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【Netflix配信】映画『終わらない週末』あらすじと感想/ジュリア・ロバーツ等、豪華キャストで贈る予測不能な黙示録的スリラー

全米図書賞にノミネートされたルマール・アラムの同名小説を、テレビドラマシリーズ『ミスター・ロボット』(2015年~2019年)、『ホームカミング』(2018~2020)などで知られるサム・エスメイルが監督・脚本を務めて映画化。

 

ジュリア・ロバーツイーサン・ホークが夫婦役を演じ、マハーシャラ・アリ、ケヴィン・ベーコンらが出演している。エスメイルとジュリアがタッグを組むのはドラマ『ホームカミング』(Amazon Prime Videoで見放題配信中)以来。

 

アマンダ&クレイ夫婦は子どもたちを連れ、NY近郊に借りた別荘で週末を過ごしていた。ところが深夜、家主だという男性とその娘という女性が現れる。アマンダは彼らの言い分が信じられないのだが、彼らを調べようにもWi-Fiが繋がらず、仕方なく一晩泊めることに同意する。翌朝、スマホ、PCは勿論、テレビもラジオも全ての通信が機能不全になっていた。その時、既に周囲では恐ろしい事態が進行していたが、彼らには知る術がなく・・・。

 

バラク・オバマ元米大統領とミシェル夫人が設立した会社、ハイヤー・グラウンド・プロダクションが製作した予測不能な黙示録的スリラー。2023年12月8日よりNetflixで配信中。

 

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映画『終わらない週末』作品情報

©2023 NETFLIX

2023年製作/141分/アメリカ映画/原題:Leave the World Behind  配信:Netflix

監督・脚本:サム・エスメイル 製作;サム・エスメイル、チャド・ハミルトン、ジュリア・ロバーツ、マリサ・イェレス・ギル、リサ・ギラン 製作総指揮:トーニャ・デイビス、ダニエル・M・スティルマン、ニック・クリシュナマーシー、ルマーン・アラム、バラク・オバマ、ミシェル・オバマ 原作:ルマーン・アラム 撮影:トッド・キャンベル 美術:アナスタシア・ホワイト 衣装:キャサリン・マリー・トーマス 編集:リサ・ラセック 音楽:マック・クエイル 音楽監修:マギー・フィリップス 視覚効果監修:クリス・ハーベイ

出演:ジュリア・ロバーツ、マハーシャラ・アリ、イーサン・ホーク、マイハラ、ケヴィン・ベーコン、ファラ・マッケンジー、チャーリー・エバンス

 

映画『終わらない週末』あらすじ

©2023 NETFLIX

ブルックリンで暮らすアマンダ・サンドフォードは朝、急に思い立ってロングアイランドの自然に囲まれた豪華な別荘を予約。広告会社に勤める彼女は週末、少しでものんびりと休暇をとりたいと考えたのだ。

 

大学教員の夫クレイと10代の息子アーチー、幼い娘ローズは目覚めた途端あわただしく荷造りし車に乗りこむ羽目に。ローズの目下の心配ごとは大好きなドラマ『フレンズ』の最終回が見られるかということだった。

 

到着してすぐに一家は海水浴に出かける。ところが沖に見えていた大型タンカーが、システムの不具合が起こったのか、どんどんこちらに進んで来て、浜辺に乗り上げるという事故が起こる。サンドフォード家は皆、荷物を抱えて大慌てで逃げなければならなかった。

 

子どもたちが寝て夫婦でゆっくりと過ごしていた夜中過ぎ、ドアがノックされアマンダとクレイは驚いて顔を合わせた。恐る恐るドアを開けると、そこには正装した黒人の中年男性とティーンエイジャーの女性が立っていた。

 

彼らはGHとルースと名乗り、親子だという。この家の持ち主でパーティーに出席するために出かけていたが、停電が起き、マンハッタンにある自宅のマンションの階段を上ることが出来ないのでここにやって来たと言う。

 

一泊させてくれと彼らは言うが、アマンダはその言葉を信じることが出来ず、ネットで彼のことを調べようとするも、つながらない。

 

