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【Amazon Prime Video】映画『ボトムス ~最底で最強?な私たち』あらすじと感想/風刺と批評性を備えたユニークでハチャメチャなクィアのためのクィアな青春学園映画

インディーズ映画『シヴァ・ベイビー』(2020)が高く評価されブレイクしたカナダのエマ・セリグマンが監督した映画ボトムズ~最底で最強?な私たち』

高校三年生のいけてないレズビアンの女子生徒二人が、卒業前に憧れのチアリーダーの心を射止めるためにファイトクラブを立ち上げ・・・。風刺と批評性を備えたユニークな視点と、不条理ともいえるハチャメチャな展開が楽しい学園コメディーだ。

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アメリカでは10館での限定公開ながら週末興収約51万6000ドルを記録するクリーンヒットとなり、世界中で女子高生版「ファイト・クラブ」と話題沸騰。日本では2023年11月よりAmazon Prime Videoで見放題独占配信が始まっている。

 

セリグマン監督と俳優のレイチェル・セノットが共同で脚本を執筆。『シヴァ・ベイビー』にも出演したレイチェル・セノットが女子高生のひとりPJを演じ、もうひとりのジョシーをドラマ『一流シェフのファミリーレストラン』(The Bear )などで知られるアイオウ・エディバリーが演じている。

 

また、元NFLのスター選手マーショーン・リンチがファイトクラブの顧問の先生に扮しており、『コカイン・ベア』(2023)を監督したエリザベス・バンクスがプロデューサーに名を連ねている。  

 

映画『ボトムス ~最底で最強?な私たち』作品情報

(C)2023 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

2023年製作/91分/R18+/アメリカ映画/原題:Bottoms

監督:エマ・セリグマン 製作:エリザベス・バンクス マックス・ハンドルマン アリソン・スモール 脚本:エマ・セリグマン、レイチェル・セノット 製作総指揮:テッド・デイカー、エマ・セリグマン、レイチェル・セノット 撮影:マリア・ルーシェ 美術:ネイト・ジョーンズ 音楽:チャーリー・XCX レオ・ビレンバーグ

出演:レイチェル・セノット、ダグマーラ・ドミンスク、アイオウ・エディバリー、ハバナ・ローズ・リウ、ニコラス・ガリツィン、カイア・ガーバー、ルビー・クルーズ、マーショーン・リンチ  

 

映画『ボトムス ~最底で最強?な私たち』あらすじ

(C)2023 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

ロックブリッジ フォールズ高校3年生のPJとジョシーは、レズビアンで親友同士。PJはチアリーダーのブリタニーに、ジョシーは同じくチアリーダーのイザベルに片思いしている。一念発起して話しかけてみるものの、話題選びを間違えてかえって気まずくなってしまうポンコツぶりだ。

 

二人はひょんなことからイザベルの恋人で、アメリカンフットボール部のクオーターバックで学園の人気者、ジェフの膝に車をぶつけてしまう。ほんの少し触れたくらいだったのだが、ジェフは大げさに悲鳴を上げてひっくり返り、翌日松葉づえ姿で現れた。

 

怪我は嘘なのだが、校長から呼び出された二人は退学の危機に陥る。PJが身の安全のための自己防衛であると主張し、放課後、女子生徒のために護身術のクラブを始めるつもりだと口から出まかせを言うと、校長はクラブ活動はいいことだと言い出し、二人は許される。

 

PJとジョシーは、同級生のヘイゼルの協力を得て、女子生徒のための「ファイトクラブ」を創立。“女性の連帯”を謳ってはいるが、実際のところは、ブリタニーとイザベルを引き込んで、恋人同士になるのが目的だった。

 

折しもライバル校とのアメフトの試合を控えており、相手校による暴力行為の注意喚起がアナウンスされたばかり。「ファイトクラブ」のうわさを聞いて数名の入部希望者が現れるが、PJはその顔ぶれを見て「ブスばっかり」と言い放つ。

 

練習に遅れて来た生徒にPJが説教をしていると、ブリタニーとイザベルがドアを開けて入って来た。PJは愛想よく彼女たちを迎え、遅刻は許されないんじゃないのという抗議の声に対して「来週から」と答えてなんとか誤魔化す。

 

何も段取りを決めていなかったPJとジョシーだったが、ジェフとのひと悶着の際、ふたりは少年院に入っていたといううわさが一瞬学校で流れたのを利用することにした。少年院での体験をでっち上げ、ジョシーがPJを思いっきり殴ってダウンさせ、部員希望者たちの心を掴むことに成功する。

 

クラブには顧問が必要ということで、一番やる気のなさそうなG先生に「フェミニストのクラブだ」と声をかけ、引き受けてもらうことになった。

 

