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Netflixドラマ『三体』(全8話)あらすじ・感想/ 中国のSF作家、劉慈欣の世界的ベストセラー小説を大胆にアレンジしたスリリングな超大作SFドラマ

Netflixドラマ『三体』は、ヒューゴー賞を受賞した中国のSF作家、劉慈欣の世界的ベストセラー小説『三体』三部作を原作に、HBOの大ヒットドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』のデヴィッド・ベニオフ、D・B・ワイスと『トゥルーブラッド』などのアレクサンダー・ウーが共同クリエイター、製作総指揮、脚本を手がけた超大作SFドラマだ(全8話)。

 

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中国本国では全30話のドラマ『三体』が製作され、2023年1月に配信プラットフォーム「テンセントビデオ」で配信された。本作はそれに続く二作目の実写化作品だ。

 

Netflix版は、主な舞台を中国からロンドン(&オックスフォード)に、一人の科学者をオックスフォード大学出身の5人の科学者の仲間たち “オックスフォード・ファイブ”に置き換えるなど大胆な脚色がなされている。

 

ドラマ『三体』はNetflixにて2024年3月21日より配信を開始。瞬く間にNetflixの週間ランキングの英語テレビ部門で1位となるなど、世界中で大きな反響を呼んでいる。  

 

目次

Netflixドラマ『三体』作品情報

2024年/アメリカ/44~63分(全8話)/原題:3 Body Problem

制作:デヴィッド・ベニオフ、D.B.ワイス、アレクサンダー・ウー エグゼクティブ・プロデューサー:ロザムンド・パイク、ロビー・ユニアック、チー・リン( zh )、ジロン・ジャオ、ローレン・マー、ガオ・シャオソン、ブラッド・ピット、ジェレミー・クライナー、デデ・ガードナー、ライアン・ジョンソン、ラム・バーグマン、ニーナ・ロドリグ、バーナデット・コールフィールド、アレクサンダー・ウー、デヴィッド・ベニオフ、D.B.ワイス 原作:劉慈欣『三体』(早川書房)  監督:デレク・ツァン(1話、2話)、アンドリュー・スタントン(3話)、ミンキー・スピロ(4話、5話、6話)、ジェレミー・ポデスワ(7話、8話) 撮影:ジョナサン・フリーマン、リチャード・ドネリー、PJ ディロン、マーティン・アールグレン 編集:ケイティ・ウェイランド、サイモン・スミス、マイケル・ルシオ、アンナ・ハウガー 

出演:ベネディクト・ウォン、ツァイ・チン、ジョン・ブラッドリー、リーアム・カニンガム、ジョヴァン・アデポ、エイザ・ゴンザレス、ジェス・ホン、マーロー・ケリー、アレックス・シャープ、シー・シムーカ、ジヌ・ツェン、サーメル・ウスマニ、ロザリンド・チャオ、ジョナサン・プライス、ベン・シュネッツァー

(C)Netflix

Netflixドラマ『三体』あらすじ

(C)Netflix

物理学者の父を文化大革命紅衛兵によって殺害され、自身も反体制派のレッテルを貼られ過酷な労役に従事させられていた元エリート宇宙物理学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)は、絶望の日々を送っていた。

 

ところが、或る日突然、彼女は巨大パラボラアンテナを備えた謎めいた軍事基地に連れて行かれ、そこで働くよう命じられる。そこでは地球外生命体との交信という驚くべきプロジェクトが秘密裏で進行していた。

 

物語の舞台は現代のイギリスに飛ぶ。ウエンジェは今ではロンドンに居を移し、ベテラン物理学者として皆の尊敬を集めていた。しかし、ある日、娘のベラ・イェが自殺してしまう。ベラは物理学研究所でパルティス加速器研究に従事する優秀な科学者だった。

 

実は科学者の死は彼女だけでなく、奇妙にもここ最近、何十件も立て続けに起こっている出来事だった。なぜかくも優秀な科学者の自殺が続くのか、英国の戦略情報局に勤務する捜査官クラレンス・“ダ”・シーがその死の真相に迫るべく奔走していた。

 

ベラが亡くなったことで、オックスフォード大学で彼女に学んだ元同級生である5人が集まった。彼ら5人はそれぞれの道を歩みながら、学生時代と変わらぬ厚い友情で結ばれていた。

 

