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【Amazon Prime Video】映画『アメリカン・フィクション』あらすじ・感想/ 黒人芸術家の作品を型にはめようとする社会への痛烈な批判をユーモラスに描く【第96回アカデミー賞・脚色賞を受賞】

作品に「黒人らしさが足りない」と新作の出版を拒否された黒人の小説家モンク。それに抗議するため皮肉を込めて偽名で書いたステレオタイプな「ゲットー」小説が出版社に高額で売れ、たちまちベストセラーに・・・。

映画アメリカ・フィクション』は黒人芸術家の作品を型にはめようとする社会を痛烈に皮肉る示唆に富んだ風刺ドラマだ。

 

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『グッド・プレイス』(2017-19年)や『ウォッチメン』(2019年)などの人気テレビドラマの脚本を手掛けて来たコード・ジェファーソンが、パーシバル・エベレットの小説『Erasure』を脚色。本作で監督デビューを飾った。

 

モンク役のジェフリー・ライトは、ジュリアン・シュナーベル監督の『バスキア』(1996年)以来の主演作となった。

 

2023年トロント映画祭でピープルズ・チョイス・アワードを受賞したのを皮切りに、数々の賞にノミネート&受賞を果たし、第96回アカデミー賞では作品賞ほか5部門にノミネートされ、見事、脚色賞を受賞した。

 

映画『アメリカ・フィクション』はAmazon Prime Videoで観放題独占配信中。  

 

目次

映画『アメリカン・フィクション』作品情報

(C)2023 MRC II Distribution Company L.P. All Rights Reserved.

2023年製作/118分/アメリカ映画/原題:American Fiction

監督・脚本:コード・ジェファーソン 原作:パーシバル・エメレット『Erasure』 制作:ベン・ルクレア、ニコス・カラミギオス、コード・ジェファーソン、ジャーメイン・ジョンソン 製作総指揮:ライアン・ジョンソン、ラム・バーグマン、パーシバル・エベレット 撮影:クリスティナ・ダンラップ 美術:ジョナサン・グッゲンハイム 衣装:ルディ・マンス 編集:ヒルダ・ラスラ 音楽:ローラ・カープマン

出演:ジェフリー・ライト、トレイシー・エリス・ロス、エリカ・アレクサンダー、イッサ・レイ、スターリング・K・ブラウン、ジョン・オルティスレスリー・ウーガムス、マイラ・ルクレティア・テイラー

 

映画『アメリカン・フィクション』あらすじ

(C)2023 MRC II Distribution Company L.P. All Rights Reserved.

セロニアス・“モンク”・エリソンは大学の英語教師で、売れない小説家だ。授業で使ったフラナリー・オコナーの短編小説に出て来る有害な言葉が耐えられないと異議を申し立てた教え子を泣かせてしまったため、学校当局からしばらく休暇を取るように言われてしまう。

 

モンクは新作を書き上げたばかりだったが、エージェントから連絡があり、出版を断られたと告げられる。黒人らしくないというのがその理由で、出版社はもっとステレオタイプの黒人像を求めていると聞かされ、モンクは反発を覚える。

 

執筆に専念するため、モンクはボストンにある実家に戻ることにするが、足取りは重かった。彼は長らく家族を避けてカリフォルニアで生活しており、ほとんど家に帰っていなかったのだ。

 

実家に到着すると、母親は認知症を患っており、姉のリサと弟のクリフォードはふたりとも離婚していた。さらに姉からは亡き父が不倫していたことを打ち明けられる。父は医師で、姉も弟も医師だ。裕福な家庭だったが、厳格すぎる父のもと、悩みの絶えない一家だった。そんなモンクを暖かく迎えてくれたのは、長年、一家を献身的に支えてくれている家政婦のロレインだった。

 

そんな矢先、リサが急死してしまい、モンクが家族を支えなくてはならなくなる。母の症状は日増しに悪化していき、施設に預けることが急務になっていたが、モンクの稼ぎでは経済的に難しかった。

 

モンクはスタッグ・R・リーという別名義で、貧しい黒人家族を主人公にした典型的な悲惨な物語を書き、エージェントに送った。出版社に対する大いなる皮肉のつもりだったが、なんと編集者はその作品を絶賛して、出版したいという。ギャラも今までみたことのない桁で、既に映画化の話まで来ているらしい。

 

モンクはこんなものが世に出るなんてありえない、そもそもバレたらどうするのかとエージェントに訴えるが、作者は刑務所から逃走中の男という設定になっているので顔出ししなくてもよいし、お前だって金がいるだろうと言われ、何も言えなくなってしまう。

 

前金として払われた金のおかげで、母を施設に預けることが出来たモンクだが、もやもやした気分は晴れない。だが、近所に住んでいるモンクの小説のファンだという弁護士の女性と知り合い、彼女の存在が唯一の慰めになる。

 

スタッグ・R・リー名義の小説は発売されるやベストセラーとなり、なんとその年に発表された一番優秀な作品を選ぶ由緒ある文学賞の候補にノミネートされることに。

 

或る日、恋人の家を訪ねたモンクはスタッグ・R・リーの小説を彼女が読んでいたことを知る。しかもかなり良い印象を持っていることがわかり、思わず悪態をついてしまい、家から追い出されてしまう。

 

いらいらが重なった彼はいつの間にか怒りっぽくなっていて、あたりに怒りをまき散らしていた。これではまるで生前の父のようではないかと彼は気が付くが・・・。  

 

映画『アメリカン・フィクション』感想と解説

(C)2023 MRC II Distribution Company L.P. All Rights Reserved.

アメリカン・フィクション』は、英語教師にして小説家のモンクが、授業中にフラナリー・オコナーの短編小説に登場する「人種的蔑称」を黒板に書いたところ、不快だと申し出た白人女生徒の説得に失敗して泣かせてしまったため、教師の職を追われるところから始まる。

 

モンクは古代ギリシャ劇を再構築した作品を発表している売れない作家だ。彼の作品は書店の「神話学」の棚に収まるべきなのだが、彼が黒人作家であるというだけで、いつも「アフリカ系アメリカ人の小説」の棚に置かれてしまっている。

 

最近書き上げた小説は自信作であったにもかかわらず、出版を断られてしまった。理由を聞けば、彼の作品には「ブラックな部分が足りない」からだという。

 

モンクは、ブックフェアに登壇者として出席した際、別のブースで行われている新作が話題のシンタラ・ゴールデンの朗読会を覗く。彼女は高学歴&ハイキャリアの黒人女性作家だが、今回発表した作品はゲットーの若者たちのリアルな生活を、スラングをふんだんに用いて描いた作品で、白人の若い女性が、朗読を終えた作家をスタンディングオベーションで称えていた。モンクは思わず眉を顰める。

 

なぜ黒人作家は「黒人らしい」作品を強いられるのか。納得いかない彼は、別名義で、貧困にあえぎギャングとなった若者が憎き父親を銃で撃つ話を書き、エージェントに送りつける。コード・ジェファーソン監督はこのくだりを二人の役者に演じさせる形で描いている。

 

モンクにとってこの作品は、出版社たちへの皮肉を込めた辛辣な一種の批評だったのだが、編集者たちはこれぞ求めていた黒人による黒人小説だとばかりに飛びつき、彼の企みは裏目に出て出版が決まってしまう。

 

ここで描かれているのは、黒人の表現者や芸術家は常にステレオタイプであることを押し付けられているということだ。そしてその背景には、不幸な黒人の話を消費することで免責される気分になりたいという白人の欲望が存在しているのだ。

 

モンクは「黒人男性作家枠」で文学賞の選考者に選ばれるのだが、偽名で書いた件の作品が権威ある文学賞の候補作品に推薦されてしまう。モンクと「黒人女性作家枠」のシンタラ・ゴールデンはこの作品にNo!の烙印を押すのだが、白人選考者たちが全員受賞に賛成したため多数決で最優秀賞を受賞してしまう。白人選考者たちは、「今こそ黒人の声に耳を傾けることが大切だ」と選考理由を口にしてご満悦だが、目の前の黒人選考者ふたりの声にはまったく耳を貸そうとしないのだ。なんとも皮肉な場面である。  

 

ジェファーソン監督はこうした事柄に対してのモンクの苛立ちと怒りを深く掘り下げているが、タッチはあくまでも軽やかなコメディタッチだ。モンクを演じるジェフリー・ライトが実にいい味を出しており、気難しいキャラクターを愛すべきものにしている。また、アダム・ブロディ扮するハリウッドの映画監督の描写には思わず笑ってしまうはどだ。作品のこうしたスタイルはリベラルな白人たちの期待をわざとはぐらかすものともいえるかもしれない。

 

しかし、この作品は単に人種間の対立を描くものではない。彼がそわそわ落ち着かないのは、長年疎遠だった実家に戻り、家族と久しぶりに再会したことも関係している。亡き父は医者で、姉も弟も医者になったのに、自分は売れない作家だということが彼のコンプレックスになっていた。彼は家族の中でアウトサイダー的な存在なのだ。

父は厳格過ぎて、家族が皆、いい関係を築いていたとは言い難い。子どもたちは母との関係にも苦労したようだ。裕福な家庭だったが、裕福だからといって、物事が全てうまくいくわけではない。

これまで母の面倒を看てくれていた姉が急死し、モンクは母を始めとする家族と真剣に向かい合う必要に迫られる。

また、仕事に関するいらいらと家族に対するいらいらで、怒りっぽくなっていた彼は恋人を怒らせ、相手に自分の価値観を押し付けることの間違いに今更ながら気付き、自分自身とも向い合わねばならなくなる。

 

映画『アメリカン・フィクション』は、ひねりの効いたラストも含め、アメリカ社会において黒人が押し込められている現状に対してユーモアを散りばめながら斬新な風刺で切り込んだ作品だが、一人の男性が家族、そして自分自身に真摯に向き合う姿も描かれている。それはまさにモンク自身が常々描きたがっていたステレオタイプ化されていない多用で多種な物語そのものといえるだろう。

(文責:西川ちょり)

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