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Netflix韓国ドラマ『ソンサン -弔いの丘-』(全6話)あらすじと感想・レビュー/ヨン・サンホ作品の助監督を務めたミン・ホンナムの初監督作は土俗信仰と殺人事件が絡むスリラー作品

存在すら忘れていた叔父の死の報せを受け、先山(ソンサン)の唯一の相続人となったユン・ソハの前に、自分も遺産を受ける資格があると異母弟と名乗る男キム・ヨンホが現れる。その日を境に不可解な出来事が彼女を襲い、事態は連続殺人事件へと発展する・・・。

 

『新感染ファイナル・エクスプレス』(2016)、『サイコキネシス 念力』(2018)、『新感染半島 ファイナル・ステージ』(2020) の助監督としてヨン・サンホ作品を支えて来たミン・ホンナムが本作で監督デビューを果たし、カルト宗教や民間信仰を絡めたミステリアスなスリラー作品に挑戦。ヨン・サンホは制作・共同脚本を務めている。

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主役のユン・ソハをヨン・サンホ監督のNetflixドラマ『地獄が呼んでいる』(2021)、Netflix映画『JUNG_E/ジョンイ』(2023)に連続出演し、2024年公開の『地獄が呼んでいる シーズン2』にも出演予定のキム・ヒョンジュが演じ、『JUNG_E/ジョンイ』、『ベイビー・ブローカー』(2022)、『人質 韓国トップスター誘拐事件』(2022)などで知られるリュ・ギョンスがキム・ヨンホを演じている。

 

また、キム・ヒョンジュとドラマ『車輪』(2022)で夫婦役を演じたパク・ヒスンが敏腕刑事チェ・ソンジュンに扮し、彼と確執のある年下の上司パク・サンミをNetflixドラマ『キングダム』などのパク・ビョンウンが演じている。

 

 全6話で構成。2024年1月19日よりNetflixで配信が開始された。  

 

目次

『ソンサン -弔いの丘-』作品情報

(C)Netflix

2023年製作/韓国/原題:선산(英題:The Bequeathed)/全6話/ 283分38秒

監督:ミン・ホンナム 製作:ヨン・サンホ 原作:カン・テギョン「선산」 脚本:ヨン・サンホ、ミン・ホンナム、ファン・ウンヨン 撮影:イ・ウィタェ 音楽:チェ・ミンジュ、キム・ドンウク 配信:Netflix

出演:キム・ヒョンジュ、パク・ヒスン、リュ・ギョンス、パク・ピョンウン、ヒョン・ボンシク、パク・ソンフン、キム・ジェボム、チョン・インギ、チェ・ユファ

 

『ソンサン -弔いの丘-』あらすじ

(C)Netflix

大学で非常勤講師として働くユン・ソハは、研究室に送られて来た書籍を複雑な思いで見つめていた。著者としてキム教授の名が記されているが、全てはユン・ソハがゴーストライターとして執筆したものなのだ。教授が専任教授に推薦してくれるかもしれないという一縷の望みが彼女の支えだった。

 

それからまもなくキム教授からパーティーの招待を受けたユン・ソハは夫のヤン・ジェソクと共に出かけて行く。招待されたのは自分たちだけだと思っていたソハは別の招待客がいることに違和感を抱いた。悪い予感はあたり、その女性が専任教授になったことが告げられる。キム教授は君の番も必ず来るから今は私を支えてくれと言い、ソハはそれを黙って聞くしかなかった。

 

ある日、そんなソハのもとに、叔父のミョンギルが亡くなったので確認に来て欲しいと警察から連絡が入る。あまりにも疎遠で、叔父がいることも忘れていたソハは夫と共に出かけ遺体と対面する。

 

ソハはミョンギルが先山(ソンサン)という名の山を持っていて、自分が唯一の相続人であることを聞かされるが、あまりにも思いがけないことで戸惑うばかりだ。

 

チンソン村の村長ソンスはソハたちに近づき、葬儀の準備は村で行うと告げる。葬儀の当日、村人は飲めや歌えやのお祭り騒ぎだ。そんな中、ソハ夫婦のもとを訪れたのは、ソハの異母弟と名乗るキム・ヨンホという男だった。彼は自分も先山を相続する権利があると主張する。

 

ソハは高校生のころ、母が再婚するという話を聞かされ、思わず家を飛び出し、父に会いに行った時のことを思い出していた。父はソハたちを捨てて別の家庭を持っていた。そこには小さな男の子の姿があった。忘れようとして心を閉ざしていた辛い思い出がソハの中で蘇った。

 

その頃、警察はミョンギルは大量のタリウムを盛られて殺されたと断定。殺人課の班長であるパク・サンミたちがミョンギルの家に向かうとそこには既に部下のチェ・ソンジュンが来ていた。サンミはそのことが腹立たしくてならない。どうやら二人の間には確執があるらしく、サンミの脚が悪いのも二人の間に起こったことと何か関係があるようだった。

 

チンソン村から車で帰宅している途中、夫から教授昇進がダメになったことをなじられ、腹を立てたソハは離婚を切り出した。夫はかねてから職場の若い娘と浮気しており、証拠の写真を突きつけると、あろうことか夫は居直り始めた。

 

