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川上亮監督インタビュー/映画『札束と温泉』/若い俳優たちと共に長台詞、疑似ワンカットで作り上げたクライム・コメディへの思い

映画『札束と温泉』は、「人狼ゲーム」シリーズの原作・脚本をはじめ、様々なジャンルで活躍する川上亮が、映画『人狼ゲーム デスゲームの運営人』に続いて脚本・監督を務めた長編映画第二作のクライム・コメディだ。


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女子高生が修学旅行で訪れた温泉宿を舞台に、混乱が混乱を呼ぶ姿を非常識なセリフ量と疑似ワンカットで撮っており、すこぶる愉快で痛快な物語に仕上がっている。

 

ミスマガジン2018で注目され、テレビドラマでも活躍中の沢口愛華が主演を務め、SNS世代の若者らに壮絶な人気を誇る小浜桃奈糸瀬七葉大熊杏優佐藤京星れいら、そして数多くの舞台や映画で主演を務める小越勇輝等が出演している。主題歌は「群青の世界」の「ハイライト・トワイライト」。

 

映画『札束と温泉』は、2023年6月30日(金)よりシネマート新宿、7月7日(金)よりシネマート心斎橋京都みなみ会館他にて全国順次公開! 7月8日(土)には、シネマート心斎橋京都みなみ会館にて川上亮監督、小浜桃奈さん、佐藤京さんの舞台挨拶が予定されている(時間など詳細は各映画館HPにてご確認ください)。

川上亮監督 (C)デイリー・シネマ

このたび、作品の公開を記念して川上亮監督にインタビューを敢行。作品が生まれた経緯や、作品に込められた思いなど、様々なお話を伺った。  

 

目次

90年代の“ユーモアのきいた犯罪映画”の影響

(C)2023 cosaic Co., Ltd.

──小説家であり、ゲームデザイナーでもあり、映画の脚本も書かれるなどマルチな分野でご活躍されている川上監督ですが、原作・脚本で関わって来られた「人狼」シリーズの第8作『人狼ゲーム デスゲームの運営人』で初監督を務められ、今回が二作目になります。映画を撮りたいというお気持ちはずっとお持ちだったのでしょうか。

 

川上亮監督(以下、川上):学生時代からそういう気持ちは持っていまして、大学の時に少しだけ映画制作サークルに在籍したこともあったんです。ただ、当時は画を作るセンスがないなと感じたのと、一緒に制作する仲間が集まらなかったということもあり、ライトノベルの方に進むことになりました。

僕が高校、大学に通っていた90年代はタランティーノ監督や、コーエン兄弟監督、ガイ・リッチー監督は勿論のこと、イギリスなら『トレインスポッティング』(1996)、ドイツなら『ノッキン・オン・ヘブンズドア』(1997)というようなユーモアのきいた犯罪映画がたくさん作られていたんですね。それらに非常に感化されまして、ライトノベルもその影響をもろに受けて書いていました。今回も、当時の自分の好きだったものをたっぷり詰め込んでみました。

 

──冒頭の温泉に入っている女子高生の会話は、『パルプ・フィクション』(1994)の冒頭を思わせますよね。

 

川上:はい、好きなものを好きなだけ入れさせてもらいました(笑)  

 

疑似ワンカットで撮った理由

(C)2023 cosaic Co., Ltd.

──非常に面白く拝見したのですが、そもそもこの映画の発想はどのように生まれてきたのでしょうか

 

川上:もともと、某アイドルグループがコロナ禍で劇場公演ができなくなり、代わりにオンラインで芝居をやろうということで、脚本のオファーをいただいたのがきっかけです。ただ、コロナが落ち着いて劇場公演が出来るようになったので、脚本が浮いてしまったんですね。せっかくなら形にしようと映画にすることにしました。長回しワンカットというのももともとお芝居だったというところからきていますし、アイドル向けの脚本だったということもあって、登場人物も女子高生や同年代の女の子たちです。限定空間でドタバタに巻き込まれるなら舞台はどこがいいだろう、修学旅行に行ったことにしよう、宿舎はホテルより温泉がいいよね、何かを奪う話にしよう、札束はどうだろうというふうに具体的なアイデアを固めていきました。

 

──「疑似ワンカット」に関してですが、もともとお芝居だったからとおっしゃいましたが、映画はまた別のものとしてカットを割って撮ることも可能ですよね。でもワンカットを貫かれたのはどのような思いがあったのでしょうか。

