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【NHKBSP放映】映画『追跡』あらすじ・感想 ラオール・ウォルシュの“ノワール西部劇”

映画『追跡』は2023年8月25日(金)NHKBSプレミアムにて放映(13:00~14:42)。

 

映画『追跡』(1947)は、『遠い太鼓』(1953)、『シカゴ』(1938)などの作品で知られるナイヴン・プッシュの脚本を『彼奴は顔役だ!』(1939)、『白熱』(1949)などのフィルム・ノワールの傑作で知られるラオール・ウォルシュが監督した“ノワール西部劇”の代表作。

 

ソア役のテレサ・ライトは子役時代から演技派女優として知られ、1941年の『偽りの花園』、1942年の『ミニヴァー夫人』、『打撃王』と、3作品連続でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた名優だ。

 

ジェブを演じたロバート・ミッチャムは当時は新人スターであった。また、ヒッチコック監督作品『レベッカ』(1940)のダンヴァース夫人役で知られる名優ジュディス・アンダーソンが母親役を演じている。  

 

映画『追跡』作品情報

(C)PARAMOUNT PICTURES.

1947年製作/アメリカ映画/原題:Pursued

監督:ラオール・ウォルシュ 脚本:ニーベン・ブッシュ 制作:ミルトン・スパーリング 撮影:ジェームズ・ウォン・ホウ 音楽:マックス・スタイナー

出演:テレサ・ライトロバート・ミッチャム、ジュディス・アンダーソン、ディーン・ジャガー、アラン・ヘイル、ジョン・ロドニー、ハリー・ケリー・Jr.、クリフトン・ヤング

 

映画『追跡』のあらすじ

(C)PARAMOUNT PICTURES.

1900年、ニュー・メキシコ。

孤児のジェブ・ランドはメドラ・コラム夫人に救われ、夫人の子どものアダムとソーと共に育てられる。

 

ジェブは義母の愛を感じながらも、心を開けずにいた。彼は自分が何者かに狙われているのではないかという思いに囚われ、しばしば悪夢を見た。

 

やがてジェブは、同い年のソーと愛し合うようになる。だが、兄弟同然に育ったアダムとの争いの中で、彼を射殺してしまったことから、ジェブは一族の憎しみの対象になってしまう。

 

ソーもジェブを憎み、復讐を決意。わざと結婚して彼を殺そうと銃を構えるのだが・・・。  

 

映画『追跡』の感想

(C)PARAMOUNT PICTURES.

いかにも西部劇的な岩々がそびえる景色の中、馬を走らせている者が現れ、カメラは緩やかに右手にパンしていく。馬は何度か画面から姿を消しながらも駆け抜けていき、荒れ果てた建物の前で止る。乗っていたのは女性で、テレサ・ライト扮するソー・キャラムである。中へはいると暗い戸口からロバート・ミッチャム扮するジェブが現れる。

 

回想シーンとなり、幼い頃のジェブの過酷な運命が語られる。この際の”暗く寂しい場所で”というフレーズが印象的だ。激しく動く足、ブーツ、ひかる装飾物。それらは幼いジェブの記憶に残された光景だ。

 

少年はメドラ・コラム夫人に救われ、彼女の自宅の子ども部屋に運ばれる。彼は夫人の子どものアダムとソーと共に育てられることになる。

 

それから7年後。10歳になったジェブが馬に乗っていると、何者かが少年を銃で狙う。まだ少年を狙っているものがいるらしい。

フラッシュバックで構成された物語は少年が覚えたトラウマを軸として、宿命論的な展開へと突き進み、一般的な西部劇とは違う「悪夢的西部劇」の様相を帯びていく。

 

ジェブと兄妹として育った娘、ソーは、やがて彼と恋に落ち結婚を約束することになるのだが、執拗な伯父(ディーン・ジャガー)の策略で、ジェブは兄弟同然として歩んできたアダムを射殺してしまう。ソーはショックを受けジェブを憎むようになっていく。

 

さらにはソーが後に付き合うようになった男も伯父にそそのかされ、ジェブを殺そうとし、逆に彼に射殺されてしまう。暗闇の中、ジェブを殺そうとする男とロバート・ミッチャムとの距離が絶妙に配置されている。このようにアクションはほとんど夜に行われる。撮影を担当しているのは白黒の名手と称されるジェームズ・ウォン・ハウだ。

 

ソーと義母は彼の元から去っていく。が、やがて再会。ロンドン・デリーのオルゴールが小道具として光っている。従軍していたジェブが除隊後、家族でこのオルゴールを聴き、男2人で歌った場面が想いだされる。

 

ジェブに復讐を誓ったソーは、ジェブとわざと結婚し、挙式後、部屋で銃をかまえる。飲み物を持ってきたジェブの姿が暗い部屋の中に浮かび上がるシーンは見事な光と影の演出がなされ、まさにフィルム・ノワール的な魅力に満ち溢れている。  

 

ジェフの苦悩に満ちたアイデンティティとソーの愛と憎悪に揺れ動く様が複雑に織りなすニューロティックなメロドラマとしても秀逸だ。

 

最後の決戦で全ての謎が解ける構成も良質なミステリをみているようだ。

(文責:西川ちょり)

 

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