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映画『サイコ』あらすじ、レビューと解説/スラッシャー映画の原型と評されるヒッチコックのサイコサスペンスの傑作

映画『サイコ』は、”映画の神様”、”ミステリ・サスペンスの帝王”と称されるアルフレッド・ヒッチコックが1960年に製作したサイコ・サスペンス映画だ。

 

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アメリカの小説家ロバード・ブロックが実際の事件にインスパイアされて書いた小説を脚本家のジョセフ・ステファノの進言により大胆にアレンジ。

ショッキングな題材と斬新な映像、サスペンス溢れるドラマ作りで、ヒッチコック映画最大のヒット作となった。

 

シャワー室での殺人シーンはあまりにも有名で、スラッシャー映画の原型と評されている。

 

目次

映画『サイコ』作品情報

IMDb

1960年製作/109分/アメリカ映画/原題:Psycho

監督:アルフレッド・ヒッチコック 原作:ロバート・ブロック 脚本:ジョセフ・ステファノ 撮影:ジョン・L・ラッセル 編集:ジョージ・トマシーニ 特殊効果:クラレンス・シャンペイン 美術:ジョゼフ・ハーレイ、ロバート・クラットワージー、ジョージ・ミロ 衣装;ヘレン・コルヴィグ 録音:ウォルデン・O・ワトソン、ウィリアム・ラッセル 音楽:バーナード・ハーマン タイトルバック:ソール・バス

出演:アンソニー・パーキンス、ジャネット・リー、ベラ・マイルズ、ジョン・ギャビン、マーティン・バルサム、ジョン・マッキンタイア、サイモン・オークランド、フランク・アルバートソン

 

映画『サイコ』のあらすじ

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アリゾナ州フェニックス。不動産会社の秘書として働くマリオンは、サムという恋人と結婚したいと考えていたが、サムは元妻への慰謝料の支払いに追われており、二人は結婚資金を用意することが出来ずにいた。

 

そんな折、職場で銀行の貸金庫に入れてくるようにと四万ドルの現金を預かったマリオンはそのまま現金を持ち逃げして、車でサムが暮らすサンフランシスコへと向かった。

 

途中、大雨で視界が悪くなり途方にくれていたところに、モーテルの看板のネオンが目に飛び込んで来て、マリオンはその場末の寂れたモーテルで一泊することにした。

モーテルは「ベイツ・モーテル」という名で、ノーマン・ベイツという青年が経営していた。彼はモーテルの裏手にある屋敷に母親と共に暮らしているという。

 

マリオンが部屋でシャワーを浴びていると、突然包丁を持った人物が現れ、彼女をめった刺しにして殺害してしまう。

 

その直後、「母さん、血だらけじゃないか!」というノーマンの叫び声が響き、彼が屋敷から飛び出して来た。マリオンが死んでいるのを見たノーマンは血で染まった浴室を掃除し、マリオンを彼女の荷物や衣類と共に運び出すと、車のトランクに放り込み、車ごと沼に沈めてしまう。彼女が横領した新聞紙に挟まれた四万ドルも沼底に沈んでしまった。

 

マリオンの姉ライラはサムを訪ね、妹が行方不明だということを告げる。二人で企んだことではないの?と詰め寄るライラだが、サムはなんのことだがわからない。そこに会社に雇われた私立探偵アーボガストが現れる。絶対に突き止めて見せると二人に告げると彼は店を出て行った。

 

探偵は様々なモーテルを訪ね、ついにベイツ・モーテルにたどり着く。ノーマンに会い、マリオンという女性が宿泊しなかったかと尋ねた。ノーマンは誰も来ていませんよと最初は愛想よく応えていたが、話の流れで先週客があったことを口走り、弁護士に宿帳を見せてくれと追及される。

 

弁護士は彼女の筆跡を解読し、偽名で宿泊していたことを確認した。彼が母親に会わせてくれと頼むと、ノーマンは母は病気だと応え、断固拒否。弁護士は一旦、引き払い、ライラとサムに連絡を入れたあと、再びベイツ・モーテルを訪ね、裏手の屋敷にそっと忍び込んだ。だが階段を上っていくと突然包丁を持った人物が現れ、切りつけられた弁護士は階段を落下して、死んでしまう。

 

一時間たっても弁護士から連絡がないことに疑問を持ったライラとサムは、ベイツ・モーテルを訪ね、サムがノーマンを引き付けている間に、ライラは屋敷へと忍び込むが・・・。

 

映画『サイコ』解説と評価

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アリゾナ州フェニックスの遠景が映し出される。「12月11日金曜日 2:43分」という文字が表記されたあと、あるビルの窓へカメラが寄って行き、少しだけ空いた隙間から中へ入って行く。屋外から窓にカメラが入って行くのは、『私は告白する』(1953)などにも観られるヒッチコックの名人芸のひとつだ。

そこにはジャネット・リー扮するマリオンと恋人の男性の姿があった。マリオンは仕事の休み時間を使って男性と会っていたのだ。二人は結婚したいのだが、貧しくて資金を用意することが出来ない。

 

