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【NHKBSP放映】映画『めまい』(Vertigo)あらすじと解説/アルフレッド・ヒッチコックによるミステリアスで倒錯した愛の物語・高所恐怖症を表す斬新なショットにも注目

映画『めまい』は2023年12月14日(木)NHKBSプレミアムにて放映(13:00~15:09)

 

映画『めまい』はフランスの人気ミステリ作家で、アンリ・ジョルジュ=クルーゾー監督の『悪魔のような女』(1954)の原作でもおなじみのピエール・ボアロー&トーマス・ナルスジャックの『死者の中から』をアレック・コッペルとサム・テイラーが共同脚色したアルフレッド・ヒッチコックの1958年の作品。

 

高所恐怖症になった元刑事の男性が、友人の妻の素行を調べるうち、彼女と恋に落ちるが、女性は男性の目の前で飛び降り自殺してしまう。

ショックのあまり、長い間、療養していた男はある日、彼女と瓜二つの女性に出会い・・・。

 

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主役の二人に、ジェームズ・スチュアートキム・ノヴァクを起用し、ミステリアスでニューロティックで倒錯的な物語が展開する。

 

高所恐怖症がもたらす主人公の動揺を、斬新な撮影技術で描いているのも見逃せないヒッチコックの最高傑作のひとつ。

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目次

映画『めまい』作品情報

(C)1958 Alfred J. Hitchcock Productions, Inc & Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved. Restored Version (C)1996 Leland H. Faust, Patricia Hitchcock O'Connell & Kathleen O'Connell Fiala, Trustees under the Alfred J. Hitchcock Trust. All Rights Reserved

1958年製作/128分/アメリカ映画/原題:Vertigo

監督・制作:アルフレッド・ヒッチコック 

原作:ピエール・ボワロー &トーマス・ナルスジャック 脚本:アレック・コッペル サミュエル・テイラー 撮影:ロバート・バークス 美術:ハル・ペレイラ、ヘンリー・バムステッド 衣装:エディス・ヘッド 編集:ジョージ・トマシーニ 音楽:バーナード・ハーマン タイトルデザイン・ソール・バス

出演:ジェームズ・スチュアート、キム・ノヴァク、バーバラ・ベル・ゲデス、トム・ヘルモア、ヘンリー・ジョーンズ、レイモンド・ベイリー、エレン・コービイ、コンスタンティン・シャイン、リー・パトリック


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映画『めまい』あらすじ

(C)1958 Alfred J. Hitchcock Productions, Inc & Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved. Restored Version (C)1996 Leland H. Faust, Patricia Hitchcock O'Connell & Kathleen O'Connell Fiala, Trustees under the Alfred J. Hitchcock Trust. All Rights Reserved

刑事ジョン・ファーガソンは、逃走する犯人を追跡中にジャンプに失敗し、屋根の雨どいに宙ぶらりんになってしまった。そんな自分を助けようと必死で手を伸ばしていた同僚が足を滑らせて転落死し、ショックを受けたジョンは高所恐怖症になってしまう。

 

サンフランシスコ警察を辞めたジョンのもとに、ある日、かつての友人、ギャヴィン・エルスターがやって来た。エルスターは自分の妻マデリンの素行を調査してほしいと言う。

 

マデリンは亡霊にとり憑かれでもしたかのように、毎日外へ彷徨い出て不審な行動を繰り返しているという。ジョンはマデリンの尾行を開始するが、そんな彼の見ている前でマデリンは入水自殺を図る。ジョンはあわてて飛び出してマデリンを救い、気を失っている彼女を彼のアパートに運び込んだ。ジョンはすぐに彼女に夢中になり、ふたりは愛し合うようになる。

 

ある日、マデリンとジョンはマデリンの夢に出て来たという場所を訪ねる。二人は抱擁し合うが、突然マデリンが教会に一人で行かせてくれと言い、走り出した。悪い予感がしたジョンはすぐに彼女のあとを追ったが、マデリンは教会の塔の階段を駆け上がっていく。

 

ジョンもまた階段を上がっていくが、高所恐怖症に襲われ、足がすくんで動けなくなる。その間にマデリンは鐘楼から飛び降りて死んでしまう。

 

彼女を助けられなかったことにショックを受けたジョンは神経を病み、療養生活を送っていた。古くからの知り合いの女友達のミッジが献身的に世話をしてくれたおかげで、ようやく立ち直ったかに見えたが、彼は街で偶然マデリンにそっくりな女を見かけ、思わず彼女のあとを追う。

 

女はジュディと名乗り、マデリンではないと否定するが・・・。


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映画『めまい』感想と評価

(C)1958 Alfred J. Hitchcock Productions, Inc & Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved. Restored Version (C)1996 Leland H. Faust, Patricia Hitchcock O'Connell & Kathleen O'Connell Fiala, Trustees under the Alfred J. Hitchcock Trust. All Rights Reserved

