A24が北米配給した本作は、俳優として長年活躍してきたオーガスティン・フリッゼル監督の長編映画監督デビュー作品。
フリッゼル監督が若き日に実際に体験したことを元に、頼れる大人もなく若くして自活しているティーンエイジの女子ふたり組の生活をコメディータッチで描いている。
主人公のひとり、アンジェラを演じるのはディズニー映画『ティーン・ビーチ』や人気ドラマ『フォスター家の事情』で知られるマイア・ミッチェル。ジェシーを演じるのはモデル出身のカミラ・モローネ。その日暮らしで困窮しつつも明るく本能のままに生きる2人を、時に下品に時にお下劣に生き生きと演じている。
果たして彼女たちは憧れのリゾートビーチで誕生日を祝うことが出来るのだろうか!?
目次
- 映画『Never Goin’ Back ネバー・ゴーイン・バック』の作品情報
- 映画『Never Goin’ Back ネバー・ゴーイン・バック』あらすじ
- 映画『Never Goin’ Back ネバー・ゴーイン・バック』感想と評価
映画『Never Goin’ Back ネバー・ゴーイン・バック』の作品情報
2018年製作/86分/PG12/アメリカ映画/原題:Never Goin' Back/監督・脚本:オーガスティン・フリッゼル 撮影:グレタ・ゾズラ 美術:オリビア・ピーブルズ 衣装:アンネル・ブローダー 編集:コートニー・ウェア、オーガスティン・フリッゼル 音楽:サラ・ジャッフェ
出演:マイア・ミッチェル、カミラ・モローネ、カイル・ムーニー、ジョエル・アレン、ケンダル・スミス、マシュー・ホルコム、アティーナ・フリッツェル
映画『Never Goin’ Back ネバー・ゴーイン・バック』あらすじ
テキサスのある住宅街。親友であるアンジェラとジェシーは、高校を中退し、レストランでウェイトレスのバイトをしながらジェシーの兄のダスティンと共に借家で同居生活を送っていた。
アンジェラとジェシーはPCを観るときは兄の部屋に忍び込み、兄のルームメイトであるブランドンのPCを拝借するのが常だった。
その日もアンジェラがジェシーを誘い、ブランドのPCを開く。彼女が見せたかったのは、テキサスのリゾートビーチ、ガルベストンの美しい光景だ。
ジェシーの17歳の誕生日のプレゼントとして、リゾートビーチでのバケーションのツアーを申し込んだというアンジェラ。
ジェシーは憧れの海に行けると聞いて大喜びするが、ふと我に返り、費用はどうしたのかと尋ねた。家賃の分を旅行費に回したと答えるアンジェラ。
「家賃が払えなくなったらどうするの!? 祖父母とまた一緒に暮らすのは絶対いや!」と叫ぶジェシーに、シフトをたくさん入れて稼げばいいんだよとアンジェラは説得し、ジェシーも納得する。
去年の誕生日は悲惨だったので、今年はたっぷり楽しんでイルカと戯れたい。ふたりはビーチにいる自分たちを想像し胸をときめかせた。
彼女たちが勤めるレストランに行くには少し離れた停留所まで歩いてバスに乗らなければならない。他のバイトの子がシフトを譲れと言って来たが、ふたりは頑として拒否。店長には「仕事を取られたくなければ遅刻するなよ」と戒められる。
兄のダスティンは、麻薬の売人になろうとしているが、実はまったくの素人。ブツを買うお金もない。それでも凝りずにへんな仲間とつるんでああでもない、こうでもないと計画を立てている。ある朝、家をはげしく叩く音が聞こえてアンジェラとジェシーは目をさました。
昨日、兄のところにやってきた男がすごい剣幕で怒っている。ドアを壊そうとしているのであわてて駆け寄るふたりだったが、既にドアは蹴破られていた。
男は兄たちに騙されたと喚き、金を返せと言う。お金なんてないと答えると金目の物をもらっていくと男は言って、故障したテレビを持ち去った。
その騒ぎで近隣の住民が警察に通報。帰宅した兄たちと共に警官から事情徴収されるはめに。警官がアンジェラとジェシーの部屋に入ったため大麻を吸っていたことがバレ、ふたりは手錠をかけられ連行されてしまう。
数日後、釈放されるが、房の中でトイレをするのがいやだったジェシーは我慢し続けお腹が苦しくてたまらない。それにバイト先にも連絡できていないのでこのままではクビになってしまう。それなのに迎えに来た兄たちはブランドンが働いているダイナーで食事をしようと言う
アンジェラに少しだけ食べたら帰ろうと言われジェシーは皆と一緒に店に入った。みんなでブランドンをおだてて、ただ飯をゲット。
しばらくして家に戻ったジェシーはトイレットペーパを探すがどこにもない。その上に水が止められている。ジェシーが兄に払っておいてと渡した金を兄は使ってしまったらしい。
ジェシーは我慢しすぎて今度は便秘になってしまった。バイト先に連絡を入れると、とりあえず、言い訳だけは聞いてくれるらしい。ふたりは早めに家を出て、バイト先に向かうのだが・・・。
ふたりはバイトをクビにならずに済むのだろうか。そして憧れのビーチに行くことは出来るのだろうか!?
