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【Amazon Prime Video】映画『Saltburn』あらすじと感想/エメラルド・フェネルの長編第二作はソルトバーンという地所を舞台にした階級闘争をバリー・コーガン主演で描く

ドラマ『キリング・イヴ Killing Eve』(2019)の脚本・製作を手がけ、キャリー・マリガン主演の『プロミシング・ヤング・ウーマン』(2020)で長編映画監督デビューを果たしたエメラルド・フェネル長編映画監督第二作。

 

オックスフォード大学に入学したものの、華やかなエリートである同級生たちに馴染めずにいたオリバーは、上流階級の人気者の同級生フェリックスとひょんなことで知り合い、友情を育む。夏の休暇中、オリバーはフェリックスに招かれ、彼の壮大な豪邸・ソルトバーンで過ごすことになるが・・・。

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主人公のオリバー役を『イニシェリン島の精霊』(2020)、『聖なる鹿殺し』(2018)などの作品で知られるバリー・コーガンが演じるほか、ソフィア・コッポラの『プリシラ』(2023)でエルビス・プレスリーを演じたオーストラリア人俳優、ジェイコブ・エロルディや『ゴーン・ガール』などのロザムンド・パイクらが共演。また、『プロミシング・ヤング・ウーマン』に続いてキャリー・マリガンが印象的な役で出演している。

 

映画『Saltburn』はAmazon Prime Videoで見放題配信中。

 

 

目次

映画『Saltburn』作品情報

(C)Amazon Content Services LLC

2023年製作/131分/アメリカ・イギリス合作映画/原題:Saltburn

監督・脚本:エメラルド・フェネル 製作:エメラルド・フェネル、ジョージーマクナマラマーゴット・ロビー 製作総指揮:トム・アカーリー、ティム・ウェルスプリング 撮影:リヌス・サンドグレン 美術:スージーデイビス ソフィー・カナーレ 編集:ビクトリア・ボイデル 音楽:アンソニー・ウィリス

出演:バリー・コーガン、ジェイコブ・エロルディ、ロザムンド・パイク、リチャード・E・グラント、アリソン・オリバー、アーチー・マデクウィ、キャリー・マリガン  

 

映画『Saltburn』あらすじ

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2006年、オックスフォード大学に奨学生として入学したオリバー・クイックはすぐに自分が学内の最下層に位置し、裕福な同級生たちに相手にされないことに気がつく。唯一彼に声を掛けてきたのは、オリバーよりもさらに社会性のない数学オタクのマイケルだけだった。

 

エリート学生たちの中でもとりわけ目立っているのがフィリックス・キャストンという甘いマスクをした上流階級の男子生徒だった。常に仲間に囲まれ、女子生徒たちの多くが彼と付き合いたいと願っていた。オリバーも気づけば彼を目で追っていた。

 

ある日、オリバーが自転車に乗っていると、フィリックスが倒れた自転車の隣に所在投げに座っているのが見えた。

 

聞けば自転車がパンクしたという。個人指導のクラスに出なければいけないのにと彼は意気消沈していた。

 

オリバーは彼に気前よく自転車を貸し、そのことがきっかけでフィリックスと交友を持つようになる。

フィリックスはいつも誰かに囲まれていたが、オリバーを見つけると手を振って彼を仲間に入れてくれた。オリバーの学園生活はたちまち明るく充実したものに変わっていった。

 

夏の休暇が近づいていたある日、オリバーは父が亡くなったことをフィリックスに告げ、父は薬の売人で、母は中毒者だと告白する。プレストンの家には帰りたくないと言う彼に、フィリックスは自分の家に来ないかと誘い、夏の間、オリバーはフィリックスの家族が暮らしている地所、ソルトバーンで過ごすことになった。

 

それは恐ろしく広大で豪華絢爛な屋敷だった。オリバーがドアをノックすると扉はすぐに開き執事のダンカンが彼を迎えた。彼の威圧的な態度に圧倒されているとすぐにフィリックスがやって来て邸内を案内してくれた。オリバーが過ごす部屋も快適な場所だった。

 

フィリックスの家族はオリバーがすぐ側にいるのを知ってか知らずか、彼の境遇や出身地について面白おかしくこき下ろしていたが、フィリックスが部屋に入ってくると、がらりと態度を変えた。

 

部屋にはフィリックスの父のサー・ジェームズ、母のエルスペス、妹のヴェニシア、オリヴァーの同級生でフェリックスの従兄弟のファーリー、そしてもうひとり、母親の客であるパメラがいた。

 

彼らとの生活に、最初は戸惑っていたオリバーだったが、やがて自分の居場所を見つけていく。そんな矢先、ファーリーが屋敷の高価な陶器を業者に売りに出そうとしていることがバレて屋敷を追われる事件が起こる。

 

 

オリバーの誕生日が近づき、フィリックスの両親は仮面舞踏会を開く計画をたて始めた。

ある日、フィリックスは面白いところに連れて行くと言って、オリバーを車に乗せるが・・・。  

 

映画『Saltburn』解説と感想

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ラストに触れています。ご注意ください

賢明に勉強し、晴れてオックスフォード大学に入学したオリバーは、カレッジの寮に入った初日に、自分の居場所がないことを悟る。

 

