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ドラマシリーズ『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』(全6話)あらすじ・感想/ 極寒のアラスカを舞台にシリーズ初の女性警官コンビが奇怪な事件を追う【U-NEXT配信】

2014年にHBOで放映されたドラマ『TRUE DETECTIVEトゥルー・ディテクティブ』(全8話)は、マシュー・マコノヒーウディ・ハレルソンという映画スターを主演に抜擢。猟奇的な殺人事件を追う2人の刑事の確執と連帯を描きセンセーションを巻き起こし、その後シリーズ化された。

 

本作『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』はシリーズ第四作目にあたり、5年ぶりの新作となる。過去3シーズン、ショーランナーを務めたニック・ピゾラットは今回、製作総指揮に回り、『ザ・マミー』(2017)などの作品で知られるメキシコのイッサ・ロベスが原案・監督・制作を務めた。

 

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アラスカ州の架空の都市エニスを舞台に、科学研究所に勤める研究者たちが全員忽然と姿を消す奇妙な事件が発生。捜査を担当するエリザベス・ダンバース署長にジョディ・フォスターエヴァンジェリン・ナヴァロ巡査に元ボクサーで俳優に転身したケイリー・リースが扮し、シリーズ初の女性コンビが、不可解で残虐な事件の真相に迫る。

U-NEXTにて2020年4月26日より見放題独占配信中。

 

目次

ドラマシリーズ『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』作品情報

© 2024 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.

2024年/アメリカ原題:True Detective: Night Country/全6話/本国放映:HBO

監督・脚本:イッサ・ロベス 企画:イッサ・ロベス、ニック・ピゾラット 製作総指揮:イッサ・ロベス、キャリー・ジョージ・フクナガ、ウディ・ハレルソンマシュー・マコノヒー、リチャード・ブラウン、マーク・セリアク、スティーヴ・ゴリン、バリー・ジェンキンズ、クリス・マンディ、アラン・ペイジ・アリアガ、ニック・ピゾラット、アデル・ロマンスキー、マリ・ジョー・ウィンクラー=イオフレダジョディ・フォスター 主題歌:ビリー・アイシッリュ「Bury a Friend」

出演:ジョディ・フォスター、ケイリー・リース、フィオナ・ショウ、フィン・ベネット、イザベラ・スター・ラブラン、クリストファー・エクルストンジョン・ホークス

 

ドラマシリーズ『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』あらすじ

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アラスカ州のエニスは、何か月も夜が明けることのない、極寒の街だ。採掘事業が街を支えているが、環境汚染がささやかれ、原住民を始め、街の人々の抗議活動がしばしば行われていた。

 

12月も終わりにさしかかった或る日、ツァラール北極圏調査センターの調査チームの全員が突如失踪するという事件が発生。エニス警察署長のリズ・ダンバースは、ハンク・プライヤー副所長とその息子ピーター・プライヤー巡査とともに、調査隊捜索の任務につくが、センター内を調べると床に人間の切り取られた舌が置かれているのを発見する。

 

もう一人、この事件に強い関心を抱いている刑事がいた。先住民イヌピアットの血を引くエヴァンジェリン・ナヴァロ刑事(カリ・レイス)で、彼女は以前ダンバースとパートナーを組んでいたが、二人の間に何があったのか、今は州警察に移動させられていた。

 

ナヴァロは未解決のままになっている先住民で活動家の女性、アニーが殺害された事件とこの事件には関連性があると信じていた。アニーは殺害された際、舌を切り取られていたのだ。

 

懸命の捜索にも関わらず、研究者たちの行方はわからないままだったが、街のはずれに住む元教授のローズ・アギノーの通報を受けた警察はツンドラ地帯で研究者たちの遺体を発見する。ローズ・アギノーは死んだ夫の幽霊が現れ、そのあとをついて行ったところ、研究者たちを発見したという。

 

研究者たちは皆、恐怖の表情を浮かべ、裸体のまま雪に埋まって凍りついていた。一人だけまだ息があることがわかり、病院へ搬送される。

少し離れた場所にはなぜか衣服が丁寧にたたまれて置かれていた。

 

センターの床に落ちていた舌はDNA鑑定によりアニーの舌であることが判明。なぜ未解決事件の被害者の切断された舌が、誰もいない研究センターの床に置かれていたのだろうか。

ダンバースは、ナヴァロを捜査隊に迎え入れることにする。

 

研究者たちは何を研究していたのか、誰もその実態を知らなかった。資金を提供していたのは一体誰なのか。センターを捜索しても一向に判明しない。彼らはほとんど外出せず、地元の人々とも交流がなかったようだ。

 

ダンバースは何人もの人間が重なって凍り付いた遺体を氷ごと切り離し、スケートリンクに移動させ、解凍させようと考えるが、事件はアンガレッジ警察に引き継がれようとしていた。

 

ダンバースはアンカレッジに捜索権が移る前に、ピーターの知人である獣医に遺体の見立てを頼む。

 

獣医の見解は、彼らの死因は凍死ではなく、その前に亡くなっていたというものだった。一体彼らに何が起きたのか? ダンバースとナヴァロは唯一の生存者が意識を取り戻したと報告を受け、病院を訪ねるが・・・。

 

ドラマシリーズ『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』感想と解説

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アラスカの小さな町エニスは、冬の間は何週間も太陽が昇らず、「ナイト・カントリー」というタイトルの通り、夜が続く町だ。青みがかった暗闇が永遠に続くかのように人々を包み込んでいる。しんとした空気感とわずかばかりの灯りは儚い美しさを漂わせているが、一方で猛烈な孤独を感じさせもする。