 

川上:オファーをくださった団体がもともとワンカットの映像を作られていて、今回も同じようなものにしようというお話だったんですね。それでワンカットの作品をたくさん観たところ、これは面白い!と、自分自身がそれをやってみたくなったのがひとつ、あとは群像劇で、しかも温泉であったり、宿の部屋であったり、洗濯室であったり、いろんなところで同時進行でお話が動いていて、この瞬間に誰が何をしていて、ここでは別の誰かがどうしていて、とかなり緻密に物語を組み立てていました。それを、カットを割ってここではこれやりました、一方こちらではこうですというような映し方をしてしまうと、より混乱も大きくなるし、せっかく細かく組み立てた内容がダイレクトに伝わらないと感じました。今、この瞬間、ここでこのようにしているというのが一番伝わるようにするには、カメラがひたすら動いて追いかけていくしかないと思い、ワンカットにこだわりました。  

 

別府の「山田別荘」さんをお借りして撮影させてもらったのですが、山田別荘さんに合わせて脚本はかなり書き直しました。見取り図を送っていただいたり、細かいところをお聞きしたときはすぐにスマホで動画を撮って送ってくださるなど、宿の方がものすごく協力的で有り難かったですね。

 

──リハーサルにはどのくらい時間をかけられたのですか。

 

川上:現地に行く前に東京で3日間くらい本読みをして、さらに3日ほどリハーサルをしてというふうに準備にまるまる6日間かけさせていただきました。

 

もともとアイドル向きの脚本だったというわりには長台詞満載で、全然アイドルに気を使っていないんですけど(笑)、今回、役者さんたちは本当によくこなしてくださいました。長回し、長台詞で、一回とちったら7分前のシーンから全部やり直しですよという中で、かなり大変だったと思います。  

 

個性的なキャラクターと俳優たち

リサ役の沢口愛華さん ©️cosaic Co.,Ltd.

──どのキャラクターもとても個性的で引き込まれました。演じられた俳優さんについてお聞かせいただけますか。

 

川上:観た方それぞれ、印象に残ったキャラクターが違っていてそこは嬉しく思っています。高梨リサ役の沢口愛華さんだけは出演が決まっていて、他の方々は、オーディションで選ばせていただきました。

 

田中美宇役の大熊杏優さんには、「今回、こんなバカな役で本当に申し訳ないけれど役者としてバカを演じ切ってほしい」とお願いしました。先生に一途な女子高生という濃いキャラクターに全力でなり切ってくれて、先生とのやり取りもとても上手く演じてくれたと思います。

美宇役の大熊杏優さん ©️cosaic Co.,Ltd.

糸瀬七葉さんが演じた佐々木恵麻という人物はかなりの変人なんですが、糸瀬さん自身は真面目で理知的な方で、このキャラクターをどう作っていこうかとても熱心に研究してくれました。この作品のこのキャラクターが参考になるんじゃないかと、翌日にはその映画やドラマを観てきてくれたりと、キャラクターを作り上げてくれました。

恵麻役の糸瀬七葉さん ©️cosaic Co.,Ltd.

関根ひかる役の小浜桃奈さんは、「台本もキャラクター設定もまんま私です」と言っていて、彼女に関しては他のキャラクターと違って一切作っていないんです。彼女は今、バラエティにもよく出演されているんですけど、ハートが強くて、今回、自分のセリフだけでなく他の人のセリフも全部覚えてくるなど、根性があってとても感心させられました。

ひかる役の小浜桃奈さん ©️cosaic Co.,Ltd.

殺し屋(取り立て人)を演じた佐藤京さんは、20歳を過ぎてから役者を目指されて、まだ役者歴は浅いんですが、とてもお上手で。コメディにしてほしいというのが一番の願いだったんですけど、オーディションをするとみなさん、シリアスな演技をされるんですね。そのほうがやりやすいようで。でも佐藤さんはしっかりコメディの演技が出来る方でした。

殺し屋(取り立て人)役の佐藤京さん ©️cosaic Co.,Ltd.

