

2024年製作/124分/韓国映画/原題:행복의 나라(英題:Land of Happiness)
監督:チュ・チャンミン 製作:イ・ジュンタク、チャン・ジンスン 脚本:ホ・ジュンソク 撮影:ホン・ジェシク 美術:キム・ボムク 編集:ホ・ソンミ 音楽:キム・テソン
出演:チョ・ジョンソク、イ・ソンギュン、ユ・ジェミョン、ウ・ヒョン、イ・ウォンジョン、チョン・ベス、ソン・ヨンギュ、チェ・ウォニョン、カン・マルグム、パク・フン、イ・ヒョンギュン、チン・ギジュ、ユ・ソンジュ、キム・ボプレ
韓国映画『大統領暗殺裁判 16日間の真実』あらすじ

裁判に勝つためには詐欺まがいのこともする売り出し中の弁護士・チョン・インフ(チョ・ジョンソク)は、大統領暗殺事件に巻き込まれた中央部情報部長の随行秘書官であるパク・テジュン(イ・ソンギュン)の弁護を引き受けないかと弁護団から打診される。
パク・テジュンは現役の軍人であるがためにただ一人軍法裁判にかけられ、たった一度の判決で刑が確定するという境遇にあったため、弁護団は彼を弁護する人をなかなかみつけられずにいた。チョン・インフが、弁護を引き受けたのは、この裁判に参加すれば名前が売れると説得されたからだ。
しかし、パク・テジュンの前では、チョン・インフがこれまで行ってきたような手法が通じない。パク・テジュンは軍人としての堅実さを貫く人物であり、チョ・インフは苛立ちを覚えるが、次第に彼の中に、自身の融通の利かなかった父親の姿を見、彼を救おうという一心で弁護にあたることになる。
しかし、弁護団は、公判中に外部からメモが持ち込まれるなど、不当な法的手続きと、依頼人の無罪を阻む隠された政治的駆け引きに直面する。
チョン・インフは公正な裁判を求めて、ある重要な証人に法廷に出廷してもらう約束を取り付けるが、その夜、合同捜査団長チョン・サンドゥ(ユ・ジェミョン)が指導したクーデターが勃発する・・・。
韓国映画『大統領暗殺裁判 16日間の真実』感想と評価

本作は、1979年10月26日に起きたパク・チョンヒ(朴正煕)大統領暗殺事件と、同年12月12日に起きたチョン・ドゥグァン(全斗煥)陸軍少佐が主導した粛軍クーデターという韓国史における重要な事件を背景にしている。
映画で言えば、ウ・ミンホ監督による『KCIA南山の部長たち』(2020)と、キム・ソンス監督の『ソウルの春』(2023)の間を埋める作品と言っていいだろう。
18年にも及ぶパク・チョンヒの軍事独裁政権が暗殺という形で終了し、民衆の間に「民主化」の期待が高まる中、大統領暗殺事件の裁判が始まる。映画は、大統領暗殺の被告人のうち中央情報部長随行秘書官であったパク・テジュ(イ・ソンギュン)に焦点を合てた法廷劇として進行する。
パク・テジュは現役軍人であったために一般的な三審制ではなく単審制が適用される状況に陥っていた。本作は、彼が死刑の宣告を受けることを何とか阻止しようと奮闘する弁護士チョン・インフを主人公に、最初の公判からわずか16日後に最終判決が下されることとなり「性急裁判」と呼ばれた裁判の実態を描いている。
映画の序盤、キム・ヨンイルと彼に従った部下を弁護する弁護人団が登場するが、単審裁判を受けるパク・テジュの弁護を引き受けようとする弁護士がなかなかみつからないという描写がある。弁護団は、出世欲が強く勝つためにはペテン師のような手も使うと評判のチョン・インフ弁護士に目をつけ、彼を説得するのだが、チョン・インフは、映画のためのオリジナルキャラクターである。
このチョ・インフをドラマ『賢い医師生活』(2020)、映画『EXIT』(2019)などの作品でおなじみのチョ・ジョンソクが演じており、彼の茶目っ気のある親しみやすいキャラクターがよく生きている。
「裁判は善悪を問うものではない、勝ち負けを決めるものだ」というのが口癖のチョ・インフは、これまでの自分のやり方が、軍人としての堅実さを貫き通すパク・テジュにまったく通じないのに戸惑い、時には「融通の利かない人だ」と彼をののしりもする。
チョ・インフには、民主化運動に身を投じる学生を匿ったために逮捕、拘留されている牧師の父親がいる。活動家を助けることに熱心で家族をないがしろにして来たと父を憎んでいたインフだったが、信念を貫くパク・テジュの中に、父と同じものを感じ取り、人として成長していく姿が、説得力豊かに描かれている。
公判中、何度も法廷にメモが届けられ「メモ裁判」とも呼ばれる韓国史上最悪の政治裁判において、なんとしても司法の力で公正な判決を導きだそうと孤軍奮闘するチョ・インフの姿は、当時、民主化を熱望していた国民の気持ちを対弁するものであり、また、政府や大企業などの権力に未だ左右されがちな現在の韓国の司法に対する問題提起ともいえるだろう。
そうした奮闘の最中、チョン・ドゥグァン(映画ではユ・ジェミョン演じるチョン・サンドゥ)陸軍少佐が主導した粛軍クーデターが起きる。映画は、その前夜、チョ・インフンが陸軍参謀総長チョン・ジンフを説得して、1979年10月26日の暗殺当日についての貴重な事実について証言することを了承してもらうという架空のエピソードを加えることで、希望が一夜にして絶望に変わる様をわかりやすく提示している。
こうした史実にフィクションをまぜることは(そもそも、映画は最初に史実に基づいたフクションだと断っている)、韓国現代史をテーマにした昨今の映画において、より観客を引き付けるための常套手段だ。
本作もこの架空の弁護士の人間味のある人柄が、観る者に共感を覚えさせる効果をあげているが、彼がゴルフ練習をしているチョン・サンドゥと対峙する場面は、さすがにファンタジーが過ぎるだろうと惜しく感じられた。
一概の弁護士が陸軍参謀総長に粘った挙句、直接会えるというのもかなりありえない設定でありーまだこれはかろうじて認められるとしてもーさらに大統領暗殺事件合同捜査団長でクーデターの主導者にも遭えることに違和感を覚えてしまう。
勿論、ここでのチョ・インフンの台詞が社会の不合理に抵抗する非常に重要な内容であることは理解できるが、それは裁判の中に織り込むべきではなかったか!? この点は賛否両論あるところだろう。
とはいえ、本作が「韓国史上最悪の政治裁判」の裏側に果敢に挑んだ作品として、重要かつ見ごたえがある作品であることに間違いはない。
俳優の熱演はもとより、当時の雰囲気を再現する映像の質感や、資料に入念にあたって研究を重ねた上に想像力と映像の効果を考えて作り上げられた「法廷」という舞台が見事な緊張感を生み出している。
新たな軍事独裁政権の始まりという絶望しかもたらされない状況を描きながら、映画は、正義とは何なのか、この教訓から何が得られるのか、ということを真摯に問いかけているのである。
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