『ダイナマイト・ソウル・バンビ』(2018)、『サーチン・フォー・マイ・フューチャー』(2016)などの作品が国内外の映画祭で高く評価された映像制作チーム・シネマ健康会の松本卓也監督の新作映画『あっちこっち じゃあにー』。
お笑いコンビを解散してピン芸人となった末松と、彼の動画配信を手伝う6歳の女の子・加奈が、不思議な出会いを重ねながらキャンピングカーで旅をするロードムービーだ。
主人公の女の子には6歳の新人 ゆず を起用。もう一人の主人公 末松を松本卓也監督 自らが演じている。
映画『あっちこっち じゃあにー』は2023年11月4日(土)~11月17日(金)の期間、新宿K's cinema にて公開! 全国順次公開も予定されている。
映画『あっちこっち じゃあにー』作品情報
2023年製作/105分/日本映画
監督・脚本:松本卓也 撮影監督:髙橋周平 撮影助手:下村あさり 早川敏明 録音:田中建 木村圭吾 録音助手:松本康孝 演出:山田元生 後藤龍馬 尾野綾美 藏岡登志美 制作:佐藤正子(ジャパンフッテージ株式会社) 寺村茉莉 小山田佳代 衣装:松本輝美子 ヘアメイク:原早織(Kleuren) 美術:相澤奈那 車両:西村信彦(信勇コーポレーション) 片山智樹 大坪慶人 編集:髙橋周平 松本卓也 VFX:ショウジタツヤ サウンドエディター:井上久美子 音楽:ハマノヒロチカ 劇中曲:ザ・クロマニヨンズ 宣伝デザイン:東かほり プロデューサー:中條夏実 製作:シネマ健康会
出演:松本卓也、ゆず、ディネス・サプコタ、ハン・ギュヒ、岡田深、榎本桜
後藤龍馬、澤真希、中山雄介、山形啓将、野坂昌司、遠藤史崇、尾野綾美、吉井翔子、清なおみ、木村仁、みのみのり、白石望莱、阿紋太郎、大羽良克、春園幸宏
映画『あっちこっち じゃあにー』あらすじ
お笑いコンビを解散してピン芸人となった末松。後輩芸人からも面白くないといじられ、売れる気配は一向にない。ヘッドフォンで音楽を聴きながら、孤独に生きる日々。
そんな折、お笑いコンビの相方だった竹下が自殺したという報せが入る。葬式に出席した末松は竹下の遺影に向かって大声で問いかけはじめ、部屋を追い出されてしまう。
竹下は芸人を辞めてとあるお店の店長をしていたが、くすりと笑える動画配信をいくつも残していた。
末松も動画配信を始めようと公園で撮影を試みるが、ひとりではなかなかうまくいかない。その時、昔、数年付き合っていた女性、若菜の娘で、加奈という6歳の女の子がベンチに座っているのに気付いた。撮影をお願いしたのをきっかけに加奈は末松の動画配信に欠かせぬ存在となっていった。
そんな中、末松は高校時代の知人からキャンピングカーを使った宣伝動画の仕事を頼まれる。末松は若菜のOKを貰い、加奈と共に旅に出ることになった。ただし、ひとつ条件があると加奈は言う。小さい頃に別れたきり会ったことのない父のところに連れて行ってほしいというのだ。
映画『あっちこっち じゃあにー』感想と評価
主人公・末松(松本卓也)は、お笑いコンビを解散してピン芸人として活動している。馴染みの客にもネタがまったく受けず、後輩芸人たちからも「面白くない」とからかわれる毎日。もう自分はブレイクすることもなくここまでなのか、と悩みながらとぼとぼ夜道を歩いて行く後ろ姿に哀愁が漂う。
手持ちカメラで撮られたその後ろ姿は、劇中何回か出てくるのだが、歩き方が特徴的なのか、カメラの揺れ方によるものなのか、何か独特の雰囲気を感じさせる画となっている。
松本卓也監督は本作の公開が決定した際、「ガラにもなく、誰もが考える永遠のテーマ、生き死に について考えました」とコメントしている。その言葉から『あっちこっちじゃあにー』というタイトルの「あっちこっち」には、キャンピングカーの旅であっちこっちに出かけていくという意味と、“「あっち」の世界と「こっち」の世界=生と死”という2つの意味があることが伺える。末松の背中に不思議な感覚を覚えたのも、もしかしたらそれが死者の視点によるものだったからかもしれない。
自殺してしまった末松の元相方・竹下(榎本桜)は、末松の夢に現れて、「あっち」と「こっち」の世界について語る。彼が配信していた動画はすごくバズっているのに誰も観たことがない。そんなあちらとこちらの狭間に置かれた末松は「あっち」の世界にぐらりと気持ちが傾きかけているように見える。
と、このように紹介すると、なにやらシリアス一辺倒の作品かと思われそうだが、主人公たちが芸人や元芸人ということもあって、語り口は軽妙でユーモラスな律動感に溢れている。竹下が配信している動画は、くだらないんだけど得も言われぬ可笑しみがある。
末松は相方に触発されたように動画配信を始め、ひょんなことから元カノ・若菜(澤真希)の子で6歳の加奈(ゆず)という女の子とキャンピングカーで旅に出ることになる。
末松は運転できないので、自ずと別の人がこなすことになるのだが、運転手が次々変わって行くという構成が面白い。ネパール人のディネス・サプコタ扮するラムや、韓国人のハン・ギュヒ扮するパクなど、皆、それぞれいい味を出している。
旅の中では、末松の大人なのにせこくて子供じみたところや、加奈の子どもなのに穏やかで落ち着いた部分がクローズアップされる。松本監督自身、元お笑い芸人だったそうで、その体験を生かした演技と、加奈役のゆずの愛らしい自然体の演技がうまくかみ合っている。旅がもたらす共感がユーモラスなエピソードで綴られていく中、やがて「家族」というもう一つのテーマが浮かび上がって来る。
そんな彼らの奮闘を観察するカメラの視点はどこまでも優しい。最初はいやな奴らだなぁと思われた後輩芸人たちの面々も最後には好きになってしまうだろう。
(文責:西川ちょり)