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森岡龍監督インタビュー/映画『北風だったり、太陽だったり』、『プレイヤーズ・トーク』/ 「ずっと常に映画のアイデアを探し求めている毎日です」

俳優としても活躍する森岡龍監督の2本の短編映画、『北風だったり、太陽だったり』(2022)、『プレイヤーズ・トーク(2022)が2023年8月、関西で公開される。

森岡龍監督

PFFアワード2011に入選し、エンタテインメント賞(ホリプロ賞)を受賞した映画『ニュータウンの青春』(2012)から10年ぶりに監督を務めた短編映画『北風だったり、太陽だったり』は、服役中の元お笑い芸人の面会に向かう、かつてのマネージャーと相方の1日の旅をユーモラスに描いたロードムービーだ。キャスト・スタッフともに『ニュータウンの⻘春』チームが再集合した。

 

『プレイヤーズ・トークは、俳優・森岡龍が演じる映画監督を主人公に、俳優やプロデューサー、脚本家など業界人たちと繰り広げられる会話劇。「BULLSHIT JOB」、「Compliance」、「Private Lesson」、「ART FOR THE FUTURE」という4編のエピソードで構成され、セクハラ、パワハラ、ワークショップ、コンプライアンス、コロナなど近年の映画業界で問題になっているテーマを取り上げた業界風刺のオムニバス作品だ。

 

映画『北風だったり、太陽だったり』、『プレイヤーズ・トーク』は、2023年8月4日(金)よりアップリンク京都、(8月4日のみの元町映画館はイベント上映)、8月5日(土)よりシアターセブンにて公開! 8月4日(金)には元町映画館、8月5日(土)にはシアターセブン、アップリンク京都での森岡龍監督の舞台挨拶が予定されている。(詳細は各劇場HPでご確認ください)

 

このたび、公開を記念して森岡龍監督にインタビューを敢行。作品が生まれた経緯や、作品に込められた思いなど、様々なお話を伺った。  

 

目次

映画『ニュータウンの青春』から10年

『北風だったり、太陽だったり』(C)マイターン・エンターテイメント

──森岡監督が2012年に製作された『ニュータウンの青春』を当時、大阪の第七芸術劇場で観て、これでもかと詰め込まれたエピソードとその溢れるようなアイデアの豊富さに感銘を受けました。今でも大好きな作品として心に刻まれています。これほどアイデアに溢れた方が、なぜ10年間、映画を撮らなかったのかというのが素朴な疑問としてあるのですが、そのことに関してお尋ねしてもよろしいでしょうか。

 

森岡龍監督(以下、森岡):『ニュータウンの青春』は僕もこの前、観てみたんですけど、アイデアに溢れていて、手前味噌ながら本当によく出来ているなと思いました。あのときは監督としてこの一本で世の中に出ていきたいという想いも強かったので、3本分くらいの映画を一本にまとめてやるぞというくらいの気持ちで作ったのを覚えています。若かったので手数も多いといいますか、いろんなアイデアを散りばめていったんですけど、今回10年ぶりに撮ると、年齢も30代になって、どちらかというと、一個、一個ゆっくりと進めて行くような撮り方になっていました。  

 

10年間撮らなかったのはなぜかというと、いろいろ作りたい思いはあったんですけど、ずっと仲間と映画を作っていたので、商業映画というところで大人の人たちとコミュニケーションを取ったり、様々な要望を聞きながら映画を作っていくということがどうも僕は得意じゃなかったんですね。今回は10年ぶりなんですけど、今までの仲間と好きなように同じように映画を撮る環境が出来上がったというところが大きいのかなと思います。

 

自分が今思っていることを詰め込んだらこんな設定になっていた

『北風だったり、太陽だったり』(C)マイターン・エンターテイメント

──『北風だったり太陽だったり』を制作されることになった経緯を教えていただけますか? 森岡監督がご結婚されたことがきっかけの一つとなったとお聞きしました。

 

森岡:ずっと常に映画のアイデアを探し求めている毎日なんですけど、2年前に結婚したときに、結婚をするということは結構ドラマチックだなと感じるところがありました。式を挙げるまでのドラマだとか、結婚にまつわる物語を何か書けるんじゃないかと漠然とした思いを持っていたのと、またこのコロナ禍で結婚を報告することがなかなか出来ずにいたので報告も兼ねて映画を撮れないかという思いがありました。

 

それと同時に、役者さんたちが、ある一つの不祥事だとか事件によって表舞台を退かなくてはいけないという状況が、もちろん昔からあったことなんですけど、SNSの時代になってとりわけ顕著になってきて、もちろん、罪は罪で償わなければいけないんですけど、その人たちの先の人生はどうなるんだろうというのは同業者ながらにすごく気になっていました。そこについてはちゃんと考えなければなという思いもあったので、刑務所に入っている芸人さんに結婚報告をしに行くというふうに物語を設定したら自分が今思っていることを詰め込めるんじゃないかということでこういった形の作品になりました。  