GHは屋敷の酒棚の鍵も持っており、気のいいクレイは彼らが泊まることに対して理解をみせた。アマンダも渋々、了承し、GHは地下室で眠ると言って、娘を連れて地下へ降りて行った。

 

翌朝、相変わらずネットは繋がらず、スマホも使えない。テレビに一瞬、サイバーテロの特別警告が映るがすぐに消えてしまう。すべての通信が使えず、何かが起こっているらしいが、まったく情報がつかめない。

 

クレイはとにかく町に行って他の人に話しを聞いてみると、車で出かけて行った。GHもまた、知り合いを訪ねると家を出た。

 

子供たちはプールで遊んでいたが、ローズは昨日見たたくさんの鹿のことを考えていた。ローズはアーチーと一緒に鹿を探しに森を散策し始めた。そこで小さな小屋を見つける。

 

その頃、クレイはカーナビがまったく機能せず、道に迷っていた。あたり一面、同じような景色が続くばかり。一体ここはどこなのだろうか。

 

すると道端に一人の女性が立ち、手を振っているのが見えた。車を止めると、女性はスペイン語で激しい調子でまくしたてる。さっぱり言葉が判らず、途方にくれたクレイは車を発進させた。女性は必死になって追いかけてきたが、クレイは彼女を置き去りにした。

 

しばらくすると前方に異様なものが見えた。ドローンが赤い紙きれをまき散らしているのだ。迫って来るドローンをなんとかかわしたクレイは紙を一枚拾う。そこにはなにやらアラビア語のようなものが記されていた。

 

一方、GHは、友人宅を訪ねるが多くの家は荒れ果て、人の姿はない。友人の衛星電話をみつけ、電話をしてみるがつながらない。浜辺に出たGHは眼前の光景を見て絶句した。飛行機が墜落して機体が散乱していたのだ。人間の遺体もあった。

 

彼はある確信を得ていた。飛行機でニューヨークに帰ってくるはずだった妻はもう無事に戻ってくることはないだろうということを。

 

クレイの帰りが遅いのをアマンダは心配していたが、やっと彼が戻って来た。道に迷ってどこにも行けなかったこと、途中でドローンに襲われたことなどを報告し、ドローンが撒き散らしていた例の紙を取り出した。

 

するとアーチーがそこに書かれた文字をすらすらと読んで見せた。彼はゲームでこの言葉を覚えたという。紙に書きつけられた言葉は「アメリカに死を」であった。

 

GHは何かを知っているようだった。もうもとの世界には戻れないという彼に反発するように、翌日、アマンダとクレイは車に乗ってマンハッタンを目指すが、ある場所まで来た際、恐るべき事態を目撃してしまう・・・。

 

映画『終わらない週末』感想と解説

youtu.be

ラストに言及しています。作品をご覧になってからお読みください

ジュリア・ロバーツ扮するアマンダが荷造りしているところから物語は始まる。彼女は朝、突発的にロングアイランドの別荘を予約したのだ。家族の都合や意向はお構いなし。その上、彼女は窓から街を見下ろしながら「人間が嫌い」と呟く。

 

真夜中、モダンな造りをした洒落た別荘でくつろいでいた彼女たちの元に訪問客が現れる。正装した二人組は、父と娘だと自己紹介し、この家の持ち主だという。アマンダは彼らがここにやって来た理由を信じず、二人が名乗った職業や親子であるということにすら疑念を抱く。すぐに彼らを迎えようとするイーサン・ホーク扮する夫とは対称的な態度だ。「アメリカの恋人」と称されてきたジュリア・ロバーツが新境地とでもいうべき役柄に挑んでいる。

アマンダが二人を信じないのは人種差別的な理由なのか、見知らぬ者から子供を守るための親としての本能的な態度なのか。映画ファンは他者が家に入り込むことで恐ろしい悲劇が生まれる作品をいくつか記憶しているので、ここでのやり取りにはかなりの緊張感を抱いてしまうだろう。