なぐり合いの実践は、それぞれに自信を植え付ける結果となり、部員たちの間にほのぼのとした連帯感が生まれ始める。PJもジョシーもそれぞれ意中のイザベルとブリタニーに急接近し、甘い雰囲気に有頂天になる。

 

だが、女子生徒たちに注目が集まっていることにアメフト選手は危機感を持ち始めていた。学園の主役は常に自分たちでなければならないと考える彼らは、PJとジョシーたちを罠にはめようと企む・・・。  

 

映画『ボトムス ~最底で最強?な私たち』解説と評価

(C)2023 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

PJとジョシーの二人は、学園の"ボトムズ "と呼ばれる最底辺にくすぶる高校三年生。それは二人がレズビアンであるからではなく、彼女たちの言葉を借りれば、「レズビアンで才能がなく、ブス」だから。

 

彼女たちは、高校生でいられる間に”憧れのチアリーダーと結ばれて処女を捨てたい“ということで頭がいっぱいだ。これは「アメリカン・パイ」シリーズ(1999~2018)や『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(2007)といったおバカな男子高校生を主人公として繰り返し描かれた学園コメディーのプロセスをそのままいただいた設定だが、本作はこの分野でこれまで当然のように描かれてきた表現の数々を見据え、批評し、ユーモラスに風刺している。

 

クィアな人物はこの手の青春映画では、ストレートな友人の恋愛を応援する脇役であったり、コメディー・リリーフ的な役割を担うことが多かったが、本作では二人のレズビアンを主人公にすえ、レズビアンであることをごく当たり前のこととして描いている。また、クィアな人は「被害者」で、「ナイーブな存在」で、「善良」で、「愉快な人気者」という映画におけるステレオタイプを否定し、押し付けられた地位に安住することに反旗を翻している。

「不細工で才能のないゲイの二人組は校長室に来なさい」なんていう校内放送が流れるキツーいジョークが飛び出す中、セリグマン監督は、ジョン・ヒューズの一連の作品以降一大ジャンルとなったティーンを主人公にした学園映画に対して最大の敬意を表しつつ、それらをユーモラスに批評し、ブラックに風刺しながら、作品を再構築しているのだ。

 

スーパーバッド 童貞ウォーズ』の女子高生版といえば、オリヴィア・ワイルド監督の『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(2019)が思い出されるだろう。ビーニー・フェルドスタインとケイトリン・デバー扮する主人公二人は遊ばずひたすら勉強し、ついに念願の大学に進学する夢を叶えるのだが、遊びまわっていた同級生たちが軒並み名門校に進むことが判って愕然とする。高校時代に諦めたこと全てを一夜のパーティーに賭け、取り戻そうと悪戦苦闘する彼女たちの姿がユーモラスに綴られていた。主人公の二人は社会性に欠け、互いに依存し合っている欠点はあるものの、真面目で大きな夢を持つ信頼できるキャラクターだった。

一方、『ボトムス』のふたりは、自分の欲望の達成のためにクラブを立ち上げており、とりわけレイチェル・セノット扮するPJは性格もきつく、「ファイトクラブ」の集会に集まってくれた顔ぶれを見て「ブスばっかり」とのたまうようなキャラクターである。  

 

『ブックスマート』の二人はフェミニストだったが、PJはフェミニストではないと述べている。「ファイトクラブ」を宣伝するために"女性の連帯"と言う言葉を用いるもののただ目的のために利用しているだけだ。アイオウ・エディバリー扮するジョシーは攻撃的ではなく優しい性格をしているが、PJの言うことに流されやすい欠点がある。

誰かに都合のいいキャラクターではなく、厄介な人物であったとしても差別のない世界が広がっているかを『ボトムス』は見つめようとしているのだ。

 

PJが女性の連帯に興味がなくても、彼女たちの「ファイトクラブ」は、部員それぞれを成長させ、女性としての悩みを打ち明けあうことにより、互いに親近感を生み出していく。これまでまったく接点のなかった彼女たちが、朝の登校時、ロッカールームの周辺で、互いにアイコンタクトを交わすシーンが本当に素晴らしい。

 

とはいえ、このまま終わらないのは誰もが予想できることで、女性のエンパワーメントを恐れたアメフト部員の妨害もあり、ここからは想像を超えたはちゃめちゃでシュールな展開へと突入していく。

 

アメリカのコメディー映画を代表するジャド・アパトー等の作品は、下品、お下劣、暴言に溢れていても、物語の根底はナイーブで真面目だという安心感を見る者に与えていたが、『ボトムス』はそうしたアメリカコメディ映画の伝統にも逆らうように、ドンドン過激になっていく。

暴力、血みどろ、殺人、爆弾等々、観る者を唖然とさせながらも、爽やかな印象を残すまれにみる快作に仕上がっている。これぞ青春学園コメディーの最新型である。

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