森の中の貸別荘のオーナーが子連れの若い女性を客人として迎え入れたことで、夏ののどかな日々が不安で疑心暗鬼なものに変容していく。
Netflix韓国ドラマ『誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる』は、20年前、同じ町で起こったモーテルでの悲劇を絡ませながら、予想もつかない展開を見せる魅力たっぷりの本格サスペンス・スリラーだ。
貸別荘のオーナーに、映画『チェイサー』(2008)、『1987 ある闘いの真実』(2017)、『モガディシュ 脱出までの14日間』(2021)などの作品で知られる名優キム・ユンソクが扮している他、貸別荘にやって来た謎の女を映画『密輸1970』(2023)やドラマシリーズ『Sweet Home -俺と世界の絶望-』(2020~)のコ・ミンシ、警察署長を映画『パラサイト 半地下の家族』(2019)やドラマ『Missナイト & Missデイ』(2024)のイ・ジョンウンが演じている。
また、EXOのパク・チャンヨルが重要な役割を果たす人物を熱演するなど、豪華キャストが顔を揃えている。
新進気鋭のソン・ホヨンが脚本を務め、人気TVドラマ『夫婦の世界』(2020)のモ・ワンイルが監督を務めた。
韓国ドラマ『誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる』は、Netflixにて2024年8月23日より配信中。
目次
- Netflix韓国ドラマ『誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる』(全8話)作品情報
- Netflixドラマ『誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる』あらすじ
- Netflixドラマ『誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる』感想と解説
Netflix韓国ドラマ『誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる』(全8話)作品情報
2024年製作/全8話(465分)/韓国/原題:아무도 없는 숲속에서(英題:The Frog)
監督:モ・ワンイル 脚本: ソン・ホヨン 製作:キム・ジヨン、パク・ウラム 撮影:イ・ヨンジュ、カン・ムンポン 美術:チェ・ギホ 劇中音楽:Bobby "Blue" Bland - Ain't No Love In The Heart Of The City 制作:SLL、スタジオフロー
出演:キム・ユンソク、ユン・ゲサン、コ・ミンシ、イ・ジョンウン、パク・ジファン、リュ・ヒョンギョン、パク・チャンヨル、ハ・ユンギョン、イ・ソンウク、ナム・ジュン、ホン・ギジュン、チェン・ジョンフ、キム・ジョンテ、アン・サンウ、キム・ウォンスク
Netflixドラマ『誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる』あらすじ
ヨンハはソウルから少し離れた田舎町の森の近くで貸別荘を経営している。余命宣告された妻の夢を叶えるために始めた仕事だった。
その妻も亡くなり、今は無理せずマイペースの経営を続けているヨンハだったが、ある日、友人が経営する近くの宿の空調が壊れたせいでそこに泊まる予定だった客を代わりに引き受けることになった。
現れたのは、子連れの若い女性だった。シヒョンと名乗る少年は愛らしい子だったが、母親の方はどこかとっつきにくい冷たそうな雰囲気をまとっていた。
翌朝、女性は朝早く、代金を置いて出て行ったが、車には彼女の姿しかないように見えた。彼女たちが泊まった部屋に行ってみると、何もかもがきれいに片づけられていた。浴槽まできれいになっていてヨンハは驚くが、漂白剤の匂いがするのが気になった。
さらに彼女に使用することを許可したアナログレコードに血の痕が付いているのを発見する。
胸騒ぎがしてヨンハは貸別荘の前に停めている自分の車のドライブレコーダーを確認してみた。やはり女性はひとりで帰っている。誰かに預けたような形跡もない。子どもは一体どこに消えてしまったのか。