 

奇妙なことは既に前日、アマンダたち一家の眼の前で起こっていた。大型タンカーがビーチで座礁したのだ。「何かがおかしい」という感情が湧き起こるが、PC、スマホ、ラジオ、テレビ、電話などの通信機器が全て繋がらず、調べようがない。

 

現代人にとって、技術インフラが崩壊する事態はもっとも恐ろしい現象の一つだろう。スマホ一つに生活の多くを依存しており、それが使えなくなると途端に途方にくれ、動くに動けなくなってしまう。

 

サム・エスメイルはドラマ『ホームカミング』でも、退役軍人の社会復帰支援プログラムを謳っている施設で、実際何が行われているのかという疑問を投げかけながら、巧みに物語を引っ張っていたが、本作でも、なにが起こっているのか、攻撃されているのだとしたら何者の仕業なのか、目的はなんなのか、といった疑念を登場人物と私たち観る者双方に持たせて、展開していく。実際、この作品を鑑賞中、こんな状態になったら自分ならどうするだろうと考えない人はいないのではないか。気がつけばすっかりこの世界に巻き込まれているのだ。

 

クレイとマハーシャラ・アリ扮するGHは手がかりを探しに外に出るが、クレイはカーナビが使えず道に迷い、ドローンに攻撃され、GHは飛行機の墜落に巻き込まれそうになり間一髪で逃れる。このシーンで、ヒッチコックの『北北西に進路を取れ』(1959)を想起した方も多いのではないか。冒頭のタンカーのエピソードといい、アクションシーンもかなり気合が入っている。

 

また、カメラはランナバウト交差点を俯瞰で捉えたり、「円」をイメージするショットを頻発する。かと思えば、画面自体が突然回り始めるといったユニークな映像を繰り出し、登場人物たちの間に芽生える懐疑心と不安を強調している。

 

ドローンが撒き散らしていた紙切れに書かれていた「アメリカに死を」と言う言葉は、衝撃的だ。文字がアラビア語だったことから相手はイラクではないかとクレイたちは考えるが、別の人物は北朝鮮や中国の仕業だと語り、「世界から嫌われているからな」と冷笑する。結局、相手が何者なのかは最後まで分からずじまいなのだが、本作は地球温暖化を招く原因である資本主義を象徴する国として、また、昨今の道徳的な良心を見失った憎悪すべき大国としてアメリカを浮かび上がらせ、世界の分断の深刻さを可視化するのだ。

 

黙示録的スリラーである本作だが、サム・エスメイル監督作品らしく、エンターティンメントだけに特化した作品ではない。彼の関心の多くは、人間の感情であり、人と人との関連性や、正しい生き方の模索であったりする。

ゆえに、相容れなかった家族同士がゆっくりと互いを受け入れ、思いやる心が芽生える姿が描かれていて、そこに一縷の希望を見出すことができる。多くのホラー映画のように一番怖いのは身近な人間だという展開がないわけではないが、それでも人は助け合えるのだという願いや希望が込められているように見える。

 

そしてもっとも皮肉で面白いのが、アマンダとクレイのまだ幼い娘ローズが、全編に渡って人気ドラマ『フレンズ』の最終回にこだわり続けることだ。兄のアーチーはこの大変なときに何を言っているんだと苛立ちを見せるが、楽しみにしていたドラマの最終回が見られる世界こそが健全な世界であり、ドラマを観たいと思うこと自体が「こんな大変な時に考えても行ってもいけない愚かなこと」とされてしまうのが、健全でない「戦争状態」の世界なのだ。

 

ネットや通信、配信といった技術が消える中、大量のアナログレコードとDVDのコレクションが(それぞれ別の場所なのだが)残され、また鑑賞されているのが興味深い。本作がNetflix作品であることを思えば、なんとも皮肉な展開である。

 

「大変なときにこそ、『フレンズ』のような精神の安らぎが必要」というローズの言葉は深く鋭い。予測不能といえば、これほど意表をつくラストもないだろう。

 

 

 

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