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ドキュメンタリー映画『グレイ・ガーデンズ』解説・感想/メイズルス兄弟によるカルト的人気の伝説的ドキュメンタリー作品

映画『グレイ・ガーデンズ』はJAIHOにて配信中!

1960年代にアメリカで発達したドキュメンタリー映画の潮流“ダイレクト・シネマ”の代表的映画監督で、『セールスマン』(1968)、『ローリング・ストーンズ・イン・ギミー・シェルター』(1970)などの作品で知られるアルバートとデヴィッド・メイズルス(Albert and David Maysles)兄弟が1975年に発表した映画『グレイ・ガーデンズ』。

アメリカ・ドキュメンタリー映画史上最も重要な作品のひとつとされ、熱狂的な人気を持つ作品だ。このたび、JAIHOでの配信が始まった。  

 

グレイ・ガーデンズ』作品情報

映画『グレイ・ガーデンズ

1975年製作/95分/アメリカ/原題:Grey Gardens

監督・製作:アルバート・メイズルス、デヴィッド・メイズルス 監督:エレン・ホド、マフィー・メイヤー 編集:スーザン・フロムキー、エレン・ホド、マフィー・メイヤー 共同製作:スーザン・フロムキー

出演:イーディス・ユーイング・ブーヴィエ・ビール、イーディス・ブーヴィエ・ビール

グレイ・ガーデンズ』解説と感想

映画『グレイ・ガーデンズ

ニューヨーク州マンハッタン島ロングアイランドイーストハンプトンにある広大な屋敷で暮らす高齢の母と娘。彼女たちはJ・F・ケネディ夫人ジャクリーンの親戚で、カメラはその母と娘の風変わりな生活に密着する。

お屋敷といっても今ではすっかり荒れ放題で朽ちかけていて、何百匹もの猫が行き交い、屋根裏部屋にはアライグマが出入りしている。

 

グレイ・ガーデンズ』は発表当時、「母娘を観客たちの好奇の視線に晒し、笑いものにしている」と批判される一方、彼女たちのファッションセンスに注目した人たちから熱球的な指示を受けた。観る人によって真逆の評価を得たというわけだ。

 

まず驚かされるのは母娘(2人は同じ名前で母がビッグ・イーディ、娘がリトル・イーディと呼ばれる)がカメラの前でとてもリラックスしていることだ。メイズルス兄弟のフラットな視線が彼女たちをそうさせているのだろう。

時折、娘が、結婚もせず、母と二人きりで地域から「ゴミ屋敷」と称される屋敷にこもった生活をしていることへの恨みつらみ節を炸裂させる。全ては母のせいだと言いたい娘に母はニューヨークでの生活が頭打ちになったための自己都合でしょう!と反論する。母の言い分が正しそうだと思っていたら、やっぱり娘が正しいんじゃんといった展開の繰り返しで、母娘の共依存の様子が映し出される。  

 

だが、それだけでは、ただ息苦しいだけの映画になってしまう。

若い頃、ビッグ・イーディは歌手、リトル・イーディはニューヨークでダンサーとして活動していた。とりわけビッグ・イーディの才能は相当なものだったらしい。

劇中、ビッグ・イーディが録音した「2人でお茶を」の歌に合わせて季節を楽しむ2人の母娘の姿が観られる。

2人はカメラを前にかつての夢を思い出したかのように、生き生きとした姿を見せている。

リトル・イーディはカメラに寄り過ぎなくらい寄って、語りかけてくる。時にはメイズルス兄弟をくどきにかかりさえする。人間の持つそこはかとない面白さが映し出されている。

メイズルス兄弟は、彼女たちがどうやってこの境遇に至ったかということに関して彼女たちの言葉以外、一切触れていない。視線はどこまでも暖かく、ふたりのイーディへの敬意が感じられる。