そんな事情を抱えた女性が顧客が支払った大金を預かる機会があり、魔が差して、現金を持ち逃げしてしまう。『サイコ』といえば、ベイツ・モーテルを中心とした物語というイメージが強いが、序盤は一瞬の判断によって犯罪者になってしまった女性の不安を描いた心理サスペンスとして実に面白い。しかもその女性を演じるのがトップスターのジャネット・リーなのだ。その意外性が、観る者にも言いようのない不安を与える。当時の観客たちの動揺はいかほどだったろうか。

 

彼女は中古車販売所で車を買おうとするが、道路の向こうに止まっているパトカーが気になってならない。警官が降りて来て自分をじっと見つめているように感じてしまう。女性は「ゆっくり選んでいけ」という店員に対して、急いでいるからと現金で支払う。警官がパトカーを回してこちらにやってくるのが見える。あわてて、車に乗りその場を離れる女。運転する女の頭には今、他の場所で起こっているであろう場面が次々と浮かび上がる。

ハイウエイを突っ走る車。雨が降ってくる。視界が悪い。画面はあえて、ジャネット・リーの顔にライトをあててみせ、視界の悪い暗い道と顔の照明を交互に映し出す。精神的な不安定さと相まって、ほとんど前が見えない状態というのがこれほど怖いとは。そんな不安の中に忍び込むかのようにベイツ・モーテルのネオンの看板がふっと目に入って来る。

 

モーテルに隣接して立派なゴシック建築の屋敷が立っている。最初カメラはその二階の窓に映った人影をとらえてみせる。ベイツ・モーテルの受付には鳥の剥製があり妙な威圧感が漂っている。

 

のちにノーマン(アンソニー・パーキンス)はその部屋の絵をはずし、覗き穴から隣の部屋を覗く。このシチュエーションだけでもいやな感じでドキリとさせられる。

 

そして、有名な殺しのシーン。シャワーを浴びている女、人影がカーテンの後ろに見えている。振り下ろされるナイフ。けたたましく鳴り響くバーナード・ハーマンによる秀逸な劇伴。カメラは、血が流れていくパスタブ、排水溝のアップ、目のアップ、倒れた女性の横顔〈本当に死人のよう)、現金が包まれた新聞紙、母屋という順に捉えていく。ヒッチコックは、この殺人シーンを撮影するのに7日間かけたという。

 

バケツと毛布をもってくるノーマン。その描写が実に丁寧に描かれる。まずシャワーカーテンを取っ払う。カーテンを広げ、遺体をのせ、手についた血(掌のアップ)、洗面所で手を洗う、丹念に洗う、バスタブを掃除する、血をふき取る、外に出て車に乗る、車の向きを変える、再び部屋にはいるとカーテンに包んだ女の遺体をトランクに入れる、電気をつけ、床に落ちた鍵を拾い、衣服などをトランクに入れる、残っていた新聞紙に包んだ現金もそうと気づかずトランクに詰め込み、車をゆっくり動かして、降りて押して、車ごと沼に落とす。全て沈みきらないのでは?…そんな男の不安を観客も一瞬共有したあと、車はゆっくり沈んで見えなくなる。

 

探偵が行方を捜して現れる。母屋で母親の話を聞こうと忍び込んだ探偵は、階段を上がっていくが、カメラはそれを男の正面に回ってやや俯瞰気味に撮っている。この階段のシーンはカメラの位置が独特で、とりわけ、上って来る探偵とドアから飛び出て来る殺人鬼をワンショットで俯瞰でとらえたシーンは実に素晴らしい。当初、この一シーンはタイトルバックを担当したグラフィック・デザイナーのソール・バスが描いた絵コンテを元に撮影されたが、それは細かくカットが割られていたという。ヒッチコックはそれを観て次のように考えたと言う。

 

殺人者が階段を昇って行くならこのコンテでもよかったろう。しかし、これから殺されるかもしれない人間がそれと知らずに危険な瞬間に一歩一歩近づいていくというシーンの精神とはまったく相反するものだった。このシーンに観客をみちびくために、どんな細心の準備をしてきたか、思い起こしてほしい。この屋敷には謎の女がいるに違いないという証拠を作った。そしてその女が屋敷を出て、モーテルの一室でシャワーを浴びている若い女を出刃包丁で殺害したにちがいないという証拠をつくっておいた。私立探偵が階段を昇っていくときにサスペンスを生みだす要素はあらかじめととのっていたのだから、あとは、ただ、できるだけ単純に表現するだけでよかった。階段とその階段を昇っていく男をごく単純に示せば事足りた。(『ヒッチコック 映画術 トリュフォー』/晶文社より)

 

探偵も消え、今度は女の恋人と姉がモーテルにやってくる。妹が泊まったという一号室を調べると、シャワーカーテンがなくなっており、残金を計算したあと細かくちぎった紙片もみつかる。男がノーマンをひきつけ、女が屋敷へ。近づいていく女の顔を正面にとらえ、今度はカメラが視線になって、部屋に近づいていく。これを繰り返す。はらはらどきどきのエンディングが待っている。

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