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映画『COME TRUE/カム・トゥルー 戦慄の催眠実験』のあらすじと感想/潜在意識の深淵に潜る悪夢を描く新感覚のホラー映画

親との不和で眠る場所のない高校生サラは、ある大学の「睡眠」に関する研究の臨床試験に参加する。寝床を確保したことにホッとしたのも束の間、サラはある写真を見せられ発作を起こしてしまう。次第に明らかになる研究の目的と、人々の夢の中に共通して現れる暗き迷路。その深奥に潜む《人影》の正体とは—!?

 

映画『COME TRUE/カム・トゥルー 戦慄の催眠実験』は、ブラッド・イン・ザ・スノー映画祭にて見事6冠に輝くなど、世界各地のファンタ系映画祭で絶賛された《金縛り》サイコホラーだ。

 

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監督を務めたアンソニー・スコット・バーンズはホラーアンソロジー『ホリデイズ』(2016)をケビン・スミスと共同で監督。スティーヴン・キング原作のNetflix映画『イン・ザ・トール・グラス 狂気の迷路』(2019)の第2班監督を経て、本作で単独長編映画デビューを果たした。

 

『人肉村』(2020)のダニエル・ワイセンバーガーと脚本を執筆し「Pilotpriest」名義でエレクトリック・ユースと共に劇中曲も手がけるなど、バーンズ監督の八面六臂の才能が発揮されている。

 

また、主人公サラに扮したジュリア・サラ・ストーンは、6歳から子役として活躍し、これまでに数多くの賞を受賞している若き実力派俳優。2023年のウィスラー映画祭では主演作『ZOE.MP4(原題)』が評価され、カナダ新世代のホラークイーンとして注目を集めている。

 

映画『COME TRUE/カム・トゥルー 戦慄の催眠実験』は、2024年3月8日(金)より神奈川・あつぎのえいがかんkiki にて1週間公開! 関西ではシネリーブル梅田の「未体験ゾーンの映画たち」にて3月9日(土)の20:35分の回のみ上映、4月にシネマ神戸にて公開が予定されている。

 

 

映画『COME TRUE/カム・トゥルー 戦慄の催眠実験』作品情報

(C)2021 IFC FILMS. ALL RIGHTS RESERVED./Cinemago

2020年制作/カナダ映画/英語/105分/R15+(映倫区分)

脚本:アンソニー・スコット・バーンズ、ダニエル・ワイセンバーガー 撮影・編集・監督:アンソニー・スコット・バーンズ 共同プロデューサー:ニコラス・ベチャード プロデューサー:スティーブン・ホーバン、マーク・スミス、ブレント・カウチュク 音楽:エレクトリック・ユース 日本語字幕:堀池明|宣伝デザイン:デザイン原|宣伝:河合のび、滝澤令央|配給:Cinemago

出演:ジュリア・サラ・ストーン、ランドン・リボアイアン

カーリー・リスキィ、クリストファー・ヘザリントン、テドラ・ロジャース、スカイラー・ラジオン  

 

映画『COME TRUE/カム・トゥルー 戦慄の催眠実験』あらすじ

(C)2021 IFC FILMS. ALL RIGHTS RESERVED./Cinemago

高校生のサラは関係が険悪な母親と距離を置くため、友人の家を転々とし、時には野宿もする生活を送っていた。彼女は繰り返し悪夢を見て、そのたびに飛び起き、十分な睡眠を摂ることができずいつも朦朧としていた。

 

安眠を求めて、とある大学の「睡眠」に関する研究の臨床試験に参加することにしたサラ。一日目は久しぶりに穏やかな眠りにつけたが、やがてまた悪夢にうなされるようになる。

ある朝、研究員から何枚かの写真を見せられるが、最後に提示された写真を見たサラは発作を起こし、意識を失ってしまう。

 

彼女の悪夢への不安と恐怖はより深いものになっていくが、彼女以外の被験者たちも、しばしば悪夢を観て、目を覚ますようになっていた。どうやら被験者は全員、同じ夢を観ているらしいのだ。

 

試験の目的は何か、何がおこっているのか、サラは自分を尾けていた研究員リフに接触し、彼を問い詰めるが・・・。  

 

映画『COME TRUE/カム・トゥルー 戦慄の催眠実験』解説と感想

(C)2021 IFC FILMS. ALL RIGHTS RESERVED./Cinemago

冒頭、悪夢にうなされて目を覚ましたサラが滑り台の上で眠っていたことにまず衝撃を受けた。彼女は16歳の高校生だが、親と折り合いが悪いのか、家に帰らず、友人の家に泊まれないときは、この日のように公園で寝泊まりしている若きホームレスなのだ。

 

朝、母親がでかけたのを見届けて、家に入り、入浴を済ませて、タンブラーにコーヒーを入れると、自転車に乗って学校へと向かうサラ。十分な睡眠が摂れていないので、授業中にも居眠りし、また悪夢で目が覚める。そんなことを繰り返しているために、サラの表情は常に疲労と悲壮感に溢れている。サラを演じたジュリア・サラ・ストーンの痛ましさと恐怖に溢れた「顔」がまず何よりも本作の強烈な武器だろう。

 

頻繁に登場する「悪夢」の映像の「奥へ、奥へ」というイメージは人間の潜在意識の深淵に迫って行くかのようだ。まっすぐに奥へ、奥へと進むうちに現れる扉のようなものが開くと、また映像は奥へ奥へと続いて行く。様々なイメージが現れたかと思うと通り過ぎ、永遠に続くかのようにさらに深く進んだ先に現れるものは何か。その姿を観る度、サラは激しい動悸とともに飛び起きる。

 

彼女は寝場所を求めて大学主催の睡眠臨床の被験者になる。横になれるところがあればどこでもよかったのだ。最初は何事もなかったが、やがて同じ奥へ奥へと続く夢を見始める。

 

面白いのは、この研究が何かの悪だくみや、陰謀などに繋がっていくものではなく、純粋に科学者が夢の映像サンプルを集め、解読しようとしていることだ。彼らはそこにロマンさえ見出している。睡眠初期の段階にカメラに映る幾何学模様なども実にユニークだ。

派手な展開のエンターティンメントを期待している人にはいささか冗長に感じられるかもしれない。だが、ここで展開する夢の不穏さはゴシック調なイメージを若干感じさせるものの、見たことのない類のものであり、アンソニー・スコット・バーンズ監督の想像力と造形力に畏敬の念さえ抱いてしまった。

「影」として現れるものの正体がわからないからこそ恐ろしく、そもそもそれが掴みどころのない「影」であることが怖さを倍増させる。アンソニー・スコット・バーンズ監督は影響を受けた監督に黒沢清の名を上げているが、黒沢が『回路』などで試みた「異形のもの」の影響をそこに見てとることができるだろう。

 

その不穏な映像に、エレクトリック・ユースの素晴らしいシンセ・サウンドトラックが重なる場面の美しさはどうだろう。アンソニー・スコット・バーンズが描く世界は激しい血みどろの地獄絵ではなく、魅惑的なシュルレアリスム絵画とでもいうべき美学が貫かれている。

 

また、ホラー映画はしばしばティーンを主要キャストとして描くが、本作もサラというティーンエイジャーの深い孤独に焦点を当てた青春映画でもあるだろう。

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