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【NHKBSP放映】映画『タクシードライバー』あらすじとラスト解説/マーティン・スコセッシ、ポール・シュレイダー、ロバート・デ・ニーロを世に知らしめた1970年代アメリカ映画の金字塔

映画タクシードライバー2024313日(水)NHKBSプレミアムにて放映(13:0014:55

 

映画タクシードライバーは、マーティン・スコセッシ監督、脚本家ポール・シュレイダー、主演ロバート・デ・ニーロの名前を世界に知らしめることとなった1970年代アメリカ映画の金字塔的作品だ。

 

ニューヨークを舞台に鬱屈したベトナム帰還兵のタクシー運転手の狂気を描いた本作は、都市の闇をあぶり出すスコセッシ監督の鮮烈な演出とデ・ニーロの魅惑的な演技が高く評価された。

 

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当時13歳だったジョディ・フォスターが売春婦役を演じて注目を集め、第49回(1977年)アカデミー賞助演女優賞にノミネートされた。また、本作は第29回(1976年)カンヌ国際映画祭でゴールデン・パルム賞を受賞し、ロバート・デ・ニーロニューヨーク映画批評家協会にて主演男優賞を受賞した。  

 

目次

映画『タクシードライバー』作品情報

映画『タクシードライバー

1976年製作/114分/PG12/アメリカ映画/原題:Taxi Driver

監督:マーティン・スコセッシ 製作:マイケル・フィリップス、ジュリア・フィリップス 脚本:ポール・シュレイダー 撮影:マイケル・チャップマン 編集:トム・ロルフ、メルビン、シャピロ 音楽:バーナード・ハーマン 特殊メイク:ディック・スミス

出演:ロバート・デ・ニーロジョディ・フォスターアルバート・ブルックス、ハーベイ・カイテル、レナード・ハリス、ピーター・ボイルシビル・シェパード  

 

映画『タクシードライバー』あらすじ

(c)IMDb

26歳のベトナム帰還兵で元海兵隊トラヴィス・ビックルはニューヨークで鬱屈した日々を過ごしていた。

不眠症に悩まされる彼は夜間のタクシー運転手として働き始める。彼は夜の街を走りながら、麻薬や売春が横行し、"ケダモノ "や "クズ "が跋扈する社会に嫌悪感を募らせていく。

 

或る日、パランタイン上院議員の大統領選挙キャンペーンで、クールで美しいボランティアのベッツィーを見かける。彼女を映画に誘い、デートの約束を取り付けるが、社交的でないトラヴィスは最初のデートにハードコアな成人 映画を選んでしまい、彼女を怒らせてしまう。この出来事によりトラヴィスの孤独感は益々深いものとなっていく。

 

ラヴィスはアイリスという12歳の少女が彼のタクシーに逃げ込んで来たのをきっかけに彼女と顔見知りになるが、その後、街頭で彼女をしばしば目撃するようになる。彼女は娼婦として働いており、やっかいな男が後ろについていた。トラヴィスは彼女を救いたいと考えるようになる。

 

闇ルートから銃を手に入れた彼は肉体を鍛え始め、ある計画を練り始めるが・・・。  

 

映画『タクシードライバー』感想と解説

(c)IMDb

冒頭、蒸気が立ちあがるタクシーのショットから始まり、タクシー運転手目線の夜のニューヨークの街並みが映し出されるが、まずムードたっぷりのスコアにひきつけられる。これは『サイコ』や『めまい』などヒッチコック作品を多く手掛けた巨匠バーナード・ハーマンによるもので、この作品が彼の遺作となった。トム・スコットのサックスをフィーチャーした実に渋い楽曲で、後に、ハーヴェイ・カイテルが、ジョディ・フォスター扮する娼婦を言いくるめる際、部屋でレコードをかけるシーンがあるのだが、プレイヤーから流れて来るのもこのテーマソングだ。

 

タクシードライバー』の脚本を書いたポール・シュレイダーは、アラバマ州知事のジョージ・ウォレスを銃撃した犯人、アーサー・ブレマーの日記『暗殺者の日記』から着想を得たという。ロバート・デ・ニーロ扮するトラヴィスは昼も夜もタクシーに乗りながら、街中の醜いものへと目を向け続けている街の観察者だ。「夜歩き回るクズは、売春婦、街娼、ヤクザ、麻薬売人、『すべて悪だ』奴らを根こそぎ洗い流す雨はいつ降るんだ?」といったふうに彼もまたセッセと自分の想いをノートに綴っている。

