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【解説】韓国映画『コンクリート・ユートピア』あらすじと感想/イ・ビョンホン主演・現実社会への皮肉を込めた第一級のパニック・エンターティンメント

未曽有の大地震により都市が壊滅した世界で、一棟のマンションだけが残ったとしたら、果たしてわたしたちはどのような選択をするだろうか!?

 

映画『コンクリートユートピアは韓国・ソウルを舞台に、崩落を唯一免れたマンションをめぐって、マンションの住人が生存をかけて、住人以外の人々を排除しようと暴走していく姿を描いている。

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マンションの臨時住民代表に選ばれるヨンタクを演じるのは『甘い人生』(2005)、『インサイダーズ/内部者たち』(2015)、『KCIA 南山の部長たち』(2020)などの作品で知られる韓国を代表する俳優イ・ビョンホン

人気ドラマ『梨泰院クラス』(2020)や『ミッドナイト・ランナー』(2017)などで知られる人気スター、パク・ソジュンが誠実な公務員ミンソンを、彼の妻ミョンファを『私のオオカミ少年』(2012)、『君の結婚式』(2018)などのパク・ボヨンが演じる他、『哭声/コクソン』 (2016)、『新感染半島 ファイナル・ステージ』(2020)などのキム・ドユン、『はちどり』(2018)のパク・ジフ、ドラマ『愛の不時着』(2019)などのキム・ソニョン等、個性あふれる俳優が顔を揃えている。

 

第96回アカデミー賞国際長編映画賞の韓国代表作品。2023(第44回) 青龍映画賞ではオム・テファが監督賞、イ・ビョンホンが主演男優賞を受賞した。  

 

目次

映画『コンクリートユートピア』作品情報

(C)2023 LOTTE ENTERTAINMENT & CLIMAX STUDIO, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

2023年製作/130分/韓国映画/原題:콘크리트 유토피아(英題:Concrete Utopia)

監督:オム・テファ  脚本:イ・シンジ、オム・テファ 撮影:チョ・ヒョンレ 美術:チョ・ファソン 編集:ハン・ミヨン 音楽:キム・ヘウォン

出演:イ・ビョンホン、パク・ソジュン、パク・ボヨン、キム・ソニョン、パク・ジフ、キム・ドユン  

 

映画『コンクリートユートピア』あらすじ

(C)2023 LOTTE ENTERTAINMENT & CLIMAX STUDIO, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

世界各地で起こった地盤隆起による大災害でソウルも一瞬にして壊滅。そんな中、唯一崩落を逃れたマンションがあった。ファングンアパートというそのマンションには、居住者以外の生存者たちが押し寄せていた。

 

救助隊が現れる気配は一向になく、政府も最早、機能していないようだった。街中ではあらゆる犯罪が横行し、マンション内でもトラブルが多発。放火しようとする者まで現れた。

 

ミンソンとミョンファの夫婦は、備蓄していた食料を確認していたが、圧倒的に量が足りなかった。その時、ドアがノックされ、ミンソンが恐る恐る覗いてみると、女性が「助けてください、せめてこの子だけは中に入れてください」と叫び、部屋に入ろうとしてきた。あわててドアをしめようとしたミンソンだったが、女性の足がドアを押さえる方が早かった。

 

こうして二人の部屋には母親とその子どもが居候することになった。外はひどい寒さで追い出したら凍死してしまうだろう。看護師のミョンファには彼らを追い出すことなど到底できるはずもなかった。

 

今の状態に危機感を抱いた住人たちは、集会を開くことにした。婦人会・会長のグメはまず主導者を決めることを提案し、放火された部屋に飛び込み危険も顧みず消火した602号室のヨンタクを臨時代表に推薦し、皆も賛同した。

 

よそから来る人々をどうするかという話し合いでは、住民以外は追い出すべきだという声があがり、グメは投票で決めることにした。

 

