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Netflix韓国ドラマ『殺人者のパラドックス』(全8話)あらすじと評価/殺人犯の青年(チェ・ウシク)と彼を追う刑事(ソン・ソック)が織りなす善と悪の境界線

ウェブ漫画の原作を、映画『死体が消えた夜』(2018)、ドラマ『他人は地獄だ』(2019)などの作品で知られるイ・チャンヒ監督が映画化。

 

漠然と生きて来た平凡な大学生イ・タンは突発的な出来事から人を殺してしまうが、偶然の連続ですべての証拠が消えてしまう。殺人を繰り返す青年とそんな彼を執拗に追う一人の刑事を中心に、善と悪の境界に迫ったノンストップサスペンスドラマだ。

 

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イ・タンを『パラサイト 半地下の家族』(2016)や『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2019)でおなじみのチェ・ウシクが演じ、チャン・ナンガム刑事には映画『犯罪都市 THE ROUNDUP』(2022)やドラマ『私の解放日誌』(2022)など目覚ましい活躍をみせるソン・ソックが扮し、演技の火花を散らしている。

 

全8話で構成。2024年2月9日よりNetflixにて配信開始。  

 

目次

Netflix韓国ドラマ『殺人者のパラドックス』作品情報

© 2023 Netflix, Inc.

2024年製作/韓国/原題:살인자ㅇ난감(英題:A Killer Paradox)/(全8話)430分

監督:イ・チャンヒ 脚本:キム・ダミン プロデューサー:キム・ジョン 撮影:パク・セスン 配信:Netflix

出演:チェ・ウシク、ソン・ソク、イ・ヒジュン、キム・ヨハン、チェ・ソンウ、パク・ジハン、クォン・ダハム、ヒョン・ボンシク

 

Netflix韓国ドラマ『殺人者のパラドックス』あらすじ

© 2023 Netflix, Inc.

イ・タンは平凡な大学生。兵役を終え、無気力で退屈な毎日を送っていた。勉強にも身が入らず、ワーキングホリデーでカナダにでも行こうかと考えているのだが、親に話しても、真面目に取り合ってもらえない。

 

コンビニエンスストアでアルバイトをしていると、たまにやっかいな客が来る。その夜も酔っぱらった老人が煙草を買いにやってきたが、きちんと金を払わず、その上、給仕までさせようとする。タンがきちんと金を払って下さいと言いに行くと、老人と一緒にいた中年男性が、代わりに支払ってくれた。

 

後始末を終えて帰路についたタンは、あの老人が裏通りで倒れているのを発見する。連れの中年男性が近くにいたので、タンは彼に「おじいさんが倒れていますよ」と声をかけた。男は老人を助ける様子もなく、あろうことか立ち去らないタンに腹を立てて、彼の頬を殴り始めた。

 

殴られながら、タンは高校時代に虐められていた屈辱の日々を思い出していた。そして気づけば、コンビニで借りたハンマーをバッグから取り出し、男の頭に思いっきり振りおろしていた。

 

男は頭から血を流して死んでいた。呆然と立ち尽くすタン。と、そこにサングラスをかけ、盲導犬に付き添われた女性が通りかかった。犬が女性を死体の方にひっぱって行ったのでタンは息を呑んだが、女性は犬に声をかけながらそのまま気づかずに帰っていった。

 

家に戻った彼は罪悪感にさいなまれていた。しかし、あるニュース速報が彼に安堵感を与える。彼が殺した男は、実は指名手配中の連続殺人犯だったのだ。

 

翌日バイト先に向かうと、チャン・ナンガム刑事が、店の防犯カメラをチェックしにやって来た。刑事は死んだ老人と会話を交わしたタンにいくつか質問をしていった。刑事の鋭い目つきにタンは不安を覚える。なにより、ハンマーを借りると言って、引き出しから取り出すところがカメラに写っているのではないかと気が気でない。ハンマーを借りたのは額縁に入ったカナダのロッキー山脈の絵を部屋に飾るためだったのだが・・・。

 

ところがなんという偶然か、タンがハンマーを取り出した瞬間、カメラにはハエがとまっていて、タンの姿を隠していたのだ。そしてなぜか凶器のハンマーも見つかっていなかった。警察は男同士が喧嘩した結果、ふたりとも死に至ったと結論せざるを得なかった。

 

被害者が指名手配中の凶悪犯だったことがわかり、警察の無能さを批判する声が高まっていた。チャン・ナンガムは、上司から単独行動を控えるように注意される。ナンガムには、ずっと追っている人間がいた。その犯罪者は元刑事だという。

 

そんなある日、タンがバイトをしていると、一人の女性がレジに並んだ。それはあの時、盲導犬と一緒にいた女性だった。彼女はタンに実は自分は片方だけ目が見えていて全部観ていたのだと言う。さらに凶器のハンマーは犬がくわえて持ち帰ったとも。殺人のことを黙っていて、ハンマーを返してほしいなら、金を払えと言う。