 

──主人公に漫才師を登場させたのは、森岡さんが主演された映画『エミアビのはじまりとはじまり』(2016)の影響があるのでしょうか。

 

森岡:映画と漫才って実は相性が悪いんですよ。『エミアビのはじまりとはじまり』の時に漫才師を演じてみて難しいことは実感していたので、なるべく漫才師という設定は映画の中では登場させないようにしようと思っていたんです。

ただ、今回、ロードムービーで、結婚報告をするために誰かに会いに行くという話の中で、その相手を例えば役者にしたとしたら、役者は基本ソロ活動なので、エモーショナルな瞬間が立ち上がらないんじゃないかと思えたんですね。ひとりではなく相手がいるエンターティメントの業種として何がいいかと考えたときにやっぱり漫才師しかないだろうと。難しいとわかっていながら挑む感じになりました。

 

ロードムービーがもたらした偶然

『北風だったり、太陽だったり』(C)マイターン・エンターテイメント

──『ニュータウンの青春』はニュータウンと近くの下町という街の一角を中心にした物語でしたが、本作はいろいろと停滞がありながらもずっと進んでいくロードムービーです。ロードムービーを作りたいというお気持ちは以前からあったのでしょうか。

 

森岡ロードムービーはずっと撮りたかったジャンルの一つです。実は学生時代に自分が主役をやりながらヴァンパイアのロードムービーを撮った事があるんですけど、それが上手くいかなった部分も多く、個人的にすごくへこんだ記憶があるんです。だからロードムービーにはいつかちゃんと再挑戦したいというなという思いがありました。

今回やってみて、やっぱりロードムービーは楽しいし、もっと長い作品にしても良かったなと思えるくらい充実した日々でした。  

 

──途中で雪が降ってきます。その雪が降っている間がちょうどあの車を貸してくれる不思議なひとたちと関わるシーンと重なっていると感じたのですが、あれは偶然なのでしょうか。それともかなり巧妙に編集されたものなのでしょうか。

 

森岡:これ、本当に偶然なんですね。撮影日数も限られていたものですから、撮影チームが旅をしながら撮っているようなもので、雪が降っても止まるわけにはいかないのでどんどんどんどん撮っていった中でつないでみると、登場人物たちの心象を表しているようなものになっていました。「良かった、天気が味方してくれたな」というのはあとになって気づいたと言うか。実は当初は全然違う映画を企画していて、子どもたちの学芸会の話を考えていたんです。「北風と太陽」を演目とする学芸会がにっちもさっちもいかなくなった際の子どもたちや大人たちを描いた物語を書いていたんですけど、そのタイトルが「北風だったり太陽だったり」でした。タイトルだけは気に入っていたのでそのまま移行して使ったんですが、天候のおかげでタイトルもちょうどいい感じになったねと話していて。雪が降らなければ極めて地味な話になったかもしれません。

 

10年ぶりの仲間たちとの再会

『北風だったり、太陽だったり』(C)マイターン・エンターテイメント

──10年ぶりに昔の仲間の方々が集まって作られたということですが、現場の雰囲気はいかがでしたか。

 

森岡:昔のまんまといえばまんまですね。ただみんな、一回りおじさんになっていたので、頼もしくもあり、和気あいあいと久しぶりの再会を楽しみながら本当に楽しく撮れました。

みんなやめずに役者をやっていたり、技術部のスタッフをやっていたりと、続けてくれていたからこそまた集まれたんだと思います。ただ、「みんな待っていてくれたんだな」という感じはありましたね。

 

──昔の仲間が懐かしい人に会いに行くという物語と、森岡監督の久しぶりの映画に昔の仲間が集まって来られたという現実が重なって見えたのですが、監督ご自身はその点はいかがですか?