ここでは「持つ者」だけが存在を許され、オリバーのような労働者階級出身の「持たざる者」には誰も見向きもしないのだ。このことをオリバーはあらゆることから経験することになる。

 

例えば、個人指導を受ける際、オリバーは課題図書を全て読んだということで却って教授に引かれてしまい、一方遅れてやって来たファーリーという学生は母親が担当教授の憧れの同級生だったという「生まれ」のせいで、お咎めなしに好意的に受け入れられる。

 

オリバーの勤勉さはこのように全く評価されず、裕福なクラスメイトたちは飲酒とパーティーに明け暮れている。そんな中でもひときわ目立った存在なのが、背が高くハンサムな貴族的階級のフィリックスだ。

 

オリバーもまた、この人気者に憧れを持ち、彼を目で追うようになるのだが、あることをきっかけに二人は親しくなり、オリバーは彼らの仲間入りを許される。

フィリックスはその育ちの良さから、偏見も少なく、受けた親切に素直に感謝し、オリバーを見下げることもしない。真の「持つ者」としての余裕がある。一方、彼の従兄弟であることが後に判明するファーリーなどはひどくオリバーを嫌う。フィリックスの側にいることの恩恵を知っているからこそ、それを譲りたくないし、オリバーごときに味あわせたくないのだ。エリートの中にも格差があることが伺えるが、本作で描かれるのはそんな「階級闘争」なのである。

 

家庭に問題があるオリバーは夏の休暇中、家に帰ることを嫌がり、同情したフィリックスは彼を自分の家に来るように誘う。

 

タイトルの「Saltburn」とは、フィリックスの家族が暮らす、先祖代々から受け継がれてきた地所の名であり、オリバーは夏の間、その広大な宮殿のような場所で過ごすこととなる。

 

邸宅の内部をフィリックスが案内するのだが、その様子を手持ちカメラの長回しで撮っている。オリバーと共に、我々観る者もまた、絵画で埋め尽くされた部屋や青の間や、ヘンリー8世が寝たベッド、シェイクスピアの革装丁の全集が並ぶライブラリー、広々としたバスルームといった調子で延々と続く部屋をトリップし、貴族の桁外れの贅沢な生活の場を目撃する。

 

本作はイヴリン・ウォーの小説『青春のブライズヘッド』(原題:Brideshead Revisited)のように、一般の人間が、特権階級の暮らしぶりを覗き見る作品なのだが、実際、劇中、フィリックスが「『ブライズヘッド』は、うちの一族をモデルにしている」という台詞を発しているのが面白い。

 

オリバーはこの広大な邸宅の敷地内で、友人と共に裸になり、太陽を浴び、夢のような夏を過ごす。富の象徴のような美しく壮大な光景が、1:1.37というアスペクト比で鮮やかに描き出されている。日本において、この作品が劇場公開されず、大きなスクリーンで観る機会がなかったのは至極残念だ。  

 

 

フィリックスの家族はオリバーに好きなだけ居ていいと博愛主義を気取るが、もちろん、それは本音ではない。キャリー・マリガンが演じる、客人パメラは同情を買うことでこの邸宅に潜り込むことに成功したようなのだが、ある夜、突然追い出されてしまう。彼女もまた、いつまでも居ていいと言われていたと推察されるが、Saltburnの人々は、時がくれば冷酷に切り捨てていくのだ。のちに彼女が自殺したと聞き、オリバーは驚くが、フィリックスの母親エルスペスは「(パメラは)目立つことなら何でもやる」と冷たく言い放つ。

エメラルド・フェネル監督は、彼女自身、オックスフォード大学出身で、エリート階級に属する者として、こうした英国社会のトップに君臨するエリート層の特権と冷酷さを冷静な批評と風刺を込めて浮き彫りにしてみせる。

 

物語は全てオリバーの立場から語られており、バリー・コーガンがナイーブで傷つき安い青年を繊細に思慮深く演じている。彼の寂しげで、憂いを帯びた顔がアップになる度、いつか彼がひどく傷ついてしまうのではないかと、観る者は危惧せずにはいられなくなる。だが終盤、物語は思いもよらぬ方向へと進んでいく。

 

後に彼が告白するように本当にそれらは何もかも計画されたものだったのだろうか。

フィリックスの妹のヴェニシアはオリバーを、キラキラしたものに近づきうまく中に入り込んだ蛾のようなものだと言って罵る。

また、敷地内にあるメイズの中にはミノタウロスの像がそびえているのだが、オリバーもまた富めるエリートたちを捕食するミノタウロスだったのだろうか。

あるいは、パトリシア・ハイスミスのミステリ小説を映画化したアラン・ドロンの『太陽がいっぱい』(1960)や、マット・デイモンの『リプリー』(1999)の主人公、トム・リプリーのような詐欺師なのだろうか。

 

ラストシーンを観た限り、それらの問いには「Yes」と答えざるを得ないだろう。本作が階級闘争の末の復讐劇であることは否定のしようがない。

だが、浴槽の水を飲むシーンも、墓での行為も、ただ作品をセンセーショナルなものにしたいがために付け加えられたものではないはずだ。倒錯した、だが、純粋で一途な愛は、確かに存在し消えることはないのだと思わせたい何かが、作品のそこかしこから静かに漏れ伝わってくる。

(文責:西川ちょり)

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