 

タンは必死で金を集め、コンビニの店長にも頼み込んで前借りさせてもらい、なんとか女の要求額を揃えて、指定先の住所を訪ねた。

 

そこは女の自宅で、彼女はその大きな家に一人で暮らしているようだった。金を受け取った女は、これから毎月、同じ額を払うよう要求してきた。そんな金を払えるわけがないとパニックになったタンは机の上に置いてあったハンマーを思わず掴むと女の頭に振り下ろしていた。

 

気がつくと女は頭から血を流して絶命していた。タンは返り血を浴びたまま、あわてて家を飛び出した。

 

二人も殺してしまったタンは一歩も家を出なくなり、何も食べず、罪悪感と恐怖で震えていた。もう死ぬしかないと首を吊ろうとするがうまくいかない。ところが、彼が殺した女もまた連続殺人犯であることが判明する。自宅の庭を盛んに犬が掘るので、刑事が近づくと、人間の骨らしきものが見えた。女はここに殺害した家族の遺体を埋めていたのだ。

 

チャン・ナンガムは女がタンのコンビニ周辺に姿を見せていたことを掴み、再びコンビニにやって来る。店長から女の様子を聞いたあと、イ・タンのことを尋ねると、店長は前借りを許した途端、姿を消したとカンカンだ。

 

女性宅の現場からはなんの指紋も発見されなかった。犬がすべて舐めていて、証拠は全部消えてしまったのだ。まったく犯人の手がかりが掴めず、警察は焦り始めるが、そんな矢先、新たな殺人事件が起こる・・・。  

 

Netflix韓国ドラマ『殺人者のパラドックス』解説と感想

© 2023 Netflix, Inc.

第一話の前半は、「サスペンススリラー」とは思えない、ゆるゆるとした展開で始まる。大学生のイ・タンは、人生に希望が持てず、何をするにも無気力で終始冴えない表情をしている。ところがある日、突発的に人を殺してしまい人生が変わってしまう。イ・タンに扮しているのはチェ・ウシクで、頼りなげな今どきの若者役がよく似合っている。

 

一方、そんなイ・タンの前に現れるのが刑事、チャン・ナンガムだ。演じるはソン・ソック。まさに強面の勘のいい、いかにも有能な刑事役にぴったりの配役だ。

 

ところが、回が進むごとに、キャラクターの性格が変貌していく。殺人を犯した当初は恐れおののき、悔いてばかりいたイ・タンだが、やがて積極的に殺人を犯す人間に変わっていく。悪と善の境界に立つ矛盾したキャラクターを演じるチェ・ウシクは顔つきも取り憑かれたようになり、腑抜けたようだった表情もキリっと引き締まってくる。

 

一方のソン・ソックは、当初は一匹狼の暴走系刑事のように見えていたのだが、ダーティ・ハリーばりのアウトローではないことが徐々にわかってくる。寧ろ、組織の中の一員として、人間味溢れる人柄がクローズアップされていくのだ。徐々にイメージが変わっていくキャラクターをチェ・ウシクもソン・ソックも難なくこなしているのを観るのは実に愉しい。

 

殺した相手がみんな犯罪者、しかもどいつもこいつもどうしようもないクズばかりというユニークな設定の中で、正義とモラルについての複雑な問いかけがなされ、観る者もまた、自身の倫理観を揺るがされながら、一体この物語はどんな着地点に向かうのだろうと目が離せなくなってしまう。

 

M・ナイト・シャマラン監督の『アンブレイカブル』(2000)を彷彿させるファンタスティックな要素も備えた本作は、とりわけ、イ・タンを悩ませる悪夢の中で、創造性をより発揮している。イ・タンが殺した悪人の血みどろの生首がしゃべるなど、シュールな幻覚がたち現れ、不穏で悪魔的な空気を作り上げている。

 

また、現在と回想シーンを巧みに交錯させる展開や、同じような形をした物体がシーンをつなぐマッチカットの多用、暴力シーンでのスローモーションなど映像にも見どころが多い。さらに、ソン・ソックの子供時代は、リアリティーを追求するために、ソン・ソックの過去の写真を集めてCGで作り上げたいというから驚きだ。  

 

中盤からは新しいキャラクターが登場してくる。元刑事というこの男とチャン・ナンガムとの因縁に焦点があてられるのだが、これがまた意外な方向に転がっていくので、最後まで息が抜けない。

 

ただ、この男の登場によって、イ・タンとチャン・ナンガムとの直接対決的な面が若干、薄れてしまったのは否めない。が、イ・ヒジュン扮するこの男は、主人公二人にも匹敵するほど強烈な個性の持ち主で、この男を介在させることにより、正義に確固たる信念を持っている刑事と、善と悪の境界線から「アンチヒーロー」として突き進んでしまう青年という異なった人物の対比がより鮮明に示されているとも言えるだろう。

(文責:西川ちょり)

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