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【U-NEXT配信】ドラマ(TV Series)『THE CURSE/ザ・カース』(全10話)あらすじ・感想/ 世界の欺瞞と不条理を描くエマ・ストーン主演の独創的なブラック・コメディー

アメリカのテレビシリーズ『THE CURSE/ザ・カース』(全10話)は、カナダ出身のコメディアンで、アメリカHBOのリアリティショー&モキュメンタリーシリーズ『リハーサル -ネイサンのやりすぎ予行演習-』(2022/U-NEXTで配信中)などを手掛けたネイサン・フィールダーと、弟のジョシュとともに『グッドタイム』(2016)、『アンカット・ダイヤモンド』(2019)を監督したベニー・サフディが製作・脚本を手がけた風刺たっぷりのブラック・スリラー&ホラー・コメディーだ。

 

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ニューメキシコ州エスパニョーラに引っ越して来た新婚夫婦が、環境に優しくアーティスティックな家を建設するプロジェクトを進める中で、大手テレビ局に売り込むためのパイロット版を制作する姿が描かれるが、物語は徐々に予想もしない方向に進んで行く。

 

フィールダーとネイサンは出演も兼任し、フィールダーの妻役をエマ・ストーンが演じている。エマ・ストーンは本作の演技で第81回ゴールデン・グローブ賞主演女優賞(ドラマ部門)にノミネートされた。

 

制作はSHOWTIMEとA24。本国アメリカではParamount+ with Showtime にて2023年11月12日より配信公開された後、Showtimeにて放映。日本では2024年2月16日よりU-Nextにて観放題独占配信中。  

 

目次

『THE CURSE/ザ・カース』作品情報

[c]2023 Winning Spirit and Sons LLC and Showtime Networks Inc. All rights reserved.

2023年製作/アメリカ/Running time:38–69分(全10話)

製作総指揮:ネイサン・フィールダー、ベニー・サフディエマ・ストーン 監督:ネイサン・フィールダー、デイビット・ゼルナー、ネイサン・ゼルナー 脚本:ネイサン・フィールダー、ベニー・サフディ

出演者:エマ・ストーン、ネイサン・フィールダー、ベニー・サフディ、コービン・バーンセン、バーカッド・アブディ、コンスタンス・シュルマン、ニゾニヤ・ルクシー・オースティン

 

『THE CURSE/ザ・カース』あらすじ

[c]2023 Winning Spirit and Sons LLC and Showtime Networks Inc. All rights reserved.

アッシャーとホイットニー(エマ・ストーン)のシドニー夫妻は、結婚して一年目。不況が続き治安も悪いと言われるニューメキシコ州の小さな都市エスパニョーラに引っ越してきた。

二人は、この地の老朽化した建物を省エネの「パッシブハウス」に改造し、環境に配慮した地球に優しい住宅を売り出すことで、地域社会を活性化させたいと考えていた。

 

このような高価な住宅が地価を上げることも計算し、彼らは土地を買いあさっていたが、その結果、家賃が払えなくなって住処を失う低所得者層が増え始める。夫妻は街に高級コーヒーチェーンやデザイナーズ・デニム・ブティックなどの新しいビジネスを誘致し、エスパニョーラの仕事のない人々が仕事につけるようにして、そのことに折り合いをつけようとしていた。

 

夫妻は、自分たちのプロジェクトを売り込むためにHGTVのパイロット版を撮影している真っ最中だ。ディレクターはアッシャーの古くからの友人であるドギーが務めているが、リアリティショー特有のわざとらしい演出に、二人は時に反発を覚えることも。

 

そんな中、二人は地元のテレビ局の取材を受けるが、記者はホイットニーの両親もこのプロジェクトに関与しているのかと質問し始めた。

ホイットニーの両親は、弱者を平気で追い出す悪徳不動産屋で知られており、ホイットニーはそんな両親に反発して長らく家を出ていたが、両親からこの土地を譲ってもらったことで両親と和解したという事情があった。両親との関係はふせていたのでホイットニーが動揺していると、アッシャーが記者に噛みつき、不穏な空気を作ってしまう。

 

このインタビューをそのままテレビで流されたらイメージダウンは必至だ。アッシャーは記者と掛け合って、放送を中止してもらう代わりに、彼が昔務めていたカジノの悪質な実態の証拠を手に入れなくてはならなくなる。

 

撮影の休憩中、アッシャーはドギーから駐車場でコーラを売っている少女からー缶買うところを撮りたいと持ち掛けられる。特に意味はなく、撮っておくだけだといわれたアッシャーは少女のところに赴くが、生憎100ドル札しかなく女の子に一旦札を渡すも、撮り終えたとわかると金を取り返す。女の子はそんなアッシャーを見て「呪ってやる」と呟いた。

 

アッシャーは札を両替してもらって20ドルでサイダーを買うから待っていてと女の子に伝え、両替を試みるが、時間がかかって、駐車場に戻った時には既に女の子の姿は見えなくなっていた。

 

このことをホイットニーに話すとホイットニーは激怒して、女の子を見つけ出してすぐに100ドルを渡して来て!と叫んだ。アッシャーはあわてて夜の街に飛び出し必死に女の子を探すが、そう簡単に見つかるわけがない。たまたま出くわした子供に100ドル札を渡したアッシャーはホイットニーに件の女の子にちゃんと渡したと嘘の報告をする。

 

しかし、アッシャーの心に「呪い」という言葉はしっかりと刻まれてしまい、何か起こるたびに「呪い」のせいではとアッシャーは不安に苛まれることに・・・。  

 

『THE CURSE/ザ・カース』感想と解説

[c]2023 Winning Spirit and Sons LLC and Showtime Networks Inc. All rights reserved.

