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韓国映画『破墓/パミョ』あらすじと感想/古くからの民間信仰を主題にした禍々しくも多層的な物語

裕福な一家から巨額の依頼を受けた巫堂のファリムと弟子のボンギルは、一家が苦しんでいるのは遺伝の病気ではなく先祖の墓が元凶だと改葬を勧めるが・・・。

 

2人の巫堂(ムーダン=朝鮮半島のシャーマン)と風水師、葬儀師が掘り返した墓に隠された恐ろしい秘密に直面する映画『破墓/パミョ』は、韓国で観客動員1200万人の大ヒットを記録したオカルト・サスペンススリラーだ。

 

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巫堂のファリムを、テレビドラマ『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』(2016)、映画『コインロッカーの女』などの人気俳優キム・ゴウンが演じ、風水師サンドク役に『オールド・ボーイ』(2003)などで知られる名優チェ・ミンシク、葬儀師ヨングン役に「コンフィデンシャル」シリーズ(2018、2022)や『マルモイ ことばあつめ』(2019)など幅広い演技を見せるユ・ヘジン、ファリムの弟子役に大ヒットドラマ『ザ・グローリー 輝かしき復讐』(2022)などのイ・ドヒョンがそれぞれ扮している。

 

『プリースト 悪魔を葬る者』(2015)『サバハ』(2018)で知られるチャン・ジェヒョンが、企画・監督・脚本を務め、第74回ベルリン国際映画祭でワールドプレミアとして上映され世界133か国で公開が決定。第60回百想芸術大賞では監督賞/主演女優賞/新人男優賞/芸術賞を受賞するなど国内外で高い評価を受けた。

目次

韓国映画『破墓/パミョ』作品情報

COPYRIGHT (C) 2024 SHOWBOX AND PINETOWN PRODUCTION ALL RIGHTS RESERVED.

2024年製作/134分/PG12/韓国映画/原題:파묘(英題:Exhuma)

監督・脚本・企画:チャン・ジェヒョン 撮影:イ・モゲ  照明:イ・ソンファン  美術:ソ・ソンギョン 衣装 チェ・ユンソン 音響:キム・ビョンイン 音楽:キム・テソン 編集:チョン・ビョンジン

出演:チェ・ミンシク、キム・ゴウン、ユ・ヘジン、イ・ドヒョン、キム・ジェチョル、チョン・ユンハ、キム・テジュン、イ・ジョング、キム・ジアン、キム・ソニョン

 

韓国映画『破墓 パミョ』あらすじ

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巫堂(ムーダン)のファリムと見習いのボンギルは米国ロサンゼルスに飛んだ。

 

後継ぎの長男が代々奇妙な病気にかかるという一家から巨額の依頼を受けたのだ。生まれたばかりの赤ちゃんもその症状で苦しんでいるという。

 

赤ちゃんの様子を見たファリムはこれは遺伝の病気ではなく血族への継承で、墓の居心地が悪くて先祖が暴れているのが原因だと指摘する。ファリムとボンギルはすぐに韓国に戻り、改葬のため風水師のサンドクと葬儀師のヨングンに協力を仰ぐことにした。

 

四人は、一家と共に、江原道の山中の墓を訪ねるが、裕福な一家の墓にしてはそれはあまりに簡素なものだった。墓石に名前すら刻まれていない(代わりに奇妙な数字が刻まれていた)。さらに一家の長男は棺ごと火葬してほしいと依頼して来て、四人を驚かせる。

 

サンドクは墓の周りを入念に観察していたが、あまりにも不吉な予感がするから改葬はできないといって帰ろうとする。ファリムはこういう場合は、“テサルお祓い”の儀式と同時に墓を掘り返すのが通説ではないかとサンドクを説得する。

 

ファリムとボンギルが儀式を行う中、集められた男たちが墓を掘り返した。出て来た棺は厳重に鎖が巻かれていた。火葬場に向かうため、棺を車に乗せるが、墓を掘り返した男のひとりが、足元に出て来た蛇のようなものをシャベルで殺した途端、雲が出て、急にあたりが暗くなり、激しい雨が降り出した。

 

雨がひどく降る中、火葬すると死者は安らかに眠れないと言われており、サンドクは今日は火葬できないと長男に告げた。棺は病院の霊安室に保管されることになるが、ヨングンが預かってもらうために賄賂を渡した病院の関係者が好奇心で棺を開けたため、祖父の魂が外に飛び出してしまう。

 

祖父は生前、親日派で朝鮮を売り飛ばした人物として知られていたという。悪地に埋葬され悪鬼となった祖父は、自身の息子と孫を殺害する。孫に乗り移った祖父の霊は「狐が虎の腰を切った」という謎の言葉を残した。

 

祖父の悪行はロサンゼルスの赤ちゃんにまで及ぶが、ファリムとボンギルは霊を棺の中に戻すことに成功し、棺は火葬された。危篤に陥っていた赤ちゃんは元気な笑顔を見せた。

 

