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【Netflix配信】映画『Fair Play フェアプレー』あらすじと感想/苛烈なヘッジファンドを舞台に男女のパワーバランスの変化が招く愛憎劇

競争の激しいヘッジファンドの同僚である若いカップルは婚約したばかりで幸せの絶頂にいた。しかし片方が昇進したことで二人の関係に不穏な空気が流れ始める…。

映画『Fair Play フェアプレー』は2023年サンダンス国際映画祭に出品され話題を呼び、配給権が争奪戦になった新鋭クロエ・ドモント監督による愛憎サスペンスだ。

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主演のふたりを演じるのは配信ドラマ『ブリジャートン家』(2020~2023)でブレイクしたフィービー・ディネヴァーと『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(2018)のオールデン・エアエンライク

 

一部地域の劇場で先行公開され、現在Netflixで配信中。

 

目次

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映画『Fair Play フェアプレー』作品情報

2023年製作/115分/PG12/アメリカ映画/原題:Fair Play

監督・脚本:クロエ・ドモント 撮影:メノ・マンズ 美術:スティーブ・サマースギル 衣装:ケイト・フォーブス 編集:フランクリン・ピーターソン 音楽:ブライアン・マコンバー 音楽監修:ダン・ウィルコックス 視覚効果監修:ジャイルズ・ハーディング

出演:フィービー・ディネヴァー、オールデン・エアエンライク、エディ・マーサン、リッチー・ソマー、セバスチャン・デ・ソウザ、パトリック・フィッシュラー、ジェラルディン・ソマービル

 

映画『Fair Play フェアプレー』あらすじ

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エミリーは、ニューヨークの熾烈なヘッジファンド、ワン・クレスト・キャピタルのアナリストだ。彼女には同僚で密かに同棲している恋人のルークがいた。

ルークの兄の結婚パーティーに出席した二人は人目を避けて濃密なキスを交わしていた。その時、ルークのポケットから指輪が転がり落ち、驚き目を見張るエミリーにルークは求婚。信じられないと何度もつぶやきながらもエミリーは承諾する。

 

翌朝、まだ夜も開けぬうちから起き出し、二人は家を出た。ワン・クレスト・キャピタルではアナリスト同士の恋愛はご法度なので、彼女たちは他人同士のふりをしなければならない。そのため、通勤も別々のルートで向かう。婚約が発表する前に漏れてしまうことだけは避けたいエミリーは、折を見てきちんと皆に話したいと考えていた。

 

仕事中、CEOのキャンベルが部下と共にエミリーたちの上司であるポートフォリオ・マネージャーのところにやって来た。何かを告げられた上司は突然ゴルフクラブで自分のデスクを破壊し始める。

 

こうして誰もに昇進のチャンスが訪れ、様々な噂が飛び交う中、エミリーはルークが一番の候補だと言う声を聞く。彼にそのことを告げると、ルークは満更でもない表情だ。

 

しかし、昇進を言い渡されたのはエミリーの方だった。キャンベルは、決して恵まれた環境で育ったわけではないエミリーが努力してここまでキャリアを築いて来たことを知っており、彼女の力量を高く評価していたのだ。

 

ルークよりも先に昇進したエミリーは気まずく感じ、彼に謝るが、彼が笑顔でおめでとうと言ってくれたのでほっと胸を撫でおろす。

 

だが、ルークのその態度は見せかけだった。彼の心の中は嫉妬と怒りに満ち、他の同僚たちが、エミリーが色仕掛けで昇進をものにしたのだと噂するのを聞いて、彼もまたそう思い込み、エミリーを怒らせる。

 

2人の間には不穏な空気が漂い始める。エミリーはキャンベルにルークのことを売り込むが、キャンベルはルークはコネ採用だと言い、彼がルークをまったく評価していないことが明らかになる。

 

ルークはわざとデーターを揃えるのを遅らせるなど、エミリーの足を引っ張りさえし始める。

 