 

森岡:そこは意識はしてなかったんですけど、映画を撮ってから宣伝などをし始めて、この映画は結局なんだったのかと考えたときにそうか「再会」を描いたのかとあとから気づいたんです。『ニュータウンの青春』では出会いと別れを描き、この映画では再会を描いた。昔の仲間とまた新しく作り出すところが、登場人物たちの心象と重なるというのは、言われてみればなんですけれど、あったかもしれません。10年経っているけれど変わらずにその瞬間に戻れるというのが、確かに劇中のコンビの状況と重なっていますよね。  

 

役者であること、監督であること

『北風だったり、太陽だったり』(C)マイターン・エンターテイメント

──森岡監督は『ニュータウンの青春』の時にすでに役者としてもデビューされていて、今回も、長く役者をやられている中での監督作品ということで、役者であることが監督をする際に影響していることはありますか。

 

森岡:やっぱり現場には行き続けているので、現場慣れというのは肌感覚としてあるのと、人のお芝居をちゃんと大切にしたいというのはありますね。僕が役者をやっている以上、役者たちが魅力的になるようにというのは心がけています。

僕も今、事務所をやっていてマネージャーの立場というものも実は持っていたりするんですけど、今まですれ違ってきた同業者の人たちというのはずっと肩にのっかっている感じがあります。共演して頑張っていたけれどやめてしまった人とか、未だに続けて頑張っている子とか、なかなかいい役を貰えないでもがいている子だったり、ひょんな役で人気者になった役者さんもそうですけど、今まで出会って共演して、袖を振りあった仲間たちがみんな肩のあたりにいるような気はしています。

 

業界を舞台にしたオムニバス映画を主演と監督で

『プレイヤーズ・トーク』(C)「プレイヤーズ・トーク」製作委員会

──続いて『プレイヤーズ・トーク』についてお伺いしたいのですが、この作品はどういった経緯で制作されたのでしょうか。

 

森岡:今回は、もうひとりの監督、半田健さんが、プロデューサーも兼ねていらして、ワンシチュエーションで、『コーヒー&シガレッツ』のような作品を森岡くん主演で撮らないか、オムニバスでと言われたんですね。じゃぁ何か書いてみますと応えて、この業界について日頃から思うことがありましたし、まあコンプライアンス研修が出てきたりというようなことも多々あって、自分の問題でもあるし、これを風刺的に書いたら面白いんじゃないかと考え脚本を書きました。監督は2話ずつ振り分けて、僕は2話と4話を担当しました。  

 

──一つのバーを舞台にその空間が上手く使われているという印象を持ちました。どの話も面白いんですが、とりわけ4話が異彩を放っていますね。

 

森岡:業界あるあるみたいなことだけだと、パンチがないなと思って、最後はいっそひとり語りで見せ場を作ってみようと。撮っているときは、それまで出てきた登場人物がちょっとサポートしてくれたり、もっと画的な工夫を凝らしながら長回しでやったほうがいいんじゃないかなどと思ったりもしたんですけど、ちょっとカメラが近づいてくるだけで一発勝負という感じになっていて、撮っていて一番大丈夫かなと不安だったシーンです。でも、意外と映画を見るとその緊張感がいい感じに伝わるのか、ちゃんとお客さんがわかってくれているような気もして、うまくいったシーンですね。あそこは。

 

2つの作品から観る今の時代

『プレイヤーズ・トーク』(C)「プレイヤーズ・トーク」製作委員会

──先程『北風だったり太陽だったり』のお話で、罪を犯した人の将来はどうなるんだろうというお話がありましたが、この『プレイヤーズ・トーク』と、どこか共通する部分もあるように想いました。もちろん、そうした業界的なことだけでなくコロナのことも出てきますね。

 

森岡:そうしたことを客観的な物語として語ろうとしたのが『北風と太陽』で、『プレイヤーズ・トーク』は閉塞感がコロナで強かったので、脚本を書いている時、僕自身、かなりイライラしていたんですよ。政府の対応も含めてですけど、そのイライラをとにかくぶつけてやろうというような思いが強かったかもしれないですね。

 

──観ていてそれを言いたかったという人も多いんじゃないかと感じました。

 

森岡:そうなんですよね。いらいらしている主人公というのが、あの当時は間違ってない選択だったなと。主人公がとにかくフラストレーションをためているという状況は今までだったら思いつかなかったですけど、コロナ禍においてだったらありかなという気がします。  

 

今は徐々にコロナ禍も開けてきて、人に会ったり飲み会もできる状態になってきましたけど、『北風だったり、太陽だったり』に関してはなかなか会えない人に再会する話なので、コロナ禍で人と再会してうまく会話が噛み合わなかったり、ぎくしゃくしたりという感じをある種懐かしむように楽しんで貰えれば嬉しいです。

 

『プレイヤーズ・トーク』の方も今、業界はいろんな問題がありますけど、ちゃんと考えている人もいるんだなということを知ってもらえると嬉しいですね。変えていきたいし、変わっていかなければならない部分もあるというところを観ながら、色々考えをめぐらしてもらえると嬉しいです。

(インタビュー/西川ちょり)

 