オギー・サラザールナノテクノロジーの権威で起業家、ジン・チェンは天才的な理論物理学者で知られ、ウィル・ダウニングは誠実な物理教師、ソール・デュランドは物理学研究所で助手を務めている。そしてジャック・ルーニーは物理学の学位を活かした開発を基に、お菓子会社を経営し、巨額の富を築いていた。ウィルはジンを密かに愛していたが、ジンには軍人の恋人がいた。

 

葬儀の後、ジンはウエンジェを訪ねた。彼女はベラが死ぬ前にゲームに夢中になっていたことを知る。

 

ゲームを借りて帰った彼女がそのVRヘッドセットをかぶると、彼女はゲームとは思えない質感のヴァーチャル世界の一員となっていた。そして生身の人間のような人物が現れ、その人物はベラを救世主と呼んだ。VRヘッドセットは今の文明では成し遂げられないような高度な技術の代物だった。

 

ジャックがジンからVRヘッドセットを借りてかぶると、ヴァーチャル世界に剣を持った女が現れ、「招待していない」と言って彼の首を切りつけた。本当に首を切られた感触があって、ジャックは悲鳴をあげるが、やがて、彼の自宅にもVRヘッドセットが届く。厳重に戸締りをして、何台もの監視カメラがあるにもかかわらず、それは彼の部屋の中に置かれていた。

 

ベラとジャックは共にVRヘッドセットをかぶり、二人一組でヴァーチャル世界に入り込むことになり、やがて彼女たちにさらなるステップの「招待状」が届く。

 

その頃、オギーは目の前に謎のカウントダウンタイマーが現れ、恐怖に囚われていた。そんな彼女のもとに謎の女が近寄り、カウントダウンタイマーを消したければ、ナノファイバー研究を全て破棄しなければならないと言い、明日の夜、真夜中丁度に空を見上げろと伝え、姿を消した。

 

翌日の真夜中、オギーはソールを誘い、外に出て空を見上げた。するとカウントダウンタイマーに対応するパターンで夜空が点滅し始めた。それは常識的には考えられない現象だった。

 

一体何が起こっているのか? 高度な技術を持った異星人が地球を目指して進行しており、彼らを神のように崇める人間たちが、密かに暗躍していることが徐々に明らかになっていく・・・。  

 

Netflixドラマ『三体』感想と解説

(C)Netflix

(※物語の深い部分について触れている箇所があります。ご注意ください)

Netflix版ドラマ『三体』は、ジーン・ツェン演じるイェ・ウェンジェという若い女性が、中国の文化大革命の最中に大学教授の父親が紅衛兵から殴り殺されるのを目撃するところから始まる。チェン・カイコーの『さらば、わが愛/覇王別姫』の終盤のつるし上げシーンを思い出させる鬼気迫る場面だ。

 

ウェンジェ自身も優秀な宇宙物理学者で、反体制派のレッテルを貼られ過酷な労働キャンプに送られるが、ある日突然、巨大なパラポラアンテナがそびえた研究所に移動させられる。そこでは地球外生命体との交信を目的とした極秘プロジェクトが行われていた。

 

すぐに舞台は現代のイギリス・ロンドンに移る。そこでは権威ある科学者たちが次々と自殺するという不可解な事件が起こっていた。やがてこれらは1960年代の文革時代の中国で起きた出来事と強く結びついていることが判明し、人類は地球規模の脅威に対処しなければならなくなる。

物語の核となる文革時代が描かれる第1話と2話の監督を担当したのは、中国映画『少年の君』や『ソウルメイト 七月と安生』で知られるデレク・ツァンだ。

 

劉慈欣の世界的ベストセラー小説である原作をドラマ化するにあたって、本作の共同クリエイター、製作総指揮、脚本を手がけたデヴィッド・ベニオフ、D・B・ワイス、アレクサンダー・ウーは大きな変更を二つ行った。一つ目は主な舞台を中国からイギリス(ロンドンとオックスフォード)に移したことで、もう一つは原作に登場する一人のナノテク素材の研究者を、オックスフォード大学出身の5人の仲間たち、“オックスフォード・ファイブ”にしたことだ。これは5人の人物を配することで物語に複数の多様な視点を持たせることが狙いだろう。

