身に覚えのない殺人の容疑をかけられたIT企業社長が、“無罪率100%”の敏腕女性弁護士を雇い真相に迫る映画『告白、あるいは完璧な弁護』は、韓国興行収入 初登場第1位を記録した極上のミステリー・サスペンスだ。
依頼人であるIT企業社長ユ・ミンホには、映画『Be With You〜いま、会いにゆきます』(2018)や、人気ドラマ『ドクター弁護士』などの作品で知られる人気俳優ソ・ジソブ、敏腕弁護士ヤン・シネには、海外ドラマ『LOST』や『ペーパー・ハウス・コリア:統一通貨を奪え』の出演も話題の国際派女優キム・ユンジンが扮し、演技の火花を散らしている。
また、ガールズグループ「AFTERSCHOOL」のメンバーで俳優としても活躍しているナナが、重要なキャラクターを演じているのにも注目だ。
監督のユン・ギョンソクは、本作で第42回ファンタスポルト・オポルト国際映画祭監督週間部門最優秀監督賞を受賞している。
目次
映画『告白、あるいは完璧な弁護』作品情報
2022年製作/105分/韓国映画/原題:자백(英題Confession)
監督・脚本:ユン・ギョンソク 原作:スペイン映画『インビジブル・ゲスト』(2016/原題:Contratiempo) 制作:リアライズ・ピクチャーズ
映画『告白、あるいは完璧な弁護』あらすじ
サイバーセキュリティーを専門とするIT企業の青年事業家ユ・ミンホは、財閥の末娘を妻とし、誰もがうらやむ生活を送っていた。
にもかかわらず、ユ・ミンホはキム・セヒという女性と長らく不倫関係にあった。誰にも気づかれないうちにその関係に終始符を打ったユ・ミンホだったが、ある日突然何者かから不倫のことで脅迫を受けた。
犯人が指定したホテルに着くと、キム・セヒがすでに部屋に来ていた。彼女も同じように何者かから呼び出されたのだ。
一時間待ったが誰も来ず、パトカーの音が近づいてきた。何かがおかしいと感じたユ・ミンホはセヒに部屋を出るぞと声をかけるが、その途端、何者かによって鏡に叩きつけられてしまう。
激しくドアを叩く音がして意識を取り戻したユ・ミンホは隣の部屋でキム・セヒが死んでいるのを発見する。思わず「助けてください」と彼が叫んだ時、ドアをけ破った警官たちがなだれ込んで来てユ・ミンホは逮捕されてしまう。
彼は無実を訴えるが、殺人のあった部屋は中から鍵がかかった密室状態で、誰かが潜んでいたとは考えられず、ユ・ミンホは非常に不利な状況にあった。保釈を許された彼は無実を証明するために勝率100%の辣腕女性弁護士ヤン・シネに弁護を依頼する。
雪の降る人里離れた山奥の別荘でふたりは対面した。ヤン・シネは完璧な弁護をするためには、正確に事件の全てを話してもらわなければならないと伝え、検察は新たな証人をみつけたらしいと告げる。
一体、どんな証人を連れて来るというのか。戸惑うユ・ミンホの前にヤン・シネは一枚の紙を差し出した。
それはハン・ソンジェという青年の行方を捜しているという尋ね人のポスターだった。
ユ・ミンホは戸惑いながらも弁護士に促されてキム・セヒとの逢瀬でこの別荘を訪れたときのことを告白し始める。帰り道、車を運転していたキム・セヒは突然飛び出してきた鹿を避けようとして、ハンドルを切り、対向車と危うくぶつかりそうになった。
ユ・ミンホも、キム・セヒも無事で、車にも傷はなかったが、対向車に乗っていた男性は死亡していた。
ユ・ミンホは警察に連絡しようとスマホを取り出すが、キム・セヒに制止される。その時、車の音がして、別の車が近づいてくるのがわかった。
キム・セヒは咄嗟に男性の車の前に立ち、ユ・ミンホの車とちょっとした接触事故があった風を装った。
通りかかった小型トラックの運転手は大丈夫かと声をかけてきてなかなか立ち去らなかったが、そのまま行ってしまった。
もしかしたら、新たな証人とはこのトラックの運転手なのだろうか。ならば、検察側もこの交通事故のことを嗅ぎつけたのだろうか。
隠していたもうひとつの事件が浮かび上がる中、被疑者と弁護士は、事件を検証しながら、無実を勝ち取る方法を探っていくが・・・。
映画『告白、あるいは完璧な弁護』の感想・評価
本作はスペインのオリオル・パウロ監督によるミステリー&スリラー映画『インビジブル・ゲスト』(2016/原題:Contratiempo)のリメイク作品だ(日本では『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』というタイトルでU-Nextで配信中)。
スペイン産ミステリー映画の韓国リメイク作品といえば、イ・チャンヒ監督のデビュー作『死体が消えた夜』(2018)を思い出す。同じくオリオル・パウロ監督の2012年のサスペンス・ミステリー映画『ロスト・ボティ』(原題:EL CUERPO)をリメイクしたもので、かなり良くできた作品だったが、『告白、あるいは完璧な弁護』も、終始緊張感に溢れた見事なサスペンス・ミステリー映画に仕上がっている。
ミステリ作品なので紹介の仕方がかなり難しいのだが、ネタバレしないように気を付けながら、本作の魅力を分析していきたい。
冒頭、保釈されたユ・ミンホをマスコミが待ち受けているが、ユ・ミンホはまず背中を見せてスクリーンに登場する。一方のヤン・シネも、同様に背中を向けており、車を運転する彼女の顔が正面からとらえられるまでずっと後ろ姿だけが映し出されている。
それはその後、彼らの顔が映画の主題になっていくための助走のようなものだろう。
雪深い山奥にある別荘を舞台に、被疑者で依頼人のユ・ミンホと辣腕弁護士のヤン・シネが対峙する。
「密室殺人」、「不可能犯罪」という、依頼人にとって極めて不利な案件。勝つためには真実を全て話さなくてはならないと迫る弁護士と、隠したい秘密があるらしき依頼人。真犯人の推論や自白の信ぴょう性を巡って、パズルを組み立てていくふたりのそれぞれのクローズアップからは様々な感情が伝わって来る。
微妙な目線の変化や細かな表情など、ユ・ミンホに扮するソ・ジソプと、ヤン・シネに扮するキム・ユンジンの演技対決ともいうべき心理戦のひりひりした感じがたまらない。会話の応酬は二人の人物の権力争いのようでもある。
フラッシュバックで語られる「真実」は何度も反転し、反転するたびに緊張感が高まっていく。
オリジナル作品と比較すると、結末をはじめ、いくつかの改変がなされているが、一番注目すべきはナナが演じているキム・セヒという女性の出番を凝縮し、フラッシュバックの中での重要なキャラクターに据えたことだ。物語が反転するごとにまったく違った顔をみせる彼女。そのことによって依頼人と弁護士との心理戦がより際立ってくる。
極上のミステリ小説のページを一枚、一枚、めくっていくような興奮を味わえる本作。映画の序盤、ヤン・シネが「想像力」を使えと言って、「証言に想像力とは何事か」とユ・ミンホとぶつかる場面があるが、本作自体が想像力と洞察力に溢れた物語といえるだろう。
観る者もまた、頭をフル回転させ、登場人物たちと共に真相を追う知的な快感が味わえる極上のノワール・サーガだ。