旧芸名・木嶋のりこ時代から難役に挑み続け、2023年には出演作『卍』、『HAKONIWA』、『渇愛の果て、』などの公開を控える小原徳子と、『アリスの住人』(2021)、『拝啓、永田町』(2021)、『階段の先には踊り場がある』(2022)などで知られ、本作では企画発案者として製作にも携わった大山大がW主演を務めた映画『いずれあなたが知る話』。
誘拐された娘を探さない母親と彼女の生活を監視する隣人ストーカー、その両方の視点から「狂気と混乱」を描いた“サイコ・ノワールだ。
本作は小原徳子の脚本デビュー作であり、小原の脚本と、出演者からの逆オファーにより監督を務めた古澤健による演出が見事に融合。東京・下北沢トリウッドで2023年5月に封切られるや、初日から5日間連続の満席を記録。その完成度の高さから多くのリピーターが続出した。
このたび、待望の大阪公開が決定! 2023年9月2日(土)より大阪・シアターセブンにて上映される。連日、作品上映後に出演者による 舞台挨拶が予定されている(時間、登壇者など詳しくはシアターセブンHPにてご確認ください)
大阪での公開を記念して小原徳子さんにインタビューを敢行。作品が生まれた経緯や、作品に込められた思いなど、様々なお話を伺った。
目次
咄嗟に演じたいと思ったキャラクター
──まずこの作品を制作するに至った経緯を教えていただけますか
小原徳子(以下、小原): W主演の大山大くんと一緒に映画を作ろうというところから始まりました。大山くんは私と似ているところがあって、彼も、自分で何か作って発信していきたいという思いをずっと持っている人なんです。いろいろと話をしているときに大山くんがポロっと「自分の子供が誘拐されたのに迎えに行かない母親をどう思う?」と言ったんですね。それを聞いたときに「その役をやりたい」と思ったんです。
今は映画美学校で脚本を習っていますが、その時はまだ趣味でしか脚本を書いていなくて仕事として形にはしていませんでした。ですのでこういう話を作りたいという欲よりも、この役を演じたいという欲が最初に来たんです。
その母親は何を思って迎えに行かないのだろう、どういう環境で生活をしていて、周りにはどんな人がいるのだろうというのをすごく知りたくなってこの映画を形にしたいと思うようになりました。
──作品を拝見して、まずやはり脚本の面白さにひかれました。小原さんは本作の大阪公開が決定した際に発表されたコメントの中で「俳優だから、母親だから、息子だから、娘だから、そんな、肩書きのイメージを破壊するストーリー」と語られていますね。
小原:今、多様性の時代と言われていますが、世間体を気にしてしまう人がまだ大半だと思うんですね。SNSの時代で、どう人から観られているかとか、自分の行動は人から承認されるのかとか、本当はこうしたいけどみんなから何か言われそうだからこうしておこうという人は実際多いと思うんです。それがモラルに反することだと余計に自分の心自体に蓋をしてしまう人もいて、勿論、人に迷惑をかけたり、誰かを傷つけることはいけないことですが、そもそもその人の感情自体を否定することは私はしたくないし、例え母親が母親らしからぬ行動をしたとしても、生まれてきてしまった感情というものは否定したくないと思っていて。
大山くんが演じた勇雄に関しても、あの不器用な生き方や、どうしても自分の感情を客観視できなかったりという点も、「大人という型にはまれない大人」というふうに描けたらと考えました。彼のような人は東京には多いと感じています。東京って、何かをやりたいと夢見て人々が集まってくる場所じゃないですか。そんな中でやりたいことがあるのにうまく進めなくてもがいている人やそこで傷ついてしまう人もすごくたくさんいて。私はそういう人をたくさん観てきたな、そうした人たちを描きたいなと考え、脚本を作っていきました。
リライトを重ねて出来上がった脚本
──要所、要所に「日記」が字幕で挿入され、絶妙な味わいを感じさせますが、あの構成はどのようなところから思いつかれたのですか。
小原:最初の段階ではまだなかったんです。監督が古澤健さんに決まってから、監督と話し合った中で生まれてきました。
靖子という人物の物語ではあるけれども、靖子自体を掴めない人物にしたいというのは監督も私も同じ考えでした。靖子の話でもあり、それを観ている勇雄の視点もあるけれど、靖子は掴めないし、勇雄はあんな感じなので、観る方は戸惑う部分もあるだろう、そこをいい意味で迷いながらも進んでいけるようにと字幕を入れました。
古澤さんは過去には映画美学校で脚本を教えていらっしゃったり、脚本も書かれる方なので撮影までの間に話し合いを何度も何度も重ねてリライトを何回もしたんです。お話がすごくわかりやすくて、観客が何を求めているのか、どこまで描くとそれが邪魔になってしまうのかといったことを細かく教えていただいたので、すごく学びながら最後まで書くことが出来ました。
──引きのカメラで長回しで撮るシーンが多いですが、演じてみていかがでしたか?
