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絶賛公開中の映画『海街奇譚』のチャン・チー監督と『マイマザーズアイズ』の串田壮史監督とのオフィシャル特別対談が到着!

姿を消した妻を探しに、彼女の故郷である離島の港町を訪れた男。相次ぐ海難事故で住民の行方不明が続く寂れた町で、妻の面影を持つ女と出会うが...。

 

映画『海街奇譚』は中国の新世代監督チャン・チー長編映画デビュー作であり、卓越した映像感覚と比類なきイマジネーションが炸裂するアートサスペンスだ。

第41回モスクワ国際映画祭審査員特別賞(シルバー・ジョージ)と第18回イスタンブール国際インディペンデント映画祭批評家協会賞(メインコンペティション)を受賞。また第27回カメライメージ映画祭ではゴールデンフロッグ賞・撮影監督デビュー部門の2 部門ノミネートを果たすなど、映像表現も高い評価を受けている。

 

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主演の妻を探す男を演じたチュー・ホン ギャンは本業が機械技師という変わり種。その妻を演じたシューアン・リンは妻役以外にも2役を演じ、ファム・ファタール的な魅力を存分に発揮している。

 

映画『海街奇譚』は2024年3月2日(土)よりシネ・ヌーヴォにて関西での公開がスタート。3月9日(土)よりシネマ神戸、3月15日(金)よりアップリンク京都にて公開される。

 

この度、チャン・チー監督と『マイマザーズアイズ』(2023)などの作品で知られる串田壮史監督コラボ対談が実現! 世界の映画祭で評価された現代的な映画作り、自由な発想で生み出すアート映画の技法など、貴重な意見交換が披露された。  

 

映画『海街奇譚』チャン・チー監督×串田壮史監督:特別座談会

(C)Ningbo Henbulihai Film Productions/Cinemago

【越境するアートハウス映画の“表現と視座”】

 

串田壮史監督 (以下、串田):映画『海街奇譚』を面白いと感じたのは、ま ず、主人公が俳優業という設定です。俳優であるから こそ、本当の自分を隠しつつ、自分が考えた役をこの 街で演じているに過ぎない、信用できない語り手として存在しており、もはや今の時代は何が現実で何が嘘かを区別せずに生きるべきであると、強く訴えられました。私たちが今生きるべき姿を提示している、とても現代的な映画ですね。AIとか、役というアバターでの生活、時代に根差している作品です。

チャン・チー監督 (以下、チャン):あなたの前作『写真の女』にも同じような現代性を感じましたよ。加工で美しく盛った写真を自分自身の姿だと思い込んでいく様子は、とても現代的です。より作家性が際立ったのが、『マイマザーズアイズ』ではないでしょうか。私と串田監督は同世代の映像作家でお互いイギリスで映像制作を学んだ出自も共通しています。

串田:私の監督した2作品はどちらも「デヴィッド・クローネンバーグの影響を受けた」と評されています。意識した自覚は無いのですが。

チャン:『海街奇譚』を海外の映画祭で上映したとき「冷たいマルホランド・ドライブのよう」とデイ ヴィッド・リンチ監督作品との親和性を指摘されました。私は意識しましたよ(笑)。

串田:それはチャン監督が映画を撮るにあたり、中国国内だけではなく、最初から海外の国際映画祭で勝負しようという意気込みがあったからですよね。青を基調とし、昼と夜でその色彩設計が異なるバランスで調整されている美しさは、舞台演出を映画として昇華していると感銘を受けましたし、俳優さんたちの演技も抑制が効いていて、アジア映画に留まらないという洗練された雰囲気に満ちていましたね。 自戒を込めて言うと、日本のインディーズ監督の作品は身近な暴力を描きがちで、創造力が半径数メートルの身近な世界で止まっているんです。

チャン:『マイマザーズアイズ』にも暴力が出てきましたね。しかし、とても芸術的であると感じまし たよ。中国は審査制度があり、過度な暴力表現は出来なかったため、『海街奇譚』では、主人公がカメラを使い、撮影という行為でもって殺人を行う抽象的な暴力演出を行いました。チェロの弓で人体を引き裂く『マイマザーズアイズ』しかり、私たちは芸術を生み出す道具を用いて殺人を描くという唯 一無二の共通点がありますね。

