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【NHKBSP放映】映画『はじまりのうた』あらすじ・感想/キーラ・ナイトレイが歌声を響かせるジョン・カーニー監督の音楽映画

映画『はじまりのうた』は、『ONCE ダブリンの街角で』(2007)、『シング・ストリート 未来へのうた』(2016)のジョン・カーニー監督が2013年に撮った音楽映画だ。

 

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キーラ・ナイトレイがイギリスからニューヨークにやって来たシンガーソングライターの主人公に扮し、ギターを片手に鮮やかな歌声を披露。

彼女を見出す落ち目の音楽プロデューサー、ダンに「アベンジャーズ」シリーズのハルク役でおなじみのマーク・ラフォロが扮している他、人気バンド、マルーン5のボーカリストのアダム・レーヴィンがキーラ・ナイトレイの恋人役で出演している。

 

劇中歌は、元ニュー・ラディカルズのグレッグ・アレクサンダーが担当し、『Lost Stars』は第87回アカデミー賞の主題歌賞にノミネートされた。

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目次

映画『はじまりのうた』作品情報

(C)2013 KILLIFISH PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED

2013年/アメリカ映画/104分/原題:Begin Again 

監督・脚本:ジョン・カーニー 撮影:ヤーロン・オーバック 美術:チャド・キース 衣装:アージュン・バーシン 編集:アンドリュー・マーカス 音楽:グレッグ・アレクサンダー 音楽監修:アンドレア・フォン・フォースター、マット・サリバン

出演:キーラ・ナイトレイ、マーク・ラフォロ、ヘイリー・スタインフェルド、アダム・レビーン、ジェームズ・コーデン、シーロー・グリーン、キャサリン・キーナー

映画『はじまりのうた』あらすじ

(C)2013 KILLIFISH PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED

恋人のデイヴが制作した曲が映画の挿入歌に採用されたため、デイヴとともにイギリスからニューヨークへやってきたグレタは、すぐにデイヴがレコード会社のアシスタントと浮気をしていることに気がついてしまう。

 

怒った彼女は彼のもとを去り、失意のまま友人のスティーヴを訪ねた。彼はグレタを元気つけようとライブバーに連れて行く。彼女は無理やりステージにあげられ渋々歌い始めるが、観客の反応は芳しくない。しかし、そんな彼女を一心に見つめている男がいた。落ち目の音楽プロデューサーのダンだった。

 

ダンはグレタに歩み寄り一緒にアルバムを作ろうと持ち掛けた。ダンは録音スタジオを使用せず、ニューヨークの街並みを活かして野外で録音したアルバムを作るというアイデアを思いつく。

 

グレタとダンは共に演奏してくれる仲間を集め、ニューヨークの街中を移動しながら、ゲリラ的に音楽を録音していく。失意の中にあったふたりは、音楽で確かな信頼を育んでいく。

 

無事アルバムが完成し、それを聴いたデイヴはアルバムを気に入ってくれた。彼は、すでに浮気相手とは別れていたが、商業的成功を手にした彼とは音楽の考え方に隔たりが出来ていて、もうふたりが元に戻ることはないとグレタは感じていた。

 

ディヴはグレタと一緒に作った歌『Lost Stars』をライブで歌うことを告げ、「君が作った曲をみんながどれほど愛しているか知ってほしい」と伝える。グレタは条件として、原曲のまま演奏してほしいとリクエストする。

 

その夜、デイヴのライブに顔を出したグレタは『Lost Stars』を聴いて感動しているデイヴのファンたちを目の当たりにして胸がいっぱいになった。ディヴからステージにあがるよう合図されるが彼女は会場を飛び出すと、自転車で夜の街を駆け抜けた。

 

ダンはレコード会社と契約しようとしていたが、グレタはアルバムをネットにあげて1ドルで売り、皆で利益を配分しようと持ちかける・・・。

 

 

映画『はじまりのうた』感想・評価

(C)2013 KILLIFISH PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED

ライブハウスで男性が歌い終わるとカメラがうしろに引いて行き、隅っこにちょっとすねたように座っている女性をとらえる。男は女をステージに誘い、女は心底歌いたくなさそうな様子を見せながらも、結局ギターを持ってステージにあがる。

アコースティックな一曲は、それなりにメロディアスで声も美しい。でも、よくある心地よい歌にすぎないかもしれない、と映画を見ているわたしたちはまだ判断をくだせずにいる。画面の中の観客たちはどうかというと、期待していた歌ではないと判断したのか心が離れてしまったようにざわつき始めている。

だが、我々、映画の観客はここからぐっと身を乗り出すことになる。素晴らしいメロディー。歌唱。「ア・ステップ・ユー・キャント・テイク・バック」というその曲は、確かに映画の観客である私たちの気持ちを鷲掴みにする魅力がある。歌い終えた彼女に拍手はまばらだが、一人の中年男だけが盛大に拍手を送っている。それは映画を観ている私たちの姿でもある。

 

そのあと、中年男が朝一人で目覚めテラスからニューヨークの雑踏を見下ろし、会社に車で行く途中、送られてきたデモテープを片っ端からちょいと聴いては怒って車外に投げ捨てるという光景が映し出される。仕事先でクビを言い渡され、帰りに車が故障し、地下鉄に乗ると遅延が告げられ、と散々な目にあった彼はライブハウスにフラっと飛び込む。そこで先の場面へとつながっていく。拍手していた男はこの男だったのだ。
さらに、冒頭に歌っていた女性、グレタの物語がスタートし、恋人の裏切りを知った彼女が家を飛び出して、路上ミュージジャンの知り合いと出くわし、例のライブハウスに連れられて行き歌うことになる場面へと続く。物語をつなぐ展開が実に明快だ。その重要な場所を経て物語は新たな方向へと向かう。 

 

デモテープを作るのにNYの街で録音してそこに響く音もろとも取り込んでしまおうという試みは見ていて心底わくわくする。録音場所で遊んでいた小生意気な子どもたちに、要求されるままに小銭とタバコ一本とマッチ一箱を渡しているので、てっきり追い払うのかと思っていたらそれをギャラにしてコーラスとして雇うのだ! 歌の終盤に彼らが一生懸命に「Hold on」を繰り返しているところは胸にぐっときて思わず泣きそうになる。


プレイリストを交換してニューヨークの夜を彷徨するシーンもたまらなく素晴らしい。ここで流れるのはフランク・シナトラの「Luck Be A Lady」、スティービー・ワンダーの「For Once In My Life」、映画『カサブランカ』の主題歌、ドーリー・ウィルソンの「As Time Goes By」などだ(サントラにはいっていないのが残念)。

 

音楽に関して誰もが一度は突き当たる命題ともいうべき、「商業主義」と「私的な音楽追求」という問題も、それぞれがそれぞれに好きな形で音楽をやればよいのだと、ある意味、単純明快と言えるほどストレートに、また非常に肯定的に描かれているのが印象的だ。

 

そう、いろんな音楽があっていいのだ。商業主義の音楽に熱狂する人にとっても、ある朝、素晴らしい音楽をPCで見つけてダウンロードする人たちにとっても、音楽はとても心を豊かにするものに変わりないからだ。心の底から歌われた歌は誰かを必ずとりこにする!