婚約パーティーを開きたいと言ってきかない母親の対応に振り回されながら、まだルークとの愛を信じていたエミリーだったが・・・。

 

映画『Fair Play フェアプレー』感想

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ニューヨークのヘッジファンドで同僚として勤めるエミリーとルークはつい最近、婚約したばかり。プライベートでは同棲して仲睦まじい二人だが、勤め先では恋愛禁止なので、ふたりの関係がバレないようにお互い他人のフリをしている。

 

そんな中、突然エミリーの昇進が決まり、ルークが彼女の直属の部下となることに…。仕事とプライバシーを切り離して考えることはそれほど難しくないと感じていた二人だったが、その信念は脆くも崩れ、二人の関係に不穏な空気が漂い始める。

 

(恋人同士の)女性が男性より先に昇進したという出来事が、緊張感溢れるサスペンス映画となること自体がまず興味深い。ルークが先に昇進したとしたら、このような展開はありえただろうか。

 

映画はエミリーが昇進してすぐに、彼女のアナリストとしての能力が他に追従を許さないことを示して見せる。本来なら誰もが納得の実力主義の昇進のはずなのだが、同僚の男性たちはそれを受け入れられない。その要因はエミリーが女性だからという一点にある。彼らはエミリーがCEOに「女を使った」と噂しあう。彼女が自分たちより有能であると彼らは決して認めることができないのだ。

 

同僚たちのようにあからさまな女性蔑視はせず、エミリーを尊重してくれているように見えたルークだが(だからこそエミリーは彼を愛したのだが)、それはあくまでも(ルークの意識下で)エミリーが彼より下のポジションにいたからだ。

 

エミリーとルークは共にアイビーリーグの出身だが、エミリーは決して恵まれた環境の出身ではなく、努力のもとに奨学金を得てアイビーリーガーとなった。一方、ルークは典型的なエリート街道を歩んできた。そうした境遇の違いはルークに優越感を与え、潜在的に彼女を見下してきたのだろう。

2人のパワーバランスが変化したことでルークのプライドはズタズタに傷つけられる。エゴと権利意識により、彼は絶対にエミリーの昇進を認めることが出来ないのだ。

 

女性が自身のキャリアを守り続けることのプレッシャーは、どの社会においても厳しいものだが、昇進がキャリアの危機にたたされる代償となり、それを画策しているのが数日前まで愛をささやいていた婚約者であるというのが本作の新味である。

 

本作で長編映画監督デビューを飾ったクロエ・ドモントは、ジェンダー・ダイナミクスに焦点をあて、二人の男女の関係が崩壊していく様を鮮烈に描いている。

最終的にナイフが登場するとはいえ、サスペンスを盛り上げる特別な仕掛けがあるわけではない。それでも、映画に登場した際には幸福そのものだったエミリーが、仕事とプライベートの両方で果てしなく追い込まれていく様だけで十分に手に汗握らされる。血のにじむ努力の上にやっと手に入れた大事なキャリアが、「昇進」したことだけで危機にさらされるという理不尽さが怖さとなって伝わって来る。これは勿論、エミリー役のフィービー・ディネヴァーとルーク役のオールデン・エアエンライクの熱演によるところが大きいだろう。

 

ヘッジファンドの人間を人間とみなさない冷酷な世界が、ヒリヒリとした緊張感を生み出す舞台としてこれ以上ないほどはまっている。

エディ・マーサン扮するCEO・キャンベルにとって人間はただのコマに過ぎない。人間の感情になど見向きもしない冷徹な男、キャンベルは、エミリーがルークの策略で組織に大きな損害を与えることになった際、彼女を「間抜けなクソ女!」と罵倒する。彼女が損害を取り戻した際は、金を積むことで労をねぎらう。彼にとってすべては金次第なのだ。

なんの偏見もなく真にエミリーの実力を評価しているのがこのキャンベル一人だということが、なんとも皮肉である。

(文責:西川ちょり)

 

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