串田:作家自身が描きたいという自由な発想を用いて、アートハウス映画を作る環境は、年々厳しくなっています。私もあなたも自身で制作したインディペンデント映画を映画館で上映できる最後の世代になるかもしれません。最近は、現代的な作品作りは映画の在り方そのものを考え直す時期に差し掛かっていると感じています。

 

チャン・チー監督プロフィール

(C)Ningbo Henbulihai Film Productions/Cinemago

1987年、中国浙江省寧波生まれ。 ノッティンガム大学国際コミュニケーション学科卒業、北京電影学院演出科修了。舞台演出家、舞台美 術家としても活動。2010年から2015年まではCMや短編映画などを手がけ、2016 年に中編『Edge Of Suspect』でデビュー。2019年に長編デビュー作『海街奇譚』にてモスクワ国際映画祭審査員特別賞を 受賞。2021年の長編第2作『ANNULAR ECLIPSE』は釡山国際映画祭に出品された。学生時代から演劇を学んでおり、演出を手がけた最新の舞台は、2021年に上演された戯曲「三字奇譚」。同作は浙江省文化芸術基金の資金提供対象に選ばれている。

 

串田壮史(くしだたけし)監督プロフィール

(C)Ningbo Henbulihai Film Productions/Cinemago

1982年大阪生まれ。ピラミッドフィルム所属。2020年に発表した長編デビュー作『写真の女』は、 世界中の映画祭で40冠を達成し、8か国でのリリースが決定している。長編第二作『マイマザーズアイズ』は、スクリームフェストやフライトフェストなど、世界の主要ホラー映画祭に選出されている。現在、長編第三作の製作中。

 

 

映画『海街奇譚』作品情報

(C)Ningbo Henbulihai Film Productions/Cinemago

2019 年/112 分/中国/映倫 G/原題:海洋動物(英題:In Search of Echo)

脚本・監督:チャン・チー 撮影:ファン・イー 視覚効果:リウ・ヤオ 音楽:ジャオ・ハオハイ 美術:ポン・ ボー 共同脚本:ウー・ビヨウ 編集:シュー・ダドオ 配給・宣伝:Cinemago

出演:チュー・ホンギャン、シューアン・リン、ソ ン・ソン、ソン・ツェンリン、チュー・チィハ オ、イン・ツィーホン、ウェン・ジョンシュエ   

 

映画『海街奇譚』あらすじ

(C)Ningbo Henbulihai Film Productions/Cinemago

とある離島にやってきた、売れない映画俳優のチュー。彼は妻の行方を捜すため、妻と出会ったこの島を訪れたのだ。

荒波が押し寄せる島の堤防ではカブトガニの面を装着した漁師の集団が怪しげな儀式をしていた。漁師たちの守護仏であった町の仏像の頭が消えてしまい、町民たちが捜しているのだ。頭が消えたことで、海に出た者は戻ってこなくなってしまい、以来、漁師たちは漁に出ていない。

 

夕暮れ時。宿屋の女主人がチューに声をかける。部屋に落ち着いたチューは、旅の疲れを休めるように目を瞑る。女主人は身の上話を始める。かつて宿を切り盛りしていたのは双子の妹だったが、彼女は何年も前の8月5日に出て行ってしまったきり戻ってこないという。

 

島のダンスホール。妖艶なネオンが輝き、町民たちで店内は賑わっている。タバコをふかす店の女将を遠くから見つめるチュー。停電で客が帰って行き、チューは女将と二人きりになる。女将は5年前、漁に出たきり戻ってこない夫の帰りを待ち続けていた。

 

過去の記憶。無機質な部屋に、チューと妻がいる。チューは妻の浮気を疑っている。妻は本業の俳優業に向き合わず写真にのめり込むチューに苛立ちを隠せない。「大人になって現実を見てよ」しかしチューは自分を裏切った妻の言うことに聞く耳を持たない。 やがて妻は別れを切り出すが…。

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