森岡龍プロフィール

1988 年東京都出身。2004 年、映画『茶の味』(石井克人監督)で俳優デビュー。

俳優として様々な作品に参加する傍ら、自主映画の制作を開始。多摩美術大学在学中に監督した『つつましき生活』(2007)、『硬い恋人』(2010)がぴあフィルムフェスティバルに入選、『ニュータウンの⻘春』(2012)は同映画祭にてエンターテイメント・ホリプロ賞を受賞し、釜山国際映画祭(アジアの窓部門)などの海外映画祭に出品されたのち、劇場公開を果たした。

また、明後日プロデュースの舞台『業者を待ちながら』(2019)では初めて舞台の作・演出を手がけ、『スポットライト』シリーズの一編『ストックフォト』(2020)では、テレビドラマの脚本・監督も手がけた。

俳優としての主な出演作に映画『ハッピーフライト』(矢口史靖監督)、『あぜ道のダンディ』(石井裕也監督)、『ろんぐぐっどばい-探偵古井栗ノ介-』(いまおかしんじ監督)、『密使と番人』(三宅唱監督)、『榎田貿易堂』(飯塚健監督)、『5億円のじんせい』(ムン・ソンホ監督)、『東京の恋人』(下社敦郎監督)、テレビ『この恋を思い出してきっと泣いてしまう』(CX)、『カルテット』(TBS)、『許さないという暴力について考えろ』(NHK)、舞台『名人⻑二』など。映画『地の塩-山室軍平-』(東條政利監督)では I WILL TELLINTERNATIONA FILM FESTIVAL(イギリス)にて最優秀主演男優賞を受賞。

 

映画『北風だったり、太陽だったり』作品情報

(C)マイターン・エンターテイメント

脚本・編集・監督:森岡龍 撮影:古屋幸一 照明:山口峰寛 録音・監督補:磯龍介 美術・スチール:上山まい 演出部:佐藤リョウ、山本敦貴、野田麗未 撮影助手:角洋介、⻄村嵩毅 照明助手:北川泰誠 制作・車両:鹿江莉生、東田頼雄 車両応援:高木健 カラリスト:廣瀬有紀 整音:根本飛鳥 音楽:UCARY VALENTINE デザイン:可児優 WEB:大井健司 現像:IMAGICA

宣伝協力:MAP 配給協力:ミカタ・エンタテインメント 制作協力:SONHOUSE 企画・製作:マイターン・エンターテイメント

出演:橋本一郎足立理、川添野愛 、フジエタクマ、浦山佳樹、宮部純子、松㟢翔平、島村和秀、秋場清之、嶺豪一、遠藤雄斗 、東田頼雄、 高木健、 北見紬、 北見環 、森岡龍、飯田芳

 

映画『北風だったり、太陽だったり』あらすじ

youtu.be

人気絶頂の最中、暴力事件を起こし、解散したお笑いコンビ「北風と太陽」。

かつてのマネージャーだった葉山は、自身の入籍を機に、ボケ担当で服役中の金井に、結婚報告をしようとする。事件以来、疎遠だった金井の元相方である奥貫をなんとか連れ出し、刑務所へと面会に向かうのだったが・・・。

 

映画『プレイヤーズ・トーク』作品情報

(C)「プレイヤーズ・トーク」製作委員会

2022/日本/カラー/28分/DCP

企画:半田健 脚本・監督:半田健、森岡龍 撮影:葛⻄幸祐 照明:常谷良男 録音・音響効果:磯龍介 スタイリスト:山本隆司 ヘアメイク:岡澤愛子 スチール・小道具・デザイン:上山まい 助監督:富田和成 制作担当:日出嶋伸哉 撮影助手:藤本秀雄 照明助手:油谷静恵 ヘアメイク助手:佐藤友梨 応援:伊藤祥、国本朋恵 音楽:UCARY VALENTINE 編集:山崎 梓、佐古瑞季、磯龍介 カラリスト:河野文香 ポスプロコーディネート:豊里泰宏 撮影協力:shi-bar 協力:マイターン・エンターテイメント、麻布リース、SONHOUSEスタイルキューブ、Loco、バックアップ 助成 AFF 配給・宣伝:マイターン・エンターテイメント 宣伝協力:ムービー・アクト・プロジェクト/配給協力:ミカタ・エンタテインメント 制作:オフィスアッシュ 製作:オフィスアッシュ

出演:森岡 龍、前野朋哉、⻄野入流佳、美馬アンナ、中上サツキ、松木エレナ、フジエタクマ 、足立理、芋生悠、豊原功補

 

映画『プレイヤーズ・トーク』あらすじ

クリスマス。業界人が集うとある会員制バー。常連客の映画監督、並木道夫がここで待ち合わせるのは、脚本家、新人俳優、プロデューサー、助監督、ベテラン女優に新人女優。一癖も二癖もあるギョーカイ人たちの会話をつまみに酒が進んだ並木だったが・・・。