映画『Never Goin’ Back ネバー・ゴーイン・バック』感想と評価
主人公のジェシー(カミラ・モローネ)とアンジェラ(マイア・ミッチェル)はまだ16歳だが周りに頼れる大人はおらず、ウエイトレスをしながら自活している。
毎日かつかつの生活で、ほとんどその日暮らしと言ってもいい。彼女たちは、本作と同じくA24が配給を担当したショーン・ベイカー監督の『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(2017)の登場人物たちと同じような貧困層に属している。
事態は結構深刻で社会派ドラマになってもおかしくないのだが、上記のあらすじを読んでいただいたらわかる通り、本作はとびっきりのコメディーなのだ。
本作で長編映画作品監督デビューを果たしたスティン・フリッゼル監督は、本作を演出するにあたって『スーパーバッド 童貞ウォーズ』を念頭に置いたと言う。
女性版『スーパーバッド 童貞ウォーズ』といえば、オリビア・ワイルド監督の『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』を思い出す。こちらの作品も女性ふたりの友情を描いた痛快作だったが、『NEVER GOIN‘ BACK』はさらにパワフルで、・・・こちらはかなりお下劣で、お下品である。
ジェシーとアンジェラの関係にはユニークな特徴がある。アンジェラが強引に物事を決めて、ジェシーが危惧し出すとアンジェラが説得してジェシーがすぐに納得する。かと思えば、ジェシーが提案してアンジェラが躊躇していると、今度はジェシーが説得してアンジェラがすぐに納得するという具合。
どちらも説得力があるのか、それともお互いすぐに懐柔されてしまう性格なのか、ほとんど揉めることがない。まさに「息もぴったり!」なのだが、困ったことにその調子でふたりとも間違った選択に進んでしまうのだ。
バイト先に謝りに行って、クビにならないようにしなければ行けない時に、どうして、そっちに行ってしまうかなぁ、と観ている方がハラハラしてしまう。
また、これまで2人はあれやこれや理由をつけてバイトをサボろうとしてきた。水疱瘡にかかったと言い訳するために、夜ビキニになって蚊に刺されているという回想シーンが登場するが、その努力が出来るのなら、普通にバイトに行ったほうが楽なのでは?と誰もが思うであろう。
しかし、バイト先の店長はそんな彼女たちの言い訳にも目をつぶって、彼女たちを雇い続けて来た。彼は言う。「君たちの明るさが僕の救いだった。僕みたいな大人になるな」
そう、このふたりの飛び切りの明るさが、この映画の最大の魅力なのだ。彼女たちは信頼関係で結ばれ、相手を思いやっている。そして彼女たちは夢を諦めない。夢があるからこそ頑張れるし、お互いに優しくなれるのだということを彼女たちは思い出させてくれるのだ。
ところで、ジェシーは警察に勾留されて以来、慣れないトイレで用を足すことに抵抗感を覚え、ずっと我慢している。これがどんな結果を生むのか、観る者は当然そんな思いに駆られるだろう。まさかこんなことでサスペンスが生まれてくるとは!
さらに「嘔吐シーン」が壮大に登場する。実際のところ、嘔吐シーンのある映画はまず面白いと思っていい。
イーストウッドの『ファイヤー・フォックス』(1982)、キルスティン・ダンスト主演の『わたしが美しくなった100の秘密』(1999)、ジャド・アパトーの『40歳の童貞男』(2005)、『ピッチ・パーフェクト』(2012)、『お!バカんす家族』(2015)、『この世に私の居場所なんてない』(2017)等々。韓国映画なら『猟奇的な彼女』(2001)がある。ほら、傑作ぞろいでしょ?
この中では『ピッチ・パーフェクト』と『お!バカんす家族』が壮大さという点で双璧なのだが、『NEVER GOIN‘ BACK』もそれに決して負けていない。そこで争う必要は特にないのだが。