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映画『ニューヨーク・オールド・アパートメント』あらすじと感想/NYで不法移民として懸命に暮らす母と息子たちの苦難と成長を描く

安定した生活を夢見て、祖国ペルーを捨てNYで不法移民として懸命に暮らす母と息子たち。その痛切な葛藤と成長を、暖かな眼差しで描き出す映画『ニューヨーク・オールド・アパートメント』が、2024年1月12日(金)より、新宿シネマカリテ、シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、アップリンク京都、2月16日(金)よりシネマート心斎橋ほかにて全国公開される。

 

母ラファエラ役には、ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞し、アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた『悲しみのミルク』などで知られる国際派女優のガリ・ソリエルが扮し、双子の息子には南米ペルーのオーディションで選ばれた本当の双子の兄弟アドリアーノ・デュランマルチェロ・デュランが抜擢された。

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監督を務めたのは短編「ボン・ボヤージュ」が世界各国の映画賞を受賞した欧米注目の新鋭マーク・ウィルキンス。オランダのベストセラー作家、アーノン・グランバーグの小説「De heilige Antonio」をもとに、アメリカが抱える移民問題を背景に親子の絆の物語をリアルに描きだし、長編映画監督デビューを果たした。  

 

映画『ニューヨーク・オールド・アパートメント』作品情報

(C)2020 - Dschoint Ventschr Filmproduktion / SRF Schweizer Radio und Fernsehen / blue

2020年/スイス映画/英語、スペイン語/97分/シネスコ/5.1ch/原題: The Saint Of The Impossible

監督:マーク・ウィルキンス 製作:ジョエル・ジェント 原作:アーノン・グランバーグ 脚本:ラ二=レイン・フェルタム 撮影;ブラク・トゥラン 編集:ジャン・アルデレッグ 音楽;バルツ・バッハマン、ブレント・アーノルド 日本版テーマ曲:THEティバ「winnie」

出演:マルチェロ・デュラン、アドリアーノ・デュラン、マガリ・ソリエル、タラ・サラー、サイモン・ケザー  

 

映画『ニューヨーク・オールド・アパートメント』あらすじ

(C)2020 - Dschoint Ventschr Filmproduktion / SRF Schweizer Radio und Fernsehen / blue

幸せを掴むために祖国ペルーを捨て、ニューヨークの片隅で不法に暮らすデュラン一家。母ラファエラはウェイトレスをしながら二人の息子を女手一つで育て、息子のポールとティトも語学教室に通う傍ら、中華料理店の配達員をしながら家計を支えていた。

 

不法滞在者である彼らにとって現実はあまりにも厳しく、暮らしていくのがやっとな毎日な上に、もし不法入国者であることがばれてしまったら即刻、国外追放されてしまうという恐怖が常に付きまとっていた。ポールとティトは、市民権もなく何の力もない自分たちを「透明人間」と呼び、居場所がないことに辟易していた。

 

 

二人はある日語学教室で、クロアチアから来たクリスティンと出会い、美しい彼女にたちまち恋をする。しかしクリスティンはどこか影があり、二人には謎めいて見えた。

 

一方、母ラファエラは、ウェイトレスの生活に疲れ果てた時、客の白人男性エワルドに声をかけられる。彼は大衆小説作家で、巧みな話術で母を誘い、恋なんて葬りさったはずだったラファエラは、悪い人ではないと判断して彼と付き合い始める。

 

エワルドはラファエラにメキシコの料理「ブリトー」の店を開こうと言い出す。ラファエラは自分はメキシコ人ではないと応えるが、エワルドはどんどん話を進めていき、ウェイトレスの仕事に疲れていたラファエラも、その話にのってしまう。

 

ポールとティトはクリスティンと次第に心を通わせていくが、実はクリスティンには刑務所に服役中の恋人がいた。彼女は生活費と男に貢ぐためにコールガールの仕事をしていた。

 

やがて母子3人は、最も恐れていた事態に直面することになる・・・。  

 

映画『ニューヨーク・オールド・アパートメンント』解説と感想

(C)2020 - Dschoint Ventschr Filmproduktion / SRF Schweizer Radio und Fernsehen / blue

活気溢れるニューヨークの街で、懸命に働いている親子3人。母のラファエラと双子の息子のポールとデュランは、安定した暮らしを求めてペルーからやって来た不法滞在者だ。

映画の序盤、中華料理のデリバリーの仕事をしていた兄弟は車にぶつけられる事故に遭う。ぶつけた方が真っ先に車の傷を心配しているのには呆れるばかりだが、兄弟たちも素早く立ち去るしかない。不法滞在であることがばれれば即、国外追放されてしまうため、彼らはひっそり身を隠していなければならないのだ。

移民のために開かれている英語の教室に彼らが通っているように、ニューヨークでは移民の人たちのセーフティネットがまだほかの地域に比べて整ってはいるのだが、ポールとデュランはまるで自分たちが透明人間のように扱われることにいい加減うんざりしている。彼らは思春期真っただ中の若者であり、自身のアイデンティティについて最も悩む年頃であることはいうまでもない。

 

アリス・ウィンクール監督の『パリの記憶』(2022)というフランス映画は2015年に起こったフランス同時多発テロを題材にした作品なのだが、テロリストの襲撃から難を逃れた主人公は、事件当時、自分の手をずっと握ってくれていたレストランの調理人を探している。その過程で調理人が不法滞在者であったことがわかり、そうした人々が彼一人だけでなく複数いたことが判明する。パリのレストランは彼らの存在がなければなりたたないという台詞が印象に残ったのだが、それはニューヨークでも同じ事情だろう。

にも拘わらず足元を見られて搾取され、辛辣な言葉ばかり浴びせられている一家の姿を見ていると暗澹たる思いがする。母の恋人エワルドが母をそそのかして開いたメキシコ料理の「ブリトー」の店などは搾取のシステムの縮図のようなものだ。エワルドがそのことに気付いていなさそうなのがまたなんともいえない気分にさせる。

 

彼らが語学教室で知り合うクロアチア出身のクリスティンも、複雑な事情を抱えている。なぜ彼女がニューヨークにやって来たのかについてはほとんど語られないのだが、恋愛もうまくいっていないようで、「男性」に対する根強い不信感も垣間見える。彼女に純粋に憧れているポールとデュランの気持ちも彼女にはあまり理解できないようだ。彼女の不器用そうな生き方が胸に迫って来る。

 

そのような悲劇的な面が多々見られる本作なのだが、ポールとデュランという主人公、ふたりの素直で気のいい明朗なキャラクターが本作を豊穣なものにしている。

ベルーのキャスティング・ディレクターに見いだされたアドリアーノマルチェロの双子の兄弟は、本作で演技デビューを果たした新人俳優で、その初々しさがそのまま魅力となって作品に刻まれている。厳しい環境にあっても希望を持ち、2人で力を合わせる兄弟を思わず応援したくなってしまう。

時に母親よりもしっかりしているかと思えば、年相応な幼さもあり、また思春期まっさかりのませた部分もあるというように、本作は彼らの成長を描いた青春映画でもあるのだ。

 

また、ワシントン広場や、マディソンスクエアガーデン、5番街、ブロンクスなどをほぼゲリラ撮影で撮り、ニューヨーク・マンハッタンの喧騒を生き生きと捉えているところも本作の魅力のひとつだろう。

www.chorioka.com

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