ソンアは警察に通報するべきか迷うが、逆に証拠隠滅をするかのように、浴槽を丁寧に洗い、LPの汚れを落とし、部屋の掃除を徹底的に行った。もし、この宿で殺人事件があったと世間に知られれば、もう商売は出来ずこの場所も手放さなくてはならないだろう。亡き妻の思い出に溢れた大切な場所をソンアは失いたくなかった。
その頃、町の警察署には新しい署長ユン・ボミンが赴任して来た。彼女は検挙率の高さで「鬼」と呼ばれる敏腕刑事でならした人物だが、20年ぶりに最初の勤務地に帰って来たのだ。
今から20年前の2001年7月。彼女は新人の駆け出し警官だった。彼女にとって初めての事件は今でも鮮明に記憶に残っている。
グ・サンジュンと妻のウンギョンは「レイク・ビュー」という名のモーテルを経営していた。眺めがよく、部屋も清潔で、接客も良いと評判になり、夫婦は忙しいながらも、充実した日々を送っていた。
或る日、大雨が降りしきる中、車で立ち往生していた男性にサンジュンは親切心から声をかけた。サンジュンは男性をホテルに招き、男性が望む通り、眺めのいい部屋に案内した。
ところがその男は世間を騒がせている連続殺人犯だった。彼はレイク・ビューのもっとも良い部屋で女性を惨殺。フロントを担当していたサンジュンが眠り込んでしまった間のことだった。死体を最初に発見したのは、サンジュンと交代でモーテルにやって来たウンギョンで、彼女からの通報を受けたのがユン・ボミンだった。
警察が到着する頃にはどこで聞きつけたのか、大勢のマスコミが押し寄せていた。モーテルは「殺人モーテル」と囁かれ、宿泊客は現れず、モーテルの買い手もつかない。一家は経済的に困窮し、中学生の息子はクラスメイトにいじめられ、被害者の無残な姿が頭から離れないという遺書を残してウンギョンは自殺してしまう。
犯人は捕まるが、反省の色は見えず、ユン・ボミンはなんとか一家を助けることはできないかと考えるが、どうすることも出来なかった。
2021年、夏。ヨンハはずっと不安な日々を送っていた。一年前、あの女が出て行った日、ソンアは赴任してきたばかりのユン・ボミンとたまたま遭遇したことがあったのだが、彼は何も言わずに立ち去ってしまった。
いつか、誰かが訪ねて来るのではないか。あの女か、はたまた警察か。彼はびくびくと毎日を過ごしていたが、誰も訪ねて来なかった。
その日はソウルで薬剤師をしている娘が婚約者とその両親と一緒に別荘にやってくる日だった。約束よりも早く車が停まる音がして、やけに早いなと外に出たヨンハは車に一年前のあの女が乗っているのに気が付く。
泊まりたいという彼女に先約があり泊められないと断るヨンハ。そこへ娘と婚約者親子がやって来た。娘は、自分たちは夕食を食べたら帰るからと言い、父に女を泊めてあげるよう促した。娘たちの手前、ヨンハはきつく断ることが出来なかった。
こうして女は再び客となった。彼女は一年前に来た時は水は苦手だと言っていたのに、平然とプールに潜って見せた。ヨンハは彼女に子供をどうしたのかと問い詰めるが、女はヨンハに向かってあなたは証拠隠滅の共犯者だと不敵な笑みを浮かべながら応じた。
ヨンハと女(ソンア)の対立はやがて、周囲を巻き込み、思いもよらぬ災難を招くことになる・・・。
Netflixドラマ『誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる』感想と解説
ドラマはまず、貸別荘のオーナーであるチョン・ヨンハ(キム・ユンソク)の日常を描くところからスタートする。あまり商売っけのない彼は、客が少ないことにも動じず亡き妻との思い出にひたりながら静かに暮らしていた。ところがある日、謎めいた女性ユ・ソンア(コ・ミンシ)とその息子を泊めたことがきっかけで人生が一変してしまう。
さらに物語は2001年に遡り、「レイク・ビュー」という名のモーテルを経営するグ・サンジュン(ユン・ゲサン)と妻のウンギョン(リュ・ヒョンギョン)に焦点があてられる。
忙しいながらも充実した日々を送っていた夫婦の人生がある男性客の来訪で一変する。男はモーテル内で陰惨な殺人事件を犯したのだ。