投票の結果、追い出すことに決定。他からやって来た人々に、空き部屋を提供すると呼びかけ外に整列させたヨンタクとグメたちは、マンションの前にバリケードを築き、彼らを追い出してしまう。ミンソンとミョンファの部屋にいた親子も追い出されてしまった。ミンソンとミヨンファは複雑な表情で光景を眺めるしかなかった。

翌朝、外に出た住民は、追い出された何人かが凍死しているのを発見する。

ヨンタクは兵役経験者を中心に防衛隊を結成。治安を守るのは勿論のこと、外に出て食料を調達することも彼らの役目だった。ミンソンは次第にヨンタクに心酔していき、ミヨンファはそんな夫に不安を覚え始める。

 

ヨンタクはやがて権勢を振るうようになっていく。実はマンション内にはこっそり、住民以外の人間をかくまっている者が少なからず存在していた。ミヨンファたちの部屋にいた親子も、別の人に匿われていて、ヨンファは時々、彼らに差し入れをしていた。

 

ところがある日、ある男性の部屋にヨンタクが現れる。彼は隠れていたふたりを見つけ出し、匿っていた男性もマンションから追放してしまう。他にも匿っている家庭はないかと執拗な捜査が始まり、見つかり次第、皆、叩き出され、その家のドアには赤色のペンキで線が引かれた。

 

閉鎖的で異様な環境に安堵しながら暮らす住民たちと権力を増していくヨンタクたち防衛隊。住人だけの王国が作り上げられる中、帰宅中に災害にあった若い女性、ヘゥオンが苦労の末マンションに帰って来た。それを機会に事態は思わぬ方向へと向かう…。    

 

映画『コンクリートユートピア』解説と感想

(C)2023 LOTTE ENTERTAINMENT & CLIMAX STUDIO, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

地盤隆起による生々しい災害シーンのあと、唯一崩壊しなかったマンションを中心に綴られる物語の最中、わたしたちは常に「自分ならどうするだろう」と問いかけることになる。

 

例えば、映画の序盤、桃の缶詰を手に入れたミンソン(パク・ソジュン)が、別のところから来て彼ら夫婦の部屋に避難している親子に隠れて、妻のミョンファ(パク・ボヨン)だけに食べさせようとするエピソードが描かれている。けれどきっちりみつかって、結局美味しい桃にありつけたのは子どもである。

勿論、普通の状況ならたかが桃じゃないかで済む出来事だろう。だが、今は世界が崩壊し、食料も完全に不足している状態なのだ。なんて遠慮のない母子なんだろうという思いがチラっとでも脳裏を過ってしまったら、私たちもまた人間性を問われ、最早、映画の中の世界と達観できなくなってくる。

 

映画の設定自体は『新感染半島 ファイナル・ステージ』(2020)といったアポカリプス映画を彷彿させるし、災害シーンは生々しく、暴力描写もハッと息を呑むようなリアルさに溢れていてパニック・スリラーと呼ぶにふさわしいが、主題は寧ろ「社会風刺」に近い。

 

まず、最も重要なのは、唯一、残った建物が「マンション=マイホーム」ということだ。これがゾンビ映画のようにショッピングモールだったとしたら全然意味が違ってくるだろう。

 

韓国では「家」は特別な意味を持っていて、「持ち家」を持つことが社会的ステイタスになり「家」への執着が強いと言われている。

キム・ジフン監督の『奈落のマイホーム』(2021)はせっかく手に入れたマンション=マイホームがシンクホールという災害で崩落するというパニック映画だが、ソウルに家を持つことの大変さなど韓国の住宅事情問題も味わえる面白さがあった。お金を貯め、念願のマイホームを手に入れた主人公は会社の部下を招待し、部下もお祝いに駆け付ける。勿論、全ての人々がそうしたことを慣例にしているとは言えないだろうが、持ち家を持つことの「めでたさ」と「誇り」がここには存分に現れている。

 

