デイリー・シネマ

映画&海外ドラマのニュースと良質なレビューをお届けします

韓国映画『リバウンド』あらすじ・感想/ 韓国全土を熱狂させた実話を映画化! 弱小高校バスケットボールチームの快進撃を描く

映画『リバウンド』(2023)は、2012年に韓国を熱狂させた実話を映画化したもので、廃部寸前の高校バスケットボール部に就任した経験のないコーチがわずか6名の選手と共に全国大会制覇を目指す姿を描いた感動の青春スポーツドラマだ。

youtu.be

新任コーチを演じるのは、ドラマ『恋のスケッチ~応答せよ1988~』(2015)や『タッカンジョン』(2024)、映画『狩りの時間』(2020)などの作品で知られるアン・ジェホン

チームのエースであるギボムには、大ヒットドラマ『愛の不時着』で注目を集めたイ・シニョンが、ライバルのギュヒョクに「2PM」のメンバーで俳優としても活躍中のチョン・ジヌンが扮している他、3か月かけたオーディションで選ばれた期待の若手俳優が集結。見事なプレーと演技を見せている。

 

映画『最後まで行く』の脚本でも知られるチャン・ハンジュンが『記憶の夜』(2017)以来6年ぶりに監督を務め、脚本は、『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』(2018)などのクォン・ソンフィと、ハンジュン監督と公私に渡るパートナーでドラマ『シグナル』(2016)『キングダム』(2019~21)などで知られる名脚本家キム・ウニが務めている。  

 

目次

 

韓国映画『リバウンド』作品情報

(C)2023 NEXON Korea Corporation, B.A. ENTERTAINMENT, WALKHOUSECOMPANY ALL RIGHTS RESERVED

2023年製作/122分/韓国映画/原題:리바운드(英題:Rebound)

監督:フォアン・ハンジュン 脚本:クォン・ソンフィ、キム・ウニ 企画:パク・テジュン 撮影:ムン・ヨングン、カン・ジュシン 美術:イ・ミギョン 照明:パク・チソン

出演:アン・ジェホン、イ・シニョン、チョン・ジヌン、チョン・ゴンジュ、キム・テク、キム・ミン、アン・ジホ

 

韓国映画『リバウンド』あらすじ

(C)2023 NEXON Korea Corporation, B.A. ENTERTAINMENT, WALKHOUSECOMPANY ALL RIGHTS RESERVED

釜山中央高校のバスケットボール部は、かつては優勝したこともある名門チームだったが、今はメンバーも減り解散の危機に瀕していた。

校長は廃部にしようとするが、OB会が許さず、一部の教師たちは、部を解体するのではなく、金のかからないコーチを雇って緩く維持しましようと校長を説得する。

 

こうした事情で公益勤務としてコーチに雇われたのは、釜山中央高校の卒業生で、かつてバスケット部が名門だったころに活躍したカン・ヤンヒョンだった。

 

彼が就任してすぐに部員二人が退部し、選手がいない状況下、ヤンヒョンは選手集めに乗り出す。有力な選手は皆、ソウルの名門校に進学したり、引き抜かれたりする中、ようやく数名の選手を集めることが出来た。

 

入部したのは中学時代、天才ポイントガードと謳われながらも伸び悩み、希望のソウルの高校からスカウトの声がかからなかったギボム、足首のケガのため競技生活を諦め、ストリートの賭けゲームで稼いでいたギュヒョク、サッカー選手だったスンギュ、路上バスケ出身のガンホの四名。

 

そこに2メートルを超える実力派ジニョンも加わり、チームは「夏季群山市長杯」に向けて猛練習を始める。ヤンヒョンは、ボールを持ったらすぐにジニョンにパスするよう皆に指導する。

 

大会の初戦相手は高校バスケットボール最強の龍山高校に決まった。会場にやって来たヤンヒョンたちは龍山高校のバスからジニョンが降りて来たのを見て、驚き固まる。ジニョンは龍山高校に引き抜かれたのだ。

 

思いもかけぬ事態にチームワークが崩壊した中央高校パスケット部員。日頃からぶつかることの多かったギボンとギヒョクは激しく対立し、ギヒョクがギボンに投げつけたボールが審判を直撃。退場を命じられ、わざとではないと何度も抗議したヤンヒョンも退場処分を言い渡されてしまう。試合は没収、不戦敗となり、さらに半年の対外試合禁止処分を受けることに。

 

前代未聞の不祥事に部は休部状態となってしまった。ヤンヒョンも自暴自棄になって辞任を決意する。が、部の机の引き出しにしまわれていたビデオテープを見つけたヤンヒョンは、MVPまで上り詰めた自身の高校時代の映像を見て、自分に何が足りなかったかに気が付く。