小原:カメラの存在を感じさせない距離感で、芝居をしている感覚というのがなくなる瞬間がたくさんありましたね。いつスタートされていていつ止まっているのかわからないくらいの距離感でずっと芝居をしているというときもあったので、そういう現場を作るのはさすがだなと感じました。
──勇雄を演じられた大山大さんは小原さんからご覧になってどのような役者さんですか
小原:何が飛び出すかわからない役者ですね。大山くんとは共演する前に、ワークショップでお芝居することも多かったんです。大山くんは台本の芝居をしていても、全然違うものが飛んでくることがあって、私自身もそのリアクションから別の感情が生まれてくるということがしばしばありました。なのでいつかちゃんとがっつり共演したいと思っていたんです。
自由に観て自由に感じてほしい
──映画の序盤、勇雄が靖子の娘にカメラを頻繁に向けます。下心があるわけではないけれど子どもの写真を撮ることの今の時代ならではの危うさや、突然ビデオカメラが出現してAVを撮られてしまうエピソードなどは、社会の歪みや人間の怖さを感じさせますが、それとは別にカメラが持つ暴力性のようなものも意識されたのでしょうか。
小原:そこは意識していなかったですね。ただ、私自身、趣味で写真を撮っていて、街中に出て撮ることもありますが、やっぱりすごくデリケートに扱うんですね。カメラが向けられることで嫌な気持ちになる人がいることがわかるので、武器を持っている感覚にはなりますね。また、最近、結構YouTuberの方が多くて街中でカメラを持っているのをよく見かけて私も写っていたらどうしようと戸惑うことはあります。ですから、意図的に狙ってという感じではないのですが、そうしたものが潜在的にあったのかもしれません。
あと、以前、グラビアのお仕事をやっていたので、エロスを狙ってカメラを向けられるということがあって、勿論、お仕事としてやっているんですがそのときの感覚って独特なんですよね。普通に写真を撮られたり、映画を撮られたりするのとは違う感覚というか。あの時の独特の空気というのがAVのシーンには出ていたらいいなと思います。
──「ガラス越しに覗く」シーンがしばしば出てきて、それがまた非常に印象的です。
小原:脚本の時点で、覗いている気持ちにしたいという思いはありました。私が、覗くことによって、台詞では別に語っていないけれど、その覗いている人の気持ちが、今度は逆に観客がそれを覗いているかのように手にとるように伝わればいいなという思いがあったので。私は没頭して観て感じるのみ、あとは観客の方を信頼して、自由に感じ取ってくださいという気持ちでした。
──大阪・シアターセブンでの公開がいよいよ始まります。楽しみにしている映画ファンに対してメッセージをお願いします。
小原:先ほど「型にはまれない」という話がでましたけど、「こうあるべき」というのは実はそうでもないんだと私は思っていて。それは映画に関しても同じことが言えて、どう観るかということに正解はないんですね。
私がこう書いたからこう見てほしいというのではなくて、映画をご覧になった方、ひとりひとりの「いずれあなたが知る話」が出来上がったらいいなと思っています。
公開中は映画館にいますので、自由に観て、自由に解釈していただいて、直接ロビーでお話を聞かせていただけたらすごく嬉しいです。それによってまた感性が掻き立てられて、次の映画製作にも役立って来ますので、是非皆さんの感性を分けてください。
(インタビュー:西川ちょり)
小原徳子プロフィール
1988年生まれ、長野県出身。
2006年映画デビュー。幸薄顔から幸せになれない役を数多く演じる。本作で脚本に初挑戦したことをきっかけに、執筆活動も精力的に活動し始めている。
近年の主な出演作は『窮鼠はチーズの夢を見る』『幸福な囚人』『インシデンツ』『わたしの魔境』『屋根裏の散歩者』『卍』など。
映画『いずれあなたが知る話』作品情報
2023年製作/カラー/ステレオ/16:9/68分/日本映画
プロデューサー:大山大 脚本:小原徳子 監督:古澤健 撮影:髙田祐真 音響:川口陽一 照明:佐藤 健太 編集:古澤健 音楽:宇波拓 撮影助手:大隈友起子 録音:川上翔貴、遠山浩希 助監督:川井田育美、石田義弘 宣伝撮影:アカリマチコ 宣伝デザイン:金子裕美 宣伝:滝澤令央 宣伝協力:河合のび 配給:Cinemago
出演:大山大、小原徳子、一華、大河内健太郎、蓮池桂子、穂泉尚子
蓮田キト、伴優香、はぎの一、オノユリ、小川紘司、久場寿幸、奥江月香、中村成志
映画『いずれあなたが知る話』あらすじ
ボロアパートで一人娘の綾を育てているシングルマザーの靖子。
弁当屋の稼ぎだけではやっていけず、綾のために風俗で生計を立てることを決意する。
ある日、帰宅した靖子は綾が誘拐されたことを知る。しかし靖子は、綾を取り戻そうとはしなかった。綾が人生の全てであるはずの靖子なのに、なぜ娘を取り戻そうとしないのか…。その日から、靖子の秘密のルーティンが始まる。
誰にも知られていないはずのその行動を、一人の男がじっと見つめていた…