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ドン・シーゲルが監督した映画『アルカトラズからの脱出』は、彼がクリント・イーストウッドと組んだ5本の映画のうちの最後の作品だ。1979年に公開され、批評的にも興行的にも成功をおさめた。
原作はJ・キャンベル・ブルースが1963年に書いたノンフィクション作品。物語は1960年1月18日、刑務所から脱獄したフランク(イーストウッド)がアルカトラズ島の刑務所に到着するところから始まる。
様々な囚人と交流する中、フランクは脱獄を企てることを決意し、仲間と共に周到な準備を始めるが・・・。
映画『アルカトラズからの脱出』は2024年9月4日(水)にNHKBSにて放映( 午後1:00〜午後2:53)
目次
映画『アルカトラズからの脱出』作品情報
1979年製作/112分/アメリカ映画/原題:Escape from Alcatraz
監督・制作:ドン・シーゲル 製作総指揮:ロバート・デイリー 原作:J・キャンベル・ブルース 脚本:リチャード・タッグル 撮影:ブルース・サーティース 音楽:ジェリー・フィールディング
出演:クリント・イーストウッド、パトリック・マクグーハン、ロバーツ・ブロッサム、ジャック・チポー、フレッド・ウォード、ポール・ベンジャミン、ラリー・ハンキン、ブルース・M・フィッシャー、フランク・ロンジオ、ダニー・グローバー
映画『アルカトラズからの脱出』あらすじ
深夜、大雨の中、武装した警備員に囲まれてフランク・モリスがアルカトラズ島の刑務所に護送されて来た。
フランクはこれまで刑務所から何度も脱獄したことがあり、そのため、ここアルカトラズ島に収監されることになったのだ。
アルカトラズは海に囲まれた断崖絶壁の島で、仮に刑務所の建物内から脱出して海に飛び込めたとしても、潮の満ち引きのせいで 1 マイル泳ぐのが 10 マイルのように感じられ、水はひどく冷たくすぐに体が冷えてしまう。泳いで渡るのは困難でこれまで誰も成功した者はいない。その上、厳重な警備態勢がとられ、一日に12回も点呼がある。
冷酷な所長は「アルカトラズから脱走した者は誰もいない」と語り、「我々は良い市民を作らない。良い囚人を作る」と胸を張る。
フランクは、画家のドクやネズミを飼っているリトマス、図書係のイングリッシュ等、数人の囚人と親しくなるが、一方、フランクを口説こうとした大男ウルフをやりこめたため、命を狙われるようになる。
恥をかかされたウルフは、フランクに襲い掛かり、ふたりは一日中真っ暗な、懲罰房のD独房に放り込まれてしまう。
やがて、フランクは脱獄を決意。隣の独房に新しく入った新入りのバッツとアングリン兄弟と共に、周到な準備を始めるが・・・。
映画『アルカトラズからの脱出』感想と評価
イーストウッドが演じているフランク・モリスが初めてアルカトラズに連れてこられた時の描写が実に見事だ。とりわけ、独房がずらりと並ぶ刑務所内の場面では、まず天井を照らす稲妻を見せ、そこからカメラがゆっくり降りて行き、刑務所内の全容を見せる。通路の中央には全裸のまま看守ふたりにはさまれたイーストウッドがいて、彼らが歩く姿をずっと引きの画面で見せている。
ドン・シーゲルの刑務所ものといえば、初期作品『第十一監房の暴動』(1954)がある。刑務所の悪しき待遇に抗議の声を上げた囚人たちの暴動と交渉を描いた作品だが、娯楽性の高いアクション映画というよりは、ドキュメンタリースタイルの人間ドラマで、シニカルなラストが印象的だった。
『アルカトラズからの脱出』もまた、同様に、刑務所生活の緊張感とその非人間性を描いているが、よりエンターティンメントな作りになっている。
ただ、休憩時間中の囚人同士の喧嘩や、懲罰独房行きなど、刑務所もののお馴染みのエピソードなども散りばめてはいるものの、中盤からは、不可能と言われる「脱獄」計画を遂行するイーストウッドたちへ焦点が当てられ、無駄なものを省いた非常にクールでソリッドな作りになっている。イーストウッド映画の中ではアクションは控えめだ。
イーストウッド(フランク)は、以前、何度も刑務所から脱獄したことがあるため、アルカトラズに送られたということ以外、ほとんど何もわからない。家族はいないというが、どのような生活をしてきたのか、一体何をして捕まったのかは不明のままだ。腕っぷしは強いがマッチョな男ではなく寧ろ物静かでさえある。頭脳明晰であることは刑務所の個人記録に記載されている。
脱獄の試みは、爪切りや、食堂でこっそり手に入れたスプーンで壁を削るというシンプルな方法から始まるが、すぐにそれだけでは十分でないことがわかる。ビスをはずすには工具が必要だが、作業場から何かを持ち出すとアラームがなりすぐばれる仕組みになっている。音楽室に置かれていた扇風機をアコーディオンのケースに隠して持ち出し、それでドリルを作ったり、看守の目をくらますための人形も制作するなど、工作映画的な楽しさもある。だが、その過程をドン・シーゲルはシンプルに、クールに、あえて淡々とした調子で描いている。
緊張感を高めるためにカットを盛んに割ったり、アップを多用することもない。逆に見張りとして回って来る看守の姿をとらえることだけで、緊張感を生みだすのに成功しているのは驚くべきことだ。
登る、降りる、乗り越えるといった行為はほとんど省略されず、カメラは役者の運動能力をじっくり観察するかのように、見つめ続ける。派手なアクションは少ないが、生身の肉体が生みだすリアルな感触が緊張感と共に伝わって来る。
クリント・イーストウッドは、他の彼の出演作品に比べると立ち回りも少なく、「静」の演技に徹している。しかし、そこには底知れぬタフさと力強さが秘められている。思慮深く、心根の良さも兼ね備えた魅力的なキャラクターを悠々と演じている。