 

ヤンヒョンは再び選手たちを訪ねて周り、釜山中央高校バスケットボールチームは新たなスタートを切ることとなった。ギヒョクとギボンのわだかまりも解け、春には新入生二人が入部。

 

固く結束したチームは「大韓バスケットボール協会長旗大会」に挑み、予選を勝ち抜いていく。  

 

韓国映画『リバウンド』感想と解説

(C)2023 NEXON Korea Corporation, B.A. ENTERTAINMENT, WALKHOUSECOMPANY ALL RIGHTS RESERVED

2012年、韓国で、名門から弱小チームに転落した部員わずか6名の高校バスケットボールチームが、全国大会で予想を覆す快進撃を続け8日間の大会を戦い抜いたことが大きな話題となった。そんな「事実は小説よりも奇なり」な実話を忠実に映画化したのが本作である。

 

公益勤務として雇われた指導経験のない新米コーチが部員を集めていく過程や部員の顔ぶれなどはまるで漫画から飛び出したかのようだが、チャン・ハンジュン監督と『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』などユ・ジョンビン監督作品でおなじみの脚本家クォン・ソンフィとチャン・ハンジュン監督の公私にわたるパートナーである名脚本家キム・ウニによって、それぞれの事情を抱えた少年たちの感情が丁寧に描写されている。

 

韓国ではスポーツ選手は、若い頃にその実力を判断され、上の段階に進むかどうか、早いうちに振り分けられてしまう。早熟型の人が評価される傾向があり、遅咲きの選手にはチャンスが回って来ず、好きでも続けられないという現状がある。

 

釜山中央高校の場合、今は弱小クラブに成り下がっているがもともと伝統校だったこともあり廃部にも出来ず、上を目指さず継続だけさせるというのが学校の方針だったため、あの個性的な非エリートであるメンバーにも機会が与えられたのだ。何も期待されていなかった彼らが、挫折を乗り越えて快進撃を続けていく姿に人々が熱狂したのはこうした社会的背景も関係していただろう。

 

アン・ジェホン扮する安月給で雇われたコーチ、カン・ヤンヒョンは、当初、声を張り上げることが多く、スパルタ方式で子どもたち指導しようとしていた。結局はスパルタの熱血教師ものなのだろうかと思って観ていると、思わぬことから、チームは六か月の対外試合禁止処分を受けるという不名誉な事態を招いてしまう。

 

そんな状況になって初めてヤンヒョンは自身の過ちに気付くのだ。かつてチームが名門だった時のエースとして栄光の道を歩みながら、プロでは成功しなかった自分を見下した人たちに対して、自分は部員たちを使って見返そうとしていたのだ。それは完全な間違いで、本当に大切なのは心から楽しんでバスケットボールに打ち込むことではないか。

 

部員たちとの接し方も変え、大切なのはチームワークだという信念のもと、ヤンヒョンは部員たちに接していく。決してバスケットが上手いとはいえない生徒も受け入れ、その子の良さが出るまで待つことも厭わない。バスケットが好きだという生徒を彼は決して排除しないのだ。

 

本作のタイトルである「リバウンド」とはご存知のとおり、シュートを打ったボールがゴールに入らず、跳ね返ったものをキャッチする技術を指すバスケット用語だが、失敗の後には必ず挽回の機会があることを釜山中央高校のバスケットボールチームは身を持って体験し、成長していく。  

 

そうした思いの中で、彼らの進撃が始まるのだが、試合は臨場感あふれるシーンの連続だ。スピーディーで生き生きとしたカメラワークが試合の興奮をリアルに伝えてくれる。

 

アン・ジェホンは時にコミカルな演技を見せて場を和ませ、若い俳優たちは熱意をまっすぐに表現し、私たち、観る者の心を熱くさせる。

 

バスケット経験者の俳優が多い中、ギボム役のイ・シニョンは、バスケットボール初心者で、基本から練習したという。スクリーンの中のイ・シニョンを観ている限り、経験者としか思えない素晴らしい動きをしている。陰ではどれほどの努力があったことだろう。

 

実話の映画化の際、最後に映画のモデルになった人々が画面に登場する作品は多いが、本作も例外ではない。映画の場面が実際の試合の同じ場面の映像に入れ替わる編集の仕方にぐっと来た。そして、実際の彼らのその後の人生が紹介されたあと、「バスケットボールが終わっても人生は続く」という言葉が現れる。

 

そう、タイトルである「リバウンド」とは、バスケットボール用語を指すだけでなく、人の生き方そのものを指している。失敗しても思いっきり手を伸ばせば、成功へのチャンスが待っているのだ。我々が生きていく上での大切なヒントがここにある。