髪の毛より細いのに恐ろしく強力なナノファイバーを発明したオギー(エイザ・ゴンザレス)、古い核兵器の独創的な使い道を思いついた天才理論物理学者ジン(ジェス・ホン)、ジャンクフードで財を成したジャック(ジョン・ブラッドリー)、物理教師のウィル(アレックス・シャープ)、物理学研究所で助手を務めるソール(ジョヴァン・アデポ)。5人は固い友情で結ばれており、それぞれが、銀河系の反対側に位置する驚異の存在と深く係わることとなる。  

 

中でも天才的な才能を持っているのは、オギーとジンの二人の女性だ。理科系の天才といえば、火星にひとり取り残された宇宙飛行士が生物学者としての知識を駆使してサバイバルしていく姿を描いたマット・ディモン主演の『オデッセイ』といった作品を思い出すわけだが、本作でも、ジンとオギーの専門分野が物語に大きな役割を果たすことになる。とりわけ、ジンが情報活動トップのトマス・ウエイド(リーアム・カニンガム)の無理難題に近い要求に応えていくシーンは実にスリリングだ。

 

一方、オギーは自身の開発したナノファイバーが「戦争」に使われることに強い拒否感を見せる。「広島」と言う言葉が彼女の口から発せられるように、クリストファー・ノーランの映画『オッペンハイマー』で描かれたものにも通じる問題だ。

科学と戦争の深い結びつきを示すように、オギーの意に反して、ナノファイバーは殺戮に使用されてしまう。容赦ない壮絶な描写は、さすが『ゲーム・オブ・スローンズ』の制作者だと妙に納得してしまう。

 

また、「フェルミパラドックス」や「syzygy」、「人列コンピューター」と言った言葉や、そもそも作品のタイトルにもなっている「三体問題」という物理学の難問が根っからの文科系の人間にも理解できるようわかりやすく提示され、知的好奇心をくすぐるのも本作の面白さの一つだろう。

 

そんな現実と共に、ジンとジャックはあるゲームにのめり込んでいく。VRヘッドセットをかぶるだけでヴァーチャルリアリティの世界に入り込み、自らが救世主となって滅びゆく世界を救うというものだ。ゲームの中とは思えないリアルな感触をふたりは味わう。VRヘッドセットは現代では考えられない高度な技術で開発された代物で、亡くなった科学者の部屋に残されていたものだ。危険だという信号よりも、事実を知りたいという探求心とゲームというものの中毒性が絡み、二人は猪突猛進でステップを踏んでいく。観ている私たちもゲームの世界に入り込んだような気分になって行く。

 

1960年代の中国と現代の世界が絡み合い、さらにヴァーチャルリアリティの世界が加わることで、現実と虚構、時間と空間が混沌としていく中、異星人が地球に宣戦布告し、進行を開始。彼らが到着するのは400年後だという。400年後だから自分は関係ないと構えるのか、子孫のために真剣に対処するべきなのか、そのために何が出来るのか。これらは、地球温暖化などの問題に直面している私たち自身の姿かもしれない。自分たちが逃げ切れればあとはどうでもいいのか、次世代のために何をすればいいのか、人間の生き方が問われることになる。また、異星人を神のようにあがめるカルト団体が登場するなど、現実社会にも通じる様々な問題が織り込まれているのも作品に深みをもたらしている。

 

“オックスフォード・ファイブ”以外の登場人物も皆、実に個性的だ。トマス・ウエイドのあまりにも強引なリーダーシップぶりにはらはらさせられ、異世界からの伝達者(ゲームの案内人)であるソフォン(シー・シムーカー)の存在感には恐怖を感じる。本作のキーマンである宇宙物理学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)の若き頃を演じるジーン・ツェンは台湾系アメリカ人の新人俳優だ。一方、現在の姿を演じているロザリンド・チャオは十分な貫禄を見せている。

捜査官クラレンス・“ダ”・シーを演じるベネディクト・ウォンは、「ドクター・ストレンジ」、「アベンジャーズ」シリーズの魔術師ウォン役で知られるマンチェスター出身の中国系イギリス人俳優だが、クラレンスもマンチェスター出身という設定で、登場人物のほとんどが天才科学者という中、人間味のある渋い演技を見せている。彼主演の探偵ミステリものが観たくなってしまうくらいだ。

 

舞台改変など、原作ファンやテンセント版ドラマに思い入れのある人にとっては受け入れ難い面もあるかもしれないが、膨大で難解な原作を手際よく圧縮しながら、圧倒的なエンターティンメントに仕上げた功績は大いに評価されるべきだろう。

(文責:西川ちょり)

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