エマ・ストーン扮するホイットニーとネイサン・フィールダー扮するアッシャーは古い家屋を改装した持続可能な省エネ住宅=パッシブハウスに住んでいる新婚一年目の夫婦だ。

住宅は鏡に包まれたユニークなもので、時々鳥が鏡と知らずに突っ込んで命を落としている。

ホイットニーとネイサンはニューメキシコ州の小さな都市エスパニョーラを拠点に、この地球に優しい高価な住宅を売り出し、都市を活性化することを使命のように感じている。ホイットニーは、とりわけ住宅に強い思いを持っていてデザインも自ら担当しており、アッシャーはそんな彼女を全面的に支えている。

 

一話の冒頭では二人はとても感じがいい。彼らは、テレビのリアリティショーのパイロット版に出演中で大手テレビ局でのシリーズ化を目指している。プロデューサーとディレクターを務めているのはサフディが演じるアッシャーの古くからの友人のドギーだが、彼は番組の演出のために、病気の老人に涙を流させようと、目に水を差し、ホイットニーはあんなことが続くなら撮影はやめるとアッシャーに憤りを見せている。

至極真っ当なホイットニーの反応と、エマ・ストーンという役者に対する好感度も相まって、最初はこの主人公の夫婦を好意的に眺めることとなるのだが、物語が進むにつれ、次第に彼らに対する信頼は揺らいでくる。

ホイットニーは、環境やニューメキシコの先住民に理解があると自称しているが、複雑な問題を突きつけられるとさらりと本題から逃げ出す術を心得ていて、決して深入りしない。

彼女たちは善行を積んでいると思い込んでいるのだが、そこにあるのは、自身の特権から免責される気分になりたいという白人の欲望なのだ。

 

ホイットニーは先住民の女性アーティストと友情を築いているが、彼女はとにかく友人のお墨付きがほしい。友人はホイットニーを実業家と見なしているようなのだが、彼女は自身も芸術家であると承認されたくて仕方がないのだ。彼女はアーティストの良き理解者のように振る舞うが、結局は利用したいだけのようにも見える。

 

では、彼女たちは油断ならない「悪人」の類なのかというとそうとも言えない。ホイットニーは、「悪徳不動産屋」と呼ばれる両親に反発して家を出ていたこともあり、彼女がパッシブハウスに注ぐ姿勢は両親の商売とは似て非なるものだ。が、一方で、資金は両親から提供されたものであるというように、彼女たちには常に矛盾がつきまとっている。

 

また、彼らは、彼らの理想を人々に理解させるのにいつも四苦八苦している。パッシブハウスの買い手は、エアコンやガスレンジを家に持ち込みたがり、この家の理想と現実のギャップが可視化される。このパッシブハウスとホイットニー、アッシャーの夫妻の姿はとても良く似ていると言えるのではないか。理想は大きいが、問題も多く、住居を覆うガラスに映る歪んだ風景はまさに今の彼らの現状を示唆しているようだ。  

 

人間は善にも悪にもなれる「グレー」な存在だというのが本作における人間像だ。だからこそ「呪い」が効いてくるともいえる。

タイトルにもなっている「CURSE」は「呪い」という意味。通行人に缶ソーダを売る少女ナーラを見つけたドギーが、アッシャーにソーダを買うところを撮りたいと言い出したのがきっかけだ。アッシャーは財布の中に100ドル札しか持ち合わせていなかったので、一旦、彼女にお金を渡すが、撮影が終わったのを確認してそれを取り戻す。少女はそれに抗議して「呪ってやる」と呟くのだ。

 

のちにそれは単に当時、Tiktokでちょっとバズっていた言葉をつぶやいただけということが判明するのだが、アッシャーは「呪い」が頭から離れなくなってしまう。少女がアフリカ系アメリカ人だったから彼はその言葉を気にしたのだろうか、そこに偏見はなかったのか、そもそもその扱い方に問題はないのだろうかという危惧が生まれることも全て引き受けた上で本作は物語を展開させていく。

 

と、書いていくとなんだか堅苦しい話に思えるかもしれないが、こうした事柄は全てコメディタッチで綴られている。アッシャー役のネイサン・フィールダーは、カナダ出身のコメディアン&俳優で、彼が手掛けたHBOの『リハーサル -ネイサンのやりすぎ予行演習-』を見たところでは、「笑いの間をはずす」というのが得意の芸風のようだ。本作でもアッシャーは、間の悪いところでつまらないジョークを言う傾向があり、パイロット版の意見を述べるフォーカス・グループの面々からは、ホイットニーが感じがいいと好評なのに対して、アッシャーはユーモアに欠けるとこき下ろされている。そのおかげで彼は「ユーモア教室」に通わされる羽目に。そこでもはずしまくっている姿はもはや痛々しい。

 

リアリティショーの盛り上げを考えるドギーは、二人が一瞬見せるぎくしゃくした様子を見逃さず、夫妻の関係に焦点を当てようとする。それが徐々に夫婦の危機を招くようになるのだが、エマ・ストーンはホイットニーを見事に演じている。情熱的で人あたりも良く好感度が高いが、独善的で人の言うことに耳を貸さず、自身を善の担い手だと思い込んでいるホイットニー。そんな彼女をストーンが実に魅力的に表現している。

 

リアリティショーを始めとするエンターテインメント業界全体への皮肉も込めた本作は、コメディタッチとはいえど、気楽にすいすいと全10話をテンポよく消化していくような作品ではない。鑑賞中、耐え難い不快感を覚えることもあれば、身につまされるような感情を抱かせられることも。そしてなんとか最後までたどり着いた先には、これまで観たこともない、「呪いの行方」に誰もが啞然としてしまうだろう。

(文責:西川ちょり)

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