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【NHKBSP放映】映画『鳥』あらすじ・感想/ヒッチコックが描く鳥の侵略という世界の終わり

映画『鳥』は2023年12月7日(木)NHKBSプレミアムにて放映(13:00~15:01)

 

映画『鳥』は、突然、鳥の大群が人間を襲い始め、幸せな日常生活が急変する恐怖を描いたアルフレッド・ヒッチコックの代表作の一つ。

レベッカ』、『いま見てはいけない』など多くの作品が映画化されているダフネ・デュ・モーリアの短編小説を原作に、87分署シリーズ(エド・マクベイン名義)などの作品で知られるミステリ作家エヴァン・ハンターが脚色を手がけた。

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徐々にサスペンスが高まっていくヒッチコックの演出のうまさは勿論のこと、CGのない時代に、当時の最新の合成技術を駆使して表現された鳥による数々のショックシーンに目を見張る。

 

ヒロインを演じるのは、ヒッチコックに見いだされたファッション・モデル出身のティッピ・ヘドレン。彼女はヒッチコックの1964年の作品『マーニー』にも出演している。  

 

映画『鳥』作品情報

(c)1963 Universal City Studios,Inc. Copylight Renewed. All Rights Reserved

1963年製作/120分/アメリカ映画/原題:The Birds

監督・制作:アルフレッド・ヒッチコック 原作:ダフネ・デュ・モーリア 脚本:エヴァン・ハンター 撮影:ロバート・バークス 美術:ロバート・F・ボイル 編集:ジョージ・トマシーニ 音楽:バーナード・ハーマン

出演:ロッド・テイラー、ジェシカ・タンディ、ティッピ・ヘドレン、スザンヌ・ブレシェット、ベロニカ・カートライト、エセル・グリフィス、チャールズ・マグロー、ルース・マクデビット、ジョー・マンテル、マルコム・アタベリー、カール・スエンソン  

 

映画『鳥』あらすじ

(c)1963 Universal City Studios,Inc. Copylight Renewed. All Rights Reserved

ミッチ・ブレイナーが妹にプレゼントするために欲しがっていたボタンインコのつがいを手に入れたメラニーは、彼に小鳥を届けるためにボデガ・ベイを訪ねるが、突然一羽のカモメに襲われ額を負傷する。

街のいたるところで鳥たちが群れを成していた。ブレナ家では暖炉から数百話のスズメが侵入して来るという驚くべきことが起こる。鳥の異変は次第に大規模になっていき、翌日、農夫が目をえぐられて死んでいるのが発見された。

さらに学校帰りの子どもたちが、鳥の急襲に合う事件が起こる。

ガソリンスタンドでは給油係が襲われ、漏れたガソリンに煙草の火が引火して大爆発が起きる。

ミッチとメラニーは家の戸締りを厳重に行うが、夜になって、鳥の襲撃が始まった・・・。  

 

映画『鳥』解説と感想

(c)1963 Universal City Studios,Inc. Copylight Renewed. All Rights Reserved

(ラストに言及しています。ご注意ください)

ティッピ・ヘドレン扮するヒロインのメラニーとロッド・テイラー扮するミッチ・ブレイナーが出会うのは、ペットショップの二階の小鳥専門のフロアーである。ふたりを結ぶきっかけになるのが、“ラブバード”(ボタンインコ)のつがいだ。ミッチ・ブレイナーが欲しがっていた“ラブバード”を手に入れたメラニーは、ミッチのところにそれを届けようと出かけて行く。自動車がカーブにさしかかる際、籠におさまったこの二羽もしっかり身体を傾ける様が実に可愛い。

こんな愛らしいエピソードで始まる本作だが、やがて普段よく目にするカラスやスズメやカモメといった普通の鳥たちが脅威になっていく物語へと突入していく。

 

それにしても昨今、凝りに凝った様々なホラー映画が次々と製作されている中にあって、60年近く前に作られた、ただ鳥が人間を襲うというだけの話がこれほど怖いのはどういうわけだろう!?

 

それはやはり「不安」を積み重ねていく構成のうまさゆえだろう。ショッキングな死体はたった一回出てくるだけだが、それだけで十分な効果をあげている。その死体を発見するのはミッチ・ブレイナーの母親なのだが、まずきれいに並んでいたカップが全て欠けてしまっている不穏なショットがきて、廊下を進んで行くショットに続き、部屋の中の乱れた様子、死体発見へと続く。ミッチの母親はそこにやって来た別の男に声をかけることも出来ず立ち去っていく。非常にショッキングな重みのある場面である。

 

ガソリンスタンドの脇の軽食堂のシーンについては、『映画術 ヒッチコック/トリュフォー』(晶文社)で、トリュフォーは「やや長すぎるきらいがあるのでは」と言い、ヒッチコックは「たしかにあのシーンは映画の本筋とは無関係だし、たいして重要なシーンではないが(中略)観客もあのくらいの息抜きの時間がなければ、また新たに恐怖とショックに立ち向かう元気が出ないだろうと考えたわけだよ」と語っている(P299)。しかし、このシーンも単なる息抜きでないことは明白で、鳥類学者を名乗る女性が鳥の生態を淡々と語ることで、現在の状態がいかに異常であるかがより鮮明になってくるし、「世界の終わりだぜ!」と叫ぶ酔っ払いは、映画にリズムを作ってインパクトを与える効果だけで終わるのではなく、いつの間にかその言葉は、われわれの心の中に刷り込まれてしまっている。さらに小さな子を抱えて不安にさいなまれる母親の姿はリアルで、観客もその心を徐々に背負うことになる(のちに彼女はメラニーに憎しみを投げつける。魔女狩りが始まるのではないかと思ったくらいだ)。

 

その後にくる爆発シーンはまさに「世界の終わり」を実感させる。ガソリンが、タバコに火をつけようとする男の元に流れていくシーンでは画面の中の食堂の人々とともに大声で「マッチを消せ!」と叫びたくなってしまった。男の車が爆発し、こぼれているガソリンに引火して直線上の車が爆発、次のショットはそれをうんと高い位置から俯瞰で撮るのだ。

燃える自動車を目標に鳥たちが急降下して来る。先ほどの俯瞰のショットは鳥たちの視点というわけか!? メラニーは電話ボックスに逃げ込むが、そこも鳥たちに襲われ、ガラスにひびがはいる怖さよ・・・。

 

そして最大のヤマ場へ。家を襲来する鳥たち。ここではとりわけショッキングなシーンはないにもかかわらず、積み重ねられてきたサスペンスの経験から、この扉がいつか破られるのではないかという大変な緊張感を観る者に強いる(誰もが暖炉から侵入して来た何百ものスズメの群れを思い出すはずだ)。

 

攻撃が一段落したあと、ミッチの母親だけを映していたカメラが後ろに下がっていき、ミッチ、そして最後にメラニーも加え、三人が同方向を向いて一画面におさまるショットが素晴らしい。

その静けさの中、ヒロインが気づく物音。他のものは皆寝入ってしまっていて気づかない。現代のホラーならこの静けさから突如天井に穴があくようなショックシーンを用意するだろうが、ヒッチコックは、ただ一人屋根裏にいるヒロインが襲われる様を少々サディスティックな調子で描くのである。

 

ラストはとにもかくにも脱出する家族の姿が描かれるが、彼らの行く手には安全を保障するものは何もなく、地面は鳥で埋め尽くされ、遠く続く空は暗澹としている。これが「世界の終わり」の風景でなくしてなんであろう。しかし、ラスト、ラブバードが大切に連れて行かれる様子になにかホッとさせられるものがある。

(文責:西川ちょり)

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