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韓国映画『君だけが知らない』あらすじ・評価・感想 / ソ・イェジ&キム・ガンウ主演の極上サスペンス(ネタバレなし)

登山の最中過って転落し病院に担ぎ込まれた女性は、かろうじて命を取り止めたものの記憶を失っていた。優しい夫に支えられ、無事退院した彼女だったが、不可思議な幻覚に見舞われると共に様々な疑念に襲われる。

映画『君だけが知らない』は、2021年公開時に韓国ボックスオフィス初登場NO.1を記録した緊張感溢れる韓国製サスペンスだ。


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監督を務めたのは女性監督のソ・ユミン。『八月のクリスマス』などのホ・ジノ監督のもとで助監督や脚本を手掛け、本作にて長編監督デビューを果たした。

人気ドラマ『サイコだけど大丈夫』のソ・イェジが記憶喪失の女性を演じ、その相手役に、映画『死体が消えた夜』(2018)、『ニューイヤー・ブルース』(2021)などで知られるキム・ガンウが扮している。

 

 

目次

 

映画『君だけが知らない』作品情報

(C)2021 CJ ENM. All Rights Reserved.

2021年製作/100分/韓国映画 原題:내일의 기억 (英題:Recalled) 監督・脚本:ソ・ユミン  撮影:キム・ギテ 

出演:ソ・イェジ、キム・ガンウ、パク・サンウク、ソンヒョク、ヨム・ヘラン、ペ・ユラム、キム・ジョング、コン・ユリム、キム・ガンフン、キム・ジュリョン  

 

映画『君だけが知らない』のあらすじ(ネタバレなし)

(C)2021 CJ ENM. All Rights Reserved.

登山中に墜落事故に遭い、記憶を失ったまま目覚めたスジン(ソ・イェジ)は、夫ジフン(キム・ガンウ)の献身的なケアのおかげで体は徐々に回復し、ついに退院の日を迎えた。しかし、マンションの10階の自宅に戻っても何も思い出すことができない。

ジフンはまもなく2人はカナダに行く予定なのだと語る。壁にかかっている絵はカナダのバーミリオン湖を描いたもので、カナダ行きを言い出したのはスジンだと言う。

 

ある日、スジンがエレベーターに乗っていると、3階でひとりの少女が乗り込んできた。スジンは少女に微笑みかけるが、突然、頭の中に少女が道路に飛び出し、トラックにひかれそうになるシーンが浮かびあがる。

まさかと思いながら、少女を見守っていると、少女は道路の向こう側で手を振っている少年の方に行こうとして、飛び出し、そこにトラックがやって来た。スジンは思わず少女に向かって走り出すが、誰かの強い腕に引っ張られて、車道に倒れる。危ないところを助けてくれたのはジフンだった。

少女を探すと、無事渡れたようで、少年とふたりで並んで歩いている姿が見えた。ほっとしたのも束の間、この奇妙な体験はその後、何度もスジンを襲う。なぜ、自分は人の未来が見えるのだろうか。

 

そんなある日、彼女のもとに刑事がやってくる。スジンが虐待を受けていた可能性があると病院が知らせて来たので確認しに来たのだと言う。

スジンの腕や脚にはあざが出来ていて、それは事故より以前に出来たものだと病院側は報告していた。

身に覚えのないスジンは、そのような事実はないと告げ、警察も納得して立ち上がるが、その際、刑事の一人がつぶやく。「反対じゃないか?」と。彼の視線の先には、スジンとジフンの結婚式の記念写真があった。

 

外出したスジンは、賑やかな通りでひとりの女性に久しぶりじゃないと声をかけられ振り返る。スジンはこの女性のことも覚えていなかったが、昔の職場の同僚だという。

彼女によれば、スジンは絵画教室に勤めて子どもたちに絵を教えていたそうだ。教室まで案内してもらい、スジンはそれがうそでないことを知る。そんな大切なことをなぜ、ジフンは教えてくれなかったのか。

 

スジンの心に小さな疑惑が芽生え、それは次第に大きくなっていった。「わたしは何者? そしてあなたは何者なの?」  

 

映画『君だけが知らない』の感想・評価

(C)2021 CJ ENM. All Rights Reserved.

疑わしく怪しい夫といえば、ケイリー・グラントが夫を演じたヒッチコックの『断崖』(1941)を思い出す。ジョーン・フォンテイン扮する妻は、夫の行動を顧みるうちに、夫が自分を殺そうとしているのではないかという疑念に包まれていく。

また、記憶喪失を題材にした作品といえば、同じくヒッチコックの『白い恐怖』(1945)が思い浮かぶ。『君だけが知らない』はそうした古典的なミステリ作品のエッセンスをうまく応用しながら、観客を引き付けることに成功している。

 

『白い恐怖』は、記憶を失っているグレゴリー・ペックの精神状態を描くビジュアルにサルバドール・ダリを起用して、強烈なインパクトを演出したが、『君だけが知らない』は、ヒロイン、スジン(ソ・イェジ)の精神が錯綜している中で、彼女が身近に接した人の未来が見えるというアイデアが利いている。

 

監督のソ・ユミンは、ホ・ジノ監督のもとで長い間、助監督や脚本を手掛けてきた方で、脚本作にはホ・ジノ監督の『四月の雪』(2005)、『ハピネス』(2007)、『ラスト・プリンセス 大韓帝国最後の皇女』(2016)、チョン・ギフン監督の『恋するインターン ~現場からは以上です!~』がある。本作でも監督と共に脚本も担当していて、練りに練った作品に仕上げた。

 

ヒロインと夫が暮らす高層マンションの設定もこの映画の巧みさのひとつだ。このマンション、かつては人気の高い高級マンションだったようだが、年月が経つに連れ、次第に空きが目立ち始め、今ではマンションの前には「未入居物件セール」という広告が立てられている。退院した日もいきなり停電して、スジンはエレベーターに閉じ込められるという恐怖を味合わされている。

このエレベーターを中心にして、スジンはマンションの住人と出逢い、「未来を予知」するようになるのだが、このマンションなくしてはこの物語は成り立たないだろうというほど、舞台として絶妙なのだ。

 

ミステリーの構成の妙をこれ以上語ってしまうと、映画の面白さを半減させてしまう恐れがあるのでそろそろやめておくが、非常に緻密に考え抜かれ、構成された作品であることは強調しておきたい。

 

ただ、終盤にかけて映画がアクロバティックに二転三転する様や、そこから始まるメロドラマチックな展開はいささか冗長に感じてしまった。このあたり、評価が分かれるところだろう。

 

もっとも、ある謎を解き明かすラストシーンは、ソ・イェジ、キム・ガンウという役者の凛とした佇まいも相まって、非常に美しいものに仕上がっている。静謐な中に愛が溢れているのだ。そして、だからこそ、胸がキュっと痛むような、複雑な思いにかられる、忘れがたいシーンである。

(文責:西川ちょり)

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