 

ここで起こる事件は奇怪そのものだ。まず私たち観客は北極圏調査センターの研究員のひとりが、震えながら「彼女が目覚めた」と呟く姿を目撃する。その後、研究者全員が姿を消し、しばらくしてツンドラ地帯で裸で重なって凍り付いた彼らの遺体が発見される。遺体の尋常でない様を見ていると、冷戦下ソヴィエトで起こった未解決遭難怪死事件「ディアトロフ峠事件」を思い出さずにはいられない。

 

「ディアトロフ峠事件」は1959年、ウラル工科大学の大学生の山岳グループが「死の峠」と呼ばれるホラフリチャン山に挑戦するが予定が過ぎても戻らず、捜索隊が送りこまれるが、やっと見つけたテントの中には人の形跡はなく、そこから一キロ離れた場所で9人の遺体が次々と発見されたというものだ。極寒の雪山にも関わらず彼らはろくに服も着ておらず、全員が靴を履いていなかった。一人の女性は舌がなくなっていた。なぜ、登山経験豊富な一行が、このような薄着でテントを離れたのか。離れなければいけないような何かが起こったのか。遺体からは異常な濃度の放射能が検出されたこともあり、雪崩、吹雪といった自然現象だけでなく、脱獄囚による攻撃説、UFO説、国家の陰謀説など様々な憶測が飛び交った。事件は結局曖昧なまま捜査を終えている。

 

原案・脚本・監督を務めたイッサ・ロベスが「ディアトロフ峠事件」を意識していたかどうかは全く不明だが、本作のこの奇妙で異様な事件にも、人間の手の届かない何か神秘的なもの、オカルト的なものなど、ありとあらゆる可能性を想像させるものがある。

 

実際、物語の背景には、原住民であるイヌピアットの霊界信仰があり、また、ある人物は霊が見えることで心を病んでいる。正当なミステリーというよりは、寧ろホラーやあるいは宇宙人説を連想させるSFにも近いのではないかと思わせる描写も度々登場する。

 

だが、そうした要素をふんだんに盛り込みながらも、ミステリーとしてのシリーズの大枠は忠実に守られている。過去の未解決殺人事件がこの不可解な事件に避けがたい影を落としていることが示され、謎が謎を呼ぶ展開は圧巻だ。

さらに、環境汚染や、人種差別、女性に向けられる暴力、虐待の連鎖など、リアルな社会問題が織り込まれており、スケールの大きな物語に仕上がっている。  

 

この難事件を扱うのが、ジョディ・フォスター扮するエニス警察署長のリズ・ダンバースと、ケイリー・リース扮する先住民イヌピアットの血を引くエヴァンジェリン・ナヴァロ刑事だ。ケイリー・リースは元ボクシング選手で、俳優に転身して間もない新鋭だが、ジョディ・フォスターという名優中の名優に対して一歩も引かぬ演技を見せている。

ダンバースとナヴァロの間には過去に何かがあったようで、しばしばぎくしゃくし、時にぶつかり合うが、芯の部分は信頼で繋がっており、その名コンビ振りは、『TRUE DETECTIVEトゥルー・ディテクティブ』のマシュー・マコノヒーウディ・ハレルソンの関係を継承している。

 

『TRUE DETECTIVEトゥルー・ディテクティブ』が単なる捜査物でなく、二人の刑事の私生活や、生き様を描いていたように、本作も主人公二人の同僚や家族との関係、それぞれの内面が丁寧に描かれている。有能だが、独善的で、仕事人間のダンバースは若い巡査のピーターを除いて、部下たちに嫌われており、先住民の血を引く継娘に対しても頭ごなしに接し、良い関係を築いているとは言えない。

一方、ナヴァロは心を病む妹を気遣う毎日で、女性に暴力を振るう者にはカッとして見境がなくなる傾向があり、先住民の活動家の女性が殺された事件の解決に異様ともいえる執念を燃やしている。

それぞれ問題を持ちつつも、二人は心根の優しさを持ち合わせており、彼女たちのその精神は全編に渡って貫かれている。

 

その二人に加え、前述した署で最も若い警官ピーター・プライヤー(フィン・ベネット)は、ネット社会の申し子のような才能を見せ、ダンバースに重宝されている。しかし、個人の生活に一切配慮のないダンバースのおかげで、妻との間に亀裂が入り始めている。また、ピーターの父ハンク(ジョン・ホークス)は副所長で、ダンバースに反感を抱いている代表的人物として描かれている。

 

こうした面々が、12月のクリスマスシーズンという、本来なら家族と過ごす楽しいはずの季節に、恐ろしくも複雑な事件の謎を追うのだが、予想だにしなかった恐るべき真相が明らかになっていく。

 

人間の暗黒面が露になる際のおぞましさはどんなミステリーにもつきもので、『TRUE DETECTIVEトゥルー・ディテクティブ』なども例外ではないのだが、マシュー・マコノヒーウディ・ハレルソンの二人が共有している刑事としての「使命感」には、清々しさというか、ある種の感動を覚えたものだ。

 

一方、本作の、ジョディ・フォスターとケイリー・リースも「弱者に対する優しさ」は徹底しており、二人の警官に共感せずにはいられないのだが、それでも物事の複雑さと背負ってしまったものの重さを思うと、「清々しさ」や「感動」といった言葉を使うのを躊躇してしまう。

 

シーズン1が作られてから10年近く経過した今、社会はより複雑に、より重々しく、より絶望的に変化したと言えるのかもしれない。

(文責:西川ちょり)

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