しかし、それで万事解決というわけにはいかなかった。蛇を殺した労働者が祟られたらしいとサンドクに相談したのだ。その話を聞いたサンドクは墓にもう一度出かけていく。そこで彼は思いもしなかったものを発見し愕然とする・・・。

 

韓国映画『破墓/パミョ』感想と評価

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本作は、『プリースト 悪魔を葬る者』(2015)、『サバハ』(2018)で知られるチャン・ジェヒョン監督の最新作だ。

 

『プリースト 悪魔を葬る者』はキリスト教の悪魔祓いを、『サバハ』はエセ仏教(新興宗教)を主題にしたオカルト・サスペンススリラーだったが、本作『破墓 パミョ』も風水や巫堂などの古くからの民間信仰を題材にし、スリリングかつ重厚な世界が展開する。

チャン・ジェヒョン監督は短編映画『12人目の助祭』(2012)以降、この分野の作品を撮り続けており、いずれも質の高いエンターティメントに仕上がっていることから「韓国オカルト映画の職人」とも呼ばれている。

 

『プリースト 悪魔を葬る者』、『サバハ』は、いずれも主人公コンビに共感が持てたが『破墓 パミョ』も、主人公チームが抜群にいい。

 

『破墓 パミョ』の主人公は、韓国中の土地から相応しい墓を探す仕事をしてきた風水師のサンドク、お祓いを取り行う巫堂ファリムとその弟子ボンギル、改葬を仕切る葬儀師のヨングンの四人。

 

彼らは資産家の長男が代々奇妙な病に苦しむのは先祖の墓に問題があるとして、改葬するために集まったのだ。

 

韓国社会に未だに強く根付いている民間信仰や慣習に基づいた少々おどろおどろしくもある役割を担っている四人だが、それぞれの役割の確固とした専門性と、「金」あっての仕事という面から、どこかお仕事映画のような面白さも感じられる。

 

四人を演じる役者たちは、演技を感じさせない自然さで役になり切っており、とりわけキム・ゴウンは毅然とした力強さとしなやかさを終始保ち、お祓いの儀式で刃物を振り回し血まみれになりながら舞う姿は、『哭声/コクソン』(2016)のファン・ジョンミンにも引けを取らない。また、全身にタトゥーを刻んだボンギルを演じるイ・ドヒョンのクールな存在感も印象深い。ふたりは巫堂の師匠と弟子という関係性ではあるが、ほぼ対等に接し合っている。それはチェ・ミンシク、ユ・ヘジン演じるところのベテランの仕事人にもあてはまることで、彼らは互いの知識豊かな専門性に絶大な信頼を置いており、年齢による上下関係などない平等な関係を築いている。それゆえに観ている私たちも、彼らを全面的に信頼することが出来るのだ。

 

前半は裕福な一家の墓に隠された謎をミステリータッチで描いているが、まず、その墓の異様さに目を見張る。風水師と葬儀師はさすがに経験を多く積んでいることもあり、家族を前に「素朴な墓」と表現しているが、閑散とした風景の中に(風水的にも最悪の土地らしい)金持ちの墓とはとても思えないような貧相な墓石がぽつんと立っている光景にはえも言えぬ不安を覚える。まさに圧倒的な画だ。おまけに墓石には名前すら彫られていないのだ。これは一体どうしたことなのか。

 

不気味で謎に満ちた埋葬地から棺を掘り起こすと、予想以上の不吉な脅威が明らかになる。そこから起こる怪異の中でも、ホテルに滞在する先祖の孫にふりかかる災いのエピソードが秀逸である。

 

この先祖は親日派で朝鮮を売ったことで知られている男だった。映画の冒頭、機内でファリムが日本人に間違われて否定するシーンがあったように、怪異には「日本」にまつわる何かがあるとあらかじめ観客にヒントを与えながら、映画はさらにギアを上げていく。

 

後半になると真の意味での悪が恐ろしいクリーチャーとして出現する。恐怖はより具体的に、映画はより暴力的になり、その正体が語られていく様もおどろおどろしくアクロバティックで荒唐無稽にさえ感じられるものに変貌していくが、決して陳腐な安っぽさには陥らず、映画の勢いは増すばかりだ。

 

ある家族の個人的に見える事件から始まった物語は、都市伝説をストーリーに取り込み、抗日、反日のコードを使いながら、韓国の過去の呪縛と現在の恐怖という国家全体の問題を浮かび上がらせる。

 

四人の主人公たちは、そうした国を悩ませ続ける過去の亡霊と対峙し、悪夢を追い払うために死闘を尽くす。その行為は韓国の歴史の考察であり過去との対話でもある。

 

これにより、超自然的な世界が、多層的な物語として恐ろしいほどリアルに立ちあがって来る。勿論、ホラー好きにとって最高のエンターティンメントに仕上がっていることは言うまでもない。

 

 

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