ソハは夫を車から降ろしそのまま立ち去る。置き去りにされた夫は文句を垂れ乍ら歩を進めていたが、彼の背後に近づく影があった。夫は猟銃で撃たれ、翌日、無残な遺体となって発見される。

 

身内の死が続き、葬儀に来た同僚たちが陰口を叩く中、一人の男がソハを訪ねてやって来た。夫の素行調査を頼んだお助け本舗という便利屋を営んでいるカン・ホンシクと言う男だった。今やソハが頼れるのはこの見るからに胡散臭そうな男しかいなかった。

 

彼が帰ったあと、再びキム・ヨンホが現れる。彼はその後も執拗にソハを追い回し、ソハの家のドアに鶏の血で描いた奇怪な絵を残して去る。

 

警察はキム・ヨンホを拘束し、ヤン・ジェソク殺害の件に関しても追及するが・・・。  

 

『ソンサン -弔いの丘-』解説と感想

映画の冒頭、荒涼とした土地をマッコリを片手に歩く老人の姿が映し出される。送電用鉄塔が聳える寒々とした風景ほど孤独を感じさせるものはないかもしれない。そんなふうに感じられるのはルカ・グァダニーノが人喰いの若者たちを描いた映画『ボーンズ アンド オール』(2022)の冒頭の風景を連想してしまうからだろうか。ともあれ、老人は罵詈雑言を呟きながらよろよろと前に進み、やがてばったりと倒れる。後にマッコリの中にタリウムが入っていることが判明。殺人事件として捜査が開始される。

 

序盤から伝統的な悪魔祓いのシーンが挿入され、事件の背後にカルト宗教や民間信仰があることを伺わせる。韓国型ホラーorスリラーのセオリーとも言える展開で、いかにも怪しげな村長の登場や、葬儀の際に妙に浮かれた村民たちの様子からは、本作も「辺鄙な田舎の因襲もの」を想像させる。しかし、老人を殺した犯人があっさり判明するなど、前半はどこに物語が進んで行くのか見えない面白さがある。

 

禍々しい描写があるにはあるが、寧ろ、田んぼの中に墓がぽつんとある風景や(貧しいゆえに共同墓地が買えない場合このような例が多々あると説明される)、民家の前に何やらよくわからない荷物が無造作にごろごろ置かれている光景こそが得体の知れない怖さをより伝えているといえるだろう。

 

さらに主人公のユン・ソハがスマホでメッセージを送っている場面では、一方的にソハからのメッセージだけが続いている画面がアップで映し出されるが、ふいに「既読」の文字が現れ、「会いましょう」というメッセージが浮かび上がる。相手が死んでいることを私たちは既に知っているわけでゾクっとさせられる場面だ。特に凝った演出があるわけでもなく別になんてことのないありふれたシーンなのだが、にも関わらず怖さを感じさせるのはミン・ホンナム監督がサスペンスのディテールを丹念に積み重ねて来たことのなせる業だろう。

光の使い方や、俯瞰を多用したカメラワークなどが緊迫した画面を作り上げ、いくつにも重なる「先山」の壮大な眺めは、儚く美しく見える一方、重々しく息苦しさを感じさせもする。「相続」というものが個々の人にとってどういう意味を持っているかを表しているかのようだ。

 

また、それぞれのキャラクターが克明に描かれているのも本作のみどころのひとつだろう。キム・ヒョンジュ演じる主人公のユン・ソハは、ティーンエイジの時代に父親が家を出て行ったため人生の苦渋を味わい、今は大学で非常勤講師をしながら教授職につく夢を持っているが、教授からいいように利用され、夫は浮気をしている。教授職も別の女に奪われ、女からは不幸な血縁を揶揄される。さらに不動産購入を持ち掛けて来る詐欺師が現れる、とまぁ不幸のオンパレードである。  

 

正直、一話、二話あたりは彼女の周囲の不愉快な登場人物たちのせいで観ていていらいらさせられることが多かったのだが、キム・ヒョンジュはユン・ソハを類型的な人物に落とし込まず、深みを与えたキャラクターに仕上げていてさすがである。

 

中盤からは、土着スリラーの味わいは薄れ、犯人捜しのミステリ要素が増してくる。ここで活躍するのが刑事役のパク・ヒスンだ。パク・フンジョン監督作などではいつも悲壮な運命を背負うキャラクターを演じる彼だが、ここでも重い心の傷を背負っている人物、チェ・ソンジュンとして登場する。そんな彼以上に悲壮なのが、パク・ビョンウン扮するパク・サンミである。片脚が悪く杖をついている彼は、ソンジュンよりも年下の上司だが、二人の間には過去に何かがあったらしく、サンミはソンジュンを敵対視している。しかし、ソンジュンはきわめて優秀でサンミは極めて愚鈍なのだ。その差が可視化される度、自分をみじめに感じる姿が実に痛々しい。

 

そんな二人のサイドストーリーは、やがて、本作の最大のテーマへと合流していく。土俗信仰と殺人事件の謎を巧みに絡め、ホラー、スリラー、ミステリーといった様々なジャンルを横断しつつ紡ぎ出されるのは、「家族」というテーマである。果たして歪な家族の秘密はどのような結末を迎えるのか。

ミステリーの解決に正当な決着をつけようとするあまり終盤多少間延びするのは否めないが、6話一挙見して、寝不足になる値打ちは十分にある作品である。

(文責:西川ちょり)

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