やくざからお金を取ってきた綾乃役の星れいらさんと、先生役の小越勇輝さんは、僕の前作の『人狼ゲーム/デスゲームの運営人』に出演してくださっていて、星さんはその時は18歳くらいで、今回は21歳。ちょっと合う役がないと思っていたんですよ。彼女もオーディションに応募してくださって、最初は高校生役の方を受けてくれたんですけど、たまたま「殺し屋・愛人役」のオーディションに欠員が出まして殺し屋と愛人の掛け合いをやる必要があったので、顔みしりでもあった星さんに代役をお願いしたんです。そうしたらどの役者さんよりもコメディっぽい演技をしてくれて、多分、自分は代役だからと肩に力が入ってなかった分、のびのびやれたというのもあったと思いますがとてもよかったので綾乃役をお願いしました。

綾乃役の星れいらさん ©️cosaic Co.,Ltd.

小越勇輝さんは前作では主役でかっこいい役をやってくれていたのに、今回、本当に情けない役で。倒れ方もとても上手くて、女の子たちのあの軽い殴り方でももんどりうって倒れてくれる。他の作品でも主役をいっぱい演じられている方なんですが、演技の幅が本当に広いんですね。本人は内心いやだと思っていたかもしれませんが(笑)

先生役の小越勇輝さん ©️cosaic Co.,Ltd.

そんな濃いキャラクターの中で、主役のリサを演じた沢口愛華さんは、一番振り回される役なので、感情移入してシリアス演技になりがちなんですけど、そこを乗り越えてコメディの今回の作品に合わせる演技をやり切ってくださったのが素晴らしかったです。

 

今回、全編長回しなので、編集でセリフの間合いを調整することができない中、役者さんたちがコメディの間をとって演じてくださっていたのがなんといっても素晴らしかったので、その点にも注目して観ていただきたいです。  

 

──エンターティンメントに振り切った作品ですが、若い役者さんたちがキャストということもあり、彼女たちの青春物語を感じさせるような面もありました。その点は意識されたのでしょうか。

 

川上:最初、アイドルのお芝居のお話があった時に、アイドルの「卒業」について思いをはせ、卒業するメンバーも不安だろうけど、残るメンバーもなんで一緒にずっといてくれないんだろうという思いもあるのではないかと考えました。今あるコミュニティの居心地の良さと裏返しの不安感というものを書きたいなという思いは最初からありました。

 

ひかるは夢を追って上京しようと考えているけれど、リサはこの心地よい環境がずっと続けばいいなと思っている。そういうことって誰しも持っている感情だと思うんですよね。学校を卒業する時などまさにそうだと思うんですけど。 居心地のいい空間をいつまで続けられるのかな、この時間がずっと続くといいなと願っている、でもこの時間が永遠に続かないこともみんなわかっていて、その時間を大事にしている。そんな彼女たちの思いも感じていただければ嬉しいです。

(インタビュー/西川ちょり)

 

 

川上亮監督プロフィール

(C)デイリー・シネマ

映画「人狼ゲーム」シリーズ全作品の原作・脚本を担当。『人狼ゲーム デスゲームの運営人』(2020)で監督デビューを果たす。作家、ゲーム・デザイナーとしても活躍。ボードゲーム『キャット&チョコレート』では2013年の日本ボードゲーム大賞投票部門を受賞している。昨今はマーダーミステリー作品を数多く手掛けている。

 

映画『札束と温泉』作品情報

©️cosaic Co.,Ltd.

2023年製作/74分/日本映画

監督・脚本:川上亮 プロデューサー:岩渕規 撮影:今井哲郎 照明:中嶋裕人 録音:小畑智寛 スタイリスト:小磯和代 メイク:和田弥生 編集:佐野公子 音楽:沢田ヒロユキ 主題歌:群青の世界 助監督:湯本信一 制作担当:田山雅也

出演:沢口愛華、小浜桃菜、糸瀬七葉、大熊杏優、佐藤京、星れいら小越勇輝、錦織聡、一宮ゆい、工藤みか、村崎ゆうな、水野まゆ
 

映画『札束と温泉』あらすじ

高校の修学旅行で訪れた温泉宿で女子高生たちは偶然ヤクザの愛人が持ち逃げした札束の詰まったバッグを発見する。女子高生たちは一旦、金をもとに戻そうと試みるが・・・。カネを取り戻すために現れる殺し屋、別の生徒から強請られている担任教師。複数の思惑が絡まり事態は思わぬ方へ転がり始める。

温泉宿を舞台に、混乱が混乱を呼ぶクライム・コメディ。