このように『誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる』は、2020年の「現在」と20年前の「2001」年という2つの時間軸を交錯させながら進行していく。
現在の2020年の主人公であるヨンハは、貸し別荘を「事故物件」にしたくないがために女が行った犯罪を隠蔽する行為に走る。その行動に説得力を与えるため、あるいは正当化させるためにこの20年前の悲劇が平行して描かれているのだろうかなどと思いながら当初は見ていたのだが、20年前の事件はやがて「現在」の2020年の事件にも深く関わって行くこととなる。
こうした展開も含め、本作の最大の魅力はまったく先が読めないところにある。大雨の日に立ち往生する車がモーテルへ、といえば、まさにヒッチコックの『サイコ』なわけだが、殺人鬼が客を持ち構えているのではなく、来た客が殺人鬼だという真逆の設定となっているように、サスペンス・スリラー映画に対して私たちが常識と考えているものや思い込みを軽やかに覆していく。昨今のこの手のジャンルの韓国ドラマの中では屈指の出来栄えと言ってもいいのではないか。
コ・ミンシとキム・ユンソクの関係も、単なる悪女と悪女に翻弄される中年男という関係を超え、時に、まるでスクリューボールコメディのように相手を打ち負かし合う男女として登場したり、別荘の所有権を巡る2人のバトルがスラップスティックに描かれたりと、まさかの展開を見せる。「怖く恐ろしい」だけでなく「キュート」な面も見せるコ・ミンシと、弱さと強さとしぶとさを全開させるキム・ユンソクがとにかく素晴らしい。
海女さんたちが主人公の映画『密輸 1970』では、ひとり、泳げない喫茶店オーナーを演じていたコ・ミンシが、プールでいきなり潜水を始める。その様子をカメラも潜って撮り、また、水中からコ・ミンシの視点でキム・ユンソクを見上げるショットへとつなぎ、プールの情景を俯瞰で撮ったシーンも重ねることで、2人の演技バトルとはまた違った対決の構造を見せている。
青いプールがやがて赤に染まったり、コ・ミンシの車が赤から青に替わったり、コ・ミンシが描く絵の原色の味わいや彼女が好んで作るトマト料理や赤ワインなど、ビビッドな色彩も効果を上げている。
終盤にはド派手な驚くべき展開が待っており、エンターティンメントとして振り切った面白さを爆発させている本作だが、実は真摯なテーマを内包している。
犯罪が起こった時、被害者と加害者、あるいは被害者家族と加害者家族というところまでは想像できたとしても、いわゆる「事故物件」を背負わされることになったオーナーたちといった巻き込まれた人々の苦悩まではなかなか想像が及ばないのではないか。
『誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる』という作品タイトルは、たまたま事件に巻き込まれたせいで、直接の被害者ではないにも関わらず、人生が崩壊してしまい、その苦悩を想像もしてもらえない人々がいることを指しているといえるだろう。
また、本作は、苦悩して自分を責める人々に対して、これはたまたま石が飛んできて当たったカエルと同じで、あなた方は悪くないのだとキャラクターの一人に語らせてもいる(本作の英題は「The Frog」)。
その人物とはユン・ボミンという警官で、若き日のユン・ボミンを「賢い医師生活」シリーズ(2020-2021)や、『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(2022)などの人気ドラマで知られるハ・ユンギョンが務め、現在のユン・ボミンを映画『パラサイト 半地下の家族』などのイ・ジョンウンが演じている。彼女は2つの時間軸をつなぐキーパーソンでもある。
ここでは「事故物件」や「殺人鬼」といったものに好奇な気持ちが先行してしまい、その背後にいる人のことを想像することができない人間や社会の浅はかさに対する怒りが込められていると同時に、誰からも手を差し伸べられず崩壊していく人々への一途な眼差しがある。
「すべての人を疑う」というユン・ボミンの言葉は警察官としての心得の表われでもあるのだろうが、全ての人に目を向け、見逃さないということを意味しているともいえるだろう。