(ネタバレ部分ございます。ご注意ください)

キム・ノヴァクの顔のクローズアップに始まり、唇、次いで目に焦点があたると、その目から原題タイトル『Vertigo』がゆっくりと現れ、ついで渦巻のようなシンボルや、カラフルな輪が次々と現れ回るという凝ったタイトルデザインが展開する。これはアメリカのグラフィック・デザイナー、ソール・バスによるもの。彼のヒッチコック作品での仕事はこの『めまい』が最初らしい。そこにバーナード・ハーマンのなんとも怪しげで蠱惑的な劇伴が響く。

 

冒頭、画面に、横棒が一本。なんだろうと思った瞬間、人の手がみえて、それが屋上に続く階段のてっぺんであることがわかる。犯人、制服警官、ジェームズ・スチュアートの順に登って来て、屋上での追跡が行われているのをワンカットで撮っている。もう一つ高い位置に犯人が飛び移り、制服警官はなんなくあとに続くが、ジェームズ・スチュアートは失敗して宙ぶらりんになってしまう。ここで一度、ビルから階下を見下ろすショット。恐怖でひきつるジェームズ・スチュアートのアップと来て、もう一度同じことが繰り返され、高さが強調される。

警官が犯人を追うのをやめて戻って来て必死で手をのばすが、バランスをくずした警官は悲鳴を上げて落ちていく。落下する様をジェームズ・スチュアートの視点でしっかりとらえており、彼が高所恐怖症になる原因をテンポよく見せる。

 

映画は二部構成になっていて、前半は、警官をやめたジェームズ・スチュアートが依頼を受けて、キム・ノヴァクを監視、彼女が入水自殺しようとするのを助けたのをきっかけに二人の仲が親密になっていく過程を描いているが、サンフランシスコの明るい日差しが、なにやら超現術主義的な雰囲気を作り上げていて、謎めいたストーリーによく合っている。

カルロッタという女の絵の前に座ってじっと動かないキム・ノヴァクだとか、サンフランシスコの坂道を行くキム・ノヴァクのグリーンの車がつけられているのを知ってか知らずか、じらすように右折、左折を何度も何度も繰り返す様子など実に魅力的な画作りだ。それらが全てジェームズ・スチュアートの視線であるのも、彼女を一層謎めかせている。

 

キム・ノヴァクを追いかけて教会の階段を上っていくシーンでは、ジェームズ・スチュアートが二度、恐る恐る下を見るのだが、その高さを示すのに、カメラが下から上がってくるという技法を使っている。正確に言うと「トラックバックしながらズームアップしている」(『映画術 ヒッチコック/トリュフォー』(晶文社)P253)。ここは是非見逃さずにその技法を目撃してほしい。

 

後半は、ジェームズ・スチュアートが街中で、死んだキム・ノヴァクによく似た女を見かけるところから始まる。彼は、彼女を自分の記憶の中にある女と瓜二つにしようと、服装や、靴、髪型などを全て替えさせる。彼の行為は狂気そのものだ。

 

物語は早々に前半のトリックをとっととネタバレさせ、ここから奇妙な恋の姿を描いていく。死んだ女を取り戻そうとする男の狂気ともいうべき執念と、男を愛してしまったがゆえに、ウソがばれてしまうかもしれない危険性を自覚しながら、男の言いなりになっていく女。この倒錯的な恋愛が異様なスリルを生み出していく。

 

山田宏一の『ヒッチコック 映画読本』(平凡社)には、キム・ノヴァクが「ゆうばり国際冒険・ファンタスティック映画祭’96」に審査委員長として来日した際に行ったインタビューが掲載されている。その中で、『めまい』についてキム・ノヴァクは次のように語っている。

 

『めまい』では、わたしをめぐるすべてがグリーンのイメージに彩られていました。ミスター・ヒッチコックがそのように色彩設計をしたのです。わたしが乗る自動車もグリーンでした。グリーンは生命のあかし、生のイメージとして使われています。墓地のなかでたたずむわたしのまわりにも淡いグリーンのもやがたちこめています。(P113)

 

この色彩のイメージは『めまい』といえばグリーン、キム・ノヴァクといえばグリーンというくらい、強烈に記憶に残るものとなった。

当然、後世の映画人にも多大な影響を与えていて、例えば、パク・チャヌク監督は『別れる決心』(2022)でタン・ウェイにグリーンの服を着せている(実際は青にも緑にも見える服と形容されるのだが)。もうこれだけで、映画を観た者は、監督の狙い通り、このキャラクターに『めまい』のキム・ノヴァクのイメージを重ねてしまうのだ。

 

 
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