また、2021年の『おひとりさま族』(監督:ホン・ソンウン)という作品ではヒロインの隣の部屋を購入しようとやって来る男性が描かれている。彼は結婚のために家を用意しなくてはいけないのだ。韓国では結婚する場合、男性が家を用意するという決まりがあるらしい。こうした慣例も徐々に緩んでいると推察できるが、2021年の映画でもこうした描写があるということは社会に深く根付いた慣習なのだろう。

そして、人気ドラマ『賢い医師生活』で医師が不動産詐欺にあうエピソードがあったように、詐欺も多いという。『コンクリートユートピア』でも不動産詐欺が大きな意味を持ってくる。

 

このように家を持つことへの執着が社会に根強くある中、やっとの思いで家を手に入れた人々の「マイホーム」を他者にかき乱されたくないという気持ちが究極の形で現れるのが、『コンクリートユートピア』と言う作品なのだ。

 

さらにマンションによって格差があり、本作に登場する「ファングンアパート」は、どちらかといえば「高級」とはいえないものであることが伺える。もっと高級なマンションは崩壊してしまい、普段、自分たちを下に見ていた人々が災害により押し寄せてきている状態に住民たちは平静でいられない。彼らが他所から紛れ込んで来た人々を「ゴキブリ」と称して追い出そうとするのは苦労して手に入れた「家」を守りたい一心によるもので、究極の状態の中、徐々に人間性を失っていく姿が描かれている。  

 

もう一つ、本作の基調となっているのは「家父長制」である。当初、イ・ビョンホン扮するヨンタクは、演説のためのメガホンもまともに取り扱えない頼りなさげな人物だったが、臨時代表に選ばれ「ファングンアパート」の“父”となったことで権力を得て、我が家を守るために暴走していくことになる。ネタバレになってしまうのであまり詳しくは書けないのだが、彼は「家父長制」に寧ろ苦しめられていた立場から別の自分に生まれ変わったことでおそらくこんな状況にも関わらず最善の時を過ごすこととなるのである。

 

ヨンタクは「家族を守るのは父親の務め」という台詞を吐き、マンションを住民たちだけのものとして部外者を徹底的に排除する。愛する妻を守りたいミンソンは彼に感銘を受け始め、”父“の意向を体現する良くできた”長男”になっていき、皮肉にもミヨンファとの間に溝が生まれてしまう。

 

ミョンファはなんとか生き残った人々同士、手をとりあえないかと考えているのだが、間違ったリーダーが生まれてしまったせいで、彼女のような人々の思いは踏みにじられていく。何軒かの人々が、見るに見かねて外から来た人々をかくまっていることは、本作においては救いでもあるのだが、彼らが見つかり、追放されていく姿は第二次世界大戦下のユダヤ人と彼らを匿った人々の姿を彷彿させる。

 

ここには「政治」の問題がある。ヨンタクが代表に選ばれたのはキム・ソニョン扮するマンションの婦人会の会長の鶴の一声だった。放火された部屋に飛び込んだ彼の雄姿を見て、彼に決めたのだろうが、彼のことをよく知っていたとは言えない。代表を選ぶのに選挙をすべきではなかったか?!

 

さらに、住民以外の人々を受け入れるか、追い出すかを決める投票では明らかな不正が行われていた。これは現実の政治への皮肉が込められているだろう。また、婦人会の会長がもう少し懸命な人であったなら事態は変わっていたかもしれず、日頃、どういう人物を代表に選んでいるのかということに関して、我々があまりにも無関心であることへの警告がなされているとも取れる。

 

こうした社会批評を存分に取り込みながら、なおかつ、説教臭さのない手に汗握るエンターティンメントとして一流の作品に仕上がっているのはさすがと言えるだろう。

イ・ビョンホンはこれまでにない複雑なキャラクターを演じており、2023(第44回) 青龍映画賞・主演男優賞を受賞したのも納得である。

(文責:西川ちょり)

 

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