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韓国映画『貴公子』あらすじ・感想/ 『海街チャチャチャ』で大ブレイクを果たしたキム・ソンホがユニークな殺し屋役で映画初主演を務めたパク・フンジョン監督の最新作

フィリピンで母のために違法な地下格闘のボクサーをしながら病気の母の治療費を稼ごうとしている青年マルコ。ある時、一度も会ったことのない父が彼に会いたいと連絡して来たため韓国に飛び発つが、彼を待ち受けていたのは謎の殺し屋「貴公子」と恐るべき陰謀だった・・・。

 

映画『貴公子』は、『新しき世界』、「The Witch/魔女」(2018、2022)シリーズでおなじみのパク・フンジョン監督の第9作目にあたる長編映画だ。韓国ノワールの第一人者であるパク・フンジョンらしい壮絶なアクションと強烈なサスペンスに、ユーモアが混じったユニークな作品に仕上がっており、予測のつかない物語が展開する。

 

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ドラマ『海街チャチャチャ』でブレイクしたキム・ソンホが映画初出演にして主演を務め、謎めいた殺し屋「貴公子」を熱演。マルコ役のカン・テジュも本作で映画初出演を果たした。  

 

韓国映画『貴公子』作品情報

(C)2023 GOLDMOON PICTURES & STUDIO&NEW. All Rights Reserved.

2023年製作/118分/PG12/韓国映画/귀공자 (英題:The Childe)

監督・脚本:パク・フンジョン 制作:パク・フンジョン、チョン・ギョンイク 製作総指揮:キム・ウテク 撮影:キム・ホンモク、シン・テホ、イ・テオ 照明:チョ・ヨンジュン 音楽:モグ 

出演:キム・ソンホ、カン・テジュ、キム・ガンウ、コ・アラ、チョン・ラエル

 

映画『貴公子』あらすじ

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フィリピンで暮らす貧しい青年マルコは、違法な競技場を転々とする地下格闘のボクサーだ。病気の母の手術費用をねん出するため試合に出続けているが、必要な金額にはなかなか達しない。

 

マルコが大方の予想を覆し勝利をおさめた夜、以前からの知人が近づいてきて強盗の手伝いを頼まれる。母の手術代の足しになればと躊躇しながらも引き受けたマルコだが、指定された場所に行くと、何人もの屈強な男たちが現れ、彼を取り囲んだ。マルコはひとりで大勢の男をなぎ倒しながら、必死で逃げている時、交通事故に遭って道路に放り出される。運転していた女性が車から降り、「大丈夫ですか」と駆け寄る姿を見て、追いかけて来た男たちは、あわてて去って行った。

 

マルコは軽傷だったが、女性は彼を病院に連れて行き、精密検査を受けた結果、特に異状なしと診断を受け、退院することに。女性は改めて事故を詫びた。彼女は韓国人で、ふたりは韓国語で言葉を交わした。

 

そんな中、マルコは韓国にいる父親が自分に会いたいと言っていると聞かされる。マルコはコピノと呼ばれる韓国系フィリピン人だが、これまで父親の姿を見たことがなかった。すぐに迎えが来ると聞き驚くが、母の手術費用を出してもらうため、彼は父に会う決心をする。

 

マルコは韓国行きの機内で、自らを「友達(チング)」と呼ぶ怪しい男と出会う。美しい顔立ちで不気味に笑う男はすぐに姿を消したが、マルコは不安にかられる。

 

韓国に到着したマルコを大勢の男たちが迎え、ものものしい雰囲気で車に乗せられた。マルコの父親は財団の責任者だと判明するが、今は病に倒れ、長男のハン・イサが采配を振るっていた。

 

父親のところに向かっていたマルコの車は、突然、襲撃を受ける。襲撃してきたのは飛行機で出会ったあの男だった。周りの人間が皆、次々と殺される中、マルコはひとり必死で森の中を走り、逃げようとするが、男は執拗にどこまでも彼を追って来る。

 

なんとか逃げのびたマルコの前に表れたのは、フィリピンで出会った韓国人の女性だった・・・。  

 

映画『貴公子』感想と解説

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パク・フンジョン監督は、キム・ジウン監督の『悪魔を見た』(2010)の脚本で頭角を現し、監督第二作にあたる『新しき世界』(2013)を大ヒットさせて、それまで興行的に難しいと言われていた「韓国ノワール」というジャンルを一大人気ジャンルに押し上げたパイオニアとして知られている。

有無を言わさぬ非情な世界、血まみれのアクション、息もつかせぬサスペンス、といったパク・フンジョンワールドは本作でも全開で、禍々しいほどのドス黒い一族の描き方もお手の物だ。

 

男だけの世界の美学を鮮やかに描く一方、女性にはまったく興味がないのではと思わせる面もあったが、『The Witch/魔女』 (2018)では、突然、キム・ダミとコ・ミンシの女子高生コンビのやり取りをコミカルに描いてみせ、思いがけない振り幅の広さを見せてくれた。もしかしてパク・フンジョン監督は青春学園ブコメも撮れるのではないかと実は密かに期待している。

 

映画『貴公子』は、『The Witch/魔女』で見られたそんな「コミカル」な面がよりパワーアップされたパク・フンジョン監督の新境地を開くものになっている。

 

作品の中心的役割を果たすのは、キム・ソンホ演じる謎の殺し屋だ。高価なスーツを颯爽と身にまとい、常にヘアスタイルを気にするダンディで、まさに「貴公子」。「プロだから」というのが口癖の凄腕の冷血漢だが、いつもひとなつっこい笑顔で、余裕をみせつつも、雨に濡れるのがいやで、傷を負うとひどく痛がって恥ずかしげもなく悲鳴をあげるというアンビバレンツなキャラクターだ。

この「貴公子」が従来の強面のイメージの殺し屋とは違うユーモラスな側面を見せることで、作品自体もシリアスとコミカルの二面性を持つユニークな作品に仕上がっている。

 

この殺し屋に執拗に追われるのが、母がフィリピン人で父が韓国人のフィリピン在住の青年、マルコである。マルコは生まれてこのかた一度も父の顔を見たことがない。そんな彼になぜか突然、父が会いたがっているという報せが届く。

 

韓国行きの飛行機の中で、マルコは「貴公子」と出逢い、韓国に着いた途端、追われる身となる。その必死で逃げ惑う姿は『北北西に進路を取れ』のケイリー・グラントをも彷彿させるくらいだ。さらに、マルコを追うのは、貴公子だけではない。『君だけが知らない』(2021)のキム・ガンウ扮するマルコの兄や、コ・アラ扮する謎の女弁護士等が、それぞれの思惑を抱えて入り乱れる。  

 

「貴公子」役のキム・ソンホも、マルコ役のカン・テジュも本作が映画初出演で、その溌溂とした演技が新鮮な魅力を発揮していると共に、まだ映画俳優としてのカラーがあまりついていない分、彼らが最終的にどこへ至るのかが想像しにくい面白さがある。新人発掘に優れた能力を持つパク・フンジョン監督ならではのキャスティングだろう。

 

執拗に追う貴公子と必死で逃げるマルコの追撃戦の中でもとりわけ印象深い、伝統的な韓屋が並ぶ狭い路地のロケ地は、全羅南道の谷城郡で、他にも済州島の漢拏山(ハルランサン)周辺など、韓国の様々な地域でロケが行われた。

 

「貴公子」という奇妙で最強のキャラクターの正体と、それぞれの人物の思惑が明らかになる様を終盤まで引っ張って行く構成も面白く、118分飽きることなく楽しめる一篇だ。

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