 

ラヴィスは、ベッツィー(シビル・シェパード)に一目ぼれして、しつこくアプローチし初デートまでこぎつけるが、その初デートは残念なことに「ハードコア映画鑑賞」。当然彼女は怒って映画館を立ち去ってしまう。その後、トラヴィスは「自分の妻は、黒人の男と浮気しているから、44マグナムで殺してやるつもりだ」という客(この客がマーティン・スコセッシ監督自身)を乗せ、車を止めてじっとアパートを見つめる男につきあわされたりする。深い闇の世界である。

そんな鬱屈した日々の中、トラヴィスは、パランタイン大統領候補を殺す計画を企てる。目標が出来た彼は嬉々として筋トレに励み、ガスコンロの上に腕を掲げて我慢し、怪しいディーラーから拳銃を四丁も買い、自作で拳銃が飛び出す装置を作り、44マグナムを構えて、鏡に向かって「オレに言ってるのか?」と話かける。

やがてトラヴィスはアイリス(ジョディ・フォスター)と出会う。この時のジョディ・フォスター、若干13歳!映画の中の設定では、さらに若く12歳。この家出娘は悪いひもにひっかかって娼婦をやらされている。トラヴィスのタクシーに彼女が乗り込んできたのをきっかけに彼は彼女を認知することになるのだが、その後、すっかり街の女として街頭を歩いている姿を何度も目撃することになる。

パランタイン大統領候補を暗殺するためモヒカンにしたトラヴィスはサングラスをかけて演説場に現れる。モヒカンは、ベトナム戦争においての米兵が決死の任務を遂行する前に、インディアンの勇気にあやかってするヘアースタイルだそうだが、トラヴィスが、パランタインを銃撃しようと拳銃を取り出そうとした時、案の定、シークレットサービスに見つかってしまい一発も撃てずに逃亡。カメラはその様子を俯瞰で撮っている。

 

興奮冷めやらぬ足取りでトラヴィスが向かった先は、アイリスのいる売春宿だ。アイリスを利用してヒモとして喰っていたスポーツ(ハーヴェイ・カイテル)を撃ち、44マグナムで買春宿の階段に立つ男の指を吹き飛ばし、アイリスの傍にいた男には別の拳銃の弾を全て撃ち込む。ここで注目すべきは簡単に人は死なないということ、それゆえにこのシーンはなんとも壮絶で生々しい地獄絵図と化すのだ。

カメラはスローモーションを採用し、一連の凶行を余すところなく捉えてみせたあと、血まみれの部屋から飛び出し、壁に飛び散った血のカットをはさみ、戸口に出て行くと今度は俯瞰でその騒ぎに集まった住民たち、集まってくる人々、警官の到着を映し出す。

 

スコセッシ監督がこの映画に対して「トラヴィスのような人物を手遅れになるほど無視する社会への警告」とコメントしているように、本作はベトナム後遺症に悩まされる元海兵隊の男を主人公にした「社会派問題作」であることは間違いない。が、ラスト、すっかり無罪放免され、タクシーを流しているトラヴィスの姿はなんとも奇妙な後味を残す。このことから本作を一種の寓話と観る解釈も成り立つ。

 

スコセッシ監督と脚本家ポール・シュレイダーはこのラスト5分に運命というものの皮肉な様を込めているともいえる。ポン引きや麻薬ディーラーから一人の少女を救った英雄としてマスコミはトラヴィスを持ち上げるが、もし彼がパランタイン上院議員に発砲していたなら、彼は暗殺者、あるいは暗殺未遂者として糾弾されていただろう。人の運命など紙一重なのだ。

 

ラストシーンが寓話的風景なのか、それとも現実を反映したものなのかは判然とせず観る者に委ねられている。ベッツィーとの再会には彼の心の変化が見えるようにも感じられるが、しかし彼の視線は鋭く、氷のように冷たい。そして相も